第16話 真倉、修学旅行

ユズはなんと!ついに!赤点を全てギリギリで回避した。みんなで先生に確認しに行ったら、赤点で自由行動がなくなることはなかったらしくユズは赤点を回避したのに落ち込んでいた。

そして今、俺らは目的地の古都まで行く為に飛行機に乗っている。飛行機の席順は先生が決めてくれたおかげで俺とユズは隣の席になっていた。

座席表を渡された時のあの先生の生暖かい目。俺は二度と忘れないだろう、悪い意味で。

「ねー真倉。飛行機大丈夫なの?」

「大丈夫な訳ないだろ。見ろこの手の震え…大体なんで修学旅行に飛行機使うんだよ!」

大きい声を出してしまい通路側の席からの視線を感じて小さな声で話す。

「なぁ手を握れとは言わないから割とマジで窓閉じてくれない?」

「えー窓から見る景色が良いんじゃん」

ユズはニヤニヤして出発を待っている。窓を閉じる気はないみたいだ。

「ユズは飛行機から見る景色なんて見飽きてんだろ。大体…古都なんて夏休み行ったばっかじゃん」

「みんなで行く修学旅行の古都初めてだもん」

ユズは窓から目線をクラスのみんなに移す。本当に楽しそうだ。

「当期は間も無く離陸いたします」

アナウンスが死刑宣告にしか聞こえない。

「おー動いた!」

クラスのみんながざわつき出し、ユズもワイワイ騒いでる。あぁもうだめだ。

「ちょっと真倉制服の裾引っ張らないで!」

「頼む…死ぬ時は一緒に死のう」

こっちは真剣そのものなのにユズは大爆笑している。飛行機は無事に離陸ししばらく空の景色が映る。みんなは落ち着きを取り戻す…訳がなくお菓子やら何やらが飛び回っている。

「はい真倉。これポッキー」

ユズはいつの間にやら大量のお菓子がスカートの上に置かれてある。

「ねぇ真倉そんな心配しなくても飛行機が落ちる確率って宝くじで3等が当たる確率と同じらしいから大丈夫だって」

「俺は宝くじ三等ぐらいの不幸を引き当てる天才だから」

「うわ超ネガティヴ」

ユズはさっきからずっと笑っている。クラスの子がさっきからやユズめがけてお菓子を投げるから通路側の俺の元にもバンバン当たる。もうこんな席嫌だ…。はやくついてくれ。

「ついに来たね!古都!」

「…疲れた」

「疲れましたねー」

ユズのハイテンションはさっきから最高潮だ。

「ちょっと真倉はテンション低すぎない⁈」

「誰のせいだと思ってるんだよ…」

「飛行機でユズちゃん大はしゃぎしていましたもんね」

先生の点呼がなってバスに乗って出発する。

「…またユズかよ」

「ちょっと失礼だね!私が決めたんじゃないんだよ!」

先生を睨みつけるが先生は若いアテンドにしか目がいってない。てかアレ口説いてねえか?

すぐホテルにつき荷物を整理する。そう言えばユズカラコンとか髪とかはどうするんだろうか。

「あっ委員長ごめん」

「いやこちらこそ」

そして当たり前だけど修学旅行のホテルは男子同士だ。あまり仲良くないから普通に気まずい。

「おっあと5分だぜ」

「いそがねぇと。委員長も早くいこうぜ」

「…おー」

クラスの男子と喋るなんて久々だ。ていうか今まで自分から壁を作って1人でいたし、誰も俺になんて最低限しか声かけなかったけど…。これもユズのおかげかもな、ムカつくけど。

今日の予定は世界遺産の邑楼神社の見学後、神主さんのありがたいお話を聞がなければならない。

一応、班別行動と決まりがあるが、取り巻きの女子たちと行動しているので俺らは3人で行動する。

「真倉残念だね。ハーレムできなくて」

「ハーレム…真倉君、お役に立てなくてすみません」

「いや本当忘れてくれ…」

アテンドさんの説明が流れる。

「皆さん、これがかの有名なサーシャ神像と呼ばれる5サガを操りこの世界を作ったとされる銀像になります。こちらは高さ50.2メートル、奥行50.5メートルあり…毎日神主様によって磨かれておりその価値は世界的にも…」

「ねー真倉、マイちゃんしゃがんで見てみてよ。サーシャ様の銀像なんか下から見るとブサイクじゃない?」

「ユズやめろ…フッ」

「あっ今そうだなって思ったでしょ⁈」

「ちょっとユズちゃんあんま大声出しちゃダメですよ…フフッ」

ユズの話に笑いを堪えながらもサーシャ様の銀像を見上げる。そういえばリフェース皇太子が言ってたサーシャ様の祝福者ってなんだったんだろうか。宮家はサーシャ様の先祖ってされてるけど…祝福者は特別だとか同じ祝福者しか輸血出来ないとか言ってたな…。

「祝福者ね…」

「真倉なんか言った?」

「いや、独り言…」

アテンドさんの説明の説明を聞いたり聞かなかったりしながら神社を見学していく。ユズはお菓子の持ち込みが禁止されていたのにポケットの飴玉を舐めていて先生に注意されていた。馬鹿だ。

「お前らー今からくる神主様はななんと緑のサガ1種、しかもレベル10のとにかく偉ーい人だ。心してありがたい話を聞いとけよー」

…なんか最近、0.03%であるはずの一種が近くに多過ぎてもはや感動することも無くなってきたな。

「なぁユズの周りってさぁ」

「真倉君シッ。もう出てこられますよ。私たち一応委員長なんですからみんなの手本にならないと」

「…白川さんは相変わらずメモする気満々だね。班としては助かるけど」

「シッ。はじまりますよ」

ユズはすでに目を瞑って半分寝かけている。レベル10の1種の前で寝るなんて度胸ありすぎだろ。みんな流石に起きてんぞ。改めて見ると、髪の毛青なのにまつ毛は黒なんだな。近くで見ると長い睫毛…

パチパチと拍手の音がして慌ててユズから目を逸らす。神主っていうから80ぐらいのお爺さんを想像してたけど、意外と若いんだな。30ぐらいにみえる。

「ありがとうございます。ご紹介に預かりました神主の二宮と申します。普段はこの神社の…」

ん?二宮?聞いたことある。確か佐藤さんに…。

白川さんに聞かれないように小声でユズに話しかける。

「おい、ユズ起きろよ」

「ん…ふぁぁ…何…話もう終わった…?」

「始まったばっかだよ。それよりユズあの人お前の知り合い?」

「…なんで?」

「佐藤さんから前、二宮って名前聞いたから…おんなじ苗字だし…アレも知り合い?」

「…まあ」

マジかよ。ユズの周りってマジでやばい奴ばっかじゃねえか。てか

「…知り合いなら余計に寝ちゃだめだだろ」

「わかってるんだけどさぁ眠気が…」

そう言ってユズはまたあくびをする。

「よくわかんねぇけど、ユズの叔父さんの大切な仕事相手だろ。寝るなって」

「頼むから寝かせて…大体…仕事…相手じゃない…しんせ…」

「ユズ今なんてった?」

マジかよ。この状況でまたねやがった。てか叔父さんの仕事相手じゃなかったらなんだってんだ?まぁただ知り合いってだけの可能性もあるしな。

「…以上でお話を終えさせていただきます。ご視聴ありがとうございました」

やばい、レベル10の人の話し全く聞いてなかった…白川さんあんだけメモとってくれてるから感想文の時は聞けるか。

「ありがとうございました。では折角ですので質問のある方…」

司会担任じゃなかったけ?と思って先生の席を見る。…嘘だろ、偉い人の話だからとか言って自分爆睡してんじゃねぇか…。

担任は腕組みをしたまま口を空に開けて寝ていた。マジであれがハーレスにいた奴なのかよ…。

「はーい」

やっぱりというかなんというか手を挙げたのはマツリだ。

「ではそちらの方…」

「レベル10の一種なんですよね?今見せていただく事って可能ですか?」

アイツ!いくら自分が一種になったからってレベル10の人にここで見せろとか言えるか普通⁈

マツリの一言で講堂内は一気にざわつき始める。

「とっ東堂さん、いくら貴方でも失礼ですよ!みなさん静かに!」

先生が必死で注意しているが誰も聞いちゃいない。そして一番注意すべき担任は…アレ多分いびきかいてるな。

「でもー、1回ぐらいレベル10を見てみたいなって言うかぁ。神主さんダメですかぁ?」

いつもの甘えた声が挑発みたいに聞こえるのは気のせいであってほしい。

神主さん笑ってる…器でかいな。

「…そうですね。こちらでは狭いですし…どんなのが見たいですか?」

「レベル10ぽい感じのです!」

「…分かりました。すみません、そこの方シンを貸していただけますか?新しいのをお返ししますので…」

先生が慌てて自分のシンを渡す。

「おい!ユズ起きろ!」

「フワァ…眠いの…そんな大声出して…やっと終わった…?」

「終わってねぇ!今から神主さんが緑サガ見せるんだって!起きて見とけって!」

「あぁ…マサ兄の…フワァやっぱまだ眠い…」

「おいユズってば!」

マジかよ、普通寝るか?てか今マサ兄って言わなかった?

拍手が聞こえてユズを起こすのを諦め見神主さんの方をる。神主さんがシンで手の平を斬り血が出た瞬間、

「スゲェ…」

色とりどりの花びらが大量に俺らの上で舞って、ヒラヒラと落ちてくる。緑サガは3種だと一回に一種類、2種でも一回に3種類までしか出せない。こんなに大量の種類の花ビラが…。綺麗だ…。

みんなの大歓声の中、神主さんはにこやかに退場した。

「うーん!よく寝た!」

「ユズは寝過ぎなんだよ!あんなんもう二度と見れなかったのに!マジでもったいねぇ!」

「そうですよユズちゃん!あんなに綺麗なフラワーシャワーをちゃんと見ていなかったなんて!」

「…二人とも大興奮してるね。私は起きたら床が花びらばっかりでビックリしたよ」

「ほんとに!ほんとに凄かったんですよ!おんなじ緑サガですがあんなのは!初めてです!」

白川さんがこれだけ興奮してるの初めて見たかもしれない。まぁ同じサガだけにあの凄さもわかるんだろうな。俺もユウトさんのサガ見た時すごい興奮したし。

「マイちゃんがそんなに興奮するの珍しいね。神主さんもきっと喜んでるよ」

「私も早くあの人みたいに!なりたいです!帰ったらフラワーシャワーの特訓します!」

「俺もする!あぁ早く帰ってツイスターの特訓したい!マジで凄かったよな⁈」

「へー、そんなだったんだぁ。じゃあみとけばよかったかなぁ」

ユズはあくまで興味なさそうに言う。この後のホテルでの晩御飯の時も学年全体が、神主さんのありがたいお話や銀像の感想そっちのけでこの話で大盛りあがりだった。

「おはよー!真倉!」

「…元気だな」

「昨日ぐっすり寝たからね!真倉は?」

「…まぁまぁ」

本当はクラスの男子らとフラワーシャワーの話題と恋バナと下ネタの話で大盛り上がりして先生にどつかれた。寝たのは午前3時すぎで報告書もすっかり忘れていたんだよな。

「そういやさユズ、髪の毛とカラコンどうしたんだよ?」

一応周りに聞こえないよう小声でいう。

「あぁ!コンタクトは寝る前に外して朝一番に起きてつけた!髪の毛は…洗ってない」

「は⁈お前きたな!こっち来んなよ!」

「仕方ないじゃん!1日2日洗わなかったからって大丈夫だよ!」

「てゆうかユズ別に変装する必要なくね?確かに髪の毛も目も青ってのは珍しいけどさ」

「そんなの可愛過ぎてすぐ誘拐されちゃうでしょ!私は昔から可愛かったもんね!」

「ハァ⁈昔のお前も今と同じで全然可愛くないただの自惚れやだっただろうが!」

「そんなことないもん!…えっ?」

えっ…?あ…やっちまった。やっちまった。

「…昔からそんなんだったら!可愛い筈ないだろ⁉︎このスーパーナルシストが!」

誤魔化せたか?いや考えてる。めっちゃ考えてる。

「…私昔から蝶よ花よって育てられてきたんだからね!生粋のお金持ちなんだから!」

「生粋ね金持ちは自分が金持ちだなんて自慢しねぇだろ!大体親の金でイキるってカッコ悪いんだよ!」

「何よ⁈この前は私の事主人公だとか言ってたくせに!」

「だからあん時は!…」

ユズは今、多分、俺が思い出していることに気付かないフリをした。黙っていた俺が悪いのかもしれないけど、スルーしたって事は思い出されても困るって事だよな…。やっぱユズが分からねえ。

2日目はナラク国立歴史館に行った後、お昼から自由行動だ。歴史館の館内ではまた班行動だけど、相変わらずマツリはいないし、白川さんは一人でめつゃめちゃ興奮して走ってった。

「…歴史館って退屈だよな」

「マイちゃん凄い興奮してたね…。マイちゃんには悪いけど良さが全然わからない」

「同じく。多分レポートも白川さんがかいてくれるだろうし俺らここで待ってようぜ」

「うん」

少しだけ気まずい雰囲気が流れる。ヤバい何か話さないと。

「…本当ドライシャワー凄かったんだぞ。ユズもみとけば良かったのに」

「床に落ちている花びらだけで十分凄さは分かったよ。緑サガいいよね。お花いっぱい出せるし」

「ユズの水サガだって俺からしたら充分羨ましい、攻撃力あんじゃん。俺なんて土だぜ…パッとしないし攻撃力もあんまないし」

「土サガの方が意外と攻撃力高いよ。地面動かせれるから相手を吹っ飛ばせるじゃん。あの技の名前確か…ブレイク・グランドだっけ?」

「ブレイク・グラウンドな。俺はせいぜい2m先までだよ。ユウトさんって何メートル先まで動かせれるのかな」

「ユウトはねぇー、本気出したら50m位いけると思うよ。何回か見たことある」

「マジかよ。えげつねぇ」

ユウトさんの古都のホテルの出来事を思い出している全く痛くないはずのお腹が痛くなる。

「…そういや俺あんだけの土サガ食らって無傷だったんだよな」

「そうなんだ、ホント最近の医療技術ってすごいね。まぁユウトも手加減したって言ってたし、意外と大丈夫だったんじゃない?」

いやアレは絶対に骨は折れてまでとはいかなくてもヒビが入ってた気がする。内臓もよく炎症とか破裂起こさなかったよな。アレは本当謎のままだ。

「…レイさんもさあれぐらいの技できんの?二種使いだけの技ってあんの?」

「レイは炎と水だからねー。確か熱湯を噴出させれるって言ってた。インスタントラーメンとか作る時便利そう」

「流石にインスタントラーメンなんかにつかわねぇだろ…」

また話が途切れる。

「…レイさんってさ結構彩都から来てんの?その…どの位の頻度で会ってたりする?」

「なんで?」

「いやなんとなく…」

テスト勉強の帰り道、多分乗ってたのレイさんだった気がするとか、めちゃくちゃレイさんのこと意識してますなんてのは言えない。

「うーん。私も行ったり来たりしてるからなぁ…。結構会うねー。土日は基本会ってる気がする」

「そうなんだ…」

「うん。今度またみんなで遊ぶ?」

「…遠慮しとくわ」

もう二度とあんな地獄見たくない。それより気になるのは妹だ。ユリは…どこに居んの?とか聞きたい。まさか亡くなってたりはしないよな…。まさかな…。なんとか上手く聞き出す方法…。

「…ユズってさ一人っ子?」

「ううん。ユリって超綺麗な妹がいる」

ユリはユリの名前のまんまなのか。ユズはシグレだったのに。

「その…妹…さん?一緒にいないんだ」

「今ギリシアに留学中なんだよね。来年帰国するんだ。ユリってば超綺麗でね!この前も…」

ユズは安心したのか知らないが、集合時間になるまでユリの自慢話を延々と続けていた。妹大好きなのも変わっていない。良かった亡くなってなくて。今はそれが分かっただけで充分だ。

「やっと自由行動だね!」

「まぁ自由って行ったっていくとこ限られてるけどな…それよりマツリ…さん来たんだ」

「何?なんか文句あんの?」

相変わらずテンションの落差が凄い。しかし…女子3人に男子1人ってマジでハーレムじゃねぇか。3人とも違うタイプだし。

「何じろじろ見てんの?死ね」

全然ハーレムじゃない。地獄だ。

「まぁまぁマツリ!一緒に見てまわろ!」

「そうですよ、マツリちゃん!やっと全員揃ったんですから!」

コイツら…あんなにいじめられたのによくそんな平気でマツリに話しかけれるな。ユズなんか怪我させられたのに…。俺はまだマツリを許せない。

「…さっさと行こ」

自由行動って言ったって集合場所は一緒だから皆んな行くところは一緒だ。

「あっ!ねぇねぇ見てみて!この簪可愛くない?」

「簪なんていつ付けるんだよ…」

「ユズちゃんこれもこれも可愛いですよ!」

「ホントだ!こっちマイちゃんっぽい!」

俺の話をガン無視して二人は簪に夢中だ。マツリはさっきから携帯しかいじってねぇし。マジでなんで来たんだよ。取り巻きと一緒にいろよな。

「真倉さっきからジロジロ見んのやめてくれない?あんたなんかに見られるほど私落ちつぶれてないんだけど?」

これだもんな…。

「マツリ…さんも二人と一緒に簪選んできたら…どうですか?」

許せないけどやっぱ怖いから敬語になってしまう.

「は?死ね」

怖いよ。クラスの女王やっぱ怖いよ。俺も簪選びたい…カンナに買って帰ろうかな。

「真倉!何簪見てるの⁈もしかして付けるの⁈」

「んなわけ無いだろ!カンナに買って帰るんだよ」

「あぁカンナちゃんね!カンナちゃんなら…」

ユズは時々抜けている。こうやって当たり前のようにカンナの名前を出すし、会ったことないから好みなんて絶対知らない筈なのにカンナが好きな水色の簪を選んでいる。ユズは気づいてないんだろうな。

「これとこれかな?どっちがいいかな?今の好み分からないからねー」

「…これ」

「へー!カンナちゃん今こうゆうのが好きなんだ!」

そんな嬉しそうな顔で言われても。

「ユズは…どれか買うの?」

「私はねーこれとこれ!妹と色違い!」

「ユズちゃん妹さんいらしたんですね。何歳ですか?」

「私の一つ下で14歳!今ギリシアに留学中なんだよね!私とあんま似てないんだけど凄く綺麗で…」

また始まったよ、ユズの妹自慢。

「…ねぇウザい話やめてくれない?時間ないんだけど。早く買えば?」

だからなんでマツリはこっちに来たんだよ。

「マツリちゃんは買わなくていいんですか?可愛いですよ、色々あってほらこれなんてマツ」

「マジでウザいんだけど。私と昔ちょっと仲良かったってだけで調子乗らないで。白・川・さ・ん」

はぁ⁉︎

「おい!お前こそいい加減にしろよ!」

「は?だからお前は死ねよ。キモオタクが」

「おい!」

「真倉落ち着いて!店内だから!確かに今のは酷いよ…」

「マツリちゃんもうちょっと待っいて下さい。買ってきますね」

「…」

マツリはまた無視して一人店をでて、出口の前で携帯をいじってる。白川さんは泣いてはいないけどさっきより明らかにテンションが下がってる。

「マイちゃん気にしなくていいよ!マツリちゃんちょっとイライラしてただけだよ!」

「そうですよね」

だからなんでお前らは許せるんだよ。

「…なぁあいつおいていかねぇ?入り口から出たらわかんないって」

「ダメだよ真倉!班別行動でしょ?」

「そうですよ真倉君。私気にしてませんから」

「…買ってくる」

2人ともそんなんだからいじめられんだよ。ヘラヘラしやがって。俺はマツリにムカついてるけどユズと白川さんにもイラついている。

2人も簪を買っておれらは店を出た。マツリはいないで欲しかったが、やっぱり出口にいた。

「それでね、ユリってば…」

「まぁ!それはいいですね。私一人っ子だから…」

二人は相変わらず盛り上がって、俺とマツリは後ろにいる。さっきから一言も口を聞いてない。謝れよ、俺らに。

「なぁ…なんか言うことないの?」

「死ね。以外にはないけど」

「…お前さ、なんで今更こっちのグループ来たんだよ。取り巻きといれば良かったじゃねぇか」

「クソ担任に内申書で脅されたのよ。本当あの担任死ねばいいのに」

「…お前ハーレス受けんだろ?」

やっと携帯から俺の顔を見た。

「…だから何?あんたに関係ある?」

「別に。今はいいかもしれないけど、そんなんじゃ一種ばかりのハーレスでいじめられんぞ」

ていうか、もしマツリが入ったらあの二人いるんだよな?流石に知ってるだろうし…受かっても地獄だろうな。

「この私がいじめられる訳ないでしょ?ハーレスって言ったってどうせ金持ちばっかのクソ野郎ばっかだろうし。あのクソ担任でも入れたんだから」

クソ担任には深く同意する。でも俺はハーレスの現生徒を2人を知ってる。マツリなんか比にならない圧倒的なサガの才能と品格。人を黙らせる高圧的な支配力。努力だけではどうにもならない、あれが多分本物の1種だ。

「…受験頑張れよ」

落ちても地獄だし、受かっても地獄だろうしな。

「あんたなんかに応援されてもキモいだけなんだけど。やっぱ死ねば?」

死ねしか語彙力がない奴が受かるとは思えねぇけどな!クソ!やっぱ落ちてしまえ!

「二人ともー!こっちこっち!置いてくよー!」

「そうですよー!」

いつの間にか目的地の神社に着いていた。

「ここ縁結びとサガ向上の神社なんだって!ほら!見て!あの風船に願い事を書いて、飛ばして願うんだよ!」

「その説明何回も聞いたよ…」

「じゃあ行こ!」

「ちょっと人多いからあんま…」

言いかけた時ユズが俺の腕を掴んで走ったから、心臓がバクバクしすぎてさっきまでのイライラが風船より先に吹っ飛んでった。

「そして今度は2人とはぐれたと…」

「まぁまぁこの風船飛ばすスペースに居たらきっと来るって!」

「ユズのせいだろ!大体腕なんか…」

ヤバい。ユズの冷たい手の感触がまだ腕に残ってる。

「何赤くなってんの?飛行機の中では真倉がずっと手を離さなかった癖に」

「アレは不可抗力!飛行機とは違うんだよ!状況が!」

「まぁまぁ落ち着いて。ハイ深呼吸」

「だからユズのせいだろ!」

俺が怒ってんのにユズはゲラゲラ笑ってる。全くどうゆう神経してんだ!

「ほら!それより願い事書こうよ!一個の風船に何個書いても大丈夫らしいよ!ほら早く!」

「分かったよ…頼むから腕掴むな!」

自由行動の予定表を提出する時、ユズはここだけは譲れないって喚いた場所だ。

「さー!やっと買えたし願い事書くよ!」

「願い事って何書くの?」

「ナイショ!真倉は?」

「…内緒」

ユズは真剣に願い事を書いてる。…ていうか書きすぎじゃね?普通書いても1個とか2個だろ。さっきからもはや魔術並の文字数書いてんぞ。ちょっと見えるな…。

「よし終わった!真倉かけた?」

「とっくにな…」

「じゃあ飛ばすよ!」

「おー!」

「せーの!」

風船のお守りを外すと水色と黄色の風船はどん遠くに飛んでいった。風船を見えなくなるまでずっと見ていたのは柄にもなくちょっと感動して泣きそうだったからってのは一生の秘密だ。

「真倉いつまで上見てるの⁈」

「うるせーよ。ちゃんと飛んでいったよな…鳥に突かれたりしてねえよな…」

「心配性だなぁ」

「…なぁ願い事なんて書いた?」

「まだ聞く⁈」

「あんだけ書いてたんだから一個ぐらい教えてくれてもいいだろ?」

「んーじゃあ真倉も一個教えてね。一番強く願ったやつ」

「いいよ」

「私はねー真倉の受験が成功しますように!って」

「…やっぱ知ってたんだな」

「先生がねー、真倉を支えてやってくれって!それで?真倉は?」

「…あのクソ担任が早く死んでくれますようにって書いた。今の一番の願い事」

「真倉それずるいよ!絶対嘘でしょ⁉︎本当は⁉︎」

「…みんながいつまでも健康に暮らせますように」

「…なんか真倉らしくないひねくれてない願い事だね。ほんとにほんと?」

「血に誓って」

「じゃあ信用する!私も血に誓うよ!」

「うん」

「ところで真倉、集合時間って何時何分だっけ?」

「5時20分だろ?」

「今ってさ…何時何分かな」

二人で携帯を見る。時刻は…5時18分。

「はしんぞ!」

「ちょっと腕掴んだまま走らないでよ!」

「ユズだってさっき掴んだろうが!」

「私は可愛い手だからいいの!」

「ていうかなんで俺より早いんだよ!」

「ほら早く!」

2人で走ったが、間に合うわけもなかった。白川さんとマツリはとっくに集合しており、俺らは隣のクラスの先生から大目玉を食らった。

「…たく、晩御飯食べた後風呂にも入らせずに10時まで説教とかなんなんだよ」

「隣のクラスの先生めっちゃ怒ってたけど、半分はうちの担任の文句だったね…」

「あの担任恨み買いすぎだよな」

「でも良い先生だよ。色んな意味で適当だし」

「あれは適当とかいう次元じゃないだろ…」

「じゃあ私こっちだから」

「おー、おやすみ。風呂入れよ」

「分かってるよ!おやすみ」

俺はもうクタクタで早く寝たかったのに、部屋に戻ったら、生き生きとした男子クラスメイトと何故か担任までいて今日の思い出をじっくりと掘り返されまくった。おかげで寝れたのは2時過ぎだったし、風呂にも入れなかった。

「おはよー!」

「…はよ」

「どうしたの?凄いクマだよ」

「…もう話しかけないでくれ。昨日の自由行動に遅れた話に尾ヒレがついて愛の逃避行みたいな感じにされた」

「何それ⁉︎最高!」

相変わらずゲラゲラ笑うしテンション高い。

「ユズは?周りから何か言われた?」

「私はあんまり!同室の子たちはマイちゃん以外みんなマツリの部屋行ってたし」

「あー」

「おかげでお風呂に入れたよ!」

「あっ俺はいんの忘れた…」

「ちょっと!汚い!近くに来ないで!」

「お前だって昨日入ってなかっただろうが!」

「昨日は走って汗かいたじゃん!今日帰るのに!席隣なのに!最悪!」

「はぁ⁈ってか飛行機…オェッ」

「ちょっと汚い!やっぱ今日先生に行って席変わってもらう!」

「なんだと⁈」

俺らはやっぱり朝から喧嘩して、帰りのバスも飛行機も隣だった。と言っても俺は全部爆睡。飛行機の怖さは無事なくなったが、起きたら顔に落書きされててみんなに笑われて大変だった。

「へのへの絵文字…アイツ!」

普通おでこに書くなら肉だろ!肉でもダメだけど!

「ただいま…」

「おかえりー。どうだった修学旅行?」

「これ…カンナに。簪」

「ありがと…簪?可愛いけど、もっと使えるやつなかったの?」

「ごめん俺寝るわ…もうクタクタ。鞄からお土産出して勝手に食べていいから。後洗濯物頼む…」

「ちょっとお兄ちゃん⁈」

あーさっきあんなに寝たのにまだ眠い…。明日土日だし今日はゆっ…く……り………。

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