第一週目 水曜日

さあ、今日も不登校更生だ…

憂鬱な気分で俺は見たこともない電車に揺られていた。今日行く子の家は他の誰よりも遠く、学校から片道2時間という場所にある。

そりゃ行きたくもなくなる、と思いながら俺は小さな駅で電車を降りた。


着いたのは古い民家で、中から老人が出てきて俺を彼女の部屋まで案内してくれた。


「いらっしゃい、水奈のお友達?」


「まあ、そんなところです。」


「水奈、お友達きてるわよー」


今日は家に入るところまではテンポよくこれた。

しかし問題はここからだ。


「誰?」


ジャージ姿で出てきた髪の長い色白の少女。校長のプリントによれば、名前は桐生水奈で、歳は俺の1つ下の高校一年生らしい。


「実は、俺君に登校してもらうように説得しにきたんだけど…」


言い終わらないうちに彼女はパソコンの前に戻ってしまう。

くらい部屋の中にあるのはパソコンとベッドと小さい勉強机だけ。

そして多分1日の大半をパソコンの前で過ごしているのだろうとわかる部屋だった。


そしておそらく彼女が学校に来ない理由はゲームだ。


「また、ダメだった…」


わかりやすく肩を落とす彼女。


「どうしたの?」


「…どうしてもこいつに勝てないの。」


開かれていたのはゲームの週間ランキングのページだった。


このゲーム、俺知ってるわ。不良になる前は派手にゲーヲタやってからな…

そして俺は当時いつも週間ランキングは一位だった。


「あ、そうだ。」


不審な目で見てくる桐生さん。


「俺がコツ教えるよ。それで勝てたら学校にきてよ。どう?」


「何言ってるの。あんたのゲームの腕前で私に教えるって?」


こちらに見向きもせず淡々と答える彼女に俺はいう。


「言っとくけど、週間ランキング二位のやつに負ける気はしねえよ?」


俺が煽ると彼女は思った通り勝負を挑んできた。

そして…


「なんで…?すごい、すごい!君強すぎない?」


「なあ、桐生さん。これでわかっただろ?」


「教えて、コツ。私どうしてもこいつに勝ちたいの。」


「じゃあ、勝ったら学校行ってくれるか?」


彼女はため息をつく。


「一度だけ勝っても意味ない…」


「俺は学校行きながら毎週一位だったけどな?」


俺はまた煽る。ちなみにこれは嘘だった。でも負けん気の強そうな彼女はムッとするといった。


「なら、私もやる。」



帰り道俺はすごく気分が良かった。

こんなに上手くいったのは初めてだ。


まあでもあの桐生さんが勝ちたがっていたプレイヤーはかなり強かった気がする。俺がゲームやめたのもあいつが出てきたせいだし。

だからこそ次は桐生さんと一緒にリベンジができる。俺にとっては一石二鳥だった。


さあ、明日も頑張ろう!

俺はめずらしく前向きな気持ちで帰り道を過ごしていた。

まあ、その日は迷子になって大変だったのは日向には言わないが。

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