第12話 ユズ、ユリ帰国

最近真倉がおかしい。

あっという間に夏期講習は終わってお盆に入った。お盆にある戸間祭に一緒に行こっ!って連絡したのに返信は

「既読無視って!どう思います⁈」

「俺に言われてもねぇ」

「まだ何も思い出作れてないのに…」

「彩都に連れて行き、成り行きで古都まで連れて行って挙げ句の果てに入院沙汰を起こしたのは充分思い出になるっすよ」

「それは思い出じゃないです!」

結局2人きりにはほとんどなれなかったし。ちゃんと謝ってレイとユウトも紹介してみんなでボウリングまで行って。一件落着ってなるはずだったのに。

「なんでこうなるかなぁ」

ため息が車内に響き渡る。

「まぁまぁ。もうすぐ修学旅行ですからそこで思い出を作ったらいいっすよ。それに戸間祭はどっちにしろ行けなかったんですから」

そうだ。結局お盆はユリが早めに帰国すると言う事で彩都で過ごすことになった。といっても、ユリとは毎日電話してるからそんな涙の再会とまでは行かない。きっとユウトが号泣するだけだ。

「あっユリ様来ましたよ」

「本当だ!おーいユリこっち!」

ユリが私を見つけて走ってくる。

「お姉ちゃん!会いたかったぁ!」

「ユズ!久しぶり!会いたかった!」

2人で車の中でハグをする。

「じゃあ出発するっすね」

彩都空港を後にして本邸に向かう。

「ユリ。時差は大丈夫?」

「うん!それよりお姉ちゃんこそ古都で真っ青になって倒れたって聞いたよ!大丈夫だったの⁈」

「それ誇張されて話が伝わってるだけだよ。私は全然大丈夫。超元気」

実際ちょっとだけ危なかったらしいけど、ユリにはあんまり心配かけたくない。

「あっこれ。この前デパートで買ったの。ユリとお揃いのイヤリング。誕生日プレゼント。送っても良かったんだけど渡したくて」

古都東百貨店で買ったイヤリングを渡す。

「わぁありがとう。大事にする。今つけていい?」

ユリは綺麗な黒髪を耳にかけ、イヤリングをつける。

「どう?」

「可愛すぎる!さすが私の妹!」

「ちょっとお姉ちゃん暴れないで!ドレスしわくちゃになっちゃう!」

可愛い。可愛すぎる。

「そういえばユウトからのプレゼントはちゃんと受け取ったの?」

「お姉ちゃんがしつこく言うから貰ってあげたけど、あんまり期待持たせても可哀想じゃない?」

200万越えのバッグを貰ってあげたなんて言う台詞を14歳の女の子が言うこの世界って。

「なんで私が眠っていた2年の間になんでそんなお嬢様になっちゃったかなぁ!可愛いから許すけど!」

「ちょっとだからあんまり抱きつかないでよ!ドレスがしわくちゃになっちゃう!」

毎日話していたから話すことがないと思っていたけどやっぱ会ったら話は弾む。あっという間に彩都の本邸に到着した。

「ユリ!おかえり!」

まだ車の扉も空いてないのに、本邸からユウトが走ってくる。

「ユウトただいま。これ持って」

ユリが帽子を押し付ける。

「なんだよ1年ぶりだぞ!再会のハグしようぜ!」

「ドレス汚したくない」

「俺は雑巾か⁈」

「うん」

ユウトはユリに酷い言われようなのに嬉しそうだ。

よっぽど好きなんだろうな。なんか微笑ましい。

「お姉ちゃん入ろうよ。ナラクは蒸し暑過ぎて溶けちゃいそう」

「あっ今はいる!」

2週間ぶりの本邸だ。ユリにとっては約半年ぶり。

「半年たってるけどあんま変わってないね。ていうかレイ兄は?」

そういえばいない。

「レイならまだ学校。新生徒会長だから忙しいんだよ。お前ら姉妹を無事に転入させないと行けないしな」

「ユウトに聞いてないんだけど」

「ついでに俺は副会長だからな!副会長特権でユリを書記に任命してやる!」

「お姉ちゃん、私来年もギリシアにいていい?」

「上目遣いで私に言わないで!可愛すぎてなんでもOKしたくなっちゃうから!」

「おいユズずりいんだよ!ユリ俺にも上目遣い頼む!」

「皆様お楽しみのところ大変申し訳ありませんが!」

名取さんの声で全員が振り向く。

「サガラ様がおかえりです」

「ただいま。ユリ半年ぶり。ユウト、ユズ2週間ぶりだね」

「叔父様!ご無沙汰しています!」

「元気だった?」

「はい!叔父様のおかげで!」

ユリはいわゆる枯れ専という人種でサガラの叔父さんをよく私の推しだといつも言われている。ユリが好きなら複雑だけど応援する!と言ったら恋愛対象ではないと言われた。ぶっちゃけよくわからないが、とにかく叔父様はユリにとって白米と同じ存在らしい。

「叔父様!今日もスーツがお似合いです!」

「ありがとうユリ」

「写真撮ってもいいですか⁈」

「あぁ構わないよ」

ユリに押し切られおじさんは若干苦笑いしている。

「ユリすげぇよな。レイの親父にあんだけグイグイ行けるって。怖いもの知らずっていうかさ」

ユウトが小声で私に喋りかける。私とユウトとレイはこの前コッテリ絞られた後だ。気まずい。

「叔父様!もっと髪かきあげてください!」

ユリはいつの間にか持ってきた一眼レフでおじさんを連写する。

「ちょっと…父さん何やってんの?」

レイも帰ってきた。

「みんな揃った事だし、今日はみんなで楽しもうと言いたいけど私を含めた大人たちはまだ仕事があるんだ。みんなで楽しんでくれ」

「えぇ!叔父様酷い!」

悲しんでいるのはユリだけで、私たち三人は心の中でホッとする。

「ごめんねユリ」

叔父さんはユリの頭を撫でながら言う

「そこの3人もあんまりハメを外さない程度に楽しんで。ハメを外さない程度にね」

最後2回言われた。

「じゃあ名取。あとは頼む」

「はい。行ってらっしゃいませ」

扉が閉まる。

「では皆様、19時からユリ様ご希望の急米のお寿司が届きますのでよろしくお願いしますね」

「名取さんが受け取らないの?」

「明日からお盆ですよ。私も人間です。実家に帰るんですよ3日間」

「えぇ⁈」

みんなでハモる。だからおじさん二回もハメを外さらないようにって言ったのか。

「警備もお盆の間は松澤さんのみにしています。みなさんくれぐれもハメを外さないようにお願いしますね!本当に!気をつけてください!」

「はーい!」

「…皆様気持ちいいぐらいのお返事ありがとうございます。でも、もし万が一何かあったら!容赦しませんよ!」

「はーい!」

「…では。失礼します」

凄く心配そうな顔をしながら名取さんは帰っていった。

やった!しかも警備は松澤さんだけ。突然の出来事にみんな顔がにやけまくる。

「ユリ!ナラク久々だろ⁈なんか行きたいとこある⁉︎ウザイ奴らもいないしパーっと遊ぼうぜ!」

「私お姉ちゃんと2人で過ごしたいんだけど」

「ちょっと俺がいてもいいだろ!どうせ明日からは2人きりなんだから!」

「明日なんかあるの?」

「ユウトと僕は1週間謹慎してたから明日と明後日も学校。本当は今日もだったけどユウトはサボった」

「だってさ!ユリが帰る時間教えてくれなかったから仕方ないだろ!」

「大体ユウトはうちに来すぎなんだよ。自分の家にちゃんと帰りなよ」

「うっせえな!お前だって俺がいない間に俺ん家で寝てたりすんじゃねぇか!」

「2人とも半年振りなのに全然変わんないね」

ユリは14歳にしては色っぽすぎる顔でクスクスと笑う。

「じゃあ僕着替えてくるから」

レイは制服を着替えに二階の部屋に上がってた。

「ユリ!俺この前紅茶の淹れ方教わったから淹れてきてやるよ!特別だぞ!」

ユウトはまるで実家のようなくつろぎぶりだ。多分私よりものの配置を知っている。

私とユリはソファーに座ってひとときの会話を楽しむ。

「…でさ、真倉が意味わかんないわけ。ユリどう思う?」

「んーお姉ちゃんの話を聞く感じだと確実に脈ありとは思うんだけどなぁ」

「だよねー」

「シュウ兄の写真ないの?」

「撮らせてくれないんだよね。カンナちゃんは学校来てないから会えないし」

「5年経つもんね。2人にも色々あるよ」

「そうだよね…」

「そうそう、おばあちゃんのお墓の場所。まだ分からない?」

「戸間のそれっぽいところ探してはいるんだけど。何しろ5年たってるし、町が再開発で全部変わっていて。頑張って探してはいる」

「そっか。おじいちゃんのお墓の場所は?」

「それも探してるけど…」

「シュウ兄に聞いてみたら?」

「聞けないよ…」

「お姉ちゃんってそうゆうとこ繊細だよね」

「ユリは顔に似合わずそうゆうとこ大胆だよね」

2人で笑い合う。

「おーい紅茶冷めんぞー!早く来いよ!」

ユウトが呼んでみんなが集まる。

「どう?ユリ?」

「30点」

「よっしゃ赤点回避!」

「ていうかレイは?まだ来ないの?」

「私呼びに行ってくる」

レイを呼びに、部屋に行く。ドアを叩くが反応がない。

「レイ?入っていい?…入るよー。うわっ何これ」

大量の書類と本が床に散乱している。ていうかレイがいない。

「ユズ…」

私の部屋から声がする。なんか声が小さい。

「レイ?私の部屋にいるの?大丈夫?」

「頭痛くて体温計が見当たらないからユズの借りた。ごめん…」

嫌な予感がする。

「レイ。はいるよ」

「ユズ悪いけど…僕抜きで楽しんで」

レイの右手にある体温計を見る。38.3度。

「待ってて。血あげる」

「いらない」

「大丈夫この熱だったら10滴ぐらいで効くから」

「だから要らないって」

「もうシン刺しちゃった。勿体無いし飲んで」

コップに血を入れ横にあったミネラルウォーターに混ぜる。水に混ぜてしまえば自分の血を再利用することは不可能だ。レイはため息をついて飲む。

「楽になった?」

「要らないって言ったのに。これぐらい寝たら治るよ」

「でも苦しそうだったから」

「苦しそうだったら誰にでもあげるの?」

「屁理屈言わないでよ。助けてあげたんだから」

レイの頭を撫でようとした左手の手首をレイがものすごい力で掴み、手のひらを無理矢理広げる。

「痛っ」

「これ位の傷もまだ消えないぐらい弱い存在で助ける?馬鹿言わないで」

「レイ何怒らないでよ。機嫌なおして。ねっ」

おでけて言って見せるがレイは無言だ。本気で怒ってる。どうしよう。

「次からは気をつけるって」

「それ何回も聞いてる。次からは次からは次からはって。死んでからじゃ遅いんだよ!」

レイが怒鳴った。レイが。あのレイが。どうしよう。頭が真っ白だ。

「だから泣かないでよ。頼むから」

じゃあそんな私より傷ついた顔しないでよ。言いたくてもしゃっくりが止まらない。

「2人とも遅いよーってお姉ちゃん泣いてんの⁈てか血!早く舐めて!」

「僕外の空気吸ってくる。今回は謝らないから」

「ちょっとレイ兄?私の歓迎会は⁉︎お姉ちゃん泣いてないでちゃんと説明して!」

「なぁさっきレイが凄い形相どっか行ったんだけど何か知らないって…どうした⁈」

2人が一回からお茶を持ってきてくれて、ようやくしゃっくりと血も止まった。事情も問い詰められて説明する。

「…それはお姉ちゃんが悪いよ」

「おん。お前が悪いな」

「なんで⁈助けてあげようと思っただけだよ⁈」

「お姉ちゃん、手のひらの傷ちゃんと見せて」

「いや」

「見せないとナラクにいる間口聞かないよ⁈」

しぶしぶ手のひらを見せる。

「ユウト。これと同じ感じで手のひら切って見せて。サガは使わないでよ」

「仕方ねぇな」

ユウトは一瞬でシンを私と同じように指し、思いっきり横に弾く。血が浮かんで消える。

「ユウト、手のひらお姉ちゃんと比べて」

もうユウトの手の傷口は完全に塞がってうっすらと傷跡が残っているだけだ。

「分かる?お姉ちゃんが3週間かけても治せない傷はユウトが30秒で治せる傷なの。お姉ちゃんは自分は強いと思ってるかもしれないけどお姉ちゃんは、お姉ちゃんが思っているよりずっと弱いんだよ」

「私は強いよ⁈サガだって本気出せば…」

「だからぁ」

ユウトがブチ切れ寸前の顔でいう。

「お前が強いのは!血を流し続けれるからなんだよ!お前の強さと!その血は!諸刃の剣なんだってこと!いい加減分かれよ!」

「私は特別な血なんだよ!サーシャ様の祝福を受けた人なんだから!」

「その特別な力で!ババアを生き返らせようとして!結果どうなった⁈地震を起こさせて!ババァは死んで!お前は2年!目を覚まさなかった!ユリがどんな気持ちでお前を待っていたと思う⁈」

ユウトの怒鳴り声が部屋に響く。正論すぎて何も言い返せない。

「ユウトの言う通りだよ。私がどんな気持ちで2年間も過ごしたと思ってるの。特別な血?特別に弱い血の間違いでしょ」

ユリは冷静に言っているようだが肩は震えている。

何も言えない。涙ばっかり流れていく。

「俺も外の空気吸って頭冷やしてくる」

そう言ってユウトも部屋から消える。涙も枯れきってユリの肩の震えが止まった。何時間だったんだろう。もうすっかり部屋は暗くなってる。

「ごめん」

「私に言わないで。レイ兄に言ってきて」

「そうじゃなくて怪我の事。黙っていてごめん」

「謝らないで。もうしないって約束して」

「うん約束する」

行った瞬間に私のお腹がグルルルとなる。

「お寿司食べよっか」

下に降りてリビングに向かう。家の電気がついてないので薄暗い。

「電気ってどこだっけ?」

「お姉ちゃん段差気をつけて」

2人で階段を慎重に降りてたらパチパチパチパチと電気がついた。レイとユウトがいる。松澤さんも。

「レイ!」

もうとっくに涙は枯れたと思ってたのに。レイの顔を見るとまだ涙が出てくるから涙って不思議だ。

「レイ…レイ…」

「わかった。わかったから。もういいよ」

レイが優しくハグをする。よかった元気そうだ。

「お姉ちゃんもう寿司固くなってるよ。こんなの私食べたくない」

「今から店行くのもだるいな。松澤、なんか作れる?」

「レトルトならいけるっすよ!」

「この家レトルトないよ」

レイが私の首に腕を巻きつけながら言う。

「ちょっと⁈お姉ちゃんは私のなんだからレイ兄は手を早く退けて!」

「俺はユリのものだからな!」

「レイ、普通に腕重いからのけてくれない?」

「無理」

「ちょっと皆様方!話ずれてるっす!」

レイの腕を退けながら言う。

「じゃあ私がユリと一緒にご飯作ろっか?」

「お姉ちゃんと料理?久しぶりだね!楽しそう。折角だからみんなで作る?」

「ユリと一緒ならなんでもするぜ!」

「僕も折角だから2人の手料理食べたいけど。2人とも包丁使わず料理できるの?」

「あっ…」

2人してすっかり忘れてた。

「だし巻きとかならどっすか?ご飯と味噌汁なら俺作れるっすよ!」

「松澤さんナイス!それで行こう!」

「2人とも手袋してよ。危ないから。後包丁と熱湯には近づかないで」

なんかレイは段々名取さんに似てきてる気がする。結局みんなでだし巻き定食を食べる。

「終わったらみんなで人生ゲームしようぜ!」

「ユウトがどうせ負けるんだからやらない。私はお姉ちゃんとおしゃべりしながら寝るの。邪魔しないで」

ユリはそう言ってたがこの後一回戦でユリは惨敗。負けず嫌いなユリにこの後8回もみんな人生ゲームに付き合わされた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る