第24話 ユズ、水族館の後。佐藤
今日は朝にレイがやって来た時点で嫌な予感がしていた。当たってほしくなかったのに嫌な予感はいっつも当たっちゃう。
「真倉?」
「高校彩都に戻るんだってな。ハーレス?」
レイが言ったのね。どうせレイの事だから真倉にまた酷いこと言ったんだろな。
「…うん」
「俺さ一応ユズの彼氏なんだよね?なんで教えてくれなかったんだよ」
「ごめん…」
言ったら真倉泣いちゃうでしょ。それに言えないの。それも言えないんだけど。
「…悪いけど俺帰るわ。今ユズの顔見たくない」
「そっか…ごめんね」
真倉まで出ていっちゃった。折角楽しい1日になるって思ったのに2人ともいなくなるって酷すぎない?
「ユズ様、真倉君迎えの車が…ユズ様⁈泣かないで!真倉君は?」
「どっか行った…。バレた…かも…」
「…お水飲んで。深呼吸して下さい。バレたって俺が報告しなきゃ良い話なんです」
「…ごめんなさい」
「ユズ様は言ってないんでしょ。大丈夫です。ここは誰かが聞いてるかもしれないし車で話聞きましょう」
「…うん」
2人で車に戻る。1人だけの後部座席は寂しい。
「…それで?真倉君はなんて言ってました?」
「高校…バレました。レイが…多分真倉にまた酷い事言ったみたいで…」
「…宮家って言葉は口に出しました?」
言葉にできず私は首を横に振る。でも真倉…なんとなく気づいてる気しますとは言えない。
「…じゃあ大丈夫です。最悪そこまで気がつかれても何とかできます」
「ごめんなさい…」
「ユズ様、宮家が簡単に謝ったら駄目なんですよ。こういう時はありがとうって言うんです」
「ありがとう…」
「良いんですよ」
佐藤さんは多分見つかったら減給とかじゃ済まない。それでも私の為に今日だって必死に頑張ってくれたのに。レイの馬鹿。真倉の馬鹿。
「着きましたよ」
「ありがとうございます…」
家にもレイは帰ってきてなかった。ここは彩都じゃないからレイの好きな場所も分からない。レイ今何処にいるの?
「ユズ様!なんで水族館って言わなかったんですか⁈全く…」
帰ってきたら名取さんに全部バレていてお説教もされちゃうし、本当今日はツイていない。
「…ユズ様⁈聞いてます⁈」
「はい…」
「真倉君と一緒…だったんですね」
「…うん」
「アッサリ認めるんですね。私が報告すれば真倉君は最悪消されるって分かっているんですか?」
「…」
「私は政府の人間で貴方様の見張り役って事くれぐれもお忘れなきよう。謝罪は要りません。二度と勝手な事しないでください」
名取さんは冷たくて静かな声を部屋中に響き渡らせて部屋から出ていった。レイからも真倉からもメッセージは返ってこない。折角みんな仲良くなれると思ったのに私のいない所でしか2人とも話さない。2人で何隠してるの?私に言えない事?
「下…騒がしいな」
「ユズ様⁈いらっしゃいます⁈」
「はーい。何かありました?」
「レイ様が!倒れられました!」
「え…」
「サガを使いすぎたみたいで!今お店から連絡があって!」
「何処⁈レイは⁈大丈夫なの⁈車!私も行く!」
「佐藤さんが今車で…」
「私も行く!連れていって!早く!」
「ですが…」
「早く!命令!車回して!」
「…分かりましたよ!」
レイが?倒れるまでサガを?貧血?頭に血が回った?なんで?そんなイラついていたの?真倉とまた何話したの?私のせい?
「用意出来ました!」
返事もせずに走る。嫌だ。レイがいなくなるのは嫌だ。もう誰も私の前からいなくならないで。お願いサーシャ様。血ならいくらでも渡すから。お願い。
佐藤さんがもうレイを病院に運んだ後で、私は名取さんと一緒に直接病院に行った。走ったからか後ろから名取さんの止める声がしたけど止まらなかった。
「…軽い貧血とサガの使いすぎによる過労です」
「大丈夫なんですよね⁈先生⁈」
「大丈夫ですよ。念の為輸血して睡眠薬を配合した安定剤を注射しておきました」
「本当に⁈大丈夫なんですよね⁈死なないですよね⁈輸血なら私の血!使って下さい!」
「ちょっとユズ様…」
「早く!命令!使って!」
「いやあの血液型が違う方には…」
「同じ!合わせれるから!私の血は」
「ユズ様!頼むから!冷静になってください!」
「ユズ様!いい加減にして下さい!」
佐藤さんと名取さんの叫び声でやっと自分が何を言おうとしてたのか分かった。
「…とりあえず彼は無事ですから安心して下さい。では私はこれで。警察の方が事情を聞きたいらしいので保護者の方はこちらに」
「私が保護者代理で弁護士資格も有しておりますのでお話を伺います。佐藤さんユズ様お願いします」
「はい」
名取さんは病室を出て行った。
「レイ目覚ましますよね?大丈夫ですよね?」
「大丈夫です。ユズ様もう少し冷静になって下さい。お医者様引いてましたよ」
「…はい」
「それにしてもレイ様凄いですね。お店のサガ調節機器を全て壊したらしいですよ。店員さん俺と同年代ぽいのに泣いて怯えていました」
レイはサガの練習場に行き店員を脅して貸切にさせ久々に爆発したみたいだ。サガ調節機器を全部壊すまで、倒れるまでやるなんて全然凄くない。ただの馬鹿だ。大馬鹿だ。
「…血あげちゃダメですか?」
「そんなことしたらレイ様がまた爆発しますよ」
「…はい」
「もう夜遅いし帰って寝てください。明日学校ですよね?今日水被ったし寝た方がいいです」
「…起きるまでは私帰りません」
「でも」
「帰りません!命令!起きるまで側にいる!」
「…多分朝までお休みになられますよ」
「だったら学校休む!仮病使う!今はレイが一番!最優先!命令!命令だってば!」
「…分かりました」
佐藤さんは病室を出て行った。
「レイ…」
レイの寝顔なんて見るのいつぶりだろう。レイの手相変わらずあったかくて安心する。レイはいつもこんな気持ちで私が目を覚ますのを待っているのかな。レイ怒らないから目を覚ましてお願い。
「ねむ…」
昨日楽しみすぎてあんま寝れなかったもんな。ちょっとここ寒いし。レイのベッド大きいな…暖かそう。ちょっとだけ一緒に寝てもいいかな。レイが起きるまでに起きたらいいし。
「あったかい…」
やっぱレイの体温ってあったかいのかな。布団凄くあったかい。真倉は…もう寝たかな。真倉最近考え事多くなってる。急に泣いたり優しくなったり物凄く真剣な表情したり。真倉に全部話したら真倉はどんな顔するのかな。私真倉にはずっと笑ってて欲しいな。ずっと…ずっと笑っていて……。
その夜、レイとユウトが私たち4人に会う夢を見た。
「ユズ様起きて下さい。そろそろ起きないと流石にまずいですよ」
「…夢?あれ?レイは?今何時?」
「お昼の11時です。レイ様は朝5時に彩都の家に帰られました」
「…学校!佐藤さん車!あっ着替え!」
「今用意しますね」
佐藤さんは笑顔で車の用意をしに行ってくれた。あったかかったはずの布団はひんやりと冷え切っている。結局、レイに話すら聞けなかった。
「佐藤さん機嫌いいですね。私遅刻してるのに」
「遅刻ぐらい別にいいんじゃないですか」
不気味だ。なんかよく分からないけど不気味だ。
「レイは?大丈夫だったんですか?器物破損とかで逮捕されないですよね?」
「名取さんが無事、事を納めてくれました」
店員脅して無理矢理貸し切りにして機械壊しまくってお咎めなしって。
「名取さんって一体何者なんですか…」
「完璧すぎて怖いですよね」
「はい…」
でもいくらお咎めなしって言ったって叔父さんから滅茶苦茶怒られてるんだろうな。
「叔父さんからレイに何か罰はありました?」
「2週間戸間に行くの禁止らしいです。彩都の家で今頃また爆発してるんじゃないですか?」
「笑い事じゃないですよ!また倒れたら私次こそ血あげちゃいますからね!」
「じゃあ倒れないように彩都の家に行ってあげて下さい。ユウトさんも歓迎してくれますよ」
「…今週末は彩都で過ごします」
「予定組んでおきますね!」
「…楽しそうですね」
「いやぁここまできたらどうにでもなれ!って吹っ切れてきましたよ!怖いもんなしです!」
佐藤さん…よく分からないけど松澤さんにレイに私に振り回されて…可哀想になってきた。
「来週は一緒に買い物行きませんか?色々迷惑かけたし私のカードで好きなもの買って下さい」
「お金と物なら充分頂いてますよ。だからもっと我慢言って困らせてくれて良いんです。我慢ばっかりのユズ様に振り回されるの楽しかったです」
別に普段気を遣ってるわけじゃないけど…昨日確かにはしゃぎ過ぎたもんな。真倉といるとつい調子に乗っちゃうから…なんか恥ずかしい。
「ユズ様そんな恥ずかしがらないでください。いいんですよあんな感じで」
「じゃあ…久々に佐藤さんが作るお菓子食べたいです。シフォンケーキかプリン」
「どっちも作ってあげますよ!俺のお勧めは…」
佐藤さんのスイーツ話を聞きながら家に帰って急いで支度をして学校に行った。
「遅れました…」
結局学校は5時間目の途中から参加した。寝過ごして遅刻するのって地味に初めてかもしれない。みんなの視線集中するし、先生に睨まれるし思ったより楽しくないし恥ずかしいな。真倉なんて寝てるし。受験前の生徒が普通寝る?
「真倉起きろー!」
「…ヘイ」
ヘイって何?ヘイって。全然やる気ないじゃん。連絡しても返信ないしやっぱ怒っているのかな。そりゃそうだよね。レイはくるし、イルカにビショビショにされちゃうし。私は、それでも凄く楽しかったんだけどな。楽しかった。
「なぁ…昨日はごめん…」
真倉は帰りのHRの後、初めて私の机に来た。
「全然いいよ!こっちこそ黙っててごめんね!」
笑顔で言ってるのに真倉は凄く傷ついた顔してる。
「レイに…何かまた酷いこと言われた?」
「…まあ」
「聞いてもいい?」
「…レイさんに聞いたら?」
「もう帰っちゃった」
「…そっか。この後空いてる?」
まだみんな帰りきってないのに真倉が誘うなんて。
「明日の放課後なら。松澤さんだけだから」
「佐藤さんの日ない?」
思わず笑ってしまう。松澤さんも真倉に何かしたのかな。入院沙汰起こしたから?
「待ってねー。えっと…金曜日だって」
「分かった。じゃあ靴箱まで一緒に行こ」
「うん!」
このあとレイが倒れたって話をしたら真倉の顔は青ざめていた。心配で青ざめているんじゃなさそう。靴箱までの時間がすごく短く感じた。
朝6時に目が覚めた。今日はユズ様と真倉君が水族館に行かれる日だ。お二人は見ていて可愛らしい。だからつい応援したくなってしまう。見取り図は頭に入れた。念の為着替えから解熱剤まで用意した。
準備は完璧だ…ん?扉が開く音?
「佐藤、何してんの?」
レイ様…土日いらっしゃらないってユズ様言ってらしたよな?俺、確かに聞いたぞ。
「佐藤、何それ?」
「…本日の目的地の見取り図です」
「へぇ、ユズ1人で?水族館?」
コレは全部わかっていらっしゃるパターンだ。誰だよレイ様に報告したの…俺死ぬのかな。
「…真倉君もいらっしゃいます」
「ふざけてんの?」
「…ユズ様のご希望です」
真倉君から誘ったなんて言ったら真倉君も俺も殺される。ユズ様本当にすみません。
「ふーん、ユズの希望」
「…どうしてこんな朝早くに来られたんですか?」
「一緒に行く」
「…今なんとおっしゃいました?」
「一緒に行くから。警護1人はきついでしょ」
レイ様が来られる方が精神的に1,000倍ぐらいキツいんですが。って言いたいけど言えない。
「…ユズ様が許可をくださるか」
「貰うから大丈夫」
俺の精神が大丈夫じゃないんですが。
「…許可はまだ」
「貰うって聞こえない?」
「…分かりました」
真倉君すまん。
「佐藤、自分の立場理解してる?させて欲しい?」
あー俺今日死んだなこりゃ。
「…」
2階からこの足音…ユズ様だ、助かった。
「レイ⁈なんでここに⁈」
「ユズ、おはよう。起きるの随分早いね」
「レイこそどうしたの⁈土日予定あるから来ないでって言ったじゃん!」
「予定って?」
わざとらしい…ユズ様の前だけ猫かぶるもんな。
「真倉と水族館に行くの!楽しみすぎて早く起きちゃった!あっ佐藤さんおはようございます!」
ユズ様?勘弁して下さいって。
「僕も行く」
「えっ?ダメだよ!真倉に伝えてないし、一緒に遊びたいならまた今度にして。ねっ?」
「…見舞いの件、謝りたくて」
嘘だろ。
「私から謝ったし、大丈夫だよ!」
「…ちゃんと自分の口から謝りたい」
自分の手で殺すの間違いじゃないですか?
「じゃあ、謝ったら帰ってくれる?真倉なんかレイに怯えてるみたいでさ…」
「怯えられてるなら余計にちゃんと謝った方が良くない?水族館一緒に行ったら仲良くなれる気がする。多分」
「レイ、真倉と仲良くしてくれるの⁈」
「…まぁ」
嘘だろ?ユズ様?今の言葉普通信じますか?
「でも真倉に言ってないし…」
「僕もう何度も会ってるし大丈夫」
「佐藤さんにだって負担が…」
「むしろ減るよ。ねぇ、佐藤さん?」
「…助かります」
全く助からないけど今助かるには助かりますと答えるしかない。
「んー真倉が嫌って言ったらダメだよ?今から連絡するから…」
「家に直接行った方が早いよ」
「え?失礼じゃないの?」
「僕、そんなに怖がられてるの?確かにこの前は言いすぎたかもしれないけど…」
「いやそこまでじゃ…」
ユズ様それ全部演技ですからって言いたい。
「じゃあ、直接の方が早いよ。ユズの大切な相手なら僕も早く真倉君と仲良くなりたいし」
「レイ…真倉の事ちゃんと認めてくれたんだね!ありがとう!大好き!」
ユズ様がレイ様にハグしたのにレイ様は複雑な表情だ。まさか真倉君…本当に…殺さないよな?
水族館は今までの警護の何倍も辛かった。疲れ切って少し油断した際に、真倉君とユズ様はお水被られるし。
「バタンって今すごい音したね。大丈夫かな?」
「ユズ様…髪の毛…青出ちゃってるし…もう帰りましょう」
もう限界だ…胃と心臓が悲鳴をあげている。やっぱりというかなんというかレイ様いないし真倉君もいなくなった。2人ともお気持ちはわかりますがユズ様泣かせたら本末転倒ですよ。
「倒れた人!どこですか⁈レイ様⁈」
「あっちです…」
店員俺と同年代ぽいなのに泣いてるよ。まぁ砂埃と煙を吸いすぎてサガ調節機器は全て故障させてこんだけアラーム鳴ってたらビビるわな。店員は新手のテロかと思ったらしく、警察にも通報が入っており名取さんが対処された。
「失礼します…レイ様…もうすぐ朝5時…」
「起きてる。静かに」
笑って…?久々すぎて怖いんですが?ユズ様は?
「…熟睡されていますね」
「ユズが僕のベッドに来るって9年ぶり。僕、熱あるのにあったかいって潜り込んできた。ユズ冷たいから気持ちいいんだよね。見て、全身僕の身体の方向いちゃって、可愛い」
レイ様がユズ様の青い髪を優しく撫でる。今の顔と声で俺に接してくれればと切実に願う。
「で、僕が倒れた時ユズなんて?会話見せて」
「…何度もお伝えしていますが報告義務はレイ様に無いんですよ。ですから」
「佐藤はまさか昨日の失態を僕に何も無しで許してもらえると?」
「…どうぞ」
笑顔でそんな声出されると余計に不気味で怖い。
「へー、ユズってば必死だね。僕のために命令使うし学校休むんだ。ふーん」
レイ様はユズ様に笑われる時や、愛されてると実感された時本当にお美しい笑顔で笑う。今なら…聞けるか。
「…真倉君と何話されました?」
「大した話はしてないよ。手を出すなって忠告しただけ」
それ世の中では脅迫って言うんですよ。
「レ…イ…」
ユズ様はレイ様の名前を口に出され涙が頬に伝う。昨日ユズ様必死だったもんな。
「…こんな風になるなら時々倒れるのもアリだね」
「本当に勘弁してください」
やりかねないからなレイ様は。
「学校…行きたくないなぁ。サボろっかな」
「サガラ様に殺されますよ」
「父さんなんて?」
「…2週間戸間出入り禁止です」
「は?今どういう状況か分かってんの?」
「サガラ様は許婚に関しては中立のお立場です」
「ざけんな、あのクソ親父」
レイ様とサガラ様の仲はあまりよろしくない。サガラ様はユズ様第一主義だから。あと息子に厳しい。
「まぁ…今日は起きたらユズがいたし帰る」
「お車用意しますね!」
本当に俺は色んな人に振り回されてばかりだ。早くこんな職場辞めて、悠々自適に暮らしたい。こんなドラマみたいな生活俺には似合わないから、ユズ様やユリ様を時々呼んでお菓子パーティーをする日常が欲しい。今の俺の夢だ。
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