154話 仇
クランメンバーとも連絡を取りながら、俺は王宮からの依頼をこなしていた。
しかし、暗殺依頼は受けずに諜報活動をメインに動いている。
俺を叩いていた来訪者たちはデモ活動に精を出していたようだが、さすがに飽きたらしく、一週間で打ち切られた。
それとほぼ同時に現地人の熱も冷めて、 今王国は別の話題で持ちきりだ。
『王国壊滅の危機!? 大陸全土を揺るがす発表』
このような見出しで号外が配られている。
さらにいえばそれは王国だけではない。
他の国も同様の問題を抱えて世界の危機を迎えていた。
各国は国を守るために危険を察知したり、未来視ができる人間を囲い込んでいる。
それによると強大な大型モンスター数体が襲ってくるようだ。
放置すれば七ヵ国大同盟の領地全てが人の住めない更地になる可能性すらある。
そんな状況では他国へ援軍を出す余裕はなく、自国でなんとか食い止めるしかない。
王国に迫っている脅威は四つ。
四体の大型モンスターが突如現れ、四方から王国を襲うという未来が発表されている。
国中がそれの準備に追われてパニック状態。
完全に俺のことなど忘れていた。
影の館にも大型モンスター討伐依頼の話が来ている。
ここで参加して大勢に見られてしまえばまた火がつく可能性がある。
では、モンスターに襲われる人々を見過ごすのかと言われたら、それはできない。
予言された時刻まであと半日といったところで、王都の一画には行列ができていた。
全員が討伐参加者で来訪者はもちろん、現地人も並んでいる。
現地人の多くは金目当ての傭兵だったり、正義感の強い元騎士などだ。
ここから組み分けがされて戦場へと移動することになる。
俺はフードを深く被り、移動中はなるべく影を潜めて行動する。
人気のない路地などを通るがそこで声がかけられた。
「おいっ、クロツキ」
声のするほうとは真逆から大剣が振り下ろされる。
だが、遅い。不意はつかれてもまず当たることはない。
「おまえ……」
それは因縁の相手というべきなのか、イーブルの姿があった。
「俺がテメェに負けてどんな思いをしてきたと思う。分かるか? プロが素人に負けて叩かれる屈辱が」
確かに俺はイーブルを一度殺したが、実際に監獄に送ったのはサンドラとストルフだし、そもそも自身の身から出た錆なので逆恨みされてもお門違いというもの。
まぁ、この類の人間にそんなことを長々と説明しても意味のないことなのだが。
「知らないし、自業自得だろ」
「はんっ余裕そうだな、だがテメェの今の状況も面白くなってんじゃねぇかよ」
「……」
「俺の気持ちが少しは分かったようだな」
下卑た笑いが路地に響く。
「お前が仕組んだのか?」
「さぁな、でもまだまだこんなもんじゃねぇからな。俺を叩いた奴らも俺を監獄送りにしたこの国も潰してやるよ!!」
イーブルは怒りをあらわにしているが、怒りたいのは俺の方だ。
心を落ち着かせる。
まずは冷静にイーブルを殺す。
迫る大剣はやはり遅い。
避けて首を斬り落とそうとするが黒の靄が俺のナイフを防いだ。
怨恨纏いと似たようなスキル、俺への恨みを糧にしているのが分かる。
しかし、それでも実力差は明らかだ。
いくら強化しても俺には傷ひとつなく、イーブルはボロボロになっていた。
「はぁ、はぁ、さすがはやるじゃないかクロツキ。ここまで差があるとは悲しくなるぜ」
イーブルは監獄にいたせいでレベリングがほとんどできていない。
実践からも長く離れていたようだし、どう見積もっても三次職の下の方だ。
今の俺の状態でも遅れをとるわけがない。
「だがな、最後に勝つのは俺なんだよ!!」
何か勝ち筋があるのか?
そもそもなぜ1人でこんなところにいるのか、イヴィルターズはどうしたのか。
考えれば考えるほど疑問だらけだ。
イーブルのこの守りの姿勢も気に入らない。
何か時間稼ぎをしているように防御を固めている。
仲間の助けを待っている可能性もある。
そうならば早めに決着をつけた方がいい。
今はディーに空から周りの様子を伺って貰っているが援軍が近づいている兆しはない。
その後もイーブルは防戦一方で攻撃を受け続けている。
そしてディーから合図があった。
近づく人影ひとつあり。
1人か? 援軍にしては少なすぎる。
それとも1人でも十分な強者ということなのか。
ディーには続けて周囲の警戒を頼む。
顔を出したのは予想外の人物だった。
「お兄ちゃんたち何してるの?」
……!?
なぜ、少女がこんなところへ。
イーブルの顔がこれみよがしに変わり、少女へ向けて大剣を振って斬撃を飛ばした。
「ちっ……」
少女と斬撃の間に入り二本のナイフで受け止めた。
なんとか受け止めたが、二本のナイフに一気に重力がかかる。
イーブルが跳躍して大剣を振り下ろして来る。
いくらレベルの差があるとはいえ職業的に筋力はイーブルが圧倒的に上だ。
押し切られそうになるが、ナイフが軽くなる。
イーブルが退いて、その場にディーの放った黒の槍が降り注ぐ。
「危なかっ……た……」
背中に熱さと痛みが走る。
後ろを向くと少女の手には包丁が握られていた。
渦巻く怨念が包丁に集まっている。
「ぱぱを返せ……」
少女は涙を流しながら力強く包丁を突き刺してくる。
「終わりだぜ、お前は見学でもしてな」
イーブルは笑いながら俺の首をはねた。
俺はルキファナス・オンラインで初めての死を迎えた。
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