第3話 真倉とユズ 名取
いつの間にかチャイムはなってて俺らは慌てて教室に戻り授業を受け放課後には無事、先生のお叱りを受けた。
「へぇ、瑜紅を保健室に送った後寝てしまい、起きたら授業が終わっていたと。へぇ。」
まぁ信用されるわけがない。俺は俯く。
「お前ら変なことしてたんじゃないだろうな。ダメだぞ。いくら幼馴染と運命の再会かもしれないが不純異性交流は」
「そうゆうんじゃないんです」
ユズ…さんだいぶ俺と顔近かったな。
「なんか思い出したような顔してるな。あぁ羨ましいな。青春じゃねえか」
「嫌、だから本当にそうゆうんじゃないです。」
「まぁそうゆう時期もあるわな。何もかもに反抗したい時期。誰でも通るから気にすんなよ」
なんか先生にドヤ顔言われると特別ムカつくな。
「先生絶対童貞だろ」
ボソッと呟く。
「ん、なんか言ったか?」
「いやなんもないです」
「そうか?なんか今絶対俺の悪口言ったから気がするんだが?あーにしても良いなぁ、青春」
次の日登校すると当たり前のようにユズさんは僕に話しかけてきた。
「おはよう」
「…おはよう」
「元気ないね。どうかした?」
誰のせいだよと思いつつ席に座る。
「マツリさんと話してたんでしょ。戻りなよ。俺あんまりユズ…と話す気ないんだけど」
ぶっきらぼうに返事する。
「ごめん、怒ってる?先生に私のせいだって朝、説明したんだけど」
「昨日にして欲しかった」
「昨日は用事があってさ!ほんとごめん!」
全く反省してない口ぶりでいうので少し笑ってしまった。
「もういいよ」
「ユズー!何してんのー。そんな根暗と喋ってないでこっち来て!」
マツリがユズに抱きつく。よっぽどユズを気に入ったらしい。マツリの取り巻きたちは少し嫌そうだ。
「女子って大変だな…」
「何陰キャ⁉︎なんか言った⁉︎」
マツリは怖いので僕は寝るふりをした。
マツリはクラスというかこの学年の女王だ。可愛らしいルックスに加え、両親はどちらも一種で政府高官。お兄さんは一種でもはいるのが難しいとされるハーレスにいるらしい。そんな華々しい家系に生まれた彼女もこの歳で2種だ。このまま努力し続ければ一種になるのも時間の問題だろう。
なぜこんな学校に来たのかはわからないがまぁとにかくこのクラスは彼女を中心に動いている。
「昨日は家に招待してくれてありがとう」
マツリは彼女を家まで招待したらしい。これは確かに周りの女子が敵視するのもわかる。
「全然ー!今日は放課後お揃いのもの買いに行こうよ!」
「おーい席つけー!朝のHR始めるぞー!」
「じゃっまたね」
先生がいいやっとマツリは席に戻った。
「今日はなー政府から注意喚起のお知らせだー。アプリ送信したから見ろー!」
僕も新しいウォッチで開く。そういえば昨日連絡手段がなくて名取さんに報告できなかったの忘れてた。後でユズさんに言わないと。
「最近なー10代の違法開放剤使用が多くなってきていると報告が入ってる。お前らもそんなことはすんなよー!」
先生が呼びかける。確かに最近危ない。
開放剤は名前の通りサガの力を強めるとされている薬だ。一時的に血を活性化させサガの力を上げるとされている。医者の処方するものは安全だが、今出回っているのはほとんどが危ない薬と混ぜて作られているものである。最近学生が飲み一時的にサガの力を強めさせ、サガを暴走させだ結果死人や怪我人を巻き込む事件が多発している。
「気持ちは分かるわ…」
クラスの誰かが呟く。
「ほら今日は1時間目からサ開だ。お前らだるいだろうが頑張れよ」
マジか。後ろを見るとユズがニコニコ笑ってた。
「それでユズ…昨日の続きなんだけど」
「やっとさん付けやめた!」
「いや、俺に授業サボらせた上にまだ「さん」つけてもらえると思ったの?」
「えーじゃあしてよかった!」
え?一軍女子ってこんななの⁈普通謝るくね⁈
「なんかさみんなといる時とキャラ違うくない?もっと大人しい感じじゃん」
「だって真倉に見せたって無駄じゃん。どうせキャラなんてすぐ剥がれるだろうし」
「…」
なんで俺に見せたって無駄なの?そんな下に見てるか眼中にないってか?
「そうだ。名取さんの連絡先知ってるでしょ。渡して欲しいんだけど」
「あっ!保健室ついた。送ってくれてありがとう。今日は授業邪魔しないよ!」
「当たり前だよ…じゃあ行くわ」
「いってら」
「…え?」
「え?いや、いってらって。行ってらっしゃいって意味だよ」
「あっうん。行ってくる」
「いってら」
なんか凄い懐かしい声がしたと思ったけど、気のせいか。声…ちょっと似てるな。顔も…いや目の色が違うしあんな細くなかったな、うん。
授業が終わってまた迎えに行く。これ結構面倒だな。まぁ仕方ないけど。
「てゆうかさ私たち連絡先交換してないよね。連絡先教えてよ」
「無闇に連絡しないって約束するなら」
「えー!私のこと毎日観察するくせにー」
「誤解生むような発言やめろよ!俺だってしたくてするんじゃないから!」
「じゃあ交換しよ。これ私の連絡先ね」
「…分かった」
なんか乗せられた気分だがまぁいい。
「ユズおかえりー!ねっ今日、放課後買い物行くって言ってたけどホノカがユズの歓迎パーティーしよって言ってさ!昨日私がユズのこと独占しちゃったしクラス女子全員でパーティすることにしたの!来放課後ちょっと教室で待っててよ!迎えに行くから!」
どうやら女子達は歓迎する方向で行くらしい。
「ありがとう!」
ユズはもの凄く嬉しそうな笑顔で言った。放課後になりクラスの女子は全員が即座に出ていった。
「これ毎日かよ…」
夜になってまだ慣れない報告書を書きを おえたと思ったら電話が来た。
「ユズ」と表示された電話だ。無視していたがずっとなり続けるので取るしかなかった。
「…はい」
「やっと出た!」
「こんな時間に何のようですか?」
「いやー今歓迎パーティーみたいなの終わって帰るとこなの」
「それは良かったですね」
「なんか冷たくない?」
「てかもう20時だろ。親心配してないの?」
「だから今迎えの車待ってる」
お嬢だなこいつ。
「ねぇねぇそんな冷たい声しないで。聞きたいことあるだけだから」
「それはメッセージ送ってくれたら簡単なんだけど」
「送ったよ!全然既読つかないから」
そういえば無視してたな。だからって電話かけてくるか普通?常識ないタイプだ。
「きいてる?」
「…うん。で、何聞きたいことって?」
「あのさ、前から三列目のさ三つ編みの子いるじゃん?」
「白川さんね。俺と同じ学級委員」
「そうそう。あの子って私のこと嫌いだったりする?」
「いやまだ話してもないのに嫌いとかないでしょ」
「でも今日来てなくてさ。他の子は来てくれたんだけど」
あぁなんとなく分かった。
「それは多分マツリが呼んでないだけだから気にしないでいいよ」
「えっなんで?」
「白川さんってほらサガ自体は強いからマツリと最初は仲良かったんだよね。でも白川さんみんなの前だとうまくサガを使えなくて。それが原因か知らないけどマツリが無視するようになってそれで終わり。俺もあんまり委員の仕事以外では喋らないようにしてるからユズも気をつけろよ」
「…別にマツリが無視したからって真倉まで無視する必要あるの?」
あー出た出た空気読めない優等生発言。
「でも白川さんもずっと本読んでるしあんま喋んないから悪いんだよ。みんな距離も置いてるだけ。白川さんも何も言わないし本人も満足してんじゃない?」
「なんか…真倉変わったね」
なんか変わった?お前本当に誰だよ?
「お前マジで俺の何を知ってるんだよ?」
「ううん。やっぱいいや。迎え来た。きるね」
「ちょっ⁈…まじで切りやがった」
そう言って彼女は電話を切った。
次の日。いつものように教室に行くとガヤガヤしている。なんなんだ。みんなの視線の先には、白川さんとユズとマツリがいた。最悪だ。
「だから今日の朝ちょっと早く来たら白川さんが居たから話しかけただけだよ。それで話が盛り上がっただけ」
「だから喋らない方がいいよって言ったよね?私の忠告を無視するってマジ何様のつもり?」
ヤバい。よく分からないけどマツリがユズにブチ切れてるのは分かる。
「どういうこと?」
俺は野次馬の1人に聞いた。
「それがさ、昨日マツリちゃんがユズちゃんに白川さんとあんまり話さない方が良いよって言ったのに、マツリちゃんが来た時楽しそうにユズと白川さんと話してたからマツリちゃんが怒って…」
凄いどうでもいいことだが彼女にとって良くないんだろう。
「折角、私が忠告してあげたのにマジで何様⁉︎」
いやお前こそ何様だよ?って思うけど面倒ごとには巻き込まれたくないし怖い。
「別に誰と話そうが私の自由だよ。それより、白川さんに聞いたら昨日別の場所でずっと待ってたらしいよ。私全員でって聞いたんだけど」
「何⁈私がやったって言うの⁉︎」
やばいマツリ本気で切れてる。俺昨日ユズにちゃんと言ってあげたのに!空気読めよ。
「別にそうだとは言ってないよ。ただ私が誰と喋って何をしようがそれは自由でしょ」
「自由だけどやめといた方がユズのためって言ってあげてんの⁈わかんない⁈」
「…わかんない」
「…もういいわ」
マツリが言って席に戻ると女子が全員マツリの元へ行く。ユズ終わったな。
「おーい。何やってんだー。席つけよー」
先生がきてみんなは席に戻った。
マツリは腹黒いから、わざわざ先生の前で喧嘩はしない。いつも通りの授業が始まった。
しかしこれはまずい。俺はクラスのドタバタには巻き込まれたくない。でもユズの面倒は見なきゃ行けない。最悪だ…引き受けるんじゃなかった。
「次、サ開だよ。保健室つれてって」
ユズの声でハッとした。もう5時間目か。相変わらず笑顔なユズに腹立たしさすら覚える。
「お前なんであんなことしたんだよ」
「別に話しただけだよ」
「昨日関わるなって言ったよな?」
「別にそれは私の自由でしょ?何?なんか私間違ったこと言ってる?」
「…もういいよ」
こいつホント空気読めねぇな。いくら二種だからって流石にまずいだろ。馬鹿じゃねぇの。
「…でもなお前マツリはクラスの女王だそ。これからどうなっても知らないからな」
「私間違ったことしてないよ」
だからウザイんだよな。その真っ直ぐな感じマジウザイ。空気読めよ。
「…正しければいいって訳じゃないんだよ。頼むから大人しくしといて。俺報告書に書くこと多くなるし…悪いけどドタバタに巻き込まれたくないし、俺とは教室で喋りかけないで。後昨日みたいな電話とかメッセージも正直ウザイからやめて欲しい。頼むから俺に関わらないで」
言ってしまった…。やばい泣いたりとかしないよな。こうゆうタイプすぐ泣いたりするからウザイんだよな。
「…報告書には書かないで」
は?そこ?意味わかんないんですけど…。
「…分かった。けどその代わり頼むから俺を巻き込まないで。教室で話しかけないで」
「…うん」
その後は無言のまま保健室についた。俺は悩んだが、今日の事は報告書には書かなかった。
次の日の朝、やっぱりというかもう誰もユズには近づかなかった。でも、ユズはあんまり気にしていない様子で白川さんと話していた。
ユズはちゃんと言ったことを守ってくれて俺に教室で喋りかけてこなかった。少しの罪悪感あるけど。
「次、サ開だぞー!」
まぁこの時間ばかりはユズを送らなければならない。
「…あのさ別に保健室までの道のりなら喋りかけてくれてもいいよ。気まずいし」
「…報告書かかなかった?」
「…あんなんただちょっと揉めただけだろ。別に書く必要ない」
「ありがとう」
「別に。巻き込まないでいてくれたらいいから」
言い方結構キツかったのに、ユズが笑って頷くから罪悪感が胸を痛めつけた。
まぁやっぱりというかなんというかユズはクラスの誰からも話しかけられなくなった。でも、ユズは全く気にしていない感じだし、白川さんとは仲良さそうに喋っていたので余計にマツリを怒らせた。
ユズと俺と喋る時間は相変わらず保健室までの道のりだけだ。
「…今日は何無くなった?」
「数学のノート!あれないと困るんだよねー」
「…先生に言わないの?」
「私が無くした可能性もあるしね!あっ書かないでよ報告書には!」
「何回も聞いた」
「いっつもありがと」
「別に」
俺はもう喋ることも保健室の前でしかしなくなった自分がめちゃくちゃ嫌になる。別コイツ悪い事はしてないしな…。
「それより、真倉も誰からも喋りかけてもらってないみたいだけど大丈夫?私のせいだったら本当申し訳ないっていうか」
前言撤回。そうゆうとこがいじめられるんだよ!もっと空気を読め!空気を!
「…俺は元々喋らないだけだから」
「そう?ならよかった!」
マツリがムカつく気持ちわかる。
ユズは本当に何も誰にも言わないし、俺も報告書には書かなかった。平気な顔して学校に来るからどんどんイジメもエスカレートして行った。
俺とユズは保健室までの短い会話だけどだいぶ打ち解けて行った。
「…なぁ最近ひどくね?」
「別に足引っかけられたぐらいだよ」
「…でもアザできてんじゃん。報告書に書いた方が良くない?なんとかしてくれんだろ」
「大丈夫だよ。もうすぐ夏休みだし」
「いや俺ら夏休みは夏期講習と補習あるけど。一応小中高一貫校とは言え世間的には受験生だし」
「…カキコウシュウ?ホシュウ?なにそれ?」
知らなかったのかよ。先生ちゃんと説明しとけよな。
「…この前のテスト赤点とかあった?」
「国語以外赤点だけど…」
嘘だろ…?思わずユズを見るが不思議そうな顔されても困る。てかコイツ馬鹿だったの?政府に協力するぐらいだから頭良いのかと思ってたよ…。
思わず頭を抱えるとユズは慌てて言う。
「あれだよ!数学のテストの時は筆箱のシャーペンがなかったんだよ!ホントのほんと!」
「あっても赤点だろ?」
「シャーペンなかったのは報告書に書いていいよ!数学のテストの時って書いてね!」
「…ていうかなんで報告書なんか」
「あっついた!」
いっつもこれだ。こうゆう話題になるとユズは話を逸らす。まぁ面倒ごとならいいんだけどさ。
「…じゃあ行くわ」
「いってらー」
顔見えない状態で声聞くと…似てるんだよなぁ。
まぁなんだかんだで月日は流れていった。俺は報告書に毎日特に変化なしって書いて送るだけ。こんな楽な仕事で月30万貰えて特別推薦?かなんかくれるってどういう事なんだろうか…。
そんなイジメ問題は最悪な形で終わりを迎えた。
委員長会議で遅くなった俺と白川さんが教室に戻ると珍しくユズがまだいた。
「待っていてくれなくてよかったのに」
言葉とは裏腹に白川さんの表情は嬉しそうだ。
「待っていたら、先生にプリント整理頼まれてちゃってさ。悪いんだけど先帰って」
「手伝おうか?」
「いや重いし真倉に手伝ってもらうよ」
「えっ?俺?手伝うの?」
思わぬ飛び火だ。
「3人でやった方が早く終わるよ」
「いや、本当にいいよ!真倉力持ちだし!」
「そう…?じゃあ先帰りますね」
「うんまた明日!」
白川さんは帰り暫くの沈黙がながれる。
「…プリント整理するんじゃねえの?」
「嘘ってわかってるくせに」
「今度は何されたんだよ?前みたいに教科書、俺名義で買うのやだから」
「何のための30万よー!ケチ!」
「ユズの方が金持ちだろ!毎回車で送迎してもらってんの知ってんだからな!」
「いやぁ親が過保護でさ。恥ずかしいからちょっと早い時間とかに送ってもらってるんだけどやっぱバレる?」
てか本当コイツのことわかんねぇ。転校してきたばっかのくせにしょっちゅう学校休むし、ガチでサ開一回も来ないから二種って言われてもピンと来ないし。
「…それで今日は?」
「いやぁ。今日はねーカバン一式がないんだよ!帰れない!」
「…マジ?」
流石に酷すぎねぇか?やっぱ報告…。いや、ユズがいいって言ってるしこれで俺がチクった事がバレたら次は俺だよな?それは嫌だ…。こんなこと考えてしまう自分も嫌だ。
「で…俺にも探すの手伝えと?」
「ガリガリ君一個でどう?」
「金持ちのくせにケチだな」
「仕方ない。ハーゲンダッツ」
「のった」
探すといってもマツリたちのことだ。炎サガで燃やしている可能性もある。
「とりあえず俺教室回って探すわ」
「じゃあ私中庭とか探すね!」
「了解」
ユズは足早にかけていった。
「これは流石に報告しないとかもだな…」
とにかく探そう。焼却炉に準備室。一通り探したがなかった。電話が鳴った。ユズだ。
「見つかった?」
「見つかった。今プールにいるんだけどさぁ…」
バッシャンと大きな音がして電話の音がなくなった。嫌な予感がしてプールに走った。
「おい!何やってんだよ!」
最悪だ。俺の目に飛び込んできたのはシンを持っているマツリと濡れたユズを抑えているホノカとユミだった。あれカバンか?プールに浮かんだりするものがちらほら見える。
「は?何?誰かと思ったら委員長かよウザ」
「お前それシンだろ!何する気だよ!」
「お前そっから動いたら私の炎サガで顔焼くから」
やばい。自分も動けない。
「ちょっと!マツリ!別に真倉関係ないじゃん!」
だから何でお前はこの状況で人を庇えるんだよ。
「大体さー2種って言うから仲良くしてあげようって思ったのに、いうこと聞かないしサ開全部休むから実力分かんないじゃん?見せて欲しいなーって。ダメェ?」
やばい。アイツここでするつもりだ。
「病気だって言ってただろ⁈」
俺の言葉を無視してマツリは続ける。
「ねー真倉、髪の毛焼かれたい?制服焼かれたい?」
「ちょっとマツリ⁈真倉関係ないって言ってんじゃん!いい加減にしてよ!」
「じゃあ、これで実力見せてよ」
「おいマツリやめろよ!」
「だからお前は黙れって!ねー良いよねぇー!瑜・紅・ユ・ズちゃん」
「…分かったから離して」
マツリが少し頷いたら、2人がユズの身体を離す。
「…何が見たいの?」
「えーと、レインボーシャワーとか?」
レインボーシャワー。水を一箇所に集中させ一気に流す。シャワーの水流が一定で虹ができるかなり2種でギリギリ出せるか分からない高度な技だ。
「…分かった。シン貸して」
「ちょっとおいユズ!やめとけって!」
「真倉うるせえんだよ!まじで燃やすぞ!」
この距離は…ギリギリ…マツリだったら俺の髪の毛に届く…よな。いや無理か?でも…動けない。
ユズはマツリからシンを貸してもらい、左手を垂直に目の上に持っていく。思いっきりシンを…あれ?
ちょっとかすらせただけ?そんなんじゃ血は…でた?
「スゲェ…」
綺麗だ。プールの25mの横幅全体に薄い滝が出来ている。これめちゃくちゃレベル高いレインボーシャワーじゃねぇか。
俺もマツリもホノカもユミも暫く見惚れていた。
10秒程だったが凄く凄く綺麗だった。
「もういいでしょ」
ユズが言ったが3人とも俺も暫く無言だった。
「…ざけんな!」
「え…」
「おい!」
マツリがまた思いっきりユズをプールサイドに落とした。
「ちょっと!」
「先生に言ったら殺すから!2人とも帰るよ!」
マツリ達は走って行ってしまった。俺は急いでユズの元へ駆けつける。
「大丈夫か⁈」
「大丈夫!それより着替えない?」
「着替え?俺の体操服しかないけど…」
「それでいい。とってきてくれない?」
「…分かった」
取りに行く間、頭の中でいろんな思いがあった。あんな綺麗で壮大なレインボーシャワーレベル8に出来るのか?えっいやそりゃ周りに水サガのレベル8はいないから分からないけど…にしても綺麗だった。あんなんできんなら何で授業全部休むんだ?
色んな疑問が頭の中をぐるぐる回りながらも教室に体操服を取りに行って戻った。
プールに行くとユズはもう上がって教科書を回収していた。
「こっちこっち!ありがとー!」
だから何でそんな能天気なんだよ…。まじで変人すぎて理解できない。
ていうか…濡れてシャツが透けていることに気づいていないみたいだ。思わず目を逸らす。
「…大丈夫?」
「またうまく報告書書いといて」
「いや今回は流石にまずいって。言うよ」
「なんでよ⁈」
「制服びしょびしょだしもう18時だろ。俺が書かなくてもバレるって。教科書全滅だし」
「…分かったよ」
今回は流石に許せない。いくらなんでもやり過ぎだろ。病気の奴に無理やりサガ使わせるとか。
「…凄い綺麗だったな」
「やっぱそう思う⁉︎私才能あるんだよねー」
これさえなけりゃぁな。
「まぁとにかく着替えろよ。風邪ひくぞ。身体弱いんだろ?」
「分かってるって!じゃあ着替えてくるねー!」
ユズから目を逸らしさっきのレインボーシャワーがあった場所を見る。あれ…2種が出来る技なのか。めちゃくちゃ綺麗…。
ドンと音がした。
プールを見ていた俺は音の方向を見るとユズが倒れていた。…は?どうすればいい。どうすれば。さっきまであんな元気だったのに。本当に病気だったのか。
とにかく走ってユズを起こす。
「おい!ユズ!意識あるか⁈」
「足…さっき水に落ちた時に…プールサイドの端で足切った…出血したみたい…」
足を見ると右足が確かに切れている。でもこれくらいの傷…血はすぐ止まるだろ。でもユズの足からは確かに血がどくどくと流れている。
「なんで!傷が塞がんないんだよ⁈」
「だから病気だって言ってんじゃん…」
「そんな病気だったら早く言えよ!」
「今言った…」
ユズがそう言ってる間にも血が流れ続ける。まだ意識はあるようだが顔が青白い。ていうかこの状況で少し顔が笑っているってどんな神経だよ。
「とりあえずこれで血抑えろ!」
制服を脱いで包帯みたいにぐるぐると巻きつける。
「待ってろ!今先生呼んでくる!」
「先生はやめて…私の携帯から迎え」
「おい!」
やばい、どうしたら、どうしたら…緊急…事態…アプリの右上の緊急マーク!
「緊急ボタン押すからな!意味わかんねえけど!」
ユズはなにかを言いかけたけど押した。一瞬で電話がかかってきた。
「はい!今…早く!…ユズが!…緊急です!」
なんて説明したかはわからない。とにかく10分もしないうちに黒いスーツ姿の男が3人も走ってきた。
1人が風のサガでユズの髪と制服を一瞬にして乾かた。
黒スーツの1人がユズを抱き抱えて、もう1人も一緒に行った。プールにはさっき風サガを使った人と俺が取り残された。
やらかしたのかもしれない。おれが関わるのを面倒くさがったせいで。止めなかったせいで。どうしよう、どうしよう…。
「大きくなったっすね」
えっ?誰?そう思って顔を上げる…
「あの時の…軍人さん?」
「松澤っていうんっすよ!久しぶり真倉君!」
「えっ…なんでここに?」
「色々聞きたい事はあると思うんすけど、とりあえず今は、状況説明してもらわないといけないので後にしてもらえるっすか?もう迎えの車来るんすよ」
「あっ…はい」
なんであの軍人さんがこんなところに?聞きたい事はいっぱいあったが何も聞けなかった。
暫くすると車がきて俺は乗った。
あの時の軍人さん…松澤さんが喋らないので僕も喋れなかった。
30分ほどすると物凄い邸宅に車は止まった。
「着いたっすね。おりるっす」
「…はい」
訳がわからない。何もわからない。
凄い屋敷のドアが開くと、名取さんが無愛想な表情で立っていた。
「あっあの…」
「おうちの方への連絡は済ませておきました。お話聞かせていただきますね」
「…はい」
拒否権はなさそうだった。
「こちらへどうぞ」
案内されたのは、客間みたいな豪華な部屋だった。
「こちらで、少々お待ちいただけますか」
「はい…」
どうやら反逆罪で罪に問われるわけではないみたいだ。必死に心を落ち着かせる。
暫く1人で待っていたら名取さんがまたやって来た。
「上司が直接あなたに話を聞くそうなのでもう少し待っていただけますか?」
「それよりユズ…さんは大丈夫なんですか?」
「教える必要がありますか?」
怖い。一瞬部屋が凍った気がする。
「…すみません」
そりゃそうだよな。いじめられていたのを見て見ぬふりして都合のいい時だけ声かけて。プールだって俺がきたせいでユズは見せるハメになったんだもんな。でもなんであんな血が…
「もうなんなんだよ一体…訳分からねえ」
ユズがあんな危ない病気なら教えてくれてればもっと気をつけれたのに。ていうかあの軍人さんなんで…松澤さんっていうんだよな…。
また扉を叩く音がして、名取さんとの横に「ナラクサガ開発教育長」さんがいた。
「じゃあ私から聞くから名取は下がってくれる?」
「…失礼します」
名取さんは一瞬俺を見て扉を閉めた。
男の人は僕の座っているソファの正面に座る。
そう言えばまだこの人の名前すら知らない…。
「…時間もないし本題に移らせてもらうよ。正直に答えてね」
もの凄く柔らかい言い方なはずなのに、もの凄く怖い。身体が硬直するのを感じる。
「はい…」
ゆっくり、ゆっくり事の経緯を俺が知っている順に話していく。男の人は座ってにこやかな顔をしているはずなのに、怖い。顔が見れなくて俯いたまま震える声で喋った。
「…という訳です。黙ってて…ちゃんと報告書に書かなくて…本当にすみませんでした」
やっと終わった。俺ちゃんと喋れていたよな。30秒ぐらいの沈黙の時間があって、
「…いやこちらこそ迷惑をかけたみたいだね。教科書とか君名義で買わせたのは申し訳なかった。ちゃんと払うから名取に言ってね」
男の人はそう言った。どうやら俺は反逆罪にはならないみたいだ。でもそれより、そんなことより
「…ユズ…さんは大丈夫ですか?」
「あぁすっかり元気だよ。さっき起きて君を叱らないようにとだけ言ってまた寝た」
良かった。本当に良かった。なんか死んじゃいそうだったから、本当に良かった。本当によかった。
「あの…凄く失礼かもしれないんですが、なんでユズの病気…教えてくれなかったんですか?…あんな身体が弱いなんて知らなかったし、最初から聞いていたら…もっとちゃんと見れたのに…」
言えた。言い切った。俺。
「…ごめんね、機密情報だったから。君には最初から教えておくべきだったね」
「ユズの水サガ…あれ本当にレベル8ですか。凄い綺麗で俺見惚れてたんですけど、あれレベル8の技じゃないと…」
やばいなんだこれ。動けない。下を見て喋っているはずなのに、口も動かない。なんだこの圧力。
「お疲れ様。今日は帰ってゆっくり休みなさい。車で送らせる」
「…はい」
聞くなってことか。
結局、あの人は名前すら名乗らなかった。
怒ってんのか怒ってないのかすら分からない。もしかして俺、クラスのゴタゴタどころじゃない何かに巻き込まれてる?
涼しい部屋のはずなのに汗はビッショリだった。
サガラ様が出てこられた。話は終わったみたいだ。
「さぁてどうしたものか」
「大丈夫ですか?」
「あぁ名取、連絡ありがとう。ユズは大丈夫?」
「はい。真倉君を叱らないでってうるさく言っていましたが限界だったみたいでお休みになられました。血も今は止まっております」
「よかった」
「真倉君…気づかれていませんか?」
「いや全く。純粋にユズのことを心配していた。ユズが言っていた通り良い子だね彼」
「そうですかね…」
「あぁそうだ。ユズにはちゃんと言わなかった罰を与えないとだね。3日間の謹慎と、1週間オヤツ禁止にしておいて」
「あの…くどいようですが、やっぱりこんな所」
「名取。ユズ様のご希望だから」
「…はい。学校と政府には…報告しますか?」
「今回は私達だけで解決できそうだし、しなくて良いよ。家同士の解決で済まそう。私がいくと大ごとになるし名取、頼むね」
「…名前は出しますか?」
「そんな奴らに名乗らないと行けないほど一宮の名は落ち潰れているのかな?」
全身が身震いした。さすが一宮家当主。
「…失礼しました。」
「まぁ…言う事を聞かなそうであれば名前を出していいよ」
「かしこまりました」
「これ録音データ。改めて文書にまとめて報告してくれるかな」
「ありがとうございます」
「じゃあ私は会社に戻る」
「いってらっしゃいませ」
サガラ様はまた仕事に行かれた。私も予定を立て直さないと。とりあえず今日は徹夜ですね。
「名取さん」
「…レイ様、いらしていたんですね。先ほどお父様なら仕事にお戻りになられました」
「知ってる」
「名取さんは話の内容聞いた?」
「その場にはいませんでしたが、録音データがありますので今から文書にまとめる予定です」
「録音データでいいから送って。ユズが起きるまでに把握したいから」
「お父様に許可をいただいてからでもよろしいですか?」
「後からでもいいでしょ」
「許可を…」
「名取、送って」
「…今送ります。ですが報告はさせていただきますよ」
「ありがと。ユズは僕がみておくから安心して。他にも仕事あるでしょ」
「…ついでにお父様からの罰も送っておいたのでユズ様へにお伝えくださいね」
「名取さん人使い荒いなぁ」
笑った顔はサガラ様によく似ていて怖いほど美しい。
「…では私は仕事がありますので」
「うん、おやすみ」
もう夜の一時を回っていますね。全く皆様本当に人使いが荒い。
「残業代、政府に請求しないと…」
今夜も徹夜ですね。
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