第一週目 月曜日
ピンポーン
返事はなかった。
(出かけてるのか…?いや、でも中で倒れてたりしたら色々とまずいしな。)
ここに住んでいるのは咲本グループの長女だ。何かあったとして、その責任を負わされたりでもすれば言葉にできないくらいやばい。
俺は考えまくった末、あいている窓から中を除くことにした。
中に人かげはなく、やはり留守なのかと思ったその時彼女は奥の部屋から出てきた。しかも、下着にダボっとしたTシャツだけで。
彼女は俺の存在に気がつくと、汚物でもみるかのような目で俺をみる。そして、スマホで誰かに連絡しようと…
(って!警察呼ぶ気だろこれっ!)
「待ってくれ!怪しいもんじゃねえから!学校から来た、君をなんていうかその学校にくるように説得するために来たんだ。だからその警察だけは…」
彼女は最後まで聞かないうちに部屋の奥に戻って行ってしまう。
数分俺はそこで立ち尽くしていると、彼女がまた出てきた。
今度は随分とお嬢様らしい服を着ていた。襟付きのブラウスにレース付きの黒いスカート、髪は結いあげていてさっきとは別人のようだ。
「先ほど、学校にくるよう説得しに来た、と申し上げていましたよね。でしたら余計なお世話ですので、お帰りください。生活力はしっかりとありますし、学校にいく利点が見つかりませんので。それでは、さようなら。」
彼女は俺がいる窓の方に近づいて、その窓を閉めようとする。
(だめだ、このままじゃ俺の推薦が…!)
「生活力はあっても、学力がないんじゃしょうがないんじゃない?それはあるのかな…?」
また否定されるだろうとどうすればいいか考える。しかし、彼女の様子はさっきとは明らかに違っていた。
「それは…わかっていますが…」
(もしや??)
「咲本さんって勉強得意じゃない?」
「なっ!そ、そうですよ…苦手なんですっ!」
「なら学校にいくべきだよ。勉強だってできるようになるし…」
「それはいやです。家の恥さらしになりますから…」
その時俺はすごくいい案を考えついた。彼女が学校に行きたくない理由はおそらく自分があまり頭が良くないことを周りにバレたくないからだろう。彼女並みの家柄ならそう思うのも仕方ないことだ。それに彼女の兄はすごく優秀だと聞く。
「じゃあ、俺がおしえるよ。俺はこれでも結構頭いいんだぜ。それでできるようになったら学校に行ってさらに勉強に励めばいいんじゃないか?」
「ありがたいことですが、お断りしておきます。頭がいいことが事実なのか分かりませんし、もっといい家庭教師を雇うことも可能ですので。」
「いやでも咲本さんそれができないから、今も勉強苦手なんじゃないか?それに、俺頭いいのはほんとだぞ。」
「必死ですね。」
俺の言葉に彼女は笑って応えた。
「そこまでいうなら、考えておきます。ですが、頭がいいことの証明はしてくださりますよう、成績を持ってくるなりしてください。」
「俺、今日そんなん持ってねえよ…」
「では、また次回ですね。さようなら。」
というと、バタンと窓を閉める。
窓の外に閉め出された俺は、門の位置を探しながら歩き出そうとする。
「あの!村山さん、でしたっけ。これから、私が勉強が得意になるまでみよじで呼ぶのは控えてくださると助かります!今後とも、その…よろしくお願いいたしますっ!」
思い出したように声を張り上げていう彼女に俺は返事をする。
「ああ、わかったよ。また今度な、美月!」
俺も声を張り上げて言う。すると、彼女は小さくお辞儀をして返した。
色々あったが、なんとかうまく行ってよかったと思っていた。
俺は帰り道迷子になりかけながらも、この高級住宅街を抜けた。
「それにしても、これから毎週こんなところに来るのかよ…」
そんなことを呟きながら、俺の第一週目の月曜日は終わった。
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