第14話 ユズ、命日。佐藤

真倉は許嫁の事…知っていた。いつから?どこで?誰が教えたの?ハテナばっかり浮かんでは消えていく。

「真倉君大丈夫でしたか?」

「…佐藤さん、どうせ途中から聞いてたんでしょ。わざわざ聞いてくれなくてもいいですよ」

「仕事なんで…すみません」

佐藤さんは悪く無いのにちょっと嫌味な言い方しちゃった。

「真倉…少し疑ってましたね」

「古都での事はやはり覚えてないみたいですね。本当に良かったです」

「もしバレたら…終わりですよね」

「最悪消されますね」

そんな冷静に言わないでよ。悲しくなるじゃん。

私は何も言えなくなって沈黙のまま車は空港に着いた。

「着きましたよ」

「ありがとうございます」

佐藤さんと一緒に飛行機に向かう。

この道松澤さんと真倉で走ったな。結局あの時ぐらいしか真倉と一緒にいれなかった。

「後少ししかないのに…」

正直、真倉に全部話したい。話して2人で泣いて喧嘩してカンナとユリと4人で話したい、遊びたい。無理だって分かってるけど。

「…佐藤さんって私の両親知ってますか?」

「俺その頃は軍でパティシエしてたんで本当に知らないです。やっぱり…気になりますか?」

「いや、記憶ないから命日とか言われてもピンとこなくて。みんな教えてくれないし」

「…良い人達だったと聞いています」

私とユリを置いて死んだ人達だけどねなんて絶対に言えない。両親はなんで死んだのか私達はなんで3年も誘拐されていたのか。誰も教えてくれない。

「もう8年…」

文字や言語は理解出来たのに、両親と過ごした記憶やレイやユウトとの記憶はない。ユリとの記憶も7歳からしかない。

「なんで死んじゃったんですかね…」

「…もうすぐ着きますよ。ドレスに着替えてください。真倉君へのお見舞いは報告しませんから」

「ありがとうございます…」

命日前日のパーティーは嫌いだ。沢山の噂話がヒソヒソと聞こえてくる。おばあちゃんの悪口言われてもニコニコしなきゃいけないから辛い。

「今日はベールも黒…」

まぁ黒だと顔分かりにくいから助かる。今年はユリも居ないし、夜一緒に泣く人がいない。両親が死んだ悲しみよりおばあちゃんの悪口言われる方が辛いんだから私は薄情な娘だ。

「ユズ。遅いから迎えに来たよ」

なんかこの光景も見覚えがある。2人とも服装は真っ黒だけど。

「今日はレイも全身黒だね」

「まぁね」

毎年私たちが泣いちゃうので、今日はレイも行きたくなさそうだ。

「招待客今年は何人?リスト見た?」

「見てない。ユズも見なくていいよ」

「うん…」

静かだ。この前は早く感じたのに、今日は長く感じる。誰も喋らないまま車は会場まで到着した。

車を降りるとまた真っ黒な人がいる。

「おー!ユズ、レイ。遅かったな」

「ユウト!待っててくれたの?」

「ユズ違うよ。ユウトはサボりたかっただけ」

「お前、俺がわざわざ待ってやってだんだから礼ぐらい言えよ!」

「ユウトうるさい。会場前なんだから声抑えてよ。本当恥ずかしい」

「あぁ⁈大体お前はいつも…」

「ちょっとユウト、レイ。ここ会場前だから…」

ユウトとレイの喧嘩を「ゴホン」という咳払いが止める。

「レイ、ユウト。いつまでやるつもりかな?」

「ユウト!お前の声が聞こえて来てみれば!」

叔父さんとユウトのお父さんの最強タッグにレイもユウトも私まで顔が青ざめる。

「言い訳はいい。話は後で聞く。入りなさい」

「はい…」

3人で口を揃える。2人には夏休みの一件以来頭が上がらない。

「じゃあユズ」

「うん」

今日はいつもより強くレイの腕を握ってしまう。

「どうぞ」

重い扉が開くと一瞬にしていつもに増してみんなの視線は私たちに向けられる。

「…お二人とも…まぁ…」

「ユリ様は…誘拐…記憶が…」

「お母様に…面影が…お父様…ギリシア…」

「犯罪者に…ご苦労が…処刑…」

全部聞こえているんだから!って叫びたい気分。

「ユズ、大丈夫?」

レイが小声で聞いてくる。

「うん…だいぶ慣れた」

「最悪控え室あるから。言ってね」

「うん」

ユウトはもう大人達と喋っている。なんだかんだ言ってユウトもちゃんとやる時はやるタイプだ。

「ユズ、来るよ」

「…うん」

黒ベールだからかいつもより見にくいのが助かる。

「菅野大臣、西野大佐、長坂大臣に三木大佐並びに奥様。お久しぶりですね」

「レイ様さすがですね。全員を覚えでいらっしゃるとは。ユズ様、ご無沙汰しております」

「…ご無沙汰しています」

「いやぁ相変わらず仲がよろしい事で。お二人が水の宮家を継いでくださることを我々政府、及び軍としましても…」

また始まった。レイも私も自分の意思で継ぐんじゃ無いのに好き勝手言ってさ。

「…にしてもユズ様はもう15歳。来年にはご婚約して新しい水の宮家の道筋をつくって下さること我々心から願っております」

ベールで顔があんまり見えなくても、なんか怖くて嫌な目をしていることぐらいは分かる。

「そうですね。僕もユズも心から願っています」

「…皆様にサーシャ様の祝福を」

「ありがたきお言葉。御二方にもサーシャ様の祝福を。では私どもはこれで失礼致します…」

やっとどっか行ってくれた。最近この話題多いな。

結婚とか婚約なんて私達に言われてもどうせ決めるのは政府のお偉い人達なのに。

「…なんか見た感じ去年より人多いね」

「年々増えてる。招待してないのに勝手にくるんだよ。本当クソみたいな連中ばっか」

「レイ聞こえちゃうよ…」

「また来た…ユズ笑って」

この後、100人以上の人へ挨拶を済ませて私たちはやっと彩都の家に帰れた。

「もー無理。人多過ぎんだろ…」

「僕も…流石に疲れた」

「私、愛想笑いし過ぎて顔の筋肉痛い…」

叔父さん達はパーティーの後、まさかの仕事に戻ったんだから本当に尊敬する。

「私、今日はもう寝るね…おやすみ…」

2人がグッタリしているうちに急いで自分の部屋に行く。今日はユリに電話しない。泣いちゃうから。

やっぱり今年も酷いこと沢山言われて心がもうクタクタだ。

「…涙」

今年こそは大丈夫だと思ったのに。真倉からも連絡はきてない。まぁそりゃそうだよねあんな事あったんだから。折角、真倉と仲良くなれたと思ったらすぐこれだ。

「会いたい…」

おばあちゃんにも真倉のおじいちゃんにも会いたい。私のお父さんとお母さんにも会ってみたい。

結局今年も泣き疲れて寝たから、目はパンパンだしもうお昼前だ。皆気を遣ってか起こしてくれなかったみたい。今日は黒のワンピースに着替えて待ってたユウトとレイと一緒に家を出る。

「…2人とも平日なんだし学校休まなくても良かったのに」

「休む口実だから別にいいんだよ」

「そうだよ。1人で行かせるの心配だし」

「…2人って昔からそんな過保護だったの?」

「まぁレイは昔からヤバかったな」

「ユウトの方が酷かったよ。ユリが熱出す度に半泣きになりながら…」

「レイてめぇ!」

覚えてはないけどなんとなく想像できるから、2人の思い出話は聞いていて楽しい。

お墓は遠い。先に花屋に寄って花を選ぶ。

「どれがいいかな?これとか綺麗だけど…」

「ユズあんま花に触らないで棘があるかもしれないし、被れるかもしれない」

「なぁ店員、20万位でデカい花束作れ」

「ちょっとユウト!持てる量にするの!」

「ユズ!床濡れてるから走らないで!」

多分昔もこんな感じだったってのはよくわかる。

結局3人とも両手で抱えれる大きさの花束を買ってお墓に向かう。

「…でさ、ユズは?」

「…」

「ユズ?」

「あっごめん聞いてなかった。何?」

「…ユズは何の花が好きかって話」

「んー、私花より団子派なんだよねぇ」

「お前に花なんてにあわねぇし団子で充分」

「ちょっと失礼じゃない⁈」

「そうだよ。ユウトなんかに持たれる花が可哀想」

「あぁ⁈お前は昨日から…」

2人がまた騒ぎ出したのでまた窓の外の景色を見る。もう車はすっかり郊外で毎年同じ景色がみえる。おばあちゃんのお墓はまだ見つからない。

「やっと着いた…」

「相変わらず遠すぎんだよな墓。近くに作れよ」

「もうユウトのせいで声ガサガサ」

「俺だってお前のせいで声ガサガサなんだよ!」

「まだ出るじゃん」

「うっせぇよ!スカしたツラしやがって!」

「もー2人とも早く行こうよ!花束重いし!」

ユウトもレイも今日は私の気を逸らすためにいっぱい話をしてたんだと思う。喧嘩になっちゃってだけど。

「お待ちしていましたよ」

「四宮お爺ちゃん。叔母さん。古都での会食以来ですね。叔父さん達きてます?」

「一足先に帰られましたよ。ユウト君にはお父さんから帰ったら覚悟しろと伝言を預かっております」

「ゲッ…」

「では参りましょうか」

みんなで地下のお墓に向かう。ここに歴代の宮家が全員いるかと思うと正直不気味だ。叔父さん達の花束の横に私たちも花を添えて手を合わせる。正直知らない人達だから特に話す事もないしなぁ。みんなは真剣に手を合わせているから言えないけど。

「…終わられましたか?」

みんなが頷く。いいなぁみんな話す事いっぱいあって。私なんて途中から目を開けて壁紙の絵しか見てなかった。

ユウトは迎えの車が待っていて凄い嫌そうな顔して乗って帰った。私は空港までレイと一緒に向かう。

「叔父さん達今年も桜だったよね。季節違うのにどこで買ってるんだろ?」

「緑サガに頼んでるんでしょ」

「あぁそっか…」

お母さんサクラって名前だからやっぱり桜好きだったのかな。私は桜餅の方が好きだけど…。

「…どう?」

「あっごめん。レイもう一回言って」

「…学校どう?二学期始まったけど」

「うん楽しいよ。毎日充実してる」

「…真倉君となんかあった?」

「なんで?別になんもないけど…」

レイって本当勘するどいんだから。紫色の目で私の顔みつめないでよ。冷や汗出てきた。

「…そう。何かあれば言ってね」

「うん。レイは?生徒会長の仕事とか忙しい?」

「別に。ユウトがサボってばっかでしんどい」

「生徒会って先生からの推薦なんでしょ?2人絶対断ると思ってた」

「…推薦っていうかもう決まってた」

「そうなんだ!みんな怖がらせたりしてない?大丈夫?2人とも自然体に圧があるから…レイ?聞いてる?」

「あぁ…うん」

レイが私の前で考え事なんて珍しい。

「今日は私もレイも上の空だね。昨日言われた事気にしてるの?」

「…最近多いよねあの話題」

「私たちに決定権ないのに言われてもねー。高校入ったら次はレイのファン達に虐められそう」

「させないから大丈夫」

「ユリが最初入った時ユウトのファン達に呼び出されたらしいよ。お前何様だって水かけられたって」

「ユウトあれから休み時間のたびにユリの教室行って牽制してたからね。僕も付き合わされた」

「私たち親戚ってだけで許嫁とかも秘密だし、レイとユウトが話しかけなきゃ特に何も起きないんじゃ…」

「無理」

そこは譲らないんだ…2人とも変な所で頑固なんだよね。

「頼むから休み時間の度に来ないでよ。私ユリと違ってそこまで美人じゃないから余計に周りが…」

「ユズは可愛いよ」

これだもんなぁ。高校は本気で後ろから刺されないように気をつけるしかないか。

「ユズは可愛いから」

「2回も言わないでよ恥ずかしいって。運転者さん達聞いてるんだから」

「もっと…ちゃんと自覚持って」

「はいはい、分かったってば。レイも凄くかっこいいよ!」

「…」

「あっ!レイ照れてる!」

「…うるさいよ」

「普段の私の気持ち分かったでしょ!昨日のパーティーもキザな台詞ばっか私に言ってさぁ」

「ユズが喋らないからでしょ」

「恥ずかしさで喋れないの!ユウトなんて私の横に来た時ずっと笑い堪えてたんだから!」

「僕だって好きでやってる訳じゃ…」

空港に着くまで2人で昨日の話で盛り上がった。

「じゃあまたね」

「ユズは可愛いから」

「もうわかったてば!じゃあね!」

「うん。じゃあね」

後ろの佐藤さんの顔が恥ずかし過ぎて見れない。

「行きましょっか」

「はい…」

俯いたまま飛行機に乗った。

「今日のレイとの会話…報告します?」

「まぁしますね」

「笑いながら言わないでくださいよ!恥ずかしいじゃないですか…」

あの会話見る時の政府の役人達の顔どんなんなんだろ。想像しただけで恥ずかしさで死にそうになる。

「…日取りとかもう会議に上がってるんですかね」

「まぁそろそろじゃないですか?」

「…婚約パーティーとか何人ぐらい来るのかな」

「最低でも500人は来ますね」

「佐藤さん代わりに出てくれません?」

「こんなゴツい水の宮家嫌ですよ」

佐藤さんのドレス姿…想像したら笑ってしまう。

「…やっぱり嫌ですか?婚約も結婚も」

「嫌じゃないです。16はちょっと早いなぁって。リフェース皇太子だって25ですよ」

「あそこは宮家が多いですからね。でも皇后は19でご結婚されています」

「そうなんですか…」

レイと結婚して子どもを産んだらユリを解放してくれるって政府と約束した。でもそれは私の子どもを犠牲にするって事。最低だな私。時々…あのまま見つからなかったらレイを縛り付ける事はなかったし、ユリも私も何も知らずに暮らせたのにって。

「…佐藤さんは結婚してるんですか?」

「こんな忙しいのに相手作る暇ないですよ」

「その…命令で誰かと結婚しろって言われたら?」

「その人を好きになる最大限の努力をします」

凄く佐藤さんらしい答えだ。私の答えは見つからないまま飛行機は戸間に着いた。

「レイ様から家に着いたら連絡してとユズ様にお伝えしてほしいと」

「わざわざ佐藤さんに?」

「ユズ様メッセージ中々見られませんから、俺に連絡してこられたんだと思います」

「本当だ。メッセージきてた」

ユリからも来てる…真倉からは来てない…返信…しなきゃ…眠い…。

「おやすみなさい」

って佐藤さんの優しい声がした気がした。




ユズ様は車の中でお休みになられたので二階のベッドに運んだ。

軽い…。背も平均よりかなり低い。国の期待を背負うにはユズ様は幼すぎるし、弱すぎる。俺だってユズ様達の親の顔が見てみたい。処罰されてもぶん殴ってやりたい。ユリ様とユズ様を残してなんで死んだんだって問い詰めてやりたい。

「あっちゃーユズ様寝られちゃったんだ。レイ様が俺にも電話かけてきて隠してる事ないかって脅されちゃったよー!全く信用ないなぁ」

松澤…ヘラヘラ笑いやがって。階級こそ上だがコイツはぶん殴るだけじゃ足りないな。

「お前のせいで俺までレイ様に睨まれてんだからな!」

「真倉君のことは謝るって!見舞いの事報告しなかったんだからお互い様だろ?」

「…レイ様にバレたら俺ら処分どころじゃないな」

「真倉君にユズ様の正体がバレるのが先か、レイ様に真倉君の正体がバレるのが先か。実物だねぇ!」

なんでそんな笑いながら言えんだよ。俺なんて毎回汗びっしょりなのに。

「お前楽しんでんだろ…」

「あっ分かる?結構楽しんでる!」

もうコイツ殺しても処罰されない気がしてきた。

「…レイ様ってユズ様の事大好きだよな」

「いやぁアレはもうストーカーだよね!宮家継ぐ気はなくてもユズ様は離さないでしょ!」

「ユズ様は…レイ様の気持ちに全然気づいてらっしゃらないな」

「もし気づいてあんな天然発言連発してたらもう悪魔通り消して大魔王だよ!」

「だよな」

今日の車の中なんて本当に酷かった。聞いてるこっちが恥ずかし過ぎて顔真っ赤だったんだから。

「…婚約の日取りってもう決まってんのか?」

「さぁ?でも上が焦ってんのは確かだね。最近2人の仲を報告しろってそればっか!」

もし…俺と松澤がユリ様とユズ様攫うとしたら何日逃げれるかって最近考える時がある。情に流されるなんて…俺も歳だな。

「…みんな幸せになって欲しいな」

「んで俺らを早く解放して欲しい!有給取りたい!遊びに行きてぇ!」

よし。次、有給取れたら俺はコイツを殺そう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る