第22話 真倉、返事

「付き合う」

「…え?」

「だから付き合う。真倉と」

「…は?」

「えっ?真倉が告白したんじゃん」

「…そうなんだけどさ、このムードもへったくれもない保健室への送迎途中で言うか普通?」

「仕方ないじゃん!真倉あの後2日休んで、今日の朝あったら顔も合わせずどっかいって休み時間一回も教室いなかったんだし!」

「はあ⁈まさか教室で言うつもりだったの⁈やめろよ!地獄絵図だろうが!」

「別にいいじゃん!言うことは変わんないんだからさぁ!」

「お前ムードってもんがねぇの⁈あんだけ人の告白に文句つけやがって自分はガン無視かよ⁈」

「別に返事ぐらいどこでしたって変わんないですょ!」

「ちょっとそこうるさい!廊下で騒ぐな!」

「すみません…」

2人で謝って次は小声で喋る。

「なぁ、さっきのもう一回やり直さね?」

「もう言いたくないからやだ」

ユズは耳の後ろが少し赤い。可愛い。でもコイツなんて言うか…付き合うの意味分かってんのかな?結婚と彼氏は違うとか抜かしやがった大馬鹿だしな。いやまさか…。ていうかレイさんって知ってんのか?知らねぇのか?ていうかバレたら家ごと焼かれそうなんだけど。ていうか…レイさんってユズに手出ししてないのかな…えっ待って待って待って?

「真倉!もう保健室着いたよ!」

「…えっあぁじゃあ」

「いってらー」

「おー」

えっ?なにこのアッサリ感?ユズ?待って怖いんだけど、嬉しさのドキドキか生命の危機のドキドキか分かんないんだけど。えっ⁈ユズ付き合うって意味分かってんのか…。そもそも付き合うって何すんの?デート?見つかったら死ぬ。ていうか絶対誰かついてくるよな、待って待ってこれおかしくない?いやそもそも冒頭からなんだよ、付き合うって⁈みんなえっ?だよ俺マジで純粋にえっ?だったわ。アレ?俺ら付き合って…?てか記念日っていつ?そんなんお祝いして?えってかアイツ付き合うって意味分かんの?はっ?ちょっ?

「土サガ。技、ツイスター。9.8秒、5.3cm。レベル2の三種です」

あーやっちまった。いや今日は流石に集中出来ない。ていうか受験もうすぐなんだよな。あと2ヶ月しかないのに、彼女って馬鹿なの俺?

「真倉、成績落ちたなー。いやぁ落ちた、落ちた落ちまくった!」

「…先生ほど落ちた人間に言われるほど成績落ちていないんですけど」

「真倉今日だけは褒めてあげる。早く推薦書のコピー渡せよクソ担任」

「…お前らさぁいったい誰のおかげで」

「個人情報漏洩」

「恐喝罪、及び存在がセクハラ」

「…良いコンビだな」

「誰がコイツと⁈」

「ほら息ぴったりじゃねぇか」

「なんでマツリ…さんがいるんですか?」

「なんでクソ隠キャがこの世に存在するんですか?」

「はぁ⁈この高飛車女が⁈」

「あぁ⁈キモオタは黙ってろカス!」

「…お前ら本当になんで受験できるんだよ。はーい、2人に推薦書のコピー」

「ありがとうございます…」

「とっとと渡せクソ担任。じゃあ帰る」

そう言ってマツリは職員室を出ていった。

「…マツリだいぶ荒れてますね」

「真倉ー。ちょっとマツリを心配する良い生徒風ぶったって最初の台詞俺忘れねぇからなぁ!誰が落ちた人間だ⁈」

チッ、バレたか。もうこの担任と離れられると思うと言いたい事をバンバン言えるようになった。

「…あれがハーレスの推薦書」

「何?まだ真倉諦めてなかったの?」

「いや…俺、医者になりたいんで」

ユズとは離れるけどこれで良い。

「…ユズは受験しないんですか?」

「へっ?ユズ受験すんの?聞いてないけど」

「そうですか…」

「真倉ーちょっと成績落ちたからってナーバスになんなよ!大丈夫だって!お前には特別推薦書があるんだから!」

「…なんですかそれ?」

「えっ⁈お前、政府のサガ開発に協力してる?した?のかは分からねぇけど政府から来てんぞ。ありゃすごいな。大概の高校なら入れそうだ。真倉お前いつ協力したの?」

「…今言うか」

「どうしたんだよ⁈えっ泣く?俺なんか悪いこと言った⁈えっ⁈職員室はまずいって!おい…」

また泣いてしまって落ちた担任と2人で放課後の教室に移動した。

「…俺マジで変なこと言ってないよな?いや確かに根暗野郎とか、ユズに振られてしまえバーカとは思ってたけど口には出してないよな⁈」

「今出しましたね…」

「それは置いといて!いくら受験前だからって精神病んでないか?大丈夫か?」

「先生ってそんな先生っぽいことも言えるんですね」

「お前俺のことなんだと思ってんの?あっ聞きたくない。怖いから」

「先生ってハーレス中退した時とか…しんどくなかったんですか?精神的に?」

「えー俺イケメンだったからさぁ、中退する日に女子が全員門に並んでぇ」

「そうゆうのいらないんで。お願いします」

「まぁ…別にーしんどくはなかったな。やっと出たって開放感に溢れてた」

「一流校を追放されて?」

「一流かどうかを決めるのは俺だからさ!俺にとってあそこは三流以下だったんだよ!」

「…その自信と度胸が欲しいです切実に」

「まぁ人生色んなことあるって!俺も昨日キャバ嬢のアンバ」

「失礼しましたー」

初めてあの先生を羨ましいと思った。

あのどうしようもない先生を。ていうかハーレスとか言うから政府への協力知ってるのかと思ってたよ。あんだけ伏線張っといて…嫌、あの担任最初から知らないって言ってたな。

「ユズが待ってるわけ…ないですよね!」

知ってましたよ!えぇ!アイツにそんなアニメみたいな芸当ができるわけないって!ていうかアイツなんなのマジ⁈俺とどうなりたいわけ⁈もう色々文句が出てきすぎてわからねぇ。ん?着信?松澤さん?

「普通!今から空いてるって呼び出しますか⁈あんだけ連絡無視しといて!」

「まぁまぁここ俺が奢るんで許して欲しいっす」

「サイゼリヤじゃないですか⁈超安いじゃないですか⁈もっと人が少ないところ期待してましたよ!」

「今日は非番だし、軍人って給料低いんすよ。勘弁してくださいっす」

「店員さんこの店で一番高いのください!」

「わかりました…」

「この店でそんな頼み方する人初めて見たっす」

「うるさいですよ!誰のせいですか!」

今日ってさ、一応ユズとの記念日なんだよな。なんでクソ担任からの松澤さんな訳?悲しすぎね?

「やっぱミラノ風ドリアがいいっすね!」

「リブローステーキ意外と美味い…」

食べながら2人で話す。

「…それで?ユズちゃんと付き合ったんすか?」

「は⁈なんで⁉︎盗聴⁈はっ⁈まさかユズ⁈」

「やっぱりそうなんすねー。ユズちゃんずっと上の空だったんすから」

松澤さん勘よすぎねぇか。この人本当に掴めない人だよな…。ヘラヘラしてるのに一種だしハーレス出身のエリートなのに…ある意味一番怖いかも。

「で、どうなんすか?真倉君?」

「…今日付き合うって言われました」

「おめでたいっすね!」

「おめでたいですか?俺今松澤さんとご飯食べてるし、放課後ユズ待っていてくれなかったし!」

「ユズちゃんにも色々あるんすよ」

「色々…ですか」

もう聞き飽きたよその言葉。

「で?キスとか済ませたんすか?」

思わぬ言葉にジュース吹き込んでしまった。

「ちょ⁈ちょっと⁈」

「その様子じゃ手すらまだ…」

「なっ⁈なんで⁈」

「ハァ…」

「ちょっとため息つかないでくださいよ!」

「冗談っすよ。真倉君にそんな度胸あるなんて思ってないっす」

この人ちょいちょい失礼だよな!

「俺全然分かんなくて。ユズ…付き合うって意味分かってんのかな」

「まぁ、あのユズちゃんっすからねー」

「ユズこの前、彼氏と結婚相手は違うって言い切ったんですよ…」

「うわぁ凄いっすね」

「アイツが何考えてるか本当分かんないです…」

本当何考えて生きてんだアイツ。ていうか結婚相手ってあのレイさんだよな…。

「レイさんって…ユズに手出してたりしてないですよね?」

「怪しいっすねー」

「ちょっと⁈見張りなんですよね⁈しっかり見張っといてくださいよ⁉︎」

「あのレイ様を見張れると思うんすか?」

間違いない…。あれは無理だ。もうあの人自身が見張りの見張りみたいなもんだろ。

「レイさんって…何であんなにユズが好きなんですか?あんだけ綺麗で一種なのに」

「気づいてないのユズちゃんだけっすからねー」

「…あの鈍感力欲しいです」

ていうか今サラッと話流されたな。レイさんとユズにも色々あるんだろな。色々。

「前ユズに選択肢はないって…どうゆう意味なんですか?」

「ユズちゃんとユリちゃんの権利みたいなものは政府が持ってるんすよ。だからユズちゃんたちに選択肢はないんす」

どうゆう事だ?権利を持ってる?人権…は?

「それ…話していいんですか?」

「もー疲れたんすよ俺も」

「ユズ達…何に協力してるんですか?」

「政府っすね」

「…政府に特別推薦書っての貰いました。最近報告書全然送ってなかったのに。しかもレイさんには言っちゃったし規約違反してるのに貰ったんです」

「…おかしいって言いたいんすか?」

おかしい。どう考えても不自然だ。政府はそもそも何で俺を指名したんだ?俺が怪しむのは予測できただろ?契約違反してお咎めなしって。

「政府ってそんな…マヌケですか?」

「真倉君を1時間後に消すぐらいは簡単すね」

それが何で?

「俺…怖いです。めちゃくちゃ怖い。でも何も知らないのはもっと怖いです」

「…傷つく覚悟はあるんすか?」

「もう傷ついてます」

「…場所変えるっす」

松澤さんはいつもと違う派手な車を持っていて今度は助手席の扉を開けてくれた。

「…夜景綺麗ですね」

「そうっすねー」

これユズと見たかったなぁ。

「ユズ、弱くなりましたね。背も小さいし」

「そうなんっすねー」

「顔いつも白いし、手やたら冷たいし」

「可愛いっすよねー」

「…貧血持ちなんですよね」

「血も中々止まらないっすねー」

「古都の料亭までリフェース皇太子と一緒に行ったんですよ」

「聞いてるっすよ!あっリフェース皇太子ご婚約されましたっすねー。全く人騒がせな人っすよ」

「リフェース皇太子も血が止まらなかったんです」

「そうなんすねー」

「宮家の血は特別なんだって言ってました。同じ宮家しか輸血できないんだって」

「それ極秘情報すよー!」

「ユズのこと知っている感じでした。その名前なら知ってるって」

「全くあの皇太子様はダメっすね」

「髪の毛…目の色…赤でした。炎の宮家だからですかね?」

「そうっすねー」

「ユズの髪の毛…目の色…青と水色ですよね」

「…」

黙った。松澤さんが黙った。

「異常な警備におんなじ病気で古都にいた」

「…」

「水の宮家は非公表ですよね…」

「…」

「やたら変装させてるのって…」

「…」

「ユリ、宮家の人数が一番多いギリシアに留学中って聞きました」

「…」

「宮家の血は宮家しか持っていなくてユリは身体がまだあんまり丈夫じゃないんですよね?」

「…」

「ユズもユリも綺麗な水色の瞳してますよね…」

「…」

「…なんですか?」

「守秘義務なんすよねー。俺まだ政府に消されたくないんすよ」

松澤さん。それは肯定してるのと変わんないですよ。

「宮家って強いんですよね、物凄く」

「教科書に書いてあるぐらいっすからね」

「リフェース皇太子の炎サガ見ました。複数の車に一気に数十個の炎の玉を操ってました」

「流石っすね」

「初恋の人の話を聞きました」

「おぉ!」

「婚約されたんですよね…」

「そうっすねー」

その後何を話せばいいかわからなくて何も喋らなかった。結局松澤さんは車で家まで送ってくれた。

「着いたっすよー」

「ありがとうございます」

「カンナちゃんには言っちゃったっすか?」

「…言えるわけないじゃないですか」

「じゃあ言わない方がいいっすね!すくなくともけされることはないっすから!」

「ですね…」

「カンナちゃんの絵上手かったっすね!まだ描いてるんすか?」

「いや…もう描いてないです」

「この際だから言っちゃうんすけど、俺ユズ様とユリ様に頼まれて2人のことずっと見守ってたんすよ。カンナちゃん家から出て来なくなって俺も心配してたんっす」

「…そんな前から俺らのこと見張ってたんですか?」

「2人とも人使い荒いっすよねー」

「…なんで俺らを?わざわざ見張る必要ありますか?」

「守秘義務っす。それじゃあ」

松澤さんは派手な車を飛ばして帰っていった。

「…」

俺はただいまも言わずカンナの部屋に乗り込む。

「ちょ⁈おにいちゃん⁉︎ 」

「なぁ!お前の描いた昔の絵どこ⁈」

「ちょっと何してんの」

「急げ!探すんだよ!どれ⁈どこにある⁈」

「あ、あっち…」

カンナの指の方向の棚を急いで探す。

「あった…金賞取った絵…」

相変わらず綺麗で繊細なタッチで俺ら4人を描かれている。じいちゃんに絵を燃やされたりしたけどこの絵だけはカンナと一緒に隠した。今見たらあんま上手には見えないけど…良い絵だ。

「お兄ちゃん⁈何で泣くの⁈ねぇ!」

「この絵くれよ…金ならいくらでも払うから。お願いだよ…なぁカンナ」

「何泣いてんの⁈泣くほど欲しいの⁈」

「なぁ頼むよ。もう耐えらんねぇよ、カンナ」

「何⁈大丈夫⁈本当にどうしたの⁈最近変だよ⁉︎」

「カンナ…俺寝るわ。ごめん」

「何ちょっと⁈大丈夫⁈」

カンナの声を背に部屋に戻った。

絵…ぼやけてあんまり見えない。この絵が金賞を取って新聞に載ってお祝いをした夜、地震でシグレ達は姿を消した。地震…あんだけの地震だったのに範囲は狭くて死者は0。もしかして…そんな事可能なのか?いや、宮家なら可能なのかもしれない。もしかして…血を?でもあそこまで弱らす必要ってあるか?ある程度抜けば良いだけだろ?

松澤さんユリは大丈夫って言ってたな…「は」ってなんなんだ…。今すごくユズの声が聞きたい。

「電話してみるか…」

よく考えたらメッセージも電話も俺からあんまりした事ないよな。ユズ今までどんな気持ちで俺に連絡してきたんだろ。

電話はたった3コールでつながった。

「真倉⁈どうしたの⁈電話なんて初めてじゃん!」

いつものうるさい声がすごく安心する。

「…今日すぐ帰っちゃっただろ。待っててくれてもよかったんじゃねぇの?」

「文句言いにかけてきたの⁈全くしょうがないなぁ!次からちゃんと待っとくよ!」

ユズはすごく嬉しそうに話す。なぁユズ。最後って何?お前またどっか行くの?

「…今週の土日どっちか空いてる?」

「ん?なんで?」

「…どっか遊びに行かない?」

「良いよ!どこ行く⁈どこに行きたい⁈」

「どこでもいい。ユズの好きな所行こう」

「えー!じゃあ戸間水族館!行ってみたかったの!」

「いいよ」

「でも受験前でしょ?大丈夫?」

「特別推薦書ってのがあるから大丈夫」

「なにそれ⁈ちゃんとやりなよ!真倉は昔からさぁ…」

ユズの大きな声今までずっとムカついてきたけど、あん時の弱い声よりずっといい。ずっと聞いていたい。俺自分で思ってたよりずっとユズのこと好きみたいだ。最後までって松澤さん言ってたな。やっぱどっか…行くのかな。

「…聞いてる⁈」

「あぁ。うん」

「じゃあ日曜!約束だよ!またね!」

「うん。ユズおやすみ…何?笑うなよ」

「いや真倉からおやすみって聞けるなんて!真倉っぽくないから!」

「いや普通言うだろ。じゃあ切るから」

「うん!おやすみ!」

電話は切れた。涙はいつの間にか止まっている。早く日曜日が来て欲しい。早く早く早く頼むから。

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