第20話 真倉、告白
また週が明けて月曜日になった。
松澤さんからの連絡はまだない。毎日メッセージを送っているのに…せめて既読して欲しい。
逆にユズからの「レイと何があったの?何話したの?大丈夫?」ってメッセージには既読をつけたまま返信できていない。
今日ユズが学校に来たら、泣いてしまう。絶対に泣く。でもユズに会わないって選択肢はない。心臓が痛い。頭も痛い。身体中が行きたくないと言っているけど、学校に来た。
ユズはいた。白川さんと楽しそうに喋っていて俺に気づいていない。声が掛けれない。もう涙目になっている。…保健室行こう。
「んーちょっと熱あるね。どうする?帰る?保護者の方に迎えに来てもらう?」
「寝かせてもらっていいですか?」
「どうぞ」
保健室はユズのおかげで常連だけど、利用したのは初めてかもしれない。ユズの瞳色の空が眩しい。もう何をしていても涙が溢れてくる。涙腺が弱くなっている気がする。
「ユズ…」
「何?」
えっユズ?あぁ1時間目サ開だっけ。ベッドのカーテンでユズの顔は見えない。けどユズだ。よかった泣き顔見られなくて。
「真倉?カーテン開け」
「やめろ!」
「…」
怒鳴ってしまった。なんで保健室の先生居なくなるんだよ。タイミング本当悪い。
「悪いけど…熱あって。うつしたら困る」
「そっかぁ」
ユズの声は相変わらず能天気だ。
「…メッセージ返信なかったから心配した」
「あー勉強が忙しくて忘れてた」
本当は泣くのに忙しかったんだけど。
「レイが何か失礼なことしたならごめん」
「いや全然大丈夫」
何があったか聞くのは諦めたみたいだ。それかあえて聞かないのか。いや考えるな。俺は声の震えを抑えるので一杯一杯なんだ。
「なんか懐かしいねぇ」
にしてもなんでユズはそんな能天気な声なんだよ。
「…何が?」
大丈夫。まだ大丈夫。
「いやほら、最初会った時も授業サボって保健室いたじゃん。あれ楽しかったぁ」
そんな最終回みたいなセリフ言うか普通?死亡グラフ立ってんじゃねぇか。ああでもユズは死亡グラフとか意味わかんないよな。やっぱ主人公って感じ。
「あっそうそう!レイが真倉君に謝っておいてってさ!」
「あの人が…?」
マジで?絶対嘘だろ。カーテンに隠れてユズが耳触ってるかわからない。
「あのレイがだよ⁈私も信じられなかった!レイってば全然人信用しないし、偉そうだから周りからいっつも孤立しているっていうかぁ、勿論一目置かれてるっ意味でもあるんだけどねー。そうやって自分から歩み寄る姿勢を見せるなんて奇跡に等しいんだよ⁈」
相変わらずよく喋んなコイツ。あの時の弱々と正反対じゃん。
「それでねーレイってば本当過保護っていうか心配性っていうかぁ。でも心開いた人にはとんでもなく優しいの!だから真倉も認められつつあるんだよ!」
それは俺を「認めた」んじゃなくて、ユズの大事な思い出の相手だから「許して」くれてんだよ。
「でねー、レイってばいっつも無言で圧力をかけてくるんだよねぇ。ほらレイって美形じゃん?あの顔で黙られるとか本当恐怖っていうかぁ!」
「…分かる」
「でしょう⁉︎まさか美形の顔があんなに怖いなんて知らなかったからさぁ、最初の頃はビビりまくっててぇ、今も怒られたら結構泣いちゃう時あるんだよねぇ」
「…俺も泣いた」
「えっ⁈やっぱそうだったの⁈レイってば本当に無表情だし無口だし本当ごめんねぇ。みんなレイの顔色伺ってばっかでさぁ!私のいうことなんて誰も聞いてくれないんだよ!フル無視だよ!」
でもそのレイさんが必死に顔色を伺ってんのはユズ、お前なんだよ。絶対言わないけど。三種のせめてもの抵抗だバーカ。
「でさ、レイと真倉ってすごく似てると思うんだよね!色々違うように見えて本質は一緒っていうか!だから絶対仲良くなれるよ!」
えっ?今ユズなんて言った?似てる?俺と?あのレイさんが?えっ本当に理解不能なんだけど。俺の聞き間違いじゃないよな?えっ?
「…似てないだろ」
「いや結構似てるよ!」
「…どの辺?」
「自分から人に線引きしちゃうところとか、以外とネガティヴで繊細な所とか、意外と根にもつとことか、心を許した人にはすっごく優しいところとか!後は…怒ったら急に口悪くなるところとかも!」
「…大体の人に当てはまるじゃん」
「そんな事ないよ!私はポジティブで楽観的だし、みんなにちゃんと心開いてるし、根に持たないタイプだもん!」
「…そっか」
「真倉声震えてる?大丈夫?寝る?」
抑えろ、俺抑えろよ。
「大丈夫。もっと聞かせて」
よし、言えた。ちょっと不自然だったかもしれないけど。
「珍しいね!真倉が私の話聞きたいだなんて!どうしたの⁈なんかあった⁈」
「…いいから話せよ」
「ちょっとユウトみたいな言い方しなくてもいいじゃん!大体、真倉はねー昔から口悪いんだよ!地味な口の悪さだから誰も注意してくれないでしょ?そう言うとこはちゃんと直していかないと!私が注意しないと誰もしてくれないよ⁈」
お願いだから死亡グラフを立てるのはやめてくれ。
「…真倉?」
「話し続けて」
「どうしたの⁉︎今日天気予報雨だった?」
「…シグレだって」
「ん?何?呼んだ?」
お前馬鹿じゃねぇの。呼んだって…自分の名前みたいじゃねぇか。本当馬鹿でマヌケでアホなんだよ。なぁ俺さ滅茶苦茶、真実を知りたいんだよ。でも真実を知ってお前がまた居なくなるならもう一生知らなくていい。ユズの馬鹿みたいな茶番に知らないフリしていつまでも付き合ってあげるんだから感謝して一生そばにいてくれよ。なぁ頼むよ。
「自分から死亡グラフ作りにいってんじゃん…」
「ん?死亡グラフって何?」
ほらやっぱり。ユズはそういう奴なんだよな。
「ユズ、付き合って」
「ん?どこに?」
言うと思った。主人公の天然キャラな。いい加減みんなわかってきてるのに、可愛いと思ってしまうんだから男ってチョロいよな。
「ユズ、俺ユズの彼氏になってもいい?」
「はっ⁈」
保健室のカーテンっていいな。アニメみたいには透けないから相手の顔が本当にわからない。俺みたいなネガティブな繊細野郎にはピッタリだ。
「好きなんだユズのこと。ラブの方で」
「真倉⁈急にどうしたの⁈熱上がってきた⁈」
「ずっと前から好きだった」
「本当にどうしたの⁈カーテン開こうか?」
「いややめて」
泣いてる姿なんてもう見せたくないんだよ。
「俺と付き合って」
「そうゆうのはさぁ、面と向かって言うもんなんだよ!ロマンがないなぁ!」
ロマンがないのはそっちだろ。俺今告白してんだぞ⁈その告白に文句つけるか普通⁈主人公なんだったらカーテンぐらいフサァって感じで広がれよ!ピクリともしてねぇじゃねぇか!これが現実ってヤツかよ!
「付き合えっていってんだろ⁈返事は普通イエスかノーだろ⁈何文句つけてんだよ!」
「あっほらそうやって急に口悪くなるところ!自分のダメな部分ぐらい認めてから告白してよ!」
「はぁ⁈お前こんだけみんな期待させといてまさか無理とか言うんじゃないだろうな⁈もうグラフは立ってんだよ!」
「だからグラフって何よ⁈なんでそんなもんたたせないといけないわけ⁉︎本当に意味分かんない!」
「お前らうるさい!元気なんだったら保健室から出て行け!まったくお前らと言う奴は!職員室まで響いてんだよ!大体なぁ⁈」
えっ?先生?マジっすか?ここ引き伸ばします普通?タイミング。
風でフサァとなる予定だったカーテンは生徒指導の先生によって思いっきり開かれ、俺とユズはやっぱりめちゃめちゃ怒られた。
その後俺の熱が本当に上がって、帰宅。
ユズの返事は聞けずに終わった。
これ完璧に死亡グラフだからめっちゃ死亡グラフを連呼してなくそう作戦中なのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます