第8話 ユズ彩都2日目
ジリリリリリリ。ジリリリリリリ。
「うるさい…」
時計を見る。10時。…10時?
予定では今日こそ7時には起きて招待客リストを覚えるつもりだった。とりあえず誰も起こしに来ていないという事はまだ大丈夫なはず。いや、今日リフェース皇太子が来るから忙しいだけって可能性も…。
「リフェースさんに朝どうやって起きてるか聞こう…」
とりあえず話す事は一つ増えた。扉を叩く音がして開けると怖い顔をした名取さんだ。
「昨日の夜、朝7時に起きますと明言しておられましたよね?」
「…すみません」
「たく、ユズ様は昨日の無断のサガ使用も…」
名取さんの説教タイムが30分ほど続いてようやく解放される。軽いご飯と風呂をすませて名取さんに予定を聞く。
「今日、おじさんは?」
「サガラ様はリーフェス皇太子を昨日から接待しており、レイ様は朝食後ユウト様のホテルにいかれました」
それで昨日おじさんは来なかったのか。
「松澤さんは?」
「今日のパーティ会場を見て回ってるそうです。私が連絡したのでもうきますよ」
ラッキー。真倉の居場所を教えてもらおう。
「パーティーって確か18時からだったよね?それまで買い物とか行ってきていい?ユリにも何か贈りたいし」
「ユズ様?昨日無断でサガを使用した原因はパーティーの客人を覚えていなかったからだそうですね?」
名取さんがニコリと笑いながらいう。嫌な予感。
「本日はギリギリまで私とギリシアの歴史について勉強しましょうか?」
…もう少し寝てればよかった。
「まずギリシアについて簡単に説明してみてください」
「ギリシアは炎宮家が代々守ってきた伝統を重んじる国で、鉄鋼業と観光業が盛ん。宮家を公表している珍しい国。後、アップルパイが美味しいってユリが言ってました。実際どうなんですか?」
「アップルパイは確かに美味しいですが、最後はいらないですね」
思わず笑ってしまう。
「笑い事じゃないですよ」
名取さんはそういって分厚い本を開く。
「これが炎宮家の家系図です。ユズ様と同じサーシャの祝福を受けたのが現時点で3人います。」
「いいなぁ」
思わずいってしまった。
「まぁ3人いらっしゃるのは確かに羨ましいです。こっち毎朝起きられないお方しかいませんもんね」
「みんな起きれなかったりして」
じろっと睨まれる。
「冗談です。続けてください」
「本日お越しになるリフェース皇太子はミヤケの三男として生まれましたがサーシャ様の祝福を受けました。現在は王になる為日々勉学に励んでおられます」
「長男じゃなくて、三男でサーシャ様の祝福を受けるってあるんですね」
「そんなに珍しい事ではありません。特に炎のミヤケは子だくさんとしても有名で現王も四男だと聞いております」
「そんな宮家がいるんですか⁈」
「後継者が極めて少ないこちらとしては羨ましい限りです」
「たしかに…」
私がもし死んだらサーシャの祝福を受けれる可能性があるのはユリしかいない。
「ですからユズ様はもう少しサーシャ様の祝福者としての自覚を持ってくださいね」
耳が痛い。
「そういやこの前、ユリから電話で聞いたんだけどお菓子に毒物が混入されてたんでしょ?」
「はい。長女のリンメル様が被害に遭われました。幸い微量だったので命に別状はないみたいですが。炎のミヤケは自分達の存在を公にしてる分、行動が把握しやすく狙われやすいのです」
「私なんて公にしてないのに8回ぐらいありますもんねー」
「笑って言うことじゃありませんよ。それに正式には39回です」
「…そんなにあったんですか?」
「それこそ今日なんて二人もサーシャの祝福者が揃う日なんです。飲み物や食べ物にはほんとに注意して下さいね!」
「はーい」
「ちょっとユズ様⁈」
お説教が始まろうとしていた時、ロックが開く音がした。
「すみませーん。名取さんいるっすか?」
「松澤さん!待ってました!」
ここぞとばかりに駆け寄る。
「ユズ様。まだ授業は終わってませんよ」
「それより名取さん、リチャード皇太子が帝国ホテルにいるのバレましたよ。外マスコミばっかで全然出れなかったす」
「嘘でしょ⁈あんなに注意しろっていったのに!」
「それがどうも昨日芸者遊びを派手にしたみたいで。どうするっすか?こっちに来るのも行くのも無理っぽいっすね」
名取さんが頭を抱える。
「っ…とりあえず原因を調べて帝国ホテルに向かいます!松澤さんはユズ様が逃げ出さない様に見張って下さい。ユズ様は私が帰るまでにそこにある本とパソコンでギリシア経済の問題点についてのレポート2,000字!招待客リストの暗記も!16時までには戻ってテストしますから!良いですね!」
そう言うと走っていってしまった。
「パワフルー」
「ほんと凄いっすよね。でも多分あの感じじゃ今日はリフェース皇太子パーティー無理ですよ」
「そんな人凄かったんですか⁈」
「こっから見えるかな〜。あっほらあそこ車と人で真っ黒でしょ。」
ホテルの窓からたしかに黒い人影が見える。
「結構近いんですね」
「まぁその方が警護もしやすいっすからねー。ほらここ一本道でしょ?出入りする人間が限られるんで俺らも楽なんすよ」
なるほど。そういうとこまで考えてあるのか。でも…一本道ということは。
「一本道ってあの塞がれてるとこですよね?」
「少なくとも車ではもうこっちには来れないし、行けないっすね」
もう一度人混みを見る。無理そうだ。
「あー困ったなぁ。俺昨日あっちで会議あったんでいっかと思って部屋もあっちなんすよ」
「えっそうだったの⁉︎」
「そうだったんすよー。着替えとかも全部あっちだけどもう帰れないからなぁ」
じゃあもし昨日私が真倉の部屋に行ってたら…考えただけで恥ずかしい。
「んっ?じゃあ真倉はまだあっちにいるんですか?」
「あぁいますいます。まぁ佐藤も一緒なんで大丈夫っすよ」
「じゃあ安心かぁ」
ホッとする。もし騒ぎに巻き込まれたら大変だ。
「そういやレイ様は?いつもユズ様のそば離れないのに」
「レイならユウトのとこ行ったって名取さん言ってました」
「ユウト様ってどこ泊まってるんすかね?」
「昨日車別方向だったならホテルは別だと思う」
「じゃあ帰ってこれないっすね。サガラ様も電話繋がらないんですよ。ユズ様知ってます?」
「叔父さんはリフェース皇太子と一緒って聞きました」
「それがいなかったんですよ。あーあ人だいぶ集まってきてますね」
ショッピングも行きたかったのに。まぁどっちにしろ無理か。
「そうそう。昨日真倉君ホテル着くまで泣いてたんですよ」
「そんなにずっと⁈飛行機で帰る時本気で睡眠薬必要かもですね」
少し間倉に悪いことをしたかなと反省する。
「で、ユズ様について聞かれましたよ」
「…何て?」
「ユズ様について教えてーって。あっ勿論教えてなんかいませんよ。」
「そっか、ありがとう。」
「もう言ってあげたらどうですか?」
「…嫌です」
少し気まずい雰囲気が流れたのを打ち消すように松澤さんの携帯がなって松澤さんはどこかに行ってしまった。
「…プール行こかな」
部屋案内にプールがあった。この前倒れてからプールは禁止されてだけど今行かないと空気に溺れて死んでしまいそうだ。周りはバタバタしていてるし。チャンスだ。松澤さんが帰ってくる前に抜け出した。
予想通りプールには誰もいない。思いっきり飛び込む!水の泡が目に飛び込んでは消えていく。やっぱ気持ちいい!水サガだからか水の中にいると落ち着く。一生潜っていたい。そういや一回プールでずっと潜っているから溺れた時勘違いされて大騒ぎになった。
「サーシャ様の祝福…か…」
贅沢な悩みなんて分かっている。でも。
「サーシャ様…何で私なんですか…」
思わずつぶやいてしまった。水の中にもう一度潜る。
泡がキラキラしている。今までつけたどの宝石よりも綺麗だ。思わず掴もうとするけど水の泡は上に登っていってしまう。息の限界までずっと水の泡を見ていた。
しばらくして松澤さんがやってきた。まだ30分ぐらいだと思っていたのに2時間たっていたらしい。
「結構探したんすよ。いつまで経っても帰ってこないし」
「電話してくれたらよかったのに」
「携帯持ってきてます?」
「あっ…」
松澤さんがため息をつく。
「書き置きぐらい残していって下さいっす。ウワッ、身体めっちゃ冷えてるじゃないすか!」
「ごめんなさい…」
周りに迷惑をかけてばかりの自分が嫌になる。だめだ涙がポロポロ落ちていく。
「あぁ、真倉くんに引き続きユズ様まで泣かないでくださいっす。ほらタオル!」
「…ありがとうございます」
「まぁこの混乱で俺しか気付いてないっぽいし全然大丈夫っすよ。俺も悪かったっす。ホラお昼食べてゆっくりするっすよ」
「ごめんなさい…」
「あーほんとに泣かないでくださいっす!ユズ様の好きな超濃いココア作りますから泣かないで」
「うん…」
「とりあえず着替えましょ。人呼びますか?」
「いやいいです。着替えてきますね」
もう少しいたかったけど仕方ない。着替えて部屋に戻る。松澤さんが言った通り誰も気づいてないみたいだ、よかった。窓を見ると黒い人混みはさらに大きくなっている。
「あーあ。野次馬もて更にひどくなってるっすね。多分裏口ももうだめっす。こりゃ本格的に今日のパーティは怪しくなってきたっすね。はいココア。」
「ありがとうございます」
「いーえ。あっもうネットニュースになってるっす!全くもー」
松澤さんがテレビをつける
「こちらはリフェース皇太子がいらっしゃるホテルです。リフェース皇太子は本日夜にこのホテルの椿の間で行われるパーティーに出席予定のため…」
「機密情報じゃなかったんですか?」
「軍の機密情報を突破できるこの国の未来は安心っすね!」
笑い事じゃない。松澤さんの携帯がまたなる。
「はーい名取さん。今ユズ様とニュース見てます。はい…はい…マジっすか…はい…分かりました伝えるっす」
「名取さんなんて言ってました?」
「パーティーは中止。宮家とリフェース皇太子と親戚方々だけ集まって日本料理の代々木邸での会食に変更するそうっす」
「代々木邸ってどこにあるんですか?」
「古都っす」
「えっ古都?」
「彩都にリフェース皇太子がいるとばれた以上、古都ぐらいまで行かないとマスコミは巻けないらしくて…」
古都は彩都から車で5時間、リニア新幹線でも3時間のところだ。
「あっ今リフェース皇太子と護衛の裏口の駐車場から出てきたと情報が入りました。あっ車が何台も出てきています!見えますでしょうか⁈」
テレビには何台かの車が出ていく姿がうつってる。
「これでマスコミは分散できます。俺らも少し経ったらリニアで行くっす」
「リニアで行くんだったら念の為に髪の毛染めてカラコン付けますか?」
「んー髪はフードに入れてカラコンしてやり過ごしましょう。体調は?大丈夫すか?」
「うん。化粧とドレスはどうしたらいいですか?」
「まぁ化粧は一応していって後でなおすとして。着替えは俺が持ってくっす」
「分かりました」
シャワーを浴びて急いで着替える。
「時間ないし俺が髪乾かしていいっすか?」
「助かります!」
松澤さんが風サガはあっという間に髪を乾かしてくれるから大好きだ。
「本当便利ですよね、風サガ」
「軍ではよく馬鹿にされてましたけどね。ここではよく役に立つっす」
「やっぱ軍では炎とかが目立つんですか?」
「まぁサガが弱ければ炎や水がいいです。緑や風、土は弱いと何の役にも立ちませんからね。はいできたっすよ」
ゴムまで結んでくれた。
「ありがとうございます」
「じゃあ俺はタクシー呼びに行ってきます。荷物はまとめなくてもあとで人がとりにくるんで大丈夫ですよ。準備できたらまた呼びにくるっす」
そう言って松澤さんは部屋から消える。
急いで化粧をする。そういえば真倉はどうなったんだろうか。佐藤さんと車でコトまで来るのだろうか。だったら一緒に観光ができる。
「後で松澤さんに聞こう」
ルンルンで化粧をする。30分後松澤さんが用意してくれたタクシーに乗って駅まで向かった。さすが首都の彩都駅。人混みが半端ではない。
「やっぱ急なんで二人分取るのがやっとっすね」
「全然大丈夫ですよ」
「ていうか」
松澤さんが小声でいう。
「流石にこの人の中、お互い敬語はまずいっすね。怪しまれないように今から敬語はなしで行きますよユズちゃん」
「分かった」
「じゃあユズちゃん行こっか」
「うん」
電車は満員だ。私たちが乗った後すぐ出発した。
「やっぱリニアはこれっしょ」
松澤さんはいつの間にかアイスを買っていた。
「どっちがいい?」
松澤さんのタメ口はなんか新鮮だ。
「こっち」
抹茶アイスは思ったより硬くてスプーンが入らなかった。アイスをゆっくり食べながら話す。
「真倉はまだ佐藤さんと一緒なの?」
「佐藤から連絡が来てないので何とも」
「松澤さんって佐藤さんと同期なんですよね?だよね?」
「同期どころか出身も同じの幼馴染。といっても高校は別で再会したのは最近だけど。真倉君とユズちゃんみたいなもんだね」
松澤さんが笑う。
「佐藤さんに前松澤さんについて聞いたらあいつの言うことは全部デタラメです。って言ってたよ」
「佐藤は真倉君と同じで素直じゃないだけなんだよ。本当は俺の事が大好きなくせに」
「…もしだよ?もし、私か佐藤さんか選べって言われたらどっち選ぶ?」
「そりゃユズちゃん」
即答だ。
「それはやっぱ私の方が価値があるから?」
「いや。あいつが怒るからかね」
「そっか」
アイス美味しい。
コト駅に着くとレイとユウトが車で待っていた。
「おぉ!ユズの変装クオリティ高いな!確かにこれじゃ全然分かんねぇ!」
「ユウトきてたんだ」
「無理やりついてきたんだよ…」
レイがブスッとした顔でいう。
「二人とも早いね。リニアできたの?」
「ううん。ヘリ」
「ヘリ…」
「景色写真で送ったぜ!見てない?」
「見てない。見せて」
「ほら」
「おー綺麗」
電話をしていた松澤さんが戻ってきた。
「会食は22時からだそうっすね」
「くそおせぇな」
ユウトが呟く。
「あと3時間ちょっとありますけど、みなさんどうされます?」
「微妙な時間だね。待つには長いし…」
「俺ショッピングしたい」
「もう店閉店するよ」
「閉店後の方が目立たなくていいだろ。百貨店開けてもらえないか親父に聞いてみる。ユズの名前出したらいけんだろ」
「ちょっと私の名前使わないでよ」
「まぁまぁ。あっ返信きた。東百貨店なら開けれるって。古都東百貨店まで行ける?」
「かしこまりました」
車が動き出す。
「昨日の夜、ユウト怒られた?」
「あぁ。何で見てたのに止めなかったんだって。バルコニーから入ったのもバレて散々だったよ」
「それはユウトの自業自得でしょ」
「ユズから離れたお前がいうか⁈大体なんでお前は叱られないんだよ⁈」
「それは僕の普段の行いがいいから」
「まぁまぁ2人とも喧嘩はやめよ。ユウト、ショッピングって何買いたいの?」
慌てて話を逸らす。
「ユリへのプレゼントだよ!もうすぐ誕生日だし。ユズと一緒に選んだって言えば受け取り拒否にはしないだろ!」
「あぁ」
思わず笑ってしまう。ユウトはユリが好きだかユリは全く相手にしていない。大量のプレゼントは全て受取拒否しているので彩都にあるユリの部屋はユウトからのプレゼントでいっぱいだ。
「たっく。あいつメッセージも一週間に一回ぐらいしか返信ないんだぜ。携帯壊れてんじゃねぇの?」
「ハハハ…ユリに言っとくよ」
そんなこんなで百貨店に着いた。
「じゃあみなさん。俺は仕事あるんで。21時には車に戻って下さいね」
松澤さんはそう言ってまたどこかに行ってしまった。
「じゃあユズ!ユリへのプレゼント一緒に探すぞ!」
「わかったよ」
閉店後の百貨店は人がいないからか明るいのに何処か寂しい。
「ユズは?ほしいものないの?」
「私はないなぁ。でも確かにもうすぐユリの誕生日だしお揃いのイヤリング買おっかな」
「じゃあMESSIKAのエンジェルコレクションにしなよ。新作出てたはず」
「メシカ?よく分かんないけど見てみる」
「すみません。メシカのブランド店舗は彩都中央百貨店のみで当店には取り扱いがございません」
店員さんが申し訳なさそうに言う。
「レイ馬鹿だな。ちゃんと店見てから言えよ。店員さんHARRY WINSTONはあるよね?リリークラスターコレクションがいいんだけど。」
「…すみません。ハリーウィストン自体はあるんですがリリークラスターの取り扱いはございません」
2人の会話が全くもってわからない。
「あのよく分かんないので可愛いイヤリングありますか?出来ればお揃いで。2万円くらいの」
「ユズ、お前そんな安いのユリにつけさせるつもりか⁈店員、とりあえず良いの持ってきて」
「そうだよユズ。二万は安すぎる。そんなのつけてたら笑われるよ」
「…2人とも2万円でも充分高いから。店員さん2万円ぐらいのイヤリング持ってきてください」
「あの…とりあえず2万円ほどのイヤリングと高いイヤリングそれぞれ10点ほどお持ちします」
店員さんが走っていく。
「困らせちゃったかな」
「二万円は困るよね。0が少ないよ。」
「そっちじゃないよ…」
ため息をつく。2人のこう言うところは本当についていけない。
「お待たせしました。こちらイヤリングです」
可愛らしいイヤリングと豪華そうながイヤリングがずらっと並べられる。
「ていうかこれユズが渡すプレゼントになっちゃうじゃん。俺も別のもの買わないと。店員さんバーキンはある?」
「少々お待ちください。確認して参ります」
また店員さんが走っていく。だんだん可哀想になってきた。
「バーキンって何?」
「この前の誕生日に僕がユズにあげたバッグ。あれがバーキンだよ」
「あぁ!あれすごくオシャレで可愛かった。ありがとう」
「お待たせしました。現在2つ在庫ございました」
「おーラッキー」
「2つしかないの?」
私が聞くと定員さんは苦笑いし、ユウトは爆笑してレイは笑いを堪えている。
「ユズ、バーキンは店頭に置いてないんだよ」
「えっそうなの?」
「お前バーキンって検索してみろよ」
そう言われて検索して、顔が青ざめていく。店員さんが苦笑いするわけだ。
「ついでにユズにあげたのはオーダーメイドだから人と被らないよ。安心して使って」
全然安心じゃないし、もう怖くて使えない。これからレイにもらったものは値段検索してから使おう。
「じゃあ右の白い方買うわ。今手持ちないからカードでいい?」
「ありがとうございます」
「えっ買うの⁈大丈夫なの⁉︎」
「大丈夫だって。それよりユズも早く選べよ。もう時間ないぞ。」
「えぇ…」
とりあえずイヤリングを見る。どれも可愛い。
「これ可愛い」
「いいんじゃない?ユズっぽくて」
「じゃあこれにしよっかな。幾らですか?」
「ありがとうございます。こちら1組28900円、二組で57800円です」
「じゃあユリの分だけでいいや。一つください。」
「お前、俺のユリにそんな安いの渡すのか」
「ユズの選んだものにケチつけないでよ。ユズの分は僕が買うよ。店員さんそれもう一つ下さい」
店員さんは苦笑いのままイヤリングとバッグを包みにいった。
「2人とも金銭感覚おかしいよ…」
「ユズが貧乏性すぎるんだよ」
「そうだよ。前、父さんユズが全然お金使わないって心配してたよ」
「そんな心配のされ方ある…?」
定員さんが持ってきてくれたら丁度、松澤さん迎えにきてくれたので車に戻る。
「リフェース皇太子はもう近くまで来てるそうなんですがどうやら観光してるらしくて。22時30分頃に代々木邸に着くそうです。二宮御一家はもう着いていて、四宮家と三宮ご夫妻、サガラ様は多分私たちと同じ頃に着くかと」
真倉は結局古都に来ているか聞きたいけど今は聞けない。
「二宮家珍しいね。ルナちゃんとソラちゃん小さいのにこんな夜中で大丈夫?」
「ソラ様とルナ様は寝かしつけてから来てるんじゃないですか?」
二宮家は古都に住んでいる親戚で一歳の可愛い双子の赤ちゃんがいる。昨日は来てなかったから今日も来ないと思っていたけど近所だから来るのか。ひさひざに双子ちゃん達にも会いたいな。
「明日2人に会って直接戸間の家に帰ろうかな」
「喜ばれますよ」
「ユズ、明日帰んの?」
「うん。明後日から学校の夏期講習あるし」
「そんなんサボればいいじゃん」
「そういうわけには行かないでしょ」
「ユズって馬鹿なのに、そうゆうとこは真面目だよな」
「馬鹿は余計だよ!」
そう言いつつも期末のテストを思い出してげんなりした。車は30分ほど走り代々木邸に着いた。
「着きましたよ。」
代々木邸に入ると、女将さんが2階に案内してくれた。
「ユズちゃん!久しぶり!」
襖を開けた瞬間フタミヤ家のワカバお姉ちゃんが駆け寄ってハグをする。
「ワカバお姉ちゃんお久しぶりです!マサ兄も!ソラ君とルナちゃんは元気ですか?」
「ワカバさん。ユズ様が困ってますよ。2人は時間が遅いので寝かしつけてきました。レイ君もユウト君も久しぶりだね。元気にしてた?」
「お久しぶりです。」
「マサト兄お久!」
2人も挨拶をする
「みんな揃うのは正月以来だから半年ぶりだね!」
「ワカバお姉ちゃんそろそろ離してもらえますか…苦しい…」
「あっごめんごめん」
「ユズ、みんな着く前に早く着替えてきなよ」
「私手伝うよ」
「では、こちらの部屋をお使いください」
女将さんに案内されて、部屋で着替えと化粧直しをする。化粧は取れかかっていたので双葉お姉ちゃんにやり直してもらう。
「ユズちゃん学校はもう慣れた?」
「はい。成績はかなりやばいんですが」
「まぁ二年眠ってたら仕方ないよ。それで?思い出の男の子にはあえた?」
「それもまたいろいろあって…」
「何何?」
「かくかくしかじかで…今は多分彩都にいます」
「えぇ⁈なにそれ⁈青春って感じで羨ましい!」
「でも思い出すことはなさそうですね」
「それでもいいんじゃない?いいなぁ若いって。私にもそんな時代があったなぁ」
マサトお兄さんとワカバお姉ちゃんは恋愛結婚らしい。2人はいつから付き合ってたんだろ。
「はい出来た!ユズちゃん可愛い」
「ありがとうございます」
戻るとユウトの両親でもある三宮夫妻と四宮のおじいちゃんも着いていた。
「ユズ様こんばんは。本日もお綺麗ですね」
叔母さんがにこやかに笑いかける。三宮ご夫妻はとても優雅だ。この2人からどうしてあんな乱暴なユウトが生まれたのか本当に不思議である。
「ユズ様昨日はご挨拶も出来ず申し訳ありませんでした。今日の買い物は楽しめましたか?」
「おかげさまで」
「親父聞いてよ。コイツ全然ブランドしらねぇの」
「おいユウト。ユズさんかユズ様とお呼びなさいと何度も言ってるだろう。少しはレイ君を見習いなさい」
本当に全くもって不思議だ。
「そのユズ様、バーキン知らなくて店員に2つしかないんですか?って聞いたんだぜ」
「ちょっとユウト⁈」
「あらまぁ」
「それはまた豪快な発言ですね」
みんなが笑う。飛んだ赤っ恥だ。
「今度私のを一つプレゼントしますよ」
叔母さまはそう言ったが丁重にお断りさせてもらった。
「失礼します。リフェース様並びにサガラ様がお付きになられました。」
おかみさんが言って私たちは会食の席に向かう。
「やぁ、待たせてすまないね。みんな久しぶり」
襖が開くと、ニュースで見た笑顔でリフェース皇太子がいた。横にはサガラおじさんもいる。
私とマサ兄以外みんなリフェース皇太子に会ったことがあるらしい。
「リフェース・ミヤケ皇太子初めまして。ミヤケ・ユズと言います」
練習してきたお辞儀をするがやっぱり緊張する。まぁみんないるし何かヘマしたら庇ってくれるだろう。
「顔を上げてミス・ユズ。堅苦しい挨拶は抜きにして食事を楽しもう」
そう言うとリフェース皇太子は笑ってシンを指に少しだけ刺して火の玉を庭に浮かす。
「これがナラクのオバケ文化で夜に出すものだって教えてもらったんだ」
ちょっと違うけど本物だ。
「ミス・ユズも何かやってみて」
何かって困るな…。周りを見るとグラスに水がない。おかみさんが配慮してくれたみたいだ。意識を集中させながら私も指にシンを刺す。水がコップに浮かび上がる。
「ワンダフル!確かにミス・ユズだね。」
レイが言った通り楽しそうな人だ。
全員席についたところで料理が運ばれる。
「おぉナラクの料理はおいしいだけじゃなくて繊細で綺麗だよね」
リフェース皇太子はテレビで見る感じそのまんまでフレンドリーだ。でも後ろの人が毒見をしてから食べるのはすごく王族っぽい。ていうか後ろの人顔が怖い。
「サガラ、これは何?とってもクリーミー」
「これは湯葉と言って豆腐を加工したものです」
「へぇ。ずいぶん縮んじゃうんだね。ユズはこれ好き?」
「あっはい。好きです。」
「ワタシは甘いものが一番好きなの。ユズも?」
「甘いもの大好きです」
「やっぱ同じ祝福者だからか僕たち好み一緒だね」
ニコッとリフェース皇太子が笑いかけてくれて少し緊張がほぐれる。
「ユリはそちらで元気にしていますか?」
ユウトはユリのことを聞きたくてたまらないみたいだ。
「ミス・ユリね。ギラシアでも綺麗って評判で僕のフレンドも彼女に花を贈っていたよ」
「何⁈ユリは受け取っていませんよね⁈」
「多分受け取ってないよ」
「よかったぁ。ユリにユウトが連絡待ってるって伝えてください!」
「ユウトはホントユリにラブだね。確かナラクではゾッコンって言うんでしょ?」
またニコッと私に返されるが、私はご飯が口に入っててうまく喋れない。
「そうですよ」
サガラおじさんが代わりに答える。
「ユズは?今誰かにゾッコンしてる?」
サガラおじさんが首を横に振っている。これは教えちゃダメなやつだ。
「内緒です。リフェースさんはどうなんですか?」
「ワタシ?もうすぐ婚約するよ」
「えぇ⁈」
みんなが驚く。後ろの人も青ざめて何かコソコソと喋っている。
「あぁ、これナイショだった。もうすぐ発表あると思うけどナイショね」
そっか。リフェース皇太子はもうすぐ25だ。そう言う話があっても驚きはない。
「相手はどんな人?」
「ジュリアって言って12の時、グランマが紹介してくれた人。その時僕グランマに反抗したい時期だったからお前なんか嫌いだって言ってたんだけどまぁ一緒に過ごすうち仲良くなって。グランマの誕生日に婚約の公式発表するって。え?これも言っちゃダメなやつだったの?」
後ろの人に少し同情する。まぁ私もこんな感じで結構やらかしてるからあんま変わんないけど。
「まぁ何はともあれおめでとうございます」
「おめでとうございます」
サガラおじさんが言うとみんな口々に言い出した。私も言う。
「ありがと。結婚式にはみんな招待するからユズも来てね」
「是非」
なんとか滞りなく会食は終わった。
「みんな、ミス・ユズと話したいから席外してくれる?マルコも」
最後のお茶の時間に言われて少し焦る。てか後ろの人あんな怖い顔してマルコっていうのか。佐藤さん並みの似合わなさだ。
「…15分だけですよ」
怖い人いや、マルコさんが言う。
「ではサーシャ様の祝福を」
そう言ってみんなが消える。緊張してお茶を手が震える。
「そんな緊張されるとワタシまで緊張が移っちゃうよ」
「すみません」
「ノーノー。宮家が簡単に謝っちゃダメだよ。僕も昔グランマによく注意されたから」
すみませんとまた言いかけてやめる。とりあえず話を繋げなければ。
「あの」
「何?」
「リフェースさんって普段どう過ごされてるんですか?」
「毎日仕事してるよ!ユズは?」
どうしよう。なんて言えばいいんだろう。
「勉強したり遊んだり…色々してます」
「まだ15歳だもんね!遊びいっぱい!楽しいよね!」
リアクションが外国人ぽい。
「朝起きる時とかどうしてますか?私低血圧で…」
「あぁ!起きれない?」
「はい。学校はどうしていました?」
「ギリシアの宮家は滅多に学校行かないよ。家庭教師がきて兄妹みんなで勉強!ユズは学校行ってるんだね!行ってないって聞いてたけど」
あっミスっちゃった。学校行ってるのは内緒だった。
「…内緒でお願いします」
「いいよ。でも学校あるなら大変だね。僕は基本好きに寝て好きに起きるから目覚ましないな。基本的にはミンナ僕のおねがい叶えてくれるしね」
「そうですか…」
「でも低血圧なんだね!血は?足りてる?」
血の話もしちゃダメって言われてるからなぁ。話題変えよう。
「12歳の時にジュリアさんに会ったって事は許嫁だったんですか?」
「許嫁ってなに?」
「えっと、親同士が決めた結婚相手っていうか…」
「んーグランマが連れてきた女の子全員を言うならそうかな」
「えっ⁈何人ぐらい連れて来たんですか?」
「60人くらい?こんなかから選ばないとダメだって言われた」
「そんなにいたんですか…」
思ったよりスケールがでかい話だった。
「なんでその中でジュリアさんを選んだんですか?」
「ワタシがジュリアにラブしたんだ。グランマのお気に入りだしね」
「その…グランマ以外が選んだ人には好きにならなかったんですか?」
言葉が返ってこない。失礼だったかな。
「あったよ」
「えっ…その詳しく聞いてもいいですか?」
「ナイショだよ。ワタシが17の時ね。こそっと出かけた街で出会ったの。35のお姉さん」
「35⁉︎」
「うん。僕が絡まれてるところをね助けて貰って一目惚れ。僕のファーストラブ」
「…その方とはどうなったんですか?」
「…ワタシにそういう話を聞くってことはユズにもいるの?ファーストラブ?」
自分の顔が赤くなるのがわかる。
「ユズ分かりやすくていいね!」
笑ってリフェース皇太子はいう。恥ずかしい。
「15分経ちました。よろしいですか?」
そう言ってマルコさんが入ってきた。
「マルコ!今いいとこだったのに!」
「時間がないんですよ!誰かさんのせいで!」
「あっもう大丈夫です。すみません…」
あっまた謝っちゃった。
「じゃあワタシ今から珠雨甲に行くんだよ。これ僕の番号とお土産。ユズまたね」
そう言ってリフェース皇太子は血が入った砂時計型のペンダントと番号が書かれたメモをくれた。
「全日程秘密なんですよ!すみませんユズ様、どうか秘密でお願いします」
マルコさんはリフェース皇太子に怒りながら私に深々と頭を下げる。なんか名取さんみたいだ。
「大丈夫です。誰にも言いませんから」
「ありがとうございます」
「またねユズ。また何かあったら電話して。じゃあサーシャ様の祝福を」
「リフェース皇太子もサーシャ様の祝福を」
そう言ってリフェース皇太子は車に乗って帰った。
「終わりました?」
松澤さんが入れ替わりにきた。
「うん。もう帰ったよ」
「じゃあ入れ違いっすね。どうしますか?彩都に帰るっすか?」
「そのことなんだけどさ」
誰もいないことを確認して小声でいう。
「真倉ってまだ彩都にいるよね?私今日やっぱ彩都に戻るよ」
「真倉君なら古都にいるっす」
「えっ⁈どうゆうこと⁈」
真倉が古都に?なんで?観光してたんじゃなかったの?
「とりあえず今日泊まるホテルプリンスホテルらしんで行くっす。もう夜も遅いっすからね」
「あの」
「ユズ、話終わった?」
ヤバい、レイとユウトだ。慌てて話を逸らす。
「2人とも先帰ったんじゃなかったの?」
「それがユズ待つとか言いやがってさぁ」
「先帰ってくれて良かったのに」
「俺らこの後クラブ行くんだけどユズも来ない?」
「ユウト?僕行くって言ってないよね?」
「2人で行って来なよ。気をつけてね」
「おん!じゃあな!」
2人を見送る。よかった。今日ホテル多分一緒だからバレるとまずい。ユウトに感謝しないと。
「じゃあ松澤さんプリンスホテル行きましょ!」
私は次こそルンルンにホテルへと向かった。
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