156話 それぞれの思惑
「お前たちよくやった。クロツキも殺せたしこれで第一段階はクリアってとこだな」
「しっかし、イーブルさん監獄にいたっていうのに随分と強くなってますね」
いるかはイヴィルターズを一度は離れたものの結局は戻ってきた。
何よりも有無を言わせないだけの凄みがイーブルにはあった。
そして監獄にいたはずのイーブルはたしかに強くなっていた。
単純な戦闘能力ではなく、別方向への成長をしている。
いくら裏で動いて偽の情報を流したり、サクラを使って暴動に火をつけたり、幻術で騙したとしてもここまでの流れにはならない。
これも偏にイーブルの力の一端なのだろう。
負の感情にブーストをかける。
シンプルだが強力。
少しの疑念、嫉妬がまるで心の底から湧き上がるように感じていたはずだ。
「俺は少し打ち合わせをするから後は頼んだ」
そう言ってイーブルは自室へと籠る。
後は頼んだと言われてもやることなど特にない。
もはや作戦は動き出している。
いるかは変わり果てた仲間たちを見る。
負の感情をブーストされているのは敵だけではない。
PX441は体育座りで床を見て独り言を呟いているし、ナナシは少しの物音にも大きく反応して腰に差した剣を手に取る動作をする。
いるかが無事だったのは隠者系統でイーブルのスキルの効きが悪かったからだろう。
それでも自分の変化には気づいている。
このままいけば王都は陥落するはずだ、そう確信する。
しかし、そのあとのイヴィルターズはどうなるのか。
……!?
いるかはイーブルの入った部屋の扉を見て、不穏な空気を感じていた。
毎回のことだがそれでも慣れない。
一体何をしているのやら恐ろしくて扉を開けることも聞くこともできない。
部屋の中でイーブルは自らの影と会話をしていた。
「計画通りだな」
「そうだ。あと少しでお前は王国を手に入れる」
「ふっ、分かっている」
影は体を包むように侵食していき、来るべき決戦に備えて最後の調整に入っていた。
影がイーブルと出会ったのは監獄の中でだ。
影には誰も気づかず、止めるものなどおらず、監獄を自由にいききする。
負の感情を食い物にする影にとって監獄は絶好の餌場であった。
そんな時見つけたのがイーブルだ。
イーブルは復讐に燃えていて、その負の感情は誰よりも重く、深く、大きかった。
それからはイーブルと接触して力を授け、監獄の外で動いて脱獄を手助けした。
与えた力はシンプルなものだ。
負の感情を高めるものとそれを力に変えるというもの。
イーブルの復讐の炎はより燃え上がり、いい感じに仕上がっていた。
§
「社長、滞りなく開始できそうです」
「うん、うん。いい感じに時間も調整できそうだね」
もう少しで各国を大型モンスターたちが襲いはじめる。
「予定外もありますが、そこまでは仕方のないことでしょうね」
「まぁ、あいつらの干渉もあるからなぁ、ここまでできただけでも御の字さ」
ここに至るまでに相当な時間を費やして調整をしてきた。
特に王国に関しては大変だった。
当初の予定を崩されてからプランを練り直してなんとかというところだ。
他国でもイレギュラーがあって簡単にはいかなかったようだが、王国は自分が受け持つと言った以上は失敗するわけにはいかなかった。
その集大成が今こそ解き放たれる。
骸骨の口角が上がる。
「公国、大型モンスターとエンゲージ、討伐戦が開始されました」
女性の声を聞いてとうとう始まったかと画面を眺める。
開始時間は何時ぴったりとかではない。
そこまでは調整する気もない。
それは国の対応などによっても異なるからだ。
攻めに転じれば開始は早まるし、守るのならば開始は遅くなる。
ある程度でも揃えば十分だと管理者たちには伝えてある。
ここまでくれば自分たちにできることはない。
後はどうなるか結果を眺めるだけしかない。
「よし、そろそろ行こうか」
「はい」
女性たちを連れて自らの部屋を出る。
何もない空間に扉が現れてそれを潜り、四方真っ白な廊下を歩いて目的地にたどり着く。
その扉は最初からそこにあって、社員なら誰でも入ることができる。
他の部屋はそれぞれ管理者がキーを持っていて、その人物しか扉を出すことができない。
しかし、ここは違う。
社員のための公共の部屋だ。
中に入ると多くの社員が酒やらつまみやらを手に持ちどんちゃん騒ぎをしていた。
「社長遅いですよ!!」
「そうですよ、公国は始まっちゃいましたよ」
社員から声をかけられるがその社員たちはオークやゴブリンの姿をしている。
そう、ここにいる全員が人間の姿はしておらず、百鬼夜行状態だ。
司会役の雪女が複数の画面から一つをチョイスして大きくして解説を始める。
事前に担当者から情報を提出してもらっている。
かくいう社長も提出しているのだ。
来訪者たちは大型イベントだと盛り上がっているがそれは社員達にとっても同じで今回はその成果を互いに見せ合おうという会なのだ。
ここにいる30人弱がアナザルドのほぼフルメンバーである。
参加していないメンバーはゲーム内でそれぞれが仕事をこなしていた。
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