第一週目 土曜日
さあ、今日も不登校更生だ。
はっきりいって全く気乗りはしないが、推薦のためだ。仕方ない。
それに昨日みたいにうまくいくかもしれないし。
そんな淡い希望を胸に俺は電車の広告に乗る可愛いアイドルを見ていた。
着いたのは結構大きめの一軒家で、三嶋実土里(みしまみどり)さん、という中3のこれまた女の子が相手らしい。
俺は今日うまくいくことを祈りながら、俺はチャイムを押した。
「はるなさーん!いらっしゃーい!っていやああああああ」
出てきた少女は俺を見た途端、驚いたのか目の前で叫びながらこけた。
「だ、大丈夫?」
「さ、触らないでください…!」
「あ、ご、ごめん…」
「どうして家がバレてるの…!?」
随分と慌てた様子の彼女。よく見るとどこかで見かけたような…
「君ってもしかして、あのみどりちゃん?」
そう、今日電車の広告で見つけたアイドルがこの少女なのだ。
「え、知らなくてきたんですか?」
「そうだけど…」
彼女は安心したようにホッと息をつくと、それでもやっぱり怪しそうに俺を見つめる。
やっぱりアイドルってだけあって整った顔立ちをしている。少し幼さの残る彼女は俺をどう思っているのだろうか…
「俺は岬高等学校の村山。君が学校にくるように説得しにきたんだけど…」
彼女は一呼吸置くとオドオドと話し始めた。
「そういうことでしたか…私はアイドルになってしまってから少し人が苦手になってしまって…学校には行けないです…」
なるほど…それでこんなに怖がられているのか。
俺は納得する。しかしこちらも引き下がれない。
「確かに、怖いと思うんだけどな。まだ君は義務教育も終わってないだろ?」
昨日のかなえの言葉を思い出して俺はいう。
「でも…絶対無理です…」
そういって彼女はまた後退りをして…そして棚にぶつかり…
「あ、危ないっ!」
大量の本が彼女に向かって落ちていくのを、俺はなんとか止めることができた。
すると、まあ大変な格好になってしまい…
「ご、ごめんごめん。っていうか大丈夫?」
彼女は無言のまま顔を赤くさせて俺から目を逸らす。
「だ、大丈夫…です…村山さんこそ、大丈夫ですか…?」
「俺は大丈夫だけど…」
しばらく沈黙が続いた。気まずい。かなり。
そして突然彼女は口を開いた。
「あ、あの、もしよかったらまた来てくれませんか?」
「え?(そのつもりだったけど…)」
「村山さんみたいな優しい人もいるんですよね…私忘れてました。それでもやっぱり人が怖いのはそう簡単に治らないと思うんです。だからなれるまでずっとここへきて欲しいんです。」
「へ?」
どうなっている?大成功ということでいいのか???
「もちろん、いいけど…」
「ほんとですか?嬉しいです。」
ピンポーン
「今度こそ春菜さんかな?私今から仕事なので、今度はもっとゆっくりしていってください。準備して待ってます…」
少し恥ずかしそうな可愛い笑顔を残して、彼女は急にいなくなった。
なぜか家に残された俺は何か変なことをしている気がして、そそくさと彼女の家を去る。
昨日に引き続き今日も大成功だ。しかも可愛いし。
俺は少しだけ先が見えた気がした。来週からも頑張るぞ!
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