第9話 真倉、2日目
眩しい…。なんだもう朝?…ここどこだ?
「おはよう。俺が誰だか分かるか?」
えっ佐藤さん?えっどうゆう事だ。
「あっハイ。佐藤さんですよね」
俺…確かユズの部屋に…そこで…
「そうだ!あのユウトってヤバいやつが俺のお腹殴って!絶対骨折れてますよ!」
そうやって俺はお腹を見せる!
「あれ……」
真っ白だ。傷一つない。そういえば全然痛くない。
「ゆっくりでいいよ。記憶障害があるかもしれないから一応、昨日あった事から全て話してくれる?」
「あっはい」
そうだ昨日確か…
僕と佐藤さんは誰もいない地下の厨房でデザートを作っていた。
「材料はこれがプリンでこれがザッハトルテ…。これはエックダルト、ムースも。全部で何種類あるんだ…。とにかく一個ずつ作っていこう」
「こんなに大量のデザート作るんですね。しかも一個ずつ。誰がこんなに食べるんですか?」
「真倉聞いていないのか。リーフェス皇太子だぞ」
「えっ⁈この前ナラクに来日したってギリシアの宮家じゃないですか⁈ニュース見ましたけどこのホテルにいるんですか⁈」
「機密だぞ」
そんな簡単に機密情報って喋っていいのか。
「にしても…リフェース皇太子ってこんなに食べるんですか?」
「いや、何を希望されるか分からないからとりあえず出来る限り作っておいてくれと。あっそこのオーブンは160度で予熱してくれ」
「はい。30分っと。でもこんなあるなら外注すればいいんじゃ?」
「この前毒物混入事件があってな。絶対に毒をいれない人間に作れと言われて元軍パティシエ主任の俺に白羽の矢が当たったわけだ。卵20個卵白と卵黄に分けてくれ」
「はい。ってえっ?今元って言いました?」
「今はユズ様の護衛をしている。真倉君にもプールであったぞ。」
「全然気づきませんでした」
「あの時真倉君顔真っ青だったもんな。ついでに昨日電話してきた松澤とは同郷の幼馴染だ。アイツの方が階級は上だがな。あっそこのバターとってくれ」
「はい。ユズの護衛ならなんでリフェース皇太子の料理作ってるんですか?」
「えっ松澤から聞いてないのか?」
やっぱり松澤さんに殺意が湧いてくる。
「今日の夜このホテルの椿の間でリフェース皇太子の歓迎パーティーがあるんだよ。勿論ユズ様も参加されるから俺らはギリシアの護衛たちと協力しているわけ」
「どうゆう事ですか?ユズが参加?ユズってそんな良い家のお嬢様なんですか?確かに家は凄かったけど…」
あっミスったかな。佐藤さんが少し怖い顔をした。慣れてきたとはいえただでさえ怖いんだから勘弁してくれ。
「…真倉君はユズ様のことどこまで知ってんだ?」
「えっとなんか凄い金持ちでプライベートジェット持ってることぐらいですかね?」
「そうかそれで…さっきから話が…」
佐藤さんの中で繋がったみたいだが俺は全く繋がっていない。佐藤さん思ったより優しそうだし聞いたら教えてくれるかもしれない。
「…ユズってやっぱヤクザの娘とかなんですか?」
「ブッ」
俺は真剣なのに佐藤さんが吹き出す。
「そいつは傑作だ。なんでそう思ったんだ?」
「護衛はいるしいじめ問題の時も先生には言わなかったし、それに…」
佐藤さんの顔面が怖すぎてヤクザだと思ったとはいえない。
「まぁとにかくヤクザかなって。でもヤクザならリフェース皇太子とは会えないですもんね」
「まぁそうだな。それにしても大した推理力だ」
佐藤さんはまだ笑っている。そんなにお門違いな推理だったか?結構近いかなと思ったんだけど。
「さっきからなんかドタバタと騒がしいな。パーティーの準備も極秘だから静かにと命令があったはずなのに」
「確かにうるさいですね。なんかあったのかな?」
「おっ松澤から着信だ。俺今出れないから代わりに真倉君が松澤さんにかけてくれるか。スピーカーでたのむ」
「わかりました」
かけるとワンコールで松澤さんがとった。
「真倉君?今、佐藤横にいる?」
「いるぞ。なんだ?」
「あぁ佐藤。ちょっとめんどくさいことになって」
「なんだ、簡潔に言ってくれ」
「リフェース皇太子の居場所がバレてマスコミがホテル内を囲ってる。俺はなんとか裏口から出たが、もうマスコミが裏口も囲んでる」
「なんだって⁈ていうかお前警護リーダーだろ⁉︎」
「詳しくはニュースをみろ。またかけ直す」
「おい!松澤!」
ブツっと電話は切れた。なんか佐藤さんと松澤さんの関係がわかった気がする。佐藤さんも俺と一緒で松澤さんに振り回されてるんだな。
「…真倉君スマホでテレビ流せるか?」
「ちょっと待ってください」
急いでニュースを流すと自分達がいるホテルが映っている。
「こちらはリフェース皇太子がいらっしゃるホテルです。リフェース皇太子は昨晩夜赤坂の料亭で芸者遊びをした後、このホテルにお泊まりになっていて未だ出てきていません。どうやら本日夜にこのホテルの椿の間で行われるパーティーに出席予定のため…」
「昨日あんだけ念を押したのに!クソっ。あの馬鹿皇太子!」
クッキー生地をどんと打ちながら言う。
「ニュース見る限り人混みが凄いです。これ今日パーティー無理なんじゃないですか?」
「とりあえず俺らはデザート作って松澤から連絡来るの待つしかないな」
「そうですね…」
シャカシャカとひたすら作り続ける。えっと一番オーブンがスコーン生地で、もうすぐ焼けるのがピスタチオのクッキー、今から焼くのがフォンダンショコラ、これはマカロン生地で8番オーブン…
「ああもう!わかんなくなってきました!これ全部作るんですか⁈」
「作るしかないだろう」
「せめてパティシエがもう1人いればいいのに」
「提案したんだがな、ギリシア側が外部の人間は信用できないと」
「俺って…大丈夫なんですか?」
「真倉君はもうほぼ関係者だ。それに人手を用意しなかった向こうが悪い」
「確かに…」
「それはどうもすみません」
声がして振り返るとそこにはまた佐藤さんに負けず劣らずの怖い外国人が立っている。なんで今日来るのは怖い人ばかりなんだ。
「軍規違反は困りますね。外部のものを入れるなら先に言っていただかないと」
「まさか厨房見張りに来たんですか?真倉君は善良なナラクの学生です。そんな暇あるならリフェース皇太子を見張ってて下さいよ」
「あぁもう知ってるんですか。見張ってたつもりなんですがリフェース様は自由奔放なお方なので。今さっき起きてこられてパンナコッタが食べたいと。出来ていますか?」
「冷蔵庫にあります。後30分は冷やさないとダメですよ」
「じゃあ冷凍庫に入れてそこの君が15分後に持ってきてください」
「えっ」
「返事は?」
「ハイっっっ」
怖い人には反射的に返事をする。さっき学んだ。
「…では私はこれで」
怖い人は去って言った。
「あの人一体誰ですか。めちゃくちゃ怖かったです…」
「あれはリフェース皇太子の秘書兼護衛のマルコさんだ。ああ見えて世界武術選手権一位だ」
全然意外性はない。名前がマルコさんの方が意外だ。
「僕リフェース皇太子にパンナコッタ持っていかなくちゃならないんですか?」
「あぁ頼む」
「凄い緊張するな。サインとかは無理ですかね?」
「あんな馬鹿皇子のサインいるか?」
「カンナ…妹が好きなんです」
「多分言えばもらえるよ」
そう言われてルンルンで王子の部屋に行く。
「すみませんー。パンナコッタ持ってきました」
「まってたよーん」
そう言って扉が開いたと思ったらパンツ一丁の外国人が出てきて思わず後ずさる。
「リフェース様!せめてバスローブを着てください!」
マルコさんが超怖い顔で言っている。えっこれが皇太子⁈普段テレビ見ているのと全然違う。
「えー暑いよ」
「クーラーガンガンにつけますよ⁈」
「分かった分かった。あっキミ下がっていいよ」
えっ?これがあの炎の宮家?
あまりにイメージが違っていて俺は思わず呆然と立ち尽くしてしまった。
「キミ?どうしたの?大丈夫?」
「えっ…?あっさっきなんて言いました?」
「下がれと言われたのが聞こえませんでした?やっぱり君は怪しいですね。拘束します」
「へっ?」
その瞬間、緑のツルが僕に巻きつく。いつのまにシンを⁈てかマルコさん緑のサガかよ⁈
「この子まだ15、16歳に見えるよ。反乱分子じゃないって」
「リフェース様の危機管理の甘さが今回の事態を招いたんですよ。念には念を。ナラクのことわざです。大体カラコンつけて変装してる時点で怪しいなと思っていたんです」
凄い。さっきの短時間で一瞬で見抜いたのか。感心してる場合じゃないけど感心してしまう。
「じゃあ失礼しますよ」
「えっウワッ」
そう言った瞬間、草が僕の身体に入り込んできて思わず笑い転げてしまう。緑のサガってこんな使い方出来んのかよ。
「携帯にティッシュにハンカチ…怪しいものは所持していませんね」
「だから僕本当に怪しい者じゃないですって!松澤さんって人に仕事の手伝いしたいってお願いしてそれで…」
「松澤?」
マルコさんの顔つきがさらに怖くなった。
「マルコの知り合い?」
「いつか私が殺そうと思っている人物第3位の名前と一致しています。」
松澤さんの名前を出すとろくなことがない。てか3位ってどんだけ嫌われてんだ。
「ミスター松澤はいつかやると思ってました。まさか少年を使うとは」
松澤さんへの八つ当たりからかさらに疑われてる気がする。
「君名前は?」
「真倉シュウです」
「真倉シュウっと…」
何やらタブレットに書き込んでいる。
「何してるんですか?」
「ギリシアの反乱分子データに入ってないか見ているんですよ」
「だから俺なんも知らないんですって!」
「ヒットしませんね。いや松澤なら犯罪歴のない子を使うか。もう少し調べないと」
松澤さんはどうやったらここまで疑われるんだ。
「だから僕本当に知らないんです!ユズと一緒にマツリの家行ったら何故か俺まで彩都に連れて行かれて!変装は名取さんにバレないように…」
「今ユズって言いましたか?」
「ユズってミス・ユズ?」
へ?今ユズって名前に反応した?
「ユズについてなにか知ってるんですか?」
「ワタシが知ってるユズならねっ」
「リフェース様!」
マルコさんが怖い顔をしてリフェース皇太子の話を遮って、俺をその顔のまま見つめる。
「…松澤もミス・ユズも名取も知っていて、佐藤も君を庇った。君についてはもう少し調べる必要がありそうですね」
マルコさんはそう言いながら電話をし始める。
「あっもしもしちょっと頼む…そう、マグラシュウだ…またわかったらかけ直してくれ」
「あの…俺お菓子作らなきゃいけないんで戻っても良いですか?」
「スイーツなら佐藤1人で作れるでしょう。君には聞きたいこともありますし。暫くこの部屋にいてもらいます」
ニコッと笑うマルコさんを見て僕は朝の光景を思い出した。
「マルコ。可哀想だし縛るのは手だけにしてあげなよ。今だと芋虫みたい」
「そうですね。ただし拘束はさせてもらいます」
そういうと身動きの取れない僕の手にがちゃんと何かをはめて草のサガを解いた。
「がちゃん…?」
冷たくて硬い。後ろではめられたから見えないけど…
「手錠ですか⁈僕何もしてないのに⁈」
「疑わしきは罰せ。これもナラクのことわざです」
「疑わしきは罰せずですよ!」
「ギリシアでは罰します。君には黙秘権がありますから安心してください」
「僕が一体なんの罪を犯したって言うんですか⁈ギリシアの方がナラクの国民無罪の罪で拘束したってマスコミに言いふらしますから!」
「マルコ、マスコミはまずいよー」
「んーそうですね。よしリフェース様ちょっとそのままいてくださいよ」
マルコさんはそう言って僕を持ち上げ、頭をリフェース様の頭にゴンっと鳴らした。
「いったぁ!!!」
「Sit!!!!」
2人の声が響く。
「よし。これで君は宮家を傷つけたので立派な反乱分子だ」
「これ僕やらされただけじゃないですか!」
「そうだよ!マルコ!ワタシまで痛い目に合わせる必要あるの⁈」
「いや丁度リフェース様の行いにイライラしていたんで。スッキリできたしいい名目になりました」
佐藤さんと一緒で怖いけど実は優しい人なのかなと期待した俺が間違っていた。超怖い人じゃん。
ホテルの電話が鳴る。
「全く次は誰ですか。はい。だから誰も入れるなと…名取…女性…身分証は本物…分かりました…ホテル内に入れて下さい…では。」
すごく嫌な予感がする。
「真倉君がいってた名取さんこちらに来るそうですよ。身分保証人になって貰いますか?」
「俺がリフェース様に頭突きしました。どうかギリシアの刑務所に隠れさせて下さい」
犯罪歴より名取さんに見つかる方が怖い。
「分かりました。ではあちらの部屋で隠れていて下さい」
「マルコ、ワタシも罪を犯したよね⁈あっちに隠れていいよね⁈名取さん怖いよ⁈」
「あなたの罪は気軽にホテルの部屋番号まで教えたことですよ!しかも起きてカーテン開けた罪!おかげで本物だってどんどん人が集まってるんですからね!」
「じゃあ罪を犯したワタシはあっちの部屋に…」
「貴方は処罰することはできないんです!あったらとっくに死刑ですよ!」
2人が騒いでる間に急いで部屋に隠れる。さすが帝国ホテルのスイート。部屋が沢山あるから助かるけど
「マルコさん!手が塞がっていて扉閉めれないです!閉めて下さい!」
「チッ!手間かけさせないでください!」
「マルコ!ワタシも!ワタシも!」
「ちょっとはなれて下さいよ!サガが上手く使えないじゃないですか!」
「何がうまく使えないんですか?」
聞き覚えのある声がして急いで壁に隠れる。
「何が!うまく使えないんですか⁈」
見えないがとにかく恐ろしいことは分かる。
「名取さん…昨日は眠れましたか?」
「これはミス名取!今日も美しいね!」
凄い。あの2人もタジタジだ。
「うまく眠れたと思ったんですが!私はまだ悪夢を見ているんでしょうかね⁈」
やはり一番怖いのは名取さんである。
「リークしたのは芸者ではなくキャバ嬢のアケミという女の子でした!心当たりは?」
「あぁ!ミス・アケミね!お尻がとってもセクシーだったからいつでもおいでよってマルコが作ってくれた滞在表?渡しちゃった」
「あれなくしたんじゃなかったんですか⁈」
「連絡先は交換しちゃいけないって決まりは守っているよ!ワタシ偉いね!」
馬鹿だ。この皇太子馬鹿だ。
「マルコさん!」
「ハイっっっ」
「滞在表には何が書かれているんですか⁈」
「皇子の全日程と警備の配置図。万が一の時、どの車に乗る…とかですね」
「全部?」
「はい。全部」
「あっ今日のチケットも挟んでたかも!」
リフェース皇太子の暢気な声が響く。
「っ…サガラ様は⁈サガラ様はどこですか⁈」
「サガラなら昨日芸者とバイバイした後、どっかいったよ」
「サガラ様まで!」
よく分からないけど、なんかとんでもないことになってきたみたいだ。
「マルコさん、今警備含め動ける人数を教えて下さい」
「今ほとんどフロント警備に回していて。リーダーの松澤に聞いて下さい」
「松澤なら先ほど私たちのところに来ましたよ?」
「えっ」
「ユズ様の事頼んだのでこっちのホテルには戻って来ないです。ていうか来れないです」
「それでさっきから下が騒がしいなと。統率が取れていなかったんですね。あの男やっぱいつか殺す」
「マルコー。2人で話すなら、ワタシもあっちの部屋行っていい?」
リフェース皇太子が多分、俺の部屋を指している。ワタシもって…あの馬鹿皇太子!
「…よく考えたら貴方様を殺せば済む話ですね」
「えぇいってもらいましょう。あの世まで」
マルコさんの怖さの既視感は名取さんだった。2人して息ピッタリだ。
「とりあえず私は警備の指揮を取りに行ってきます。名取さんはパーティー関係者にご連絡をしていただけますか?」
「分かりました。2名人員の補充をお願いします」
「会議室に送ります。では」
名取さんは部屋を後にした。
「はぁ。やっぱミス名取は怖いね」
「私はリフェース様の呑気さが怖いです」
「のんきってどういう意味?」
「今リフェース様に教えてる暇はありません!私は一階警備を立て直してきます!リフェース様!とにかくそこでじっとしといて下さいね!」
「はーい」
ドタバタと足音が消えていった。
「ねぇーミス名取も出ていったよー。こっちで一緒に話そうよー」
俺に言ってるのか?
「ねぇってば」
ボンっ!っと僕の目の前に火の玉が現れた。
「ひっ」
「なんだ。声出せるじゃん。ナラクのお化け文化の火の玉って言うんでしょ。ワタシ作ってみた」
「違いますよ!これ夜に出すやつです!てかあっつ!消して下さい!」
「えぇ。折角作ってみたのにぃ」
火の玉が消える。
「急にサガ出さないでくださいよ」
「だって君全然出てこないんだもん」
「出てこようとしてましたよ!マルコさんが後ろで手錠したせいで立てなかったんです!」
「あぁ!なるほど!真実はいつもひとつ!」
「それ使い方違います。ていうか…」
リフェース皇太子の赤い髪の毛と目が光に反射して…綺麗だな。
「ん?ワタシの火の玉まだ欲しい?」
「いやいいです」
ブーブと電話が鳴る。さっきとられた俺の携帯だ。
手錠があるから取れない。
「すみません。俺今…操作出来ないんで誰からかみてもらえませんか」
「えっそっちまで行くのめんどくさい」
「貴方の部下がやったんですよ!」
10歩ぐらいの距離をめんどくさいと言われて思わず叫んでしまう。
「わかったよ」
リフェース皇太子はそういうと、剣の形をした炎が俺の頭を通り過ぎ思わず目を瞑った。
ガシャン
目を開けると手錠は真っ二つに折られていた。
「はいこれで電話に出れるよ」
「いや…てか血!さっきから垂れてますよ!」
「ん?あぁ気にしないで。僕の血はシン指すと中々止まんないの」
「はっ⁈いや気にしますよ!テッシュとハンカチ…」
さっきの持ち物検査で取られたんだった。
「あぁ!もう!」
上着の袖を割れた手錠の歯で裂きリフェース殿下の指にぐるぐる巻にして止血する。
「君よく慣れてるんだね」
「ユズ…友人が貴方と同じで血が止まらない病気だったんだんです!倒れたりして大変でしたよ!」
俺がこんなに必死になっているのにリフェース皇太子は呑気にニコニコしている。
「へぇーそれは随分珍しいユウジンだね」
「リフェース皇太子も同じ病気だなんてびっくりしました。意外といるんですね」
「んー僕の周りにはあんま居ないけどね」
リフェース皇太子はやっぱり笑いながら言う。
「君名前なんだっけ?」
「真倉シュウです。シ・ュ・ウ」
「シュウね!覚えたよ!シュウ!」
「それは光栄です…」
「シュウはそのユウジンと仲良いの?」
「…普通ですよ。俺なんも知らないんで」
そうだ。何も知らない。
「ふーん。それはつまんないね」
「…そうですね」
本当なんだんだよ一体。
「キミは…」
何か言いかけた皇太子の声は、佐藤さんの
「お待たせしました!」
に打ち消された。
「ん?ワタシ頼んでないよ、下がって。うわぁデザートいっぱい!全部食べていいの⁈」
前後で言ってることが違う。
「マルコさんが出来てるやつ全部持ってこいって言われたんで。てか真倉君ここにいたんだな。何回も電話したのに帰ってこないから心配したぞ」
「まぁ色々ありまして…」
「ていうか、皇太子その指どうしたんですか⁈」
「ん?あぁシュウに頼まれて」
リフェース皇太子が僕を指す。
「真倉君…炎の宮家を傷つけたのか…国際問題になるぞ…」
「誤解です!」
「そうだよ!誤解だよ!えっと君誰?」
「佐藤です」
「佐藤!シュウはマルコに手錠をかけられた挙句あそこの部屋に…!」
ケーキを食べながらリフェース皇太子は俺が隠れていた部屋を指す
「寝室…?手錠を…?マルコさんが…?まさか…?」
「うわあぁぁぁぁ違います!なんかわかんかないけど佐藤さんが想像しているのとは違います!」
「そういや松澤が俺に真倉君に手を握られたって…。真倉君、俺はそういうのに偏見はない!」
「シュウってそっちだったの⁈」
「だからぁ!違うんですってぇぇぇ!」
僕はこのあと30分もかけて一から説明しなんとか誤解を解いた。
「…ってことです!わかりましたか?」
「あぁ。なんとなくわかった」
「ミスター佐藤!このスイーツまだおかわりある⁈」
あんだけの量が一瞬にしてなくなっている。ユズ並みに食べるな。血が止まらない病気の人は甘いものをたくさん食べるのか?
「まだありますよ」
佐藤さんも半笑いだ。佐藤さんの携帯がなる。
「松澤か。あぁ…はっ?消えた?…ちょっと待て、ここはまずい」
僕に目線を送ってくる。何かあったのか?
「どうしたの?」
リフェース殿下も聞いてくる
「いやちょっと真倉君と話があるんで。真倉君ちょっと」
「あっはい」
「ちょっとーワタシ1人は嫌だよぉ」
「すぐ戻ってくるんで」
リフェース皇太子の部屋を後にし、ホテルの非常階段に行く。
「じゃあ松澤、スピーカーにすんぞ」
「オッケー。おーい真倉君聞こえるっすか?」
「聞こえてます」
「真倉君ユズ様から連絡きてないスカ?」
「いやきてないですけど」
一応確認する。やっぱりない。
「そっかぁ」
「何があったんですか?」
「それがちょっと目を離したすきにいなくなったんすよ。今探してるんすけど、ユズ様が好きな場所とか知ってるっすか?」
「…プールとか」
「プールっすね。ありがとうじゃっ」
電話が切れた。
「ユズ様、プール好きなんだな」
「…多分」
シグレだったら好きなんですよプール。松澤さんやっぱ何か隠してる。
すぐに佐藤さんの電話が鳴った。
「おぉプールにいたって松澤から」
「…よかった」
「あぁ。真倉君ありがとう。ユズ様の好きな場所知ってるなんて仲良いんだな」
「…いえ」
「じゃあ戻るか」
佐藤さんが非常階段の扉を開けると…閉めた。
「真倉君」
「はい」
「今、名取さんらしき人がリフェース皇太子の部屋に入ってった」
「はい⁈」
「バレたらまずいんだろ?俺が行くから真倉君は地下の厨房に戻っといてくれ。もう昼過ぎだしご飯とお菓子あるから好きに食べていいぞ。また連絡する」
「はい、ありがとうございます」
俺は厨房に戻ってスマホでテレビを見ながらご飯を食べる。どのテレビも宮家についてだ。まぁ当然か。
「…そもそもギリシアの宮家は何故今回来日されたのか?ナラク大学の長谷教授をお招きしています。さて長谷教授はどうお考えで?」
「それはやはり水の宮家に何かあり、来日された可能性が高いでしょうね」
「我がナラクに宮家がいるというのは事実なのでしょうか。いるとすれば何故ギリシアのように公表しないのでしょうか」
「公表する事が必ずしも良いという訳ではないからです。現に土の宮家は公表していたことで四十年前一家惨殺事件が起こりました。生き残ったのはたった1人でまだ0歳で…政府が保護しましたが、その時土の国の国力はかなり弱まりデフレとなりました。このように公表する事でミヤケが国の経済を傾けてしまい…」
へー色々あるんだなぁ。あの馬鹿皇太子も、あぁ見えて大変なんだろうか…。
電話が鳴る。佐藤さんだ。
「はい」
「真倉君。佐藤だ。緊急なんだが今いいか?」
なんかまた嫌な予感がする。
「どうしたんですか?」
「今会議が終わってな。パーティーは無理だという結論になった。代わりに古都にある佐々木邸で身内だけの会食に変更になった」
「えっ古都って…あの古都ですか⁈」
古都は彩都から車で約5時間はかかる。かなり距離があるけど…。
「そうだ。説明する時間はない。後20分後に車21台が一斉に動く。俺も名取さんももちろんリフェース皇太子もいく」
「えっ?俺はどうすればいいんですか?」
「一緒に古都に行く」
「えぇ⁈」
「詳しい話は後だ。そこにいろ」
ブツっと電話が切れた。5分もたたないうちに佐藤さんがやってきた。
「お待たせ」
「…服着替えたんですね」
「あぁ流石にコック姿じゃまずいだろ」
スーツ姿の佐藤さんはまさしく…殺し屋だった。
「とても怖…カッコいいです。それよりその大きいキャリーケース何ですか?」
やけに大きい黒いキャリーケースと黒スーツはもう本物の殺し屋にしか見えない。
「あぁこのキャリーケースな。真倉君が入るキャリーケースだ」
へー。俺がキャリーケースに入るんだ。
「はぁ⁈キャリーケースの中に入るんですか⁈」
「リフェース皇太子も入る」
「リフェース皇太子も⁈」
「あの方目立つんだよ。まぁここなら名取さんにも見つからないし車に乗ったらすぐ開けるから我慢してくれ」
「まじですか…」
「とにかく時間がない。後13分で出発だ」
「わかりました…」
俺に選択肢はない。仕方なくキャリーケースの中に入る。
「じゃあ閉めるぞ」
「はい」
視界が真っ暗になる。ドラマの死体役でもない限り入ることはないだろう。
「じゃあ喋るなよ」
佐藤さんが言う言葉はまるで誘拐犯のようだった。
「お待たせしました」
「佐藤も揃った。これで全員だな。各自キャリーケースは持ったか?」
マルコさんの声だ。
「はい」
「リフェース皇太子もいますか?」
「いるよー」
「じゃあみなさん各自手袋、無線機を配布します」
知らない人の声が沢山する。
「手袋って珍しいですね」
「ギリシアの新しい技術ですよ。この手袋でどの車も開けれます。国家秘密ですが緊急事態なので」
「へー持ち帰っても?」
「ダメですよ」
一体何人いるんだ?
「そこふざけない!マルコさん挨拶を」
パチパチと拍手がなる。
「みなさん、我々は今からマスコミと一般人という敵陣をかぎ分け21台の車に乗り込みます。敵はもしかしたらサガを使用するかも知れません。しかし我々軍人はできる限り人民の命を最優先に動きます。今回の目標は国民を1人も怪我させず、21台の車とリフェース皇太子を守り切り、最終的にみんなで古都に到着する事です。みなさんの健闘を祈ります!サーシャ神に忠誠を!」
「サーシャ神に忠誠を!」
さすがエリート軍人たちだ。キャリーケースまで振動した。一斉に動き出すので振動がすごい。
「きゃー出てきたわぁ!」
真っ暗で何も見えないがすごい歓声が聞こえる。
「きゃー皇太子はどこぉー」
「サインしてぇー」
「すいません通してください」
「だからぁ皇太子は別のところですって!通して」
身体が揺れる。捕まるところがない。声は出すなと言われているので出せない。またドン!と音がした。車に乗れたのか?
「ちょっとこの車俺のっすよ!」
「あの奥の車パンクしてたんです。誰かの悪戯ですよ!出してください!」
マルコさんの声だ。キャーキャーとまだ音がする。
「リフェース皇太子ならホテルにいますよ!」
「車動きますよ!」
「危ないです!」
2人が必死に言っている。
「チッ!この車もパンクしてやがる!」
「全部パンクされてるんですか?どうします⁈」
「これは後ろの2つだけだ!スペアなら後ろに積んでます!佐藤さんサガ確か緑でしたよね⁈」
「分かりました!」
窓が開く音がしたと思ったら歓声が少し遠くなる。2人が何かをしたのか。エンジンがかかる。
「急ぎますよ!」
車が動き出した。
「2人ともお待たせしました」
カチッと音がして真っ暗だった世界が急に明るくなる。眩しい。
「今どこ走って…」
窓から景色を見ようとしたが、車から身を乗り出したカメラマンが前後左右全てに映っている。
「これ大丈夫なんですか?」
「マジックミラーだからね!大丈夫だよ!」
リフェース皇太子が答える。
「私はリフェース皇太子の第一側近で顔バレもしていますからね。さっき窓を開けたせいで顔も見られました。これ巻くの時間かかりますよ」
マルコさんが言う。
「みんな脱出できたんですか?」
「今無線で聞いてますが21台中12台だけです。タイヤが全部パンクしてなければいけたんでしょうが」
「パンク大丈夫なんですか?」
「えぇ私たち2人とも緑サガですから中に草を巻きつけました」
「そんな使い方もできるんですね…」
「ただ草はちぎれやすいですからね。1分に一回は草を巻き付けないとスピードが出ません」
「マルコさんは一種だから楽種だろうけど、俺2種なんですよ?サガはあと50回が限界です」
しんどそうに佐藤さんが言う。ていうかマルコさん一種だったのか。さすが炎の宮家側近。
「ワタシがやるよ」
「リフェース様はだまっててと言いたいですが、マスコミの数が多すぎます。出来ますか?」
「楽勝!」
そう言うとリフェース皇太子はまた手に少しだけシンを刺す。周りの車のタイヤが次々とパンクしていく。
「凄…」
思わず言ってしまう。
「リフェース様4つのタイヤ全てじゃなくて2つづつパンクさせて下さい」
「はーい」
「これが炎の宮家…凄いですね」
サガは意外と不便だ。普通は至近距離でしか使えない。まず目で見えていても車の窓のように隔たりがあればサガを発動させるのは難しい。実際、マルコさんと佐藤さんもサガを発動させ車のパンクを防いだ際は窓を開ける音がした。
「んーまぁワタシ、ミヤケだからね!」
…これさえなければ関心するのになぁ。
「よし。周りのクルマのスピード落ちましたね。リフェース様ありがとうございます。まぁあなたが引き起こしたんで感謝すべきか悩みますがね」
「ひどーい」
「てゆうか血!また垂れてます!マルコさんティッシュありますか?」
「…えぇありますけど血は舐めるか、できればコレに入れて欲しいんですが」
そう言ってマルコさんは砂時計形のペンダントを首から外して渡す。
「マルコ持ってたんだ。ありがとう」
「リフェース様が持ち歩かないからですよ!」
止血するんじゃないのか?さっぱり意味がわからない。
「マルコー!シュウの顔にハテナがいっぱい浮かんでるよ。さっきの慌てぶりは演技かなと思ったんだけど、シュウってほんとに何も知らないんだね」
なんかこの台詞昨日も聞いたな。
「そういえば、真倉シュウ君。あなたの事を調べたんですが三種という情報以外本当に何も出てこないんですよ。本当に経歴が真っ白でした。不自然なくらいに。君は一体何者ですか?」
「えっ」
何者と聞かれても。
「だから言ってるじゃないですか。真倉君はナラクの善良な学生です」
佐藤さんが言う。
「ここから800キロ離れた戸間町に住む善良な学生でしかも三種の学生が松澤さんに仕事を紹介してもらえますかね」
なんか険悪な雰囲気になってきた。
「佐藤さんが説明してもらえますか?」
「善良な一般学生ですよ。松澤とは…確か松澤が下痢でトイレに閉じこもってだ時トイレットペーパーがなくなって、その時トイレットペーパーを投げ入れてもらった縁ですよ。なっ真倉君」
なっ真倉君じゃないよ。
「そうなんですが真倉君?」
「そうなのシュン?」
違いますと言いたいけど…
「そうだよな真倉君?」
「はい…」
そういうしかなかった。松澤さんごめん。
「まぁ他の人ならともかく松澤ならあり得なくもないです」
納得しちゃったよ。マジか。松澤さんってマルコさんの中でどんな存在なんだよ。
車は高速に入る。
「あーハイ。こっちは無事です…えぇ…はい…」
マルコさんは無線で連絡を取り始めた。しばらくダラダラとした景色が続いてウトウトする。ユズからの返信はない。大丈夫かな。松澤さんと喧嘩でもしたのかな……。
「シュウ」
懐かしい呼ばれ方だ。
「シュウ」
もう離したくなたい。
「シュウ」
「頼むから勝手にいなく…なんないで」
眩しい。目を開けると真っ赤な髪がキラキラと光っている。ん?
「うわぁぁぁぁ」
「シュウ起きた?」
「へっ俺寝てたんですか?何時間ぐらい?」
「んーと今18時だから…3時間ぐらいかな?」
「えっマルコさんと佐藤さんは?」
「今インターで買い物してる。ワタシ行けないから留守番だよーつまんない」
あなたが原因でしょうがって言うのをグッと堪える。
「えっと俺なんか寝言とか…言ってました?」
「何も」
「よかったぁ」
「いなくなんないでって涙ぐんでいたぐらいかなぁ」
死んだ。確実に僕の中の何かが死んだ。
「なんの夢みてたの?」
「…普通の夢です」
「トモダチの夢?」
「…初恋の人の夢です」
「ワォ。それは可愛らしい夢だ!」
「恥ずかしいので忘れてください」
「その子居なくなっちゃったの?いなくなんないでって言ってたけど」
「まぁ…色々あって」
「フーン。まあ初恋は叶わないっていうしね」
「リフェース皇太子に初恋なんてあったんですか?」
「ちょっと!ワタシもう24だよ!恋ぐらいするよ!」
「すみません。なんかイメージなくて」
「まぁワタシも初恋は叶わなかったからお揃いだね」
「そんな悲しいお揃い俺嫌ですよ」
リフェース皇太子が笑う。
「シュウのそうゆうとこ好きだよ」
「ハァ…よく分からないけど光栄です」
この人もよく分からない。
「あっそういえば血もう止まりましたか?」
「そりゃ止まったよ。何時間前の話だと思ってるの」
リフェース皇太子は笑いながらペンダントを見せる。砂時計型のペンダントに赤くキラキラした血が揺れる。
「綺麗ですね」
「あげないよ。これはいざという時の命綱だからね」
命綱?どういうことだ僕がまたハテナだらけの顔をしたせいかリフェース皇太子はまた笑って話をつづける?
「宮家の血はね特別なんだ」
「特別?」
「そっ特別。内緒なんだけどね宮家の血は同じ宮家同士しか輸血ができないの」
「えっ?」
「しかもサーシャ様の祝福の血は同じサーシャ様の祝福を受けたものの血しかだめなの。だからこうやって余った血はとって保管しとくの」
「初めて知りました…」
これ超極秘情報だよな…。だからマルコさんはあの時訳のわからない顔を…。てゆうかサーシャ様の祝福ってなんだ?宮家ってただ強い人じゃないのか?
「…あっ!僕何も知らずに服でぐるぐる巻にしちゃいましたよ!」
「うん。久々だったからびっくりしちゃった」
「すみません…」
「いいんだよ。懐かしかったし」
「懐かしかった?」
「昔ね、僕を助けてくれた人がシュウみたいにぐるぐるまきにしてくれたんだ」
「…それが初恋の人なんですか?」
「うん」
その人とはどうなったんですか?。聞きたいけどリフェース皇太子があまりに優しくて悲しい顔をするから聞けなかった。
「お待たせしました。御所望のミルクティー買ってきましたよ」
「おっ真倉君起きたのか」
2人が帰ってきて車はまた出発した。
「今どこら辺なんですか?」
「今桟橋地区だからあと2時間ってとこかな」
佐藤さんが答える。
「マルコー!ワタシ紅茶花伝がいいって言ったよ!これリプトンじゃん!」
「我儘言わないでください!それしかなかったんです!」
よかった。いつものリフェース皇太子だ。
「真倉君寝てたから好きなもの分からなくてな。適当に買ってきたぞ」
「ありがとうございます」
袋を見てみるとトマトジュースにほうれん草ジュース。鉄分ヨーグルトに…なんだこれアサリ汁?
「どれでも好きなの飲んでいいぞ!」
「あの…お茶ってないんですか?」
「お茶がよかったか?つい普段のクセで。すまん」
「いえいえ。トマトジュース頂きます」
ユズからの連絡をずっと待ってるけど全然ない。今どこにいるんだ?
「なーに。メッセージ画面真剣に見ちゃって」
「あっちょっと勝手に見ないでください!」
「えー明日晴れるかなだって。ガールフレンド?メッセージ可愛いね」
「やめてくださいよ!」
必死で抑える。
「リフェース様やめてあげてくださいよ。15歳は多感なお年頃なんです」
「はーい」
「そういってまだ見てるじゃないですか!マルコさん助けてください!」
この後もこの馬鹿皇太子に振り回されながら俺らは
古都の佐々木邸って所についた。
「おぉ!ナラクぽい店だね!」
「思ったより早く着きましたね。会食は22時からにしておいたんですが」
「ねぇワタシ折角だから古都の有名な神社行きたい!まだ2時間あるしいけるよね!」
「分かりましたよ」
マルコさんは呆れながらどこかに電話している。
「じゃあ俺は予定通り料理作りに行きますね」
「わかりました」
「あの…俺はどうすればいいんですか?」
「そうだなぁ。真倉君料理できるか?」
「普通程度なら」
「じゃあ悪いけど手伝ってくれるか?また俺1人で作らないといけなくて」
「分かりました」
僕も観光は少ししたかったがリフェース皇太子と一緒は大変そうだし、料亭の厨房も少し覗いてみたい。
「じゃあシュウ、バイバイ!」
「お元気で」
そう言ってリフェース皇太子とマルコさんは待機していた別の車で料亭を後にした。
「じゃあ真倉君行こうか」
「はい」
料亭の厨房は僕が想像してだものとは違って
「なんていうか…現代的…」
「なんだもっと昔っぽいの想像してたか?」
いつの間にか着替えた佐藤さんと一緒に今度は料理を作り始める。
「また量多いですね。会食って何人なんですか?」
「一応15人分作っている」
「佐藤さんは警備とかしなくて大丈夫なんですか?」
「あぁ。警備は名取さんが今指揮をとってるしな」
「名取さん無事に古都についたんですね」
「そうか。真倉君寝ていたから無線聞いてないもんな。みんな無事だった」
「名取さんの車はパンクしてなかったんですかね?」
「してたらしいぞ。名取さんはサガで車の中央部分に土を集めて乗り切ったらしい」
「凄いですね」
「まぁあの人も一種だからな」
「えっ」
一種だったのか。
「ついでに松澤も一種だぞ」
「はい⁈松澤さんも⁈」
2人とも強そうだとは思っていたがまさか1種とは。
「意外と一種っているんですね…」
「まぁ人口の0.03%だから珍しい存在ではあるけどな。松澤も中学の時はまだ2種だったがモテモテだったぞ」
「まぁモテますよね。ていうか松澤さんと同じ中学だったんですか?」
「同期だって言ったろ」
「軍の同期かと」
「まぁ松澤、高校はハーレスに行っちまったがな」
「松澤さんってハーレス出身なんですか⁈超エリートじゃないですか」
ハーレスはナラクの首都彩都にある超一流エリート学校だ。入校条件が厳しく、一種というだけでは入れない。それ以上に加えてなんらかの特技や家柄の判別もあるらしい。学校側の警備と情報統制が厳しいため、俺も詳しくは知らないけど…。あのチャランポランな松澤さんがそこの出身だとは。
「…松澤さんって小さい頃からあんなんなんですか?一種なのに」
「あぁ。松澤は小さい頃からあんな感じだった。今も昔も変わんないな」
「仲よかったんですね」
「まぁな。小学校の時、いじめられてた俺が松澤に助けて貰ってからの腐れ縁だ」
「えっ佐藤さんいじめられてたんですか?想像つかない…」
「図体ばかりでかい弱虫だったからな。サガも緑の3種で弱かったし」
「…努力したんですね」
「まぁな。小さい頃だから何回もぶっ倒れたぞ」
「倒れたんですか⁈」
「そんぐらいはやったな」
マジかよ…努力家にも程があんだろ。だから今2種…そんだけしても2種なのかって今凄い嫌な感情湧いたな。
「…解放剤とかは使用しなかったんですか?」
「あの頃は解放剤がまだ開発されたばかりでな。安全性が保障されてないし、効き目も弱かったから医者から診断が降りなかった」
「そうだったんですか…」
「今は危険だけど便利な時代だよな。サガを向上させたいなら精神集中に効くサプリでおすすめのがある。松澤の連絡先持ってんだろ。そっから画像送っといてあげるよ」
「ありがとうございます!」
そんなことを話しているうちに料理はどんどん出来上がっていく。
「よしぼちぼち完成だな」
綺麗に料理が並べられる。
「そういやまだユズから返信来ないんですが…。既読もつかないんです」
「そんな心配しなくて良いと思うぞ」
笑い事じゃない。
「さぁ料理はこれで完成だし俺らの仕事は終わった。あとは女将さんに任せるとして、真倉君。どっか観光したいとこある?連れて行ってあげるよ」
「いいんですか⁈」
といってももう22時だ。店や神社は全部閉まっている。
「軍人特権だ。国保有の博物館とかならある程度開けれるぞ」
「じゃあ俺あそこ行きたいです!電車博物館!」
「おぉあそこなら30分で行けるしちょうどいいな。よし、いいぞ。電話する」
車で乗り込む。憧れの電車博物館。しかも貸し切り!嬉しさが込み上げる。今日は本当に色々あったし散々だったけど…
「ほんと最高でした!」
「すごく楽しんでくれて俺も嬉しかったよ」
「あっでもユズには内緒にしてくださいね。電車好きなんてなんかオタクみたいでカッコ悪いじゃないですか」
「そうか?別に関係はないと思うが、本人が気にするなら言わないでおくよ」
「ありがとうございます」
俺は時計を見ながら話を続ける。
「あの…まだ時間ありますよね」
「なんだ?どっか行きたい場所あるのか?」
「その…家族とかにお土産買っていこっかなって。大きなコンビニだったらお土産売ってますよね」
「あぁいいぞ」
コンビニについた。さすが観光地、古都。お土産の数が膨大だ。
「俺もお袋に何か送ろうかな」
「この古都饅頭とか有名じゃないですか?」
「あぁいいな」
2人で見ながらそれとなく聞く。
「ユズって何が好きとかあります?キャラクターとか」
佐藤さんの顔はあえて見ないが絶対ニヤニヤしている。恥ずかしい。
「そうだなぁ。ユズちゃんの好きな物かぁ。普段自己主張されないからなぁ」
「えっ自己中の塊みたいな奴じゃないですか」
ていうか人前ではユズちゃん呼びなのか。
「それはそんだけ真倉君に心を開いてるんだよ」
優しい右手で僕の頭を撫でながらいう。
「真倉君が一生懸命考えたプレゼントならなんでも喜ぶよ」
「だから土産ですって」
あぁ聞くんじゃなかった。あっこれ前ユズが可愛いって言ってたキャラクターだ。何々?へのへの絵文字ストラップ。古都限定…。良さはわからないがユズの古都土産はこれにしよう。
佐藤さんに見られないように上の饅頭でカモフラージュした。
「じゃあ店戻るか」
「あの、僕らこの後彩都に戻るんですか?」
「流石に時間が時間だし、古都のホテルに泊まるだろうな。多分名取さんがとってくれてるよ」
「この短時間で予約よく取れましたね。さっき俺も検索したけど満室ばっかりでしたよ。どうやってとったんですかね?」
「まぁ名取さんだし、ここら一帯の高級ホテルは二宮家の土地だからな」
「二宮家?」
「今日の会食の中にいた人たちだ」
「へぇ。まぁ宮家の会食に参加できるぐらい偉い人なら確かにホテル取れそうですね」
「おっ噂をすれば名取さんから連絡だ。悪い、真倉君読んでくれ」
「えっと、863止まり、94待機。674は35別荘へ。1670無事出発。421はホテル2350にて」
暗号か?さっぱりわからない。
「了解。真倉君良かったな。プリンスホテルに泊まれるぞ。しかも名取さんは最都に帰るって」
今の一瞬にして理解できるのか
「えっと続けます。682帰宅。448と241は2180クラブへ。1750は285に向かわず3250へ直帰。今日はお疲れ様。だそうです」
「了解。ありがとう」
「今の分かるんですか?」
「まぁな。ついでに暗号は毎回変わるから覚えようとしても無理だぞ」
「覚えませんよ…。軍人も大変ですね…」
「おかげでいつも人手不足だ」
笑いながらホテルについた。さすがプリンスホテル。豪華だ。
「ていうか人少ないですね…」
「多分貸切だな」
「貸切⁈頭おかしいんですか⁈」
「何言ってんだ。昨日も貸切だったぞ」
マジかよ。
「昨日はホテルの部屋から出れなかったんで」
「そうだったのか」
佐藤さんはまた笑いながら僕にキーをくれる
「これ真倉君の部屋のキーな。俺の横の部屋にしといた」
「ありがとうございます」
「ついでにユズ様の部屋は803号室だ」
そんなニヤニヤしながら言わないで欲しい。
「って、えっ⁈ユズ来てるんですか⁈古都に⁈」
「言ってなかったか?」
「言ってませんよ!お土産って言った時何も言わなかったからてっきり彩都かと!」
なんてこった。
「プレゼントかって聞いたぞ。てっきり知ってるかと。そっか。すまんすまん」
そんな豪快に笑われても。
「もういいですよ…」
「ユズ様、後30分で着くと思うぞ。あっもう夜遅いし眠そうだったら寝かせてやってくれ」
「わかりました」
部屋に向かってテレビを見ながら待つ。今日のニュースはずっとリフェース皇太子特集だ。俺、このテレビの人と会ったのか。そういえばリフェース皇太子って結局どこ行ったんだ?
「サインもらっとけばよかったなぁ」
カップラーメンを食べながら呟いた。
ピーンポーンとチャイムが鳴る。ユズか?ドアを開ける。
「ハーイ。なんか色々あったらしいっすね!」
松澤さんか。
「おかげさまで」
「そっかそっか!色々聞きたいけど俺まだ仕事残ってるんすよ!また今度話聞かせて欲しいっす!」
「テンション高いですね…」
「うん!今からねクラブ見張りに行くついでに可愛い子見つけるんすよ!」
「そうなんですか。てかなんのようですか?」
「ユズ様が会いたそうにしてたから気を利かせて呼びに来たんすよ!」
「それ早く言ってくださいよ!」
「後今日のことユズ様には内緒にしてるからよろしくねって言いに来たんっす!」
「内緒って…古都まで来た説明なんてすればいいんですか?」
「とりあえず起きたらこのホテルにって感じで通しといてくれたら助かるっす!」
「そんなんとおりますか?」
「よろしくっす!後これ!見つかるとまずいから変装セットっす!」
「また?てか誰に?名取さん今日はいな」
「待ってるっす!可愛い子ちゃーん!」
あっという間に走って行ってしまった。
「確か…803号室だったよな」
そう思いながらピンポンを鳴らす。
「はい」
ユズの声だ。
「えっ真倉⁈ちょっと待って」
しばらくして鍵が開く音がする
「どうぞ…」
扉が開いた。ユズの髪が青いせいかいつもより耳が赤く見える。
「お邪魔します…うわぁすごい部屋」
「いいでしょう!てかなんでスタッフみたいなカッコしてんの?」
「そうゆうユズも化粧してるし、ドレスじゃん。結婚式かよ」
2人してお互いの服を見て笑い合う。
「てか髪の毛。飛行機で見てびっくりしたけどほんとは青なんだ。目の色も」
ユズ、今ちょっとまずいって顔した。
「うん!可愛いでしょ⁈」
確かに可愛いけど言う勇気はない。
「…カラコンは分かるけど髪色はどうしてるの?」
「シャンプーで落ちるやつ毎日塗ってる」
「そんなんあるんだ」
「便利な時代だよねー。みる?」
そう言ってゆずはカバンからスプレーを取り出して髪に振りかける。
「すげー真っ黒。いつものユズだ」
「先生には内緒ね」
なぁユズ。お前いったい何者?髪は…いつ頃から青くなったの?聞きたいけど聞けない。聞いたら何が変わるのかな?
「真倉?どうかした?」
「…ううん、何もない」
「変なの。それでどうして古都にいるの?」
「えっ」
松澤さんの言葉を思い出す。ダメだ。可愛い女の子って叫ぶ松澤さんしか思い出せない。
「そういうユズは?」
「えっ、えっと私は…えっと仕事!接待!」
「…仕事?」
「そう!おじさんの仕事の付き添い!私みたいな可愛い子がいた方がいいって!」
「おじさんって…紫色の目した人?」
「そうだよ。カッコいいでしょ」
ニマニマ笑いながらいう。
「普段は仕事ですっごく忙しいからね。あの美貌でなんと社長なんだよ」
「それはすごいな。モテそう」
「多分モテるね」
話が途切れる。何か話さないと
「あのさ」
被った。最悪だ。
「ユズからどうぞ」
「真倉の方が先だったよ!」
「じゃあ…これ、さっき古都のお土産屋さんで買ったんだけどもしよかったら」
「わぁ!へのへの絵文字ストラップじゃん!私が前可愛いって言ったの覚えてててくれたの?」
「なんとなく」
「古都限定だ!ありがと!大事にする!」
ユズはそう言って高そうな旅行カバンに大事そうにしまう
「…そのカバンも高そうだな」
「そう?」
「このスイートも高そうだしユズって本当のお嬢様だな」
なんか皮肉ぽくなってしまった。
「まぁね!羨ましいでしょ⁈」
ユズが自信満々に答える。
「羨ましい」
俺は小さい人間だ。
「超お嬢様で可愛くて正義感あふれて。病気持ちっていう主人公設定までちゃんとついていて」
止まらない
「俺みたいなカースト最下位の人にまで優しくしてくれて、勝ちゲー人生じゃん。何も悩みなさそうでほんと羨ましいよ」
言ってしまった。ユズの顔が見れない。
「…うん!羨ましいでしょ!さらに両親は亡くなってるからね!もうどんだけ主人公設定?溢れるんだよって感じ!」
やっちゃった。自分の劣等感でゆずを傷つけてしまった。ユズの声は最後ちょっとだけ震えてた。
「ごめ」
「私化粧落としてくる!夜中までしてたら肌荒れちゃうから!」
「そっち洗面台じゃ」
「ここ24時間の露天あるから行ってくる!今日は遅いし帰って!おやすみ!」
…ここで主人公なら追いかけるんだろか。
「無理だよ…」
泣いてるユズを見る勇気はない。慰めて良いことをいう語彙力抱きしめる自信も…ない。
「はぁ」
自分に腹が立つ。知っているようで何も知らない。ユズの両親のこともユズの気持ちも。
「どうしろってゆうんだよ!」
叫んでも何も帰ってこない。腕を目に被せる。こんなことをしても一瞬視界が黒く染まるだけとわかっていても。
ピーンポーン。ピーンポーン。
チャイムが鳴る。ユズか?だとしたら謝ろう。俺はすぐに扉を開ける。
「ユズ!さっきはごめん!」
黙ってる。やばい怒ってるよな。
「悪かった!両親が亡くなってるとか知らなくて…って…」
ん?あれ?視界にやけに綺麗な…男?
「おーい。レイ何突っ立ってんだー?早く入れよ!ってお前誰?」
2人して突っ立ってると別の同い年ぐらいの男が来た。
「従業員?にしては若いな」
「…とにかく入っていい?」
目の前に立っている綺麗な男が口を開く。
僕のハイという返事も聞かず男2人はユズの部屋に入ってきた。いったいなんなんだ。
「で、お前従業員の制服着てるけど従業員じゃないよな、若すぎる。ぱっと見、俺らと同年代だな」
さっきのレイって名前じゃない方の男が喋り出す。
「えっと…その…」
「俺は気が短い方なんだよ!はっきり喋れ!お前、反乱分子か⁈」
「違います!」
「じゃあ誰だよ⁈なんでユズの部屋にいる⁈」
怖い。超怖い。ユズの知り合いか?でもここで引いたら負けだ。
「そっちこそ誰なんですか!こんな夜中にユズ…女子の部屋に入ってくるなんて!非常識ですよ!」
ダメだ。つい敬語になる。
「は?お前誰に向かって口聞いてんの?」
同い年ぽいのに迫力が全然違う。
「ユウト、お茶飲む?」
「何お前は優雅にお茶入れてんだよ⁉︎反乱分子かもしれないだろ⁈」
「…クソ野郎」
「はっ⁈今なんつった⁈レイこいつ知ってんの⁈」
「…いや知らない」
レイという綺麗な男は答える。ていうか、この状況でお茶を淹れてる。なんなんだいったい。
「とりあえず座れば?紅茶でいい?」
「あっはい」
勧められるがままにさっき座っていたソファに座る。
「レイ、こいつ知り合い?」
「いや…知らないです」
「お前に聞いてんじゃねえんだよ。黙れ」
やっぱユズの家ヤクザじゃねぇか!超怖いし!同い年っぽいのにやたら高圧的だし。
「とりあえずなんでここにいるのか教えてもらっていい?」
「えっと…」
松澤さんが内緒にしてって言ってだけどいいのか?
「あの…」
「吐かせたほうがはぇえな」
ユウトという男はそう言いながらシンで手のひらを切った。嘘だろ?って思う暇もなくその瞬間、同時にドンと重いものがお腹に当たる。なんだ?と思った瞬間とてつもない激痛が僕を襲った。
「っっっっっ」
声が出ない。
「大丈夫。骨までは折ってねぇよ。多分」
全然大丈夫じゃねぇよ!そう言いたいが痛すぎて喋れない。ていうか気持ち悪い。
「ウッ」
激痛の腹を抱えトイレに走る。
「お゛ぇぇぇぇ」
殴られるのは初めてじゃないが、殴られて吐いたのは初めてだ。さっきのカップラーメンが全部出た。
吐くものは無くなっても激痛は続く。
「おいでてこいよ!」
ドアを叩く音がする。やばい。アイツはやばい。
涙目でドアの鍵を開けた瞬間またサガを使って殴られる。やばい、本気で死ぬかもしれない。
「ユウトちょっとやりすぎ」
「うるせぇ!こっちはお前が帰るっていうからクラブ早めに引き上げてきてイライラしてんだよ!」
だからってこっちに当たるなよ!言いたいけど涙が先に浮かんでくる。痛すぎる。
「おい!お前ユズとどういう関係なんだよ⁈誰の差し金だ⁉︎洗いざらい吐け!」
「ど…同級生です」
「聞こえねぇ」
「ただいまー。…何やってんの⁈」
ユズの声がする。
「真倉⁈大丈夫⁈どうしたの⁈しっかりして!」
ユズの涙が顔に当たる。ぼやけてよく見えない…それより…また泣かせちゃった…意識が…遠のく…。
「…ってとこまでですね」
「記憶障害の疑いはないな、話は後で。戸間に帰ろっか。退院手続きしてくるからちょっと待ってて」
「はい…」
俺はどうすることもできずただユズの瞳色の空を見つめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます