157話 東南討伐戦

 王国に迫る四体のモンスター。

 東から分厚い雨雲が風向きに関係なく一直線に王都へと進む。

 通った後は滝のような豪雨で屋根の瓦も関係なく貫いて村は壊滅。避難はしていたため人的被害はない。

 その雨は森だろうと干ばつ地帯だろうと等しく降り注ぎ、見るに堪えない光景が道となっていた。


 悠々自適に空を飛ぶ鳥型のモンスターは地上を濁流が飲み込み、動物たちが逃げていく様を見て笑みをこぼしていた。

 このあたりで最もレベルが高いボスである彼は地上の生物を下に見ていた。

 飛べないから濁流に追われるのだ。

 飛んでいればなんてことはない。

 しかし、雨はボスであっても等しく降り注ぐ。

 一粒の雨が彼の翼に当たると簡単に貫き、バランスを崩したところへ無数の雨粒が追い打ちをかける。

 彼は自分の死を悟った。

 雨を避けることなど不可能。

 そしてこの雨は攻撃ではなくただの自然の摂理。

 雨雲から垣間見える細長い体。

 蒼に輝く鱗に覆われた絶対的な強者を目にして彼は落ちていった。


 東に配置された討伐部隊も目視できる距離に雨雲が近づいてきて緊張感が高まる。

 死ぬことがないと分かっていても恐怖は感じる。

 それぞれの国には似たような神具が保管されている。

 よほどの緊急事態にしか使用されない神具で神の救いと呼ばれるそのアイテムの能力は復活の力。

 対象者が死んだ場合、神の救いが発動中ならその神具の範囲内ににリスポーンするようになる。

 王国は王都に神具があり、もしも死んで復活すれば王都にリスポーンすることになる。

 これは来訪者ビジター現地人ローカルズも変わらない。

 その代わりその効果で復活した者は一時的に大幅なステータスダウンとスキル使用不可状態に陥る。

 一度の発動中に復活できるのは一度だけである。

 膨大な魔力のチャージが必要なため発動すれば次に発動できるようになるのがいつかは分からない。


 東の討伐部隊は主に魔法使いとそれを守るタンクでかためられている。

 空を飛ぶ敵に対して遠距離攻撃ができないのでは、 戦いにならない。

 全員が自身の持つ最大魔法を準備している。

 あとは東方討伐部隊隊長の号令を待つばかりである。

 東方討伐部隊の隊長を務めるのは騎士団8番隊隊長のジルべだ。

 8番隊は魔法使いで構成された部隊でこの戦闘では大きな期待を背負っている。

 金色の長髪をなびかせる彼女はエルフでありながら王国の騎士となった。


 エルフは本来、自然とともに暮らすことに誇りを持っているため人里へやってくるエルフは珍しい。

 しかし、この考えもここ数十年で随分と変わってきた。

 若いエルフは外へ出たくなっていて、引きこもりたいのは長生きしたエルフ達だ。

 ジルベの年齢は100を超えるがエルフの中ではまだ若い。

 数年前に王国にたどり着き騎士にスカウトされ隊長まで成り上がった。


 今では騎士団の仲間を家族のように思っているし、王国は家なのだ。

「全体撃てーーー!!」

 魔法によって拡声されたジルベの声が戦場に木霊する。


 無数の炎の槍や天に登る雷、漆黒のビーム、絶対零度の吹雪など多種多様の様々な魔法が雨雲目掛けて放たれた。

 ジルベも押し留めていた魔法を解き放つ。

「レイジングストーム」

 吹き荒れる暴風が豪雨を押し除け雲へと届く。


 多少……多少は削れたといったところ。

 雨も少しだけ弱くなった気がする。

 王都を更地にできるほどの数の魔法を受けてその程度しか変わらない。

 しかし、雨雲は止まり雲の切れ間から赤い眼光が睨みつけてくる。

 どうやら敵としては認識されたらしい。


 雲の中から無数の小さな竜が飛び立ってくる。

 近くにくると意外と大きくて5メートルを超すドラゴンだ。

 雨雲から出てきたときは小さく見えた。

 それだけ雨曇が大きということが。


「青竜の眷属が現れたぞ、タンクは前に出て魔法使いを守れ。出来るだけ魔法で弾幕を張って近寄らせるな。MP枯渇者は後ろに下がってポーションを飲んでこい。その際の引き継ぎはしっかりとして、穴を開けるな」

 ジルベは指示を出す。



§



 南から飛来する巨大なそれが朱色の羽を動かすたびに熱風が巻き起こる。

 あまりの高熱に草木は燃えて家屋も燃える。

 通った後は地面が熱せられ、そこに立つだけで身体中の水分が蒸発する。

 そしてそれを小さくしたような無数の鳥が後に続く。


 南方討伐部隊隊長は10番隊を引き連れるメイガン。

 その見た目は黒い肌が特徴で、2メートル弱の巨体を構成する筋肉の鎧。

 隊員が両手でようやく運んできた円錐型のランスを軽々と持ち上げる。

 これで近接戦をするのかと言われればそれは違う。

 たしかにランスを使うには使うが普通とは少し使い方が異なるのだ。

 彼?

 彼女?

 とにかく、メイガンが率いる10番隊は弓部隊。

 つまり隊長のメイガンも弓を使う。

 しかし、それはあまりにもデカすぎる弓で地面に固定して放つ巨大なバリスタを思わせるが、メイガンはそれも持ち上げる。

 ランスはあくまでも矢の代わりでしかない。


 騎士が3人がかりで引くことのできる弓をランスを矢にしてメイガンは目一杯引く。

 撃ち放たれたランスは轟音を鳴らして突き進んでいった。

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