第7話 真倉の過去と彩都1日目夜

奇跡の町、戸間町。そう呼ばれたのは5年前の震度8の地震があったのに全員が無事だったから。

俺はその最後の生還者。って言われた。

ナラク。海に囲まれた島国ながら、人口1億2000万人世界第5位の経済大国で、サガによる身分制度が禁止されている文明国家であり民主主義国家。水の宮家が存在するとされている国でもある。

「この国は経済的にも発展していて平等で自由な最高の国です」

先生はそう言うけど本当の所はわからない。

実際偉い人はみんな一種だし。

「こんな田舎で終わってたまるか!」

そう言った父は6歳の俺と4歳のカンナと母を連れて戸間からナラクの首都・彩都に来た。父が会社を興した次の年、ナラク国の経済は傾き父の会社はあっけなく潰れて、俺ら家族は貧富の貧になってしまった。家族は自己破産。父は酒と女に狂い、母は精神を病んで何度も自殺未遂。ありきたりな転落人生。こうやって並べるとすげぇなってなるけど小さい頃だし俺らにとってはただの日常だった。

そして、俺が10歳で妹が8歳の1学期が始まってまだ2週間も経っていない日常の中、母親が自殺した。

いつものように学校から帰ってくると妹の泣き声が廊下から聞こえていた。隣の203号室のババァが

「うるさいわよ!開けなさい」

と怒鳴り込んでいた。僕を見ると、

「あんたもお母さんが精神病んで、お父さん飲んだくれているんだから学校なんか行かずお母さんと妹の面倒見てあげなさいよ。お母さんまた自殺騒ぎ起こすわよ。警察は全然面倒見てくれないし。ちょっと聞いてる⁈」

いつものことだ。こんな毎日が僕の日常だが、気にせずドアを閉める。

「ただいまー」

誰の返答もない。これも日常だ。

妹の鳴き声がリビングからする。8歳にもなってそんな泣くか?どうせ母さんがもう死んでやる!とか言ったんだろなんで考えてた。

「ただいまって言って…」

でもこの日は違った。返答が無かったのは単純に喋れるのが妹だけで、妹は泣いていたからだ。自殺だった。

飲んだくれた父が見つかったのはパチンコ店で次の日の夜だった。青白い母を見た父は言った。

「お前ら戸間の実家帰れ。夏休み毎回帰ってんだろ?ちょっと早い夏休みだ」

なんて返答したか、その後荷造りをしたかは全部覚えていない。とにかく葬式を済ませた後、僕らはおじいちゃんちにいた。

「じゃあコイツらしばらく預かってくれ」

「…」

おじいちゃんは何も言わずに僕らにご飯を食べさせて布団をひいてくれた。次の日の朝、お父さんはいなかった。

俺と妹は最初の1ヶ月ぐらいは特に何もせず家にいてじいちゃんと過ごした。

「学校…行きたいか?」

「…」

「…行きたくなったら言えよ」

じいちゃん家は戸間っていう超田舎だ。なんもない。山しかない。

家は住んでいた彩都のアパートよりずっと広く、不便だった。ガスも電気もかろうじてあるだけでテレビすらなかった。それに風呂もご飯も自動じゃなくて火を使って炊いていた。

「ワシは土のサガだから炎は使えん。でもワシ米はうまいから多少焦げてもうまい」

じいちゃんの口癖だ。暮らしにも慣れてきた頃、家に1週間に一回のペースで来てはじいちゃんと喋って帰るばあちゃんが僕に言った。

「今度うちに遊びにおいで。シュウ君と同い年の10歳と9歳の女の子がいるよ。後この家にはないテレビがある」

「テレビ⁈じいちゃん行っていい⁈」

「行くならカンナも連れて行けよ」

「うん!」

俺はとにかくテレビが見たくて、明日にでも連れていってとたのみこんだ。おばあちゃんは笑って明日迎えにきてくれた。おばあちゃんの家は俺たちが住む家の裏山にあった。

「ただいまー」

「おばあちゃんおかえり!」

「おばあちゃん!ユリがまた私のオヤツを…誰⁈おばあちゃんの友だち⁈」

出てきたのは、綺麗な女の子と元気で可愛い女の子だった。最初に出てきた女の子は肌が白くてお母さんと同じ黒髪ロングだった。彩都の小学校で一番可愛かったミオちゃんよりずっと綺麗で大人びていた。

次に出てきた女の子はよく焼けた肌に茶色の髪の毛。大きなクリクリとした水色の瞳が俺を覗き込んでいた。

「シグレ、ユリ。2人に紹介するよ。シュウ君とカンナちゃん。ほら挨拶は?」

「私、シグレ!10歳!」

「私、ユリって言います。9歳です」

2人はあんまり似ていなかったけどキラキラとした水色の瞳が凄く綺麗で覚えている。

「シュウ君とカンナちゃんも挨拶できる?」

「…シュウです。10さ」

「私と同い年だ!仲良くしようね!」

俺の言葉を遮って手を握られたからビックリして、

「離せよ!」

って言ったのに離さないしヘラヘラ笑ってた。とにかく変な奴。それがシグレの最初の印象。

「カンナちゃん…私の影に隠れていないでほら」

「…カンナ。8歳」

「カンナちゃんもよろしくね!」

「お姉ちゃんうるさい!カンナちゃんが怖がってるでしょ!カンナちゃん私ユリ。よろしくね」

「…うん」

嘘だろ⁈あの人見知りのカンナがユリちゃんの手を握った。

「カンナちゃん可愛い!」

「だからお姉ちゃんうるさいって」

「じゃあみんなで菓子食べましょうか」

「やった!シュウこっちきて!こっちにお茶あるから」

「ちょっ…」

「カンナちゃん一緒にいこっか」

「うん!」

シグレって言う変な奴が俺の手を握ったままリビングまで走るし、カンナはユリちゃんにベッタリだった。あんなカンナ初めてでびっくりした。

「うまっ!」

「美味しい!」

「カンナちゃん美味しい?」

「うん!」

「みんな焦らず食べてなさい」

「シュウ!それ私食べようとしてたの!」

「普通客の俺に譲るだろ!」

「お姉ちゃんカンナちゃんが怖がってるってば!」

あのカンナはお母さんとおなじ黒髪ロングだったからか分かんないけどユリちゃんっていう子に初日からベッタリだった。

「楽しかったか?」

「うん!」

「聞いてよシグレって奴がさぁ…」

その日の晩久々に俺の家はうるさかった。

今考えると夏休みじゃないのに2人は学校にも通っていなかったのはおかしかったけどそれは俺らだって同じだったからなんとも思わなかった。

「今日も来るかい?」

「うん」

次の日おばあちゃんに聞かれて、カンナが俺より先に答えた。

「だから!ユリ熱出てんだから騒ぐなって!」

「シュウだってうるさいじゃん!」

「ちょっと2人のせいで起きたんだけど。カンナちゃんこれありがと」

「カンナちゃん私にも絵描いて!」

「おいカンナが怖がってるって!」

俺達はすぐ仲良くなった。毎日朝から晩まで4人で遊んで過ごした。ユリは身体が弱くてしょっちゅう熱を出したから、そうゆう時はみんなでユリの布団を囲んで騒いでばあちゃんにめちゃくちゃ怒られた。

「なぁ今日さシグレがさぁ」

「ちょっとお兄ちゃん今私がおじいちゃんに話してるんだよ!それでね、ユリお姉ちゃんがね」

我が家は一気に明るくなってじいちゃんはやっぱ無言で俺らの話を聞いていた。

「サガのやり方?俺もあんま出来ないけど…ほら」

「シュウ凄い!私出来ないんだよねえ」

「普通5歳ぐらいで覚醒するんだぜ!病院とか行けば?」

「おばあちゃんがゆっくりでいいって!私は大器晩成型なんだって!」

「お前が⁈冗談だろ⁈」

「失礼な!あっおばあちゃんシュウ土サガなんだって!凄いんだよ!」

「シュウ君あんま無茶しちゃダメだよー。後オヤツあるけど食べる?」

「うん!」

「あっずりい!」

シグレとユリはサガはまだ覚醒していなかった。俺とカンナはしていたからよくねだられて土サガを披露した。学校では落ちこぼれだった俺もここでは最強だったから嬉しかった。

「なぁシグレ早く来いよ!」

「ちょっと危ないってば!降りた方がいいって!」

「大丈夫!もうちょ…うわぁぁぁぁあ」

「シュウ大丈夫⁈シュウ⁈」

目が覚めたら日はすっかり暮れていた。リビングに行くとおばあちゃんがいた。

「シュウ君起きたのね!大丈夫?痛いとこない?」

「うん!…俺木から落ちて、ユズがきてなんか甘いジュースみたいなん飲ませてくれて…おばあちゃん?泣いてるの⁈大丈夫⁈」

「目にゴミが入って…シュウ君も大丈夫?」

「うん!」

「よかった。おじいちゃん迎えにきてくれてるから帰りなさい」

珍しくじいちゃんがシグレの家まで迎えにきてくれていて俺は帰った。

「おはよー!」

「シュウ⁈大丈夫⁉︎よがっだぁ」

「おいシグレ泣くなよ!てか手包帯でぐるぐる巻にされてんじゃん!」

「笑わないでよ!おばあちゃんにされたの!」

「ダッサ!」

「ちょっと⁈おばあちゃんー!シュウがさぁー!」

この後おばあちゃんに笑いながら、シグレは怪我すると中々治らないから気をつけてあげてって言われた。

「おばあちゃーん!ユリまた熱ー!」

「あらあら…カンナちゃんユリから離れた方がいいよ」

「大人になったら俺が医者になって治してやる!俺スーパードクターなるから!母さんもユリもみんなみんななおしてやる!」

「私は冒険家!ユリにいっぱいの国の写真とかご飯持って帰ってユリにあげるの!それで…」

「2人とも寝かせてよ…」

カンナはずっとユリにベッタリだから、俺は必然的にシグレと遊ぶ日ばっかだった。まぁほとんど喧嘩しかしてなかったけど。

「2人ともそろそろ帰るよー!日が暮れちゃうよー!山道なんだから危ないの!」

「えーまだ遊ぶ!」

「こらー!」

毎日、毎日、とにかくずっと遊んでいた。

「シュウ君、シグレ…今度は何で喧嘩したの?」

「だってぇシュウがぁ私が世界一周できる探検家になるって言ったらそんな選ばれし職業の人は一種しかダメだってぇ!」

「先生が言ってたんだよ!選ばれた人間が一種でそれ以外は大したことないって!選ばれし人しか選ばれた職業にはつけないんだって!」

「それは真倉君が間違っているわ」

「なんで⁈」

「選ばれた、選ばれなかったなんて他人から見た評価だわ。真倉君は真倉君を選んで生まれてきた。真倉君がこれからの人生でいろんな選択をすると思う。その時は必ず自分自身の意見を選んで。真倉君が自分自身を選び続ける限り、真倉君は選ばれた人間になれるの。他人や社会に真倉君の価値を決めさせないで。…少し難しかったかな?」

「…難しい」

「そうだよおばあちゃん全然分かんない!」

「そうだね。でも覚えておいて欲しい」

「俺覚えた!」

「私もーわすれたぁ!」

俺達は毎日、毎日、毎日自由に過ごした。俺が話す学校の話をユズとユリは楽しそうに聞いてくれた。色んな話をした。

「実はねー私とユリ記憶が無いんだぁ」

「嘘つくなよ⁈」

「本当だってば!7歳までの記憶が無いの!」

「じゃあどうやって生活してたんだよ⁈」

「だから分かんないんだって!」

「シュウ君、シグレ!何で喧嘩してるの?」

「おばあちゃんきいてぇ、ユズってばさぁ…」

おばあちゃんは笑いながら、シグレとユリには記憶が無いんだって教えてくれた。だから、学校に行けないんだって。だから俺とカンナが初めての友だちなんだって。俺もカンナは悲しむべきだったんだろうけど、まだ10歳と8歳だから初めての友だちになれて嬉しいって気持ちの方が勝ってしまった。俺もカンナも友だち作るの下手くそだったから。

「なぁシグレ!お前の目なんでそんな水色なんだよ⁈」

「綺麗でしょ!私この目大好き!ユリと一緒だし!水色っていうんだよ!知ってる⁈」

「それぐらい知ってるし!全然綺麗じゃねぇよ!俺の目の方が!カッコいい!真っ黒!」

「ちょっと!私が羨ましいからって妬まないでよね!」

「俺は赤の方が好きだから妬まねえよ!」

「2人とも…また騒いでるの?もうカンナちゃんとユリはおやつ食べてるわよ」

「はーい!」

「シュウ君ちょっと待って」

「何?おばあちゃん」

「シグレの目の色好きじゃない?本当に?」

「…綺麗だと思う。俺の目より綺麗」

「違うわ。二人とも綺麗なの。シュウ君が恥ずかしいのは分かるけど、人の容姿を傷つけたり差別するのはダメよ?分かった?」

「おばあちゃんてさ、時々いい事言うね」

「時々は余計よ」

「イッタ!殴った!暴力ババァだ!」

「ねー!シュウ早く!」

「じゃあシュウ君ちゃんと綺麗だって言ってきてあげなさい。じゃ無いとおやつ抜きよ」

「…俺の事シグレ好き。おばあちゃんシグレちょうだい」

「それはシグレが決める事だよ。でも前ね…」

「おばあちゃーん!シュウ兄!早く!お姉ちゃんが食べ始めてる!」

「すぐ行く!」

おばあちゃんはすぐゲンコツする暴力ババァだったけど優しかったし、時々良いことをいった。

「カンナちゃんって本当絵上手だよね!」

「…ユズお姉ちゃんにこれあげる」

「ユリお姉ちゃんにも頂戴。私カンナちゃんの絵大好きだから」

「ユリお姉ちゃんにはいっぱいあげる!」

「ちょっとカンナちゃん酷く無い⁈」

「おいカンナ!俺の方がうまいぞ!」

「シュウ兄…それは下手だと思う」

「はぁ⁈ユリお前!」

「ねー、カンナちゃん」

「ねー」

「ユリもカンナも黙れよ!ユズお前笑うんじゃねぇ!」

確かにカンナの絵はうまかった。ムカつくけど俺より上手で凄く綺麗で繊細だった。

「カンナ、その絵くれよ!4人の絵!」

「やだよ!これはユリお姉ちゃんにあげるの!」

「ケチ!」

「…シュウ、カンナ。もうすぐ夏休みが終わる。2学期から学校はじまるけどどうする?行くか?」

「俺行く!シグレとユリが学校の話聞かせろってうるさくてさぁ!仕方ないから俺が行ってやる!」

「…カンナはどうする?新しい学校だ。生徒も12人しかいない。行くか?」

「私はユリお姉ちゃんと一緒にいる!一緒がいい!学校なんて嫌い!みんな虐める!私の事くさいとか貧乏って!」

「…そうか、分かった」

その夜、夜中に車の音がして起きたら、お父さんらしき人とじいちゃんが揉めていた。父さんは俺とカンナの寝室に入って何かゴソゴソして帰って行った。次の日4人の絵がなくなっていてカンナは大泣きした。それから暫くして、お父さんがあの絵は賞金が30万円の児童コンクールに出品したら金賞だったから一緒に表彰式に行こうって電話してきた。じいちゃんは怒鳴って、カンナは泣いたけど、俺はカンナの絵が認められたみたいで嬉しかった。

「えー!カンナちゃんの絵がコンクールで金賞取ったの!凄いじゃん!」

「カンナちゃんすごい!カンナちゃんの描く絵凄く上手だったもんね!」

「だろ⁈凄いだろ⁈」

「ちょっとお兄ちゃん⁈私の絵だよ!」

「…みんなでお祝いしましょうか」

「おばあちゃんもっと喜んで!」

「そうだよばあちゃん!」

朝とお昼、俺たちはじいちゃん抜きで祝って、夜に俺とカンナとじいちゃんの3人でお祝いした。じいちゃんは車で2時間かけてケーキを買いに行ってくれた。シグレとユリの分を俺とカンナは置いといてやったら、じいちゃんがもう1個買ってきたからって言われて1ホールを2人で食べた。

「…表彰式行くのか?」

「行かない…あの人と一緒は嫌」

「そうか…」

その夜、戸間を震度8の地震が襲った。

「目を覚ましたぞ!」

「…ここどこ?」

オォォォォと言う歓声が響いた。誰?みんな泥だらけ…軍人さんがいっぱいいる。泣いてる?なんで?

「これで死者0人だ!」

オォォォォと言う歓声がまた響く。何が起きてるの?この管何?俺輸血されてるの?なんで?身体が痛い…。

「おにいじゃん…」

なんかカンナ泣いてる?じいちゃんも?なんで?

「君危なかったんだよ。地震で土砂崩れが起きてねぇ。君の体に柱が刺さって失血死寸前だったんだ。軍人さん達が助けてくれたんだよ」

俺は何本か骨が折れていて本当に危なかったらしい。2週間生死を彷徨ってやっと生きて戻ってきたんだって言われた。

「じいちゃんとカンナは…?」

「今は危ない時期っすからね、安静にしといてくださいっす」

「…貴方は?毎日いますけど」

「俺っすか?シュウ君を救った命の恩人っすよ!」

「そうですか…ありがとうございます」

「気にする事ないっすよ!さぁ寝てくださいっす!」

「名前…なんていうんですか?」

「風の兵隊って呼んで欲しいっす!」

「はい…?」

1ヶ月ぐらいこの意味のわからない兵隊さんと一緒に過ごした。俺はベッドから起き上がれなくて、起きれたのは10月になっていた。起き上がれると色んな人がやってきて色んな説明をされた。

「戸間の南の山の下にあった断層が動いて地震があった。その地震で南の山が崩れて真倉家の畑と家は土に埋もれた」

「死者は奇跡的に0人だった。君は最後の生還者だ。素晴らしい事だ」

「政府はこの戸間を奇跡の町としてナラク国の新再開発地域にした。これから町はどんどん発展していく。新しい家に無償で住めるよ」

「君の生還は奇跡だ。奇跡の生還者のお祖父様は様々な所からスピーチを求められている。そこで政府としては、君のお祖父様を新しい戸間町の市長として迎え入れようと思う」

「君は回復したら戸間町の新しくできるナラク国立八宮学校に通えるよ。サガ開発に力を入れていてね、初等部から高等部まである。君を含めた人たち全員が一期生だ」

「…あの」

「なんだい?遠慮せず聞いてくれたまえ」

「…カンナとじいちゃん以外の人って面会謝絶なんですか?」

「誰か会いたい人でもいるのかな?」

「シグレとユリと2人のおばあちゃんに会いたいです。無事なんですよね?じいちゃんに聞いても避難所にいたけど、別の場所に行った以外教えてくれなくて…調べてもらえませんか?」

「…個人情報だから答えれないんだよ。分かってくれたまえ」

「手紙とか…」

「個人情報なんだよ」

「2人がそんな簡単に…」

「シュウ君!もう寝るっす!熱がやばいっすよ!さぁ大佐は帰ってくださいっす!」

いつもこんな感じで2人の話をすると、風の兵隊さんが止めに来る。

「あの…軍人さん」

「だから風の兵隊っすよ!粋でかっこいいじゃないっすか!」

「軍人さん」

「頑固っすね!」

「シグレとユリの話する度に邪魔してますよね?」

「いやぁそんな事ないっすよ」

「なんなんですか?」

「シュウ君。あのさ、君賢いんだから分かるでしょ?2人の話はしないでって言ってるんだよ」

ビックリした。今までのチャラチャラした感じじゃなくて、あんまり低い声だからその日は何も言えなかった。

「軍人さん」

「なんすか?」

「カンナの金賞の絵返してください。シグレとユリがいるんです」

「シュウ君もしつこいっすねぇ。あんなに脅してもまだ言うっすか?」

「カンナ毎日、新しい2人の絵を探して欲しいって言ったらじいちゃんに絵を燃やされたんです」

「中々酷いっすねぇ」

「なんで毎日俺のとこいるんですか?」

「そりゃ命の恩人っすから!」

「暇なんですか?」

「辛辣っすねぇ!まぁあと2週間で退院じゃ無いっすか!そしたら俺も毎日見舞いにいかなくてよくなるっす!」

「…2人死んだんですか?ばあちゃんも?」

「なんでそうなるんすか⁈」

「死者0人ってことにしたいのかなって」

「やっぱ賢いっすね!」

「違うよって言わないんですか?」

「いやぁ記憶を無くすサガとかないっすかねぇ!」

「俺、お前嫌い…なんで…シグレ達無かったことにしようとしてんの…なんで…」

「シュウ君は賢いっすね。でもその賢さは勉強にいかして欲しいっす。そんで一番偉い人になって俺を楽にさせて欲しいっす」

「何…意味分かんねぇ」

「シュウ君の夢はなんすか?」

「…医者。スーパードクター。ユリもお母さんも治せるように」

「いいっすね!」

「ユリは…死んだんですか?シグレも?ばあちゃんも?」

「だから!3人は引っ越したんすよ!」

「嘘つくな…お前誰?何者?」

「命の恩人っすよ!……泣かないで欲しいっす」

退院した。カンナはじいちゃんに絵を燃やされた。担任祝いに命の恩人でヘラヘラしてる意味の分からない軍人さんがあの絵をくれた。

「絶対に隠し持て下さいっすね」

怖すぎて頷くことしかできなかった。

「カンナちゃんとシュウ君だったね。君たちは心にダメージを負っているからね。カウンセリングをしよう」

そう言って退院後の一年間、特に意味のないカウンセリングをされた。

「カンナってもう絵は描かねぇの?」

「描かない」

じいちゃんが答えた。じいちゃんはあれ以来絶対に2人の名前を出さない。出したら怒鳴った。

「…カンナにやる。カンナの絵だろ」

「なんで…」

「絶対に隠せ。血に誓って約束」

「うん」

じいちゃんは市長になった。俺らは政府が用意してくれた洋風の一軒家に引っ越した。

「あんなボロ家だったのにあっちの方がいいと感じてしまうのはきっとワシが歳をとったせいだな」

じいちゃん…?泣いてる?

「シュウ行くぞ」

政府は新開発地区に指定した後、土地を全て買い取った為、殆どの人はみんなお金を持って遠くの地に行ってしまった。代わりに住宅地ができてショッピングセンターができて、大量の娯楽施設ができた。たくさんの人がやってきて人口は何十倍にもなった。

「お前!ふざけるな!帰れ!今すぐにだ!」

「おーお前ら久しぶり!家が新しくなったって政府から聞いてなぁ。中々良い家じゃねぇか」

お父さんは当たり前かのようにある日、戸間の家に来てずっと居座った。じいちゃんは毎日怒鳴ってやがてあの人は家に寄り付かなくなった。

「行ってきます…」

新しい学校は彩都の時とあんまり変わらなかった。俺もカンナも口下手だし、特技もないし、サガも弱かったから友だちがあんまり作れなかった。俺は無口になった。

「この度はご愁傷様です」

「はい…」

じいちゃんは二年後、脳卒中で倒れて死んだ。学校から連絡が来て、俺とカンナが病院に着いたときには亡くなっていた。シグレ達の話をするたびに最後まで怒鳴って死んでいった。父がじいちゃんの跡を継ぐとか訳の分からないことを言い出した。酒と女にしか溺れていない父は戸間町の正規職員になったらしい。家に帰ってきていないからわからない。どうでもいい。

「学校は?いかねぇの?」

「行かない」

カンナはじいちゃんが亡くなった、10歳小学4年生の時不登校になった。俺がシグレ達と出会って別れた年齢とおなじだった。同じ学校だから先生によく呼び出されて色んな文句を言われた。俺はカンナが嫌いになった。カンナは俺と喋らなくなって部屋に閉じこもるようになった。

「真倉お前の妹なんだけどさ、ホームスクール申請ってのするか?新しくできた制度なんだけどよ…」

「お願いします」

「保護者は?確かお父さんがいた…」

「いません」

あれから3年後ホームスクール制度ってのができた。中1の担任がクソめんどくさそうに手続きをしてくれた。代わりに中学3年まで学級委員やれって言われた。理由は決めるのがだるい。お前なら部活してないし友達いないから放課後残れるだろ?って言われてコイツが3年間担任だって思ったら吐き気がした。






「涙止まったっすか?」

松澤さんが言う。物凄く恥ずかしさが今となって俺を襲っている。俺は結局松澤さんが泊まるホテルの部屋に着くまでずっと泣いていた。

「ご迷惑をおかけしました…」

「いいいんすよ!それより家に連絡はしたっすか?」

「しました。カンナは既読無視でしたけど」

「カンナちゃんも相変わらずっすね」

松澤さん見舞いにきたカンナに抱きついて、ガチ拒否されてたなそういや。

「…カンナに今度会いますか?」

「会いたいとこなんだけど過剰な接触はNGって上からきついお達しがあるんすよ」

またそれか。

「…教えてもらえますか?」

「なんの話っすか?」

「…ユズについてです」

俺なりに物凄く真剣な表情をしたが松澤さんは笑顔の表情を崩さない。

「だから機密なんすよ。まぁ聞いてもダル」

「真剣な話をしているんです!」

最悪…強行突破だ。シンはポケットにある。

「サガで脅そうとしても無駄っすよ。俺一応軍人なんすよ。ある程度の訓練受けてるっす」

「分かってますよ。そんな事…」

また涙が浮かんでくる。

「困ったっすね…泣かせる気はないんすよ」

松澤さんが頭をかきながら言う。

「教えてあげたい気持ちはすごくあるんすけど、ユズ様が言わない限りは教えれないんすよ」

「ユズには何度も聞いてますよ!その度にはぐらかされるんです!」

「まぁそうっすよね」

だからなんでそんな笑顔で言うんだよ…。涙が頬を伝う。抑えようとしても止まらない。また泣きじゃくる僕を松澤さんがなだめる。

「今日のところは寝た方がいいっす」

「どうしてもだめですか?ヒントだけでも!」

「俺まだ政府に殺されたくないんすよ」

「…俺を連れてきた事、報告書に書いたらどっちにしろ殺されるんじゃないですか?」

「中々言うっすね!」

「俺だって5年で成長したんですよ!」

「真倉君は分かってないっすね。俺も殺されるかもしれないけど、君が一番危ないんすよ」

松澤さんの顔から初めて笑みがなくなった。

「…教えてくれないなら見に行きます。パーティーでしたっけ?俺も連れて行ってください」

「いや流石にそれはまずいっすよ。名取さんに見つかったら2人して瞬殺っすよ」

「変装していきます!なんでもいいんでお願いします!」

深々を頭を下げる。

「…分かったっすよ。無断で乗り込まれても困るっすからね。ちょっと待っててほしいっす」

松澤さんはホテルの部屋から出ていった。ホテルの窓から彩都の景色を見る。俺…本当に彩都に来ちゃったんだな。

「お待たせしたっす」

30分ぐらいして笑顔で松澤さんが部屋に戻ってきた。何か持っている。

「真倉君、職業体験してみたくないすか?」

「してみたいです!」

「明日ギリシア大使の歓迎会がこのホテルで行われるんすよ。人手が全然足りないんすね。明日8時集合だけど大丈夫っすか?」

「大丈夫です!」

もうなんでもいい。とにかく知りたい。

「じゃあこの服着て明日朝8時にこのホテルの鹿の間に集合らしいから。そこに行けば佐藤って人が待ってるっす」

制服…とウィッグ?カラコン?よく分からないけどいろんなものが入った紙袋が投げられる。

「変装セットっすよ!今日は色々俺に聞きたそうっすけど、残念ながら会議あるんすよ。寝て明日に備えて欲しいっす」

「わかりました…」

「ばれたら2人してとんでもないことなるんでくれぐれも注意して欲しいっす。後、今日は関係者うろついてるんで部屋から出ないで欲しいっす。わかったすか?」

「…分かりました」

「後、ユズ様にはくれぐれも秘密っすよ!」

「はい…」

「じゃあいってくるっすね!おやすみ!」

「おやすみなさい…」

松澤さんはまた何処かに行ってしまった。聞きたい事は山ほどあるけど今日は疲れた。

風呂に入りベッドに入ったところで電話が鳴る。

ユズだ。

「…はい」

「あっ真倉?飛行機大丈夫だった?心配で。松澤さんも最後までこないし。今どこ?」

「松澤さんの泊まる部屋にいる」

「そっち行きたいんだけど何号室?」

思わず飛び起きる。

「425室だけど…。今俺1人し来ない方がいいよ」

「別に大丈夫でしょ」

流石にまた泣くところを見られるのはいやだ。

「…とにかく今日は無理。明日あるし」

「何かあるの?」

松澤さんと秘密にすると約束した手前話せない。

「とにかく来るなら明日にして」

「分かった」

「じゃあおやすみ…」

「おやすみ」

電話を切ってベッドに寝転ぶ。とにかく寝たいのにユズからのメッセージが来てる。

「チーズケーキ冷蔵庫入れてくれた?」

「いれてる」

「私の分1ホールあるよね?」

「あるよ」

「真倉」

「何?寝たいんだけど」

「明日晴れかな?晴れだったら良くない?」

「スマホ見ろよ」

「聞いてみただけ」

「多分晴れ。おやすみ」

「おやすみ」

メッセージがやっと途切れた。ユズが…分からない。シグレなのか?でも髪の毛…。いつの間にか

俺は熟睡していた。

松澤さんは朝起きるといなかった。用意してくれていた変装グッズに着替える。

「カラコンって印象結構変わんな…」

ユズはカラコンを毎日つけて学校きてんのか…。

「あっやべ。間に合わなくなる」

制服に着替えると集合場所にむかった。よかった間に合った。あとは佐藤さんって人をを探すだけだ。

「おい」

どすの利いた声がして振り返ると、見たことない大きさの男が立っていた。

「あの…」

身長は180?を超えている。真っ白なコックの服を着ているはずなのに真っ黒に見える。てか真っ黒な殺し屋にしか見えない。

「真倉君…だよね?」

怖すぎる。まさか?嘘だよな?

「はい…」

「ん?なんて?」

「はいっっ!!!」

松澤さんなんかにやっぱ頼むんじゃなかった。あの軽薄な顔が脳裏によぎって殺意が湧く。

「俺は佐藤という。宜しく」

佐藤なんて普通の苗字をしてたから優しそうな人を想像していた。名前とのギャップあり過ぎんだろ。ていうか、目線が怖過ぎて絶対に顔見れない。

「おい、聞いてるか?」

「はいっっ!!!」

下手すれば殺される。なんならもう目線が僕を殺しにかかってる。

「まぁいい。今日は色々仕事があって人手が足りてないんだ。1日俺の雑用を頼む。まぁ俺の仕事は比較的暇だから安心してくれ。」

「はいっ!!!」

仕事って何?殺し?とりあえず大声で返事をしろと本能が告げているので返事をした。

「いい声だ。じゃあ行こう」

厨房に向かう。

「あの…」

「なんだ?大きな声で言ってくれ」

「はいっ!仕事ってなんですか⁉︎」

「お菓子作りだ。こう見えてもパティシエだ」

そう言って佐藤さんははにかんだ…つもりだろうが俺の頭には進撃の巨人が脳裏に浮かんだ。

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