第4話 ユズ、いじめ発覚。名取
目覚めると朝の10時だった。
昨日…確かプールで足切って…真倉が叫びながら連絡して…やっちゃった。真倉は?大丈夫だったかな?怒られちゃったかな…。
「てか痛った」
そういや右足怪我したんだった。
「起きた?」
「レイ⁈今日水曜日だよ⁈」
「昨日ユズが倒れたって聞いて飛んできた」
「学校は?」
「休んだ」
そんな当たり前の顔して言われると何も言えなくなる。レイは物凄く、物凄く、過保護で心配性だ。
「私昨日確か…真倉の前で倒れて…真倉は?」
「…ユズがイジメられてたのを無視していたクソ野郎なら父さんから取調べ受けて全部吐いたよ」
あっこれ全部ばれた後だ。まぁ…倒れちゃったら仕方ないか。
「…レイ、クソ野郎じゃなくて真倉君って言うの。てゆうかなんで知ってるの?」
「クソ野郎が吐いた録音データ聞いた。事実かどうかユズにも聞かないといけないって名取さんがいってたよ」
クソ野郎の部分は修正しないんだ。
「…怒ってる?」
「怒ってないと思うの?」
訂正。レイは物凄く、物凄く、過保護で心配性で怒るとものすごく怖い。
「ごめんなさい…」
「…もう二度としないで。ご飯は部屋で食べる?」
「下行く」
「じゃあ下で待ってるね」
「うん」
とりあえず身体を確認する。血は止まってる。左肩に打ち身…アザと縫われた右足の傷。
針の痕が1つ。てことは点滴もされたのか。
「はぁ…」
思わずため息がでる。罰は確実だ。それよりも迷惑かけたみんなに謝らなければ。真倉にも。
「携帯…」
あっ真倉から1件のメッセージ来てる。「自分の知っている範囲で全部話しました。ごめん」真倉らしい簡潔な文だ。少し笑った。
ユリからメッセージが来ていないと言う事はおじさんがまだ話してないと言う事だ。よかった。ユリは留学中だから心配はかけたくない。
これ罰は確実だよね。あっ…無断のサガ使用もバレちゃってるのか。
「下いこ…」
綺麗にアイロンされた服を着て下に向かう。
「おはようございます…」
名取さんだ。絶対昨日のこと怒ってるよ。思わず後ろに下がってしまう。
「昨晩はよく眠れましたか?」
「おかげさまで…その…すみませんでした」
「私は何もしてませんよ。お礼なら護衛の方に」
「あの一緒にご飯食べますか…?」
「命令ですか?」
冷たい声がダイニングに響く。やっぱり凄く怒っている。
「いいからユズこっち来て。早く食べよ。おやつの時間だけどユズ今週いっぱい禁止らしいから」
レイが言う。
「えぇ…」
ショック…。叔父さん段々私が一番ショックな罰わかってきたなぁ。
「僕の分あげるから元気出して」
「ちょっとレイ様⁈」
「今回はユズも可哀想だし」
「そうやってレイ様が甘やかすからユズ様がどんどんいうことを聞かなくなっているんですよ!」
名取さんは相変わらず厳しい。
「ごめんなさい…」
「ユズ、謝らなくていいから。名取ちょっと言い過ぎ」
「…失礼しました」
「仮眠してきたら?疲れてるでしょ。ほらユズも言ってあげて」
「あの…すみませんでした。名取さんも寝てきてください」
「…分かりました。しかし、ユズ様からも今回の事、改めて聞いて今日中に文書にまとめなければならないので、3時間のみにします」
「文書にまとめるのは僕がやっとく」
レイに言うなら名取さんよりもまだマシだ。少しほっとする。
「ありがとうございます。念のため録音はしておいてください。では3時間後に。」
名取は自室に戻っていった。料理がきた。
しじみ汁に鰻、ひじきもある。鉄分づくした。
「じゃあユズ、僕は部屋で待っておくから来て」
「分かった」
静かな朝…いやもう昼か。相変わらずだだっ広い机に自分一人。
鉄分尽くしのご飯を食べて部屋に戻る。
レイは私の部屋で課題かな?凄い真剣…。
「ユズ。扉の前でじっと見ないで、恥ずかしいから」
バレてたか。
「課題してたの?」
「うん、今日休んだ分」
「凄い難しそう…」
レイはいつも忙しそうだ。
「毎週わざわざ戸間まできてくれなくていいよ。彩都から毎回飛行機で来てるんでしょ?」
「別にいいよ。半年間だけだし。ユズが育った場所見てみたかったから。でも、次こうゆうことがあったら僕も父さんも問答無用で彩都に戻すからね」
本気だ。レイはこういう時誰よりも怖い。
「ごめんなさい」
レイの顔を見れなくて俯く。
「あぁごめんユズも辛かったよね。こうゆうときは買い物って言いたいんだけど外出禁止だし…」
「えっ?」
「後これからは定期的に持ち物検査するって」
「えぇ…」
どうやら叔父さんもかなり怒っているらしい。ますます落ち込んでしまう。
「じゃあ早速だけど時間ないし話聞くね。まず最初の原因なんだけど…」
真倉のおかげで私は少ししか話さなくて済んだ。
「…終わり」
空気が重い。真倉もこんな気持ちで話したのかな。私一応被害者なはずなんだけど容疑者並みの空気だよコレ。
「…このマツリって子僕が殺してあげたい」
レイがキレてる。やばい。
「私としては大ごとにはしたくないんだよね。それにホラ!気のせいかなってのも…あるかなぁって」
レイの顔見たら後半ほとんど声出なかった。
「…まぁ確かに証拠はないね。問い詰めればいい話だけど」
空気が凍る。マツリ達に一番悪い事しちゃったかもしれない。
「レイ、私も悪かったし今回は許して」
「…まぁ、今回は許すけど次イジメられたらちゃんと言ってね。じゃないと僕が殺しちゃうかもしれないから気をつけて」
「レイがいうとマジで怖い」
「そりゃマジだから」
笑って言われると余計に怖い。
「…とりあえず、この金魚の糞2人に話を聞いてからマツリって奴の家に行かないとダメみたいだね」
「誰が行くの?」
「名取さんじゃない?後脅しように佐藤さんとか連れて行くんじゃないかな」
「佐藤さん…顔がダントツで怖いもんね…」
「サガだけでいうと松澤さんなんだけど。あの人怖そうには見えないもんね」
「そうなんだ!」
へー知らなかった。松澤さんが一番強いんだ。
「じゃあユズ、僕は下で文書まとめてくる。もうすぐ松井先生が来るしユズはゆっくりしてて」
「分かった。ありがとう」
無意識のうちにため息が出る。コンコンと音がした。多分先生だ。
「どうぞ」
大きめの声で言う。
「ユズちゃんこんにちは。よく眠れたかい?」
松井先生は宮家専門のお医者さん兼学者さんだ。私の記憶にないお母さんも診察してたらしい。
「おかげさまで」
「昨日の点滴に新しい成分を入れたのがよかったのかな?」
松井先生が笑うとできる目尻にシワが好きだ。
「今日は調子いいみたいだし簡単なバイタルチェックだけにしてあとはおしゃべりしようか」
そういって先生はポケットから飴を取り出した。
「内緒だよ?」
先生大好き。飛びつきたくなっちゃう。
「うん。念の為普段の薬に加えて、コレも出しておくからこれ飲んで今日は早めに寝なさい」
「薬甘いやつがいい」
「分かったよ」
先生は優しい。名取さんの半分でも先生の優しさがあれば良いのにと思ってしまう。
「先生」
「なんだい?」
「お母さんも甘い薬好きだった?」
今日は珍しく自分からお母さんの話を持ち出した。
「お母様も好きだったよ」
松井先生が笑いながら言う。
「お父さんは?」
「お父様は…あんまり好きじゃなかったと思うよ。ワシは直接診てなかったけどね」
「そうなんだ」
私本当に全然知らないんだなぁ。
「松井先生にしかお母さん達の話聞けないから助かる。なんか他の人には聞きづらくて」
「そうかい。まぁ気分の良い話ではないからね。話をできる友達はいないのかい?」
「家の話はしないって約束したからね。真倉にも話してないよ」
「真倉君は元気かい?もう4年会ってないからねぇ。どんなふうに成長したのかな?」
「あのね…」
「松井先生、ユズ様。今よろしいでしょうか?」
名取さんの声だ。
「どうぞ」
そう言うと同時に名取さんが入ってきた。
「じゃあワシはレイ君をみてくる。飴は隠しておきなさい」
最後は小声で私に言ってくれた。
「ありがとう」
ニコッと笑って松井先生は帰っていき、入れ違いに無表情の名取さんがくる。
「おかげでぐっすりと眠ることができました」
無表情で言われても…。今回の事といい、名取さんには迷惑かけてばっかりだ。
「レイ様の文書読みました。二、三点だけ追加で上げておきたいので嘘偽りない答えをお願いします」
名取さんの冷たい目で見下ろされると怖くて目が合わせられない。でも怯んじゃダメだ、真倉の事を聞かないと。
「真倉に嘘の報告をしろって私が脅したの」
「真倉君は自分の意思だと」
「私がそう言えって言いました…」
怯んじゃいけないと分かってはいるけどやっぱ怖いものは怖い。
「分かりました。ではそう記述しておきます。次はありませんが」
「もうしません」
声が自分でも小さくなるのを感じた。
「ユズ様」
冷たい無機質な声なのに怒りは感じる。
「ユズ様のご心配をかけたくないお気持ちはわかります。しかし倒れられてからでは遅いのです。ユズ様は自分が国力を左右させる存在だと言う事を未だ自覚していらっしゃらないようですね。大体ユズ様は…」
この説教は暫く続くなぁ。別にさ、なりたくてなったわけじゃないんだからって言ったら怒られるから黙っとこ。
「…分かりましたか?」
「はい。ごめんなさい」
「まぁ…今回はこちらにも落ち度はありました。家同士の解決にして政府には報告致しません」
「ありがとうございます!」
「次はないですよ!」
「はーい!」
「ちょっとユズ様⁈先ほどの私の話をキチンと…」
名取さんのお説教がまた始まろうとしたときドアを叩く音がしてレイが入ってきた。
「名取さん、お説教はその位にして。ユリが倒れたって聞いて心配してる。電話してきたら?」
あっやっぱバレちゃったか。でもユリには真倉のことも話したいし…。
「レイ大好き!ありがと!」
「あっ!ちょっ!走らないでくださいよ!」
名取さんが私を捕まえないうちに急いで部屋を出る。ユリに早く話したい。真倉は変わったようでやっぱなんも変わってなかったよって。誰にも聞かれないように車の中でしないと。
「あっねぇユリ!聞いて聞いて、真倉がね…」
いつか4人でまた一緒に遊びたいな。
ユズ様は足の怪我なんかなかったかのように身軽に部屋を出ていかれた。
「全く…ユズ様には頭を悩まされますよ」
「でもユズ…こっちに来てから楽しそうだね」
「…レイ様、そんな怖い顔しながら言う台詞ではないです。たった半年と少しなんですから我慢して下さい」
「分かってる…」
「…まぁお気持ちは分かりますが。それにしてもユズ様はどこに行かれたんでしょうか?」
「車の中。誰にも聞かれたくない話みたいだね」
即答…レイ様も別の意味で私の頭を悩まされる。
「レイ様…。またユズ様のスマホにGPSアプリ入れましたね」
「ユズには内緒ね」
「世の中ではそれをストーカーというんですよ。ユズ様に知られたらドン引きですよ」
「ユズが秘密主義なのが悪い」
全く、これだから…。毎回夜中に消さないといけない私の身にもなって下さいよ。
「…何かあれば情報こちらにもくださいよ」
「じゃあ代わりクソ野郎の情報くれない?」
「クソ野郎…あぁ真倉君のことですね。殺しにいきそうなので嫌です」
「なんであんな奴が監視者なの?」
「…機密です。では私は今から3軒も家庭訪問しなければならないので失礼しますね」
「分かった」
本当に皆様、私の頭を悩まされる。こちらは内々に解決しなければいけないのに。
「行きますか…」
この半年とちょっと何事もありませんように。
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