153話 解散

 影の館シャドーハウスに戻ってメンバーに事情を説明する。

「すまない。俺のせいでクランの名を落としてしまった」

 王都に住む現地人ローカルズがこのクランにもつ印象は最悪だ。

 さらに来訪者ビジターからも叩かれている。


 多くの団体、現地人主体であったり、来訪者主体であったりが各地でデモを起こしている。

 団体同士が手を組んでるわけではないのでクランハウスの前で集まってそこでまた揉め事が始まって収拾のつかない状態になる。

 王都に住む人にとっては迷惑でしかないそんな現状の原因がここだと思い込んでしまう。

 影の館のクランハウスは高級住宅街なので貴族も住居を構えているし、貴族に顔が効く者も多い。

 とてもではないがクランで業務をすることなどできず、今は休業中だ。

 クランハウスの中の雰囲気は少し重く、みんなが俺に気遣っているのが分かるため、余計に居心地の悪いものになっていた。


「まぁ、仕方ないですよ。クロツキさんは悪くないわけですし」

「そうだぜ、気にすんなよ。しょうもない奴らが盛り上がってるだけだろ」

 ルーナとリオンがフォローをしてくれる。


「修羅にいた時はこんなの日常茶飯事。殺して黙らせる?」

 さすがはオウカ、名のあるPKギルドにいただけのことはある。

 でも殺して黙らせるのはやめていただきたい。


「マスターの無実は王宮が証明しているはずなのに……」

 ジャックは困った顔をしている。


「紫苑もオーウェンも悪いな」

「まっ、大丈夫でしょ。至高の一振りはこっちの味方をするって言ってたよ」

「俺も冒険者仲間に頼んでやるよ」

 なんともできすぎたクランメンバーたちである。

 こんな俺を見捨てないでいてくれる。

 だからこそ、迷惑をかけたくない。


「みんなありがとう、この状況じゃあクランを開けることも難しいし、一旦離れてもらいたいと思っている」


「もちろん……嫌です」

「私も姉ちゃんに同じく」

 ルーナとリオンに続いて全員が拒否をしてくる。

 しかもかなり強い意志をもって。

 どれだけ説得しても折れる気はないらしい。


「分かった。だけどクラン活動は当分できないし、ここにずっといても仕事がない。各々で散ってもらって、この件が落ち着いたらクランを再開しようと思う」

 これにはなんとか納得してもらえた。

 そしてそれぞれのお世話になる人たちへは俺も直接出向いてお願いをする。

 これはマスターとして、こんなことにしてしまった責任でもある。


 ルーナとリオンはレストリアのセン婆のところへ向かった。。

「2人をよろしくお願いします」

「もちろんじゃ、お嬢さまからも助けるようにと言われとる」

「クロツキさん、あまり1人で抱え込みすぎないでくださいね」

「そうだぜ、あんま気にすんなよ」


 オウカは一時的に修羅のメンバーと活動してもらう。

たつさん、よろしくお願いします」

「まっ、俺は全然構わないぜ。その代わり約束だからな」

「はい、もちろんです」

 修羅のギルドマスターたつとの約束は落ち着いたら一対一の決闘をすること。

 そんなことでオウカを守ってもらえるのなら安いものだ。

「はんっ、ウチのオウカたんをこんな目に巻き込んでからに。どない責任取るつもりなんや」

「本当に申し訳ない」

 |湖都《ことが激怒しているが仕方のないことだ。

「コト、うるさい」

「……」

 オウカの一言で沈黙したが……


 ジャックはチャリックへと向かう。

「やぁ、クロツキ君、どうやら色々と大変らしいじゃないか。私としても君には何度も世話になっているからね、ここらで多少の返済をしておくのもいいだろう」

「市長、よろしくお願いします」

「マスター頑張ってね」

「あぁ、なるべく早く迎えに来られるように尽力するよ」


 紫苑とオーウェンは至高の一振りに。

「スメラギさん、青江さん、よろしくお願いします」

「いいねん、いいねん、そんな謝られても困るわぁ。クロツキはんには赤竜討伐してもらってウチとしても他の商会から頭ひとつ抜けさせてもろうたからなぁ。それにクロツキはんに貸しとけば後々大きなって帰ってきそうやわ」

 至高の一振りは赤竜討伐に最も貢献したとして他の商店と差を広げていた。


「久しぶりの元職場で腕がなる……」

 紫苑の一言に他の職人たちが嫌そうな顔をしている。

 影の館では紫苑にはかなり我慢してもらっていたからな。

「オーウェン、紫苑のこと頼んだよ」

「あぁ、もちろんだ」


 全員を送り届けて俺は1人影の館で深く椅子にかける。

 クランハウスに1人しかいないというのも珍しいことではない。

 しかし、今の静けさはなんとも言えない。


「……!?」

 現在、クランには誰もいないはずだが、来客?

 いや、今のクランハウスの結界レベルはマックスにしていて、誰も入れないはず。

 となると思い当たる人物は多くない。


「ジャンヌ、どうしてここへ?」

 紅茶を飲むジャンヌと後に控えるセバス。

 シュバルツ城でよく見た光景だ。


「此度のことは我にも予想外であった。お主がどんな顔をしておるのか気になってな」

「そうか……折角、クランを作って貰ったのに申し訳ない」

「気にするな。そもそもが王宮からの依頼で行った暗殺じゃし、お主に非はない。とはいえ、どんなに正統な理由があったとしても暗殺を生業にしているとこういうことは起こりうる。もし暗殺のようなこととは手を切りたいと考えておるのじゃったら、新しく別のクランを作ってやってもいいと思っておる」

「……」

「答えをすぐに出せとは言わん。よく考えて答えが見つかればで構わん。そうじゃな、1ヶ月後あたりに答えを聞かせてもらおう」

 ジャンヌはカップの紅茶を飲み干してクランを後にした。

 デモで周りに人は多数いるが、誰にも気付かれることなく2人は堂々と出て行き、人混みに消えた。


 ジャンヌの言葉。

 暗殺クランは外聞が悪い。

 やっていることは正義だとしても。

 メンバーのことを考えれば真っ当なクランの方がいいのかもしれない。

 考える期間は1ヶ月……

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