第18話 真倉、お見舞い

「真倉ーお前本当職員室好きだよなぁ」

「先生が毎回呼び出してくれるおかげですね。本当感謝しかないです。本当」

「…真倉そんな長い台詞よく棒読みで読めるな。お前才能あんぞ」

感心するところズレてる。放課後来いとか呼び出しといてなんなんだよ。

「突然なんだが真倉、お前ユズん家にプリント」

「届けます」

「また食い気味だなぁ。そんなに好きか?いーなぁ青春。俺にもさぁ…」

ユズは修学旅行が明けるとまた、学校に来なくなった。メッセージは返ってくるけど…心配だ。俺が知ってることがバレたからまた姿を消すなんて事ないよな。正直そればっかりを3日間考えていて全く勉強が手につかなかった。重症だ。色んな意味で。

「…て事があったわけよ。分かる真倉?」

「分かります」

「真倉ー。頼むから先生の話カットすんのやめてくれない?俺すごい良い話をさぁして」

「すごくよく分かりました」

「…内申書」

「先生、お茶買ってきましょうか?」

「真倉は権力に弱いタイプだから学校の方針に従いやすいですって書いとくわ」

「今度の教師アンケートにうちの担任が内申書で脅してきますって書いときますね。後個人情報漏洩。ユズに受験する事いいましたね?」

「…利害が一致したな」

「ですね」

ユズはいい先生とか言ってたけどやっぱただのクズだこの先生。まぁ…修学旅行で隣の席にさせてくれたのは…この先生だよな。クズだけど。

「…まぁとにかくだな!ユズのプリント家に届けて、修学旅行のレポート持ってきてくれ」

「白川さんには?言ってない…」

「まだ言ってない。青春を楽しめ!大志を抱け!少年よ!チェリーボーイども!」

「ちょっと職員室で何を叫んでるんですか!また貴方ですか!」

「失礼しましたー」

こういう時はとっとと逃げるに限る。担任から奪ったユズのプリントもちゃんとある。

とにかく会いたい。また屋敷に誰もいなかったら?居なくなっていたら⁈怖くて怖くて仕方がない。

「頼む…居てくれ」

もうユズの家に行くのは4回目だ。でもいつになってもこのデカい外門にはなれない。インターホンを鳴らすだけで勇気がいる。人の気配はある。よし押そう!そう思って押そうとした外門が開いた。

なんで?…あぁ後ろに車があったからか。

運転席の窓が空いて懐かしい人が顔を出した。

「おっ真倉君じゃないっすか!久しぶりっす!」

「松澤さん…お久しぶりです」

「まぁ久しぶり!と言っても真倉君とは先週も会ってたっすけどね!」

「えっ?会いましたっけ?先週って?修学旅行…まさか?」

「そのまさかっすね!」

嘘だろ⁉︎えっどうやって、てかなんで⁈普通ついてくるか⁉︎どんだけ過保護なんだよ!てか待って、付いてきたって事は?

「いやぁよかったっすね、愛の逃避行?2人きりで風船に願い事だなんて微笑ましかったっす!」

「…いやだから、それはユズが無理矢理腕をつ」

「松澤うるさい。早く中入って」

すごーく嫌な予感しかしない。嘘であってほしい。

「もう冷たいっすね!レイ様!」

ですよねー。

「真倉君はきっとプリントとかを届けにきただけっすよ!ねっ!」

ねっ!じゃないよと突っ込む前に後ろの窓が開く。

「…プリント貸して。届けとくから」

「えっ?いやあの」

「早く」

相変わらず怖い。そして冷たい。

「レイ様別にいいじゃ無いっすか!わざわざきてくださったんですよ。真倉君、中に入って大丈夫っすから!俺が許可するっす!」

「…松澤、自分の立場分かってる?」

やっぱこの人怖すぎねぇか。

「違うっすよ!ここの主人はユズ様なんっすからユズ様が入れたい人は全員入っていいっすよ!ねっ?」

だからねっ?じゃねぇよ!

「あのー、俺…結局どうしたら…」

「…入れば?」

こんなに圧がある入れば?なんて聞いた事がない。

「じゃあ、もうすぐそこっすけど車に乗っ」

「松澤、早く中に入って」

流石の松澤さんも窓を閉め車は一足先に家に入る。

外門は開いたままだ。多分、行っても行かなくても後悔するだろう。

「サーシャ様どうか俺にも祝福を」

願いながら家の敷地内に入った。扉の前でピンポンを鳴らす。

「おっ!やっときたんっすね!どーぞ鍵、今開けたっす!」

ガチャリと重たい音がした。

「ドア相変わらず重いな…」

玄関からして相変わらず気持ち悪いぐらい豪華だ。

誰もいない。松澤さんは?

「…お邪魔します」

人の気配はするけど誰も出てこない。不気味だ。

靴を揃えて、リビングまで行くと

「ホントに来たんだ」

やっぱレイさんだ。紅茶飲んでる。最初に会った時も飲んでいたよな、好きなのかな。

「あのーユズは」

「黙って。ユズなら今眠ってる」

ダメだ足が震える。ボウリングの時はユズがいたから嫌われてるだけだって思えたんだ。今感じるのは殺気。ただ、ひたすらに圧倒的な殺気だ。

「座れば?」

多分誰も出てこないのはレイさんが怖すぎて誰も俺を迎えに行けなかったって事か。

「…聞いてんの?」

「はっ…はい。い…いきます」

怖すぎる。やっぱくるんじゃ無かった。もう後悔しても遅いのは分かってるけど。俺今声も足も全部震えまくっている。もう11月なのに汗の量が半端じゃない。なんとか震える足を前に進ませ、レイさんが座っている机の正面に来た。

「…客間いこ。リビングは目立つ」

じゃあなんでこさせたんだよとか思う余裕もない。

「はい…」

狼の前のうさぎってこんな気分なのかな。レイさんについていく。客間に来るのはユズのプール事件以来だ。あの時もここに座らせられて話聞かれたな。

「座れば?」

「はい…」

プール事件でも座っていた場所に座る。なんだってんだ一体。ユズ早く起きてくれ。

「紅茶、コーヒーどっち?」

「あっ…紅茶で」

本当はコーヒーが良いけどとりあえずレイさんに合わせる。先生が言ってた権力に弱いタイプ当たってたな。

紅茶が来るまで無言の時間が続いた。多分3分も経ってないのに3時間以上に感じた。お手伝いさんの手も、震えてた。

「飲めば?」

「…いただきます」

俺の手も震えまくって紅茶がうまく飲めない。おかげで制服のズボンに紅茶が少しかかった。レイさんは黙って紅茶を飲んでいるだけだ。何か言わないと!震える空気の中、勇気を振り絞る。

「あっあっのこれプリントです!どっどうぞ」

「そう」

そう?そう?って…。でもイラつきとか怒りより恐怖の感情が強すぎて何も思いつかない。

「…貧乏ゆすりイラつくんだけど」

「えっ…あっ…」

貧乏ゆすりじゃなくて貴方から出る殺気に身体が反応しているだけなんです!って言いたい。怖すぎてそんな長いセリフ絶対言えないけど。…無言だ。もう耐えられない。なんでもいい、話そう。

「ユッユズは元気ですか?」

「…」

ガン無視。まじか。まじで?

「あっほらっユズよく体調崩したり、心配っていうか。ほらまた無理したのかなって!」

「…」

まじで?まだ無視?

「ユッユズ修学旅行ではすっすごい楽しそうにしていたんですけど!どうしちゃったのかなっ…」

また殺気だ。思わず喋るのをやめてしまった。今までの思い出が蘇っては消えていく。これが走馬灯というやつか。

「…あのさ、君誰?」

君誰?君誰って今言った?えっ貴方もよく知ってる真倉シュウですけど。えっ?

「…真倉シュウです」

「馬鹿にしてんの?」

いやお前が馬鹿にしてんだろが!なんなんだよ!

「えっと…もう少し分かりやすく教えていただけると助かるんですか…」

よく言えた!よく言えたよ!俺!声震えてたけど!

「…ずっと生まれてから戸間にいた?」

「昔は夏休みだけで…母親が…死んだ後は戸間にいます」

「昔、地震起きる前。いた?」

まじでなんなんだいったい。そんなん調べたらいくらでも…。

「いました…」

「…」

また空気が重くなる。もしかして俺たちの思い出のこと知ってんのか?なぁユズお前がレイさんに?

「…ユズの監視役なんでしょ」

「監視…」

監視って毎日ユズにあった事をかけとかいう特別協力要請の事だよな。監視?まぁ監視か。

「答えて」

「ハイ」

「特別協力要請とか出たの?」

「…ハイ」

絶対他の人には漏らすなって言われてたけど…命には変えられない。

「なんで君なの?他にもっといたよね?」

今度は俺が答えられなくなる。なんでと言われましても。俺が聞きたいよ。

「…分からない、です」

本当に分からない。シグレもユズも。なんで今更ユズとして俺の前に現れたのかも。

「…ユズやユリが…時々寝言で名前、呼んでる」

「…」

「シュウとカンナって名前」

「…」

なんで、なんで今更。

「涙。拭いて」

「すみません…」

「やっぱそうなんだ」

「すみません…」

やっぱり。やっぱり、シグレはユズだった。生きていてくれた。覚えていて、くれていたんだ。

「男の涙なんて見たくないんだけど」

「すみません…」

さっきからすみませんしか言えてないし涙が止まらない。聞きたい事は山ほどあったはずなのに今は何も思いつかない。よかった。生きていてくれた。

「紅茶。おかわりいる?」

「…ハイ」

よかった。よかった。本当によかった。涙が次から次に溢れてなかなか止まらなかった。その間、レイさんは黙って静かに紅茶を飲んでいた。

「…涙止まったね」

「ハイ…」

油断するとまたすぐ出てくるから、必死だ。

「…昔のユズはどんな子だった?」

「今と…変わんないです。元気で明るくて自惚れ屋でうるさくて妹が大好き、でした」

「だから男の涙なんて汚いだけだから」

「すみません…」

レイさんも少しだけ目が潤んでいる。

「…どこまで知ってるの?」

「何も…何も知らないんです」

何も知らない。地震が起きてシグレ達は消えて。今になって俺の前にユズとして現れた。凄いお金持ちになって、貴方みたいな許嫁もいるユズとして。

「…ユズ達に何があったんですか?なんで名前違うんですか?なんで今更…戻ってきたんですか?」

「教えない」

「なんで…ユズ達のおばあちゃんは?ユリは元気なんですよね?ご両親は…亡くなったんですか?」

「…おばあちゃんじゃない、赤の他人」

「どうゆう事…ですか?」

「教えない」

「シグレはなんで…ユズなんですか?名前変える必要…ありました?」

最初からシグレとして現れてくれたらもっと、もっと大事にした。ハグして泣いて今までのこと全部聞きまくって、怒って喧嘩して仲直りして。

「なんで髪の毛…青いんですか?昔はもっと…黒くて肌も…焼けていたのに」

昔は誰よりも元気だった。血は…確かに止まりにくかったような気もするけど、いつも元気だったから気にもしなかった。

「なんでシグレは…ユズはあんなに弱くなったんですか?昔はもっと…」

また殺気だ。泣いたせいかな、震えはなくなった。

「ユズもユリもおばあちゃんも…一体何があったんですか?」

「だからおばあちゃんじゃない。赤の他人」

「どういう事なんで」

「帰って」

「え?ちょっと」

「帰れ!」

レイさんは…涙を目に浮かべていた。てかそんな大声出せたんだ。やっぱめちゃめちゃ怖いな。怖いけど…。

「帰れませんよ…」

「は?」

「帰れませんよ…俺にだって…聞く権利は…ある」

「…ふざけてんの?」

「ふざけてないです。俺ちゃんと聞くまでは帰るつもり、ないです」

言ってしまった。少し…かなり怖いけど言ってしまった。

「ぼくに勝てると思ってるの?三種の分際で?」

怖い。俺本気で殺されるのかもしれない。ていうか差別用語。あっ俺今突っ込めたな。そんな余裕まだあったんだ。

いつの間にかレイさんはシンを手に持っていた。この人本気で俺を殺るつもりなんだ。流石に一種の金持ちでも殺人はまずいでしょ。俺ここで殺されるの?ユズの家では死にたくないんだけど。

「何…やってんの…?」

すごく弱々しい声がした。シグレ…いやユズか。どっちでもいい、もうどうでもいい。

扉はほんの少しだけ開いていて、ユズが扉につかまっている状態で弱々しく立っていた。

「ユズ⁈起きて…大丈夫なの⁈」

「レイ…なんでシンなんか持ってるの?真倉に…何したの?泣いてるけど…」

どうしちゃったんだよユズ。そんな弱っちまって。

「真倉…大丈夫?」

「ユズ!早くベッドに戻って!誰⁈連れてきたの⁈」

レイさんはシンなんか投げ捨ててユズの元へ走っていく。

「レイ…うるさい…自分で来たの。レイの大声で起きたんだよ」

「馬鹿!誰も止めなかったの⁈」

レイさんがユズを抱きしめながら支えている。

「真倉、こんにちは…こんばんは?」

ユズは今にも消えてしまいそうな青白い顔で俺に笑いかける。足がふらついてるのはレイさんの殺気のせいじゃない。なぁユズ。お前本当にどうしちゃったんだよ。

「ちょっと真倉?泣いてばっかじゃわかんないよ…レイが何かした?真倉?」

「…帰るわ」

「え?真倉?ちょっと…」

ユズの死人みたいに冷たい手がオレの手首を弱々しく掴む。制服の上からでもわかるなんてどんだけ冷たいんだよ。レイさんに支えられて立つのがやっとのくせに。

「ユズ…お大事に…」

「真倉?ちょっと行かないでよねぇ」

「ユズ、部屋戻ろ」

「レイ?真倉に何し」

「ユズ戻るよ」

「ちょっと?レイ?」

レイさんはいとも簡単にユズを持ち上げて俺になんか目もくれず二階に上がっていった。

俺はまた1人、客間に残された。

「…松澤さん」

「送るっす。車乗ってください」

「…はい」

ただ言われるがままに松澤さんの車に乗り込んだ。

松澤さんは後ろのドアを開けてくれたけど、俺は助手席に乗った。

「じゃあ出発するんでシートベルトお願いするっす」

「もうしてます…」

「じゃあ出発するっす」

車は動き出した。俺は何も言っていないのに車のナビは俺の家を知っていた。

「…登録されてるんですね」

「まぁそうっすね」

もう何も隠すつもりはないみたいだ。

「俺の事…見張ってるんですか?」

「まぁ時々?ユズ様が心配って言う時だけっすよ?俺だって仕事なんすから」

「彩都まで行かせたの…ワザとですよね?」

「あっ、やっぱバレてたんすね。でもまさかあんな事態になるとは想像できなかったっす。いやぁ俺もまだまだっすね」

「なんで…なんでこんなことするんですか?俺を弄んで楽しいですか⁈」

怒鳴ってしまった。そういや松澤さんも1種だっけ。あぁ…もう嫌いだ1種なんて。

「俺、真倉君を弄んでるつもりはないっすよ」

「じゃあなんで…」

「ただ2人には幸せになって欲しいだけなんっす」

「…今の状況全然幸せじゃないんですけど」

「それは申し訳ないっす」

「…松澤さんは誰に雇われているんですか?軍人でしたよね?」

「今も軍人っすよ」

「なんで軍人がユズの警護なんかしてるんですか?修学旅行にまでついてきて。サガ開発の協力者にしてもやりすぎじゃないですか?」

「やり過ぎてることはないっす」

「どう考えたってやりすぎだろ⁈ふざけんな!」

あーあまた怒鳴ってしまった。

「…本当にやりすぎてはいないんすよ。これでもだいぶ抑えてる方っす」

「そんなに…重要な協力者なんですか?見張りをつけないといけないほど?」

「そうっすねー。ユズ様可愛いからよく狙われちゃうんすよ」

「だからって…学校に行くのに変装までする必要あるんですか?確かに珍しい容姿はしてるけどそこまで珍しいってわけでもないですよね?」

「それは守秘義務で教えられないっすね」

「わざわざそこまでしてシグ…ユズを守ることありますか?」

「色々あるんっすよ。色々」

「…松澤さんはどこまで知っているんですか?ユズのこと」

「知ってるようで実はなんも知らないっす」

「ユズが昔…ユリとおばあちゃんとここに…戸間に住んでいた事は知っているんですよね?」

「なんとなくっすよ」

「2人は…おばあちゃんとは赤の他人だって。本当なんですか?」

「本当っすね」

じゃあなんで、じゃあなんで一緒に暮らしてたんだよ。何でレイさんにあそこまでブチ切れられなきゃならないんだよ。

「おばあちゃん…亡くなったんですか?」

「残念ながら」

「いつ?」

「守秘義務っすね」

またかよ。守秘義務って何だよ⁈

「両親は…ユズ達の両親は何で亡くなったんですか?おばあちゃんと関係あるんですか?」

「それも守秘義」

「いい加減にしろよ!守秘義務って何なんだよ⁉︎そんなに大事かよ⁈ふざけんな!返せよ!返せよ!俺の悩んだ時間!返せ!」

心の声が全部出てしまって、また涙が溢れてくる。

「…すみません。俺も仕事なんすよ」

分かってるよそんなこと。俺だってそれが分からないほど子どもじゃないんだよ。でもそれをじゃあ仕方ないなって済ませれるほど大人でもないんだよ。

「なんでもいい…なんでもいいんで教えて下さい。お願いします」

「そうっすねー。ユズ様以外と自信家に見えて強がってるだけなんすよね」

「知ってます」

「後、嘘つくの下手なんすよ。耳を触っちゃう癖があって。あっこれ内緒っすよ」

「知ってます」

「後は甘いものが好きっすね。超甘いココアとか、ケーキとか。でもチョコは何故かブラック派なんすよ」

「知ってます。ユリがいっつも甘いチョコとるからブラック食べているうちに好きになったんです」

「俺その情報知らなかったっす。レイ様との取引に使わせていただくっすね」

「…他には?なんでもいいです。教えてください」

「あとは…ユズ様、意外と繊細で臆病なんすよ」

「知ってます。俺が修学旅行でうっかり昔の事喋っちゃった時も気づかないフリしてました」

「…ユズ様に思い出した事言わないでいてくれて感謝してるっす」

「…言っちゃいけないんですか?」

「やめてほしいっすね。出来れば最後まで隠し通して欲しいっす」

「最後って…なんですか?また、いなくなるんですか?あいつ死ぬんですか⁈なんか重たい病気なんですか⁈答えて下さい!」

「…死にはしないっすよ。多分ずっとギリギリ生きてます」

「なんで…ギリギリなんですか。余命宣告とかされてないんですよね?正直に言って下さい。俺もう涙流しまくってるんで」

「ユズ様は余命宣告はされてないっすよ。安心して欲しいっす」

「じゃあなんで…ギリギリなんですか?」

「守秘義務っすね…本当すみません」

あぁまたかよ。なぁユズなんでなんだよ。ユズに聞いたら教えてくれんのか?なぁユズ。

「あんなに…俺らの中で一番元気で丈夫だったんですよ。ヘソ出して寝ても風邪引かなかったし」

「そんな時もあったんすね」

「ユリは…ユリは大丈夫なんですか⁈アイツは身体弱いんです!すぐ熱出して!」

「ユリ様は大丈夫っす。今ギリシアに留学中なんすよ。ギリシアでも綺麗って評判なんすよ」

「…確かに綺麗でした。ちょっとだけ…レイさんと似ている気がします」

「あっやっぱ思うっす⁈いやぁあの2人が並ぶと中々の迫力っすよ!」

「…レイさんは誰なんですか?ユズ達とどうゆう関係なんですか?」

「レイ様のお父様のお兄さんがユズ様達の父親っすねー。まぁでもレイ様のお父様と、ユズ様達のお父様は異母兄弟なんっすよ。滅茶苦茶ややこしいっすよね」

「…凄い家柄なんですね」

「まぁ政府が簡単に手出しできないぐらいには凄い家柄でお金持ちっすね」

政府が簡単に手出しできないってどんな家だよ。

「…ユズに許嫁の事聞いたら、結婚はするって言ってました。離婚するかもしれないけどって」

最後の言葉は俺の嫉妬心からだ。

「まぁ…しないって選択肢はユズ様にないっすね」

「親…死んでるんですよね。無効にならないんですか?ていうか今時、許嫁とか馬鹿ですか?」

「…それ言ったらレイ様に殺されるっすよ」

「もう殺されかけました」

松澤さんが笑う。なんでこの状況で笑えるんだ。

「レイ様の殺気って凄いっすよね。ユウト様も本気出したらやばいっすけど」

「知ってます…嫌というほど知ってますよ」

実際に殺されかけたからな。

「あの2人の怖さとユズ様達の優しさを半々で割れたらちょうどいい人ができると思うんすよね。あの2人自然体が怖いんすよ。あんなんじゃ多分友だちあんまいなそうっすよね」

「…取り巻き達がいるでしょ。あそこまでつけ上がらせる取り巻き達がわんさか」

「真倉君も中々言うっすね!あっ着いたっすよ!」

「…もう?」

「これでも遠回りしたんすけどねー。あんまり遅いとまたレイ様にどやされるんでまた今度」

「…いつ会えますか。非番とかあるんですよね、教えて下さい」

「また連絡するっす!」

だからいつだよ。はっきり言えよ。

「…ありがとうございました」

車は本当に急いでたみたいであっという間に見えなくなった。あの様子じゃユズは明日も学校に来れないだろうな。

守秘義務のせいか、言わないでくださいって言われたからか、単純に俺が臆病なだけなのか、カンナにはまだ言えてない。でもカンナの顔を見た瞬間、わんわん泣いてしまった。もう涙は止まらなかった。朝まで泣いて泣き疲れて寝た。

学校は休んだ。

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