151話 貴族騎士

「君ってシュバルツ家の断罪者だよね。よろしくね」

 王国騎士団3番隊隊長のターニャは天真爛漫で小柄な女性。

 自身の身長よりも長い槍を軽々と扱う。

 意外と騎士団には女性も多く、女性だけの騎士団なんてものもある。


 現在、俺は3番隊のメンバーと王都の警備に当たっている。

 厳戒態勢の敷かれている王都にわざわざ潜むなんてよっぽどの馬鹿か自信があるのか。

 だからこそ躍起になって探しているわけだが、3番隊を含めて他の部隊もこいつには随分とおちょくられているみたいだ。


 俺が選ばれたのは監獄送りにしたのが俺でかつ、相性的にもベストだから。

 重要なのは戦闘力ではなく追跡能力なのだ。

 そいつの戦闘能力は四次職にしてはかなり低く、その代わりに逃走という面が強い。

 世紀の大怪盗ルブラン、王都を中心に盗みを働き、多大な被害を多くの人間に負わせたため暗殺依頼を出されて俺に殺された男。

 またあいつかと拍子抜けな気もするが、騎士団の熱気はすごい。

 脱獄後は特に何かをした訳ではないが、騎士団の誇りを重視する彼らはルブランに泥を塗られたと感じている。


「ターニャ隊長、見つけましたよ」

 真昼間から堂々と人混みの中を歩いている。

 問題は周りに人が多いことだ。

 ここで攻撃を仕掛けてしまうと被害が出る可能性がある。

 基本は騎士団に任せることにしているため、まずはターニャの判断を仰ぐ。


「お前たちは周りを囲え。一般市民に被害が出ないように考慮しろよ」

 ターニャが指示を出すと速やかに騎士団の面々が散っていき、ルブランの逃げ道を塞ぐ動きをする。


 しかし、ルブランの視線がこちらに移る。

 騎士の動きがバレてしまった。

 ルブランが煙玉を地面にたたきつけると煙幕が広がる。


「きゃあああ」

「なっなんだ!?」

「火事だーーー」

 市民はパニックを起こしルブランはその場から立ち去る。


「落ち着いてください。ただの煙幕です」

「パニックにならないで、慌てないでください」

 騎士団が事態の鎮静に手を尽くすがパニックは収まらない。

 ルブラン捕獲はまさかの大失敗に終わった。

 俺はあくまでも助っ人であり、責任をとるのは騎士団である。

 ターニャは総隊長と宰相から注意を受けてしまった。


 俺も一緒に注意してくれればいいのにと罪悪感を覚えるが、ターニャ本人はケロッとしていて気にしていない。

「ふんっ、ここぞとばかりに下衆どもが叩いてきたな。クロツキ君は気にしなくていいからね。今回は完全にウチらの手落ちだよ。少しばかり休みをもらってしまったから明日からクロツキ君は5番隊と一緒に行動しておくれ。でも、5番隊は黒い噂もあるから気をつけたほうがいいよ」

 ターニャはそんな不穏な言葉を遺して去っていった。


 翌日、5番隊と王都を巡回することになったのだが、3番隊とは全く違った様相で、なんとも雰囲気が好きではない。

「お前がクロツキか、せいぜい足を引っ張らないようにしてくれよ。全く、王の御命令でなければな……いくぞ、スクアロ」

「はい、ブラウィン様、あちらの店で目撃情報があったようです」

「分かった、お前らはそっちの路地を漁れ、他はついてこい、行くぞ!!」

 隊長のブラウィンはいかにも貴族な体形をしている。

 騎士らしからぬぷよぷよな下腹、手足も顔も全体的に丸々としていた。

 それに比べて副隊長は筋肉隆々でガタイがいいが、鎧にコテコテの装飾が施されている。

 隊長と主だった隊員は貴族出身で平民のことをかなり下に見ている。

 平民出身の隊員は雑用ばかりを押し付けられていた。

 そして、貴族出身の騎士は隊長のブラウィンを筆頭に明らかに俺を敵視している。


 裏路地のような服の汚れそうな道は平民出身の隊員の担当になっている。

 そして俺もそこに同行していた。

 隊長とその周りの貴族組は巡回と称して店巡りをしている。

 まぁ、そこに絶対にいないだろなんて言えないが、あまりにも扱いがひどい。


「クロツキ様、申し訳ありません。隊長は悪い人ではないんですが、貴族の誇りを大事にしているお方でして……」

 貴族社会など経験したことがないがその光景は見覚えがあった。

 ブラック企業の上司と部下だ。

 上司の命令は絶対で部下なんて使い捨ての奴隷にしか見ていない。

 社員応募の広告に騙された社員は徹底的に使い潰される。

 広告には嘘しか書かれていないのだ。

 残業月20時間以内、土日祝休み、有給休暇も簡単に取れるアットホームな会社です。

 逆に正しい部分を見つけることの方が難しい。

 月の残業は120時間オーバー、土日祝も会社に呼び出される。

 有給休暇なんて存在しない。

 アットホーム? 笑わせてくれる。

 貴族と奴隷の関係のどこがアットホームなのか。


 社畜時代を思い返すとふつふつと怒りが湧き上がってくる。

 ここにいる平民出身の騎士たちも隊長は実はいい人なんですなんていっているが、悲しいかな俺にもそんな時期があった。

 麻痺して分からなくなってくるのだ。

 奴隷としていることが当たり前のように振る舞われているとそれが当然なんだと錯覚してしまう。


 ここはなんとしても、この悲しき子羊たちに活躍してもらってあの貴族どもを見返させしてやりたいものだ。

 俺は一層メラメラと燃えてルブランの捜索に力を入れる。


 そしてようやく見つけた。

 今回は前回の反省を活かして見つけたら即、先制攻撃を許されている。

 未だ好調とは言えない状態ではあるものの、これにも慣れてきてしまった。


「見つけたので、気づかれる前に攻撃を仕掛けます」

 隊員に報告をして、影に消える。

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