152話 冤罪

 やはり逃げ足だけは速いようだ。

 さすがの察知能力で直前の攻撃に気づかれはしたが大きな傷を負って逃げるルブランはメインストリートへ向かっていった。

 このままではまた人混みに入られパニックの間に逃げられる。

 その前に仕留めなければいけないが、以前よりも速くなっているな。

 路地からメインストリートが見えてきた。

 スキルを使って一気に加速して仕留める。


 俺の攻撃はルブランを捕らえた。

 首に大きな傷をつけ、死ぬのも時間の問題だろう。

 少し間に合わずにメインストリートに入ってすぐの場所で殺してしまったために、パニックが起きる。

 それも当然か。

 いきなり目の前で人が殺されれば、誰だって焦る。

 だが、来訪者ビジター特有の死際の粒子を見れば少しは落ち着くだろう。

 ルブランは黒の粒子に変わっていくはずだ。

 国としても黒の粒子は指名手配の証だとお触れを出している。


 首を裂かれて喋ることもできないルブランが市民に向かって手を伸ばしている?

 何をしているんだ。

 それと同時に煙玉が別の場所から投げ込まれた。

 仲間がいて、合図でも出していたのか?

 だがもう遅い。

 この傷では助かることはないはずだ。

 煙玉が投げられた方から手裏剣にクナイが飛んでくる。

 辺り一面が煙幕に包まれ、視界なんてあったものじゃないが、俺には関係がない。

 全てを弾く。

 攻撃はそれ以降こなくなった。


 武器からしても忍者のようだし、気配を消すのもお手の物か。


 ……!?


「バカなっ!?」

 俺はルブランの死体を見て驚きを隠せないでいた。

 そこにいたはずのルブランは確かに粒子に変わったはずだが、別の死体に入れ替わっていた。

 煙幕が晴れると騎士たちが包囲していた。

 包囲の対象は俺だ。

 各々が武器を俺へと突きつける。


「クロツキ、どういうことか説明してもらう。ついてきてもらうぞ」

 ブラウィンが騎士に指示を出して俺は捕らえられた。

 逃げる事は簡単だが、何が起きているのか頭が追いついていないし、そもそもなぜ捕らえられるのかも分からない。

 街は騒然とし子どもの声が響いていた。



§



「そんなわけがない、俺は確かにルブランを殺したはずだ」

 尋問室で対面に座っているのはスクアロだ。

 スクアロが言うには俺が一般市民を殺したと証言する声が多数出ていると。

 そして、騎士の何人かも目撃したと言っている。


 ありえない……

 俺は確かにルブランを殺し、粒子に変わったのも確認している。

 ありのままを話すが信じてもらえない。

 証拠として俺が殺した死体は粒子に変わらず、煙幕が晴れた後も俺の足元にあった。

 それは確かにその場だけを見れば事実だが、そんなの武器の傷痕でも判断すればいい話だ。


「お前はもう終わりだ。諦めろ」

 諦めろと言われても無実の罪でみすみす捕まろうなんて思わない。

「待ってくれ、ルブランが監獄に送られているはずだ」

「それは今確認している。もし仮に送られていたとしても、お前が一般市民を殺したことには変わりない」

「じゃあ俺の武器と傷痕を比べてくれ」

「その武器以外にも武器を持っていて隠されれば調べようがない。意味のないことだ。暗器使いにはお手のものだろ」

 何とか証明できないか頭をフル回転させる。

「トーヤを呼んでくれ」


 少し待っているとトーヤが部屋に入ってきた。

「やぁ、随分と大変なことになったみたいだね」

 トーヤが王都周辺を騎士と巡回していて、呼んですぐにきてくれたのは良かった。

 呼んだ理由は簡単で俺のカルマ値を見てもらう。

 どれだけ疑いがあっても断罪者の眼は絶対のはずだ。


 俺はすぐに解放された。

 トーヤの証言で俺のカルマ値悪性が増えていないことが証明された。

 それでも信用できないと言う声は上がり、来訪者同士で口裏を合わせているんじゃないかとのことだ。

 しかし、シュバルツ家とヴァイス家からそれぞれ、二家の選んだ断罪者を疑うのかと圧力がかかる。

 そして二家とは関係のない神官がカルマ値を見て問題なしとなった。


 もう一つがカルマ値悪性が増えていないのは、相手が犯罪者だからじゃないかという声。

 確かにあの一般市民が犯罪者で俺と何か因縁でもあれば、俺が殺してもカルマ値悪性は増えない。

 しかし、これは王宮側からどれだけ調べても死んだ男が犯罪に関わっている情報は出てこず、俺との接点も見つからなかった。

 そして、ルブランは確かに監獄送りになっていること、街の事件が起きた一帯に幻術魔法の痕跡があり、市民が影響を受けていたことが調査で判明した。


 解放はされたが気分は晴れやかではない。

 まず、疑いが晴れたといっても未だに俺を疑っている騎士は少なくない。

 元々、来訪者を目の敵にしていればなおさらだ。

 それにシュヴァルツ家とヴァイス家は王宮での発言権も強く、家の力も王国屈指ではあるものの、過去に犯罪に関わった貴族たちの大粛清を行なっているため一部の貴族からは相当嫌われている。

 一家、一家はそこまででも数が集まれば厄介で中には口車に乗せられただけの貴族だっている。


 影の館シャドーハウスまで街を歩いて帰るが、噂というのは広まるのがはやい。

 歩くだけで視線は俺へと向けられひそひそと話し出す。

「だからいったじゃないの。暗殺クランなんて信用できないって。私はいつかこうなると分かっていたんだから」

「よく堂々と街を歩けたものね」

「来訪者だから許されたみたいよ」

「まぁ、やあね。騎士には仕事してもらいたいところね」

「殺された人、娘さんがいたみたいよ」

「かわいそうにね」

「教会で泣いてるのを見たわ。お母さんを早くに亡くして、お父さんと2人で暮らしていたみたい」


 真実でなくても心に深く刺さる。

 姿を消してギルドまで戻ってもいいが、俺には現在、監視がつけられている。

 俺には秘密のようだけどバレバレだ。

 ここで姿を消すのは印象を悪くするだろうなと、徒歩を選んだのだが……

 きついな……

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