四章

150話 王宮招集

 王宮は大混乱を迎えていた。

 王国騎士団が厳重に警備をしていて殺気立っている。

 その中で特に厳重に守られている部屋の中では王国の中枢を担う会議が行われていた。


「賊共の動きが活発化している情報なんてとっくの昔に入手していたことだろ!!」

「そうだそうだ、警戒していた中でこの失態はどう責任を取るつもりなんだ」

 声高々に机を叩くのは文官たちだ。


 それに答えるのは王国騎士団の騎士団長たち。

 騎士団は13に分かれていてこの会議には8人が参加していた。

 参加していない騎士団長は国境の警備などにあたっているため、いくら緊急事態とはいえ持ち場を離れることはできない。

「ふん、てめぇらの情報なんてほとんどが当てにならないものばかりだろうが」

「確かに、それに今回は監獄での問題じゃないか、ってことは騎士団は関係ないだろ」


「そのへんにしておけ、王の御前であるぞ」

 言い争いを止めるのは文官のトップである宰相だ。

「お前たちも少し黙れ。今回の件、あまりにも内部事情が漏れすぎている。特に警備に関しての情報がだ。騎士団のなかに情報を流している奴がいる可能性がある」

 騎士団のトップである一番隊の隊長は戦場を共にしてきた仲間を疑われ宰相を睨みつける。


「ふーん、おっさんは俺らの中に裏切り者がいると思っているわけだ」

「それならばこの異例の招集も頷けますね」

「だったら六番隊なんじゃねぇの。あの日の周辺警備はお前んとこだろ」

「ふざけたことを、その前の日にあんたんとこが手引きしたんじゃないのか」

 騎士団長たちも一枚岩というわけではない。

 特に武を極めようとしているものの多い中で隊長を務めるのは並外れた力と我が必要になる。

 さらに平民出身と貴族出身での軋轢。

 忠誠心の差なので足並みは揃っていなかった。


「いい加減にしろ、王よ申し訳ございません」

 一番隊騎士団長は一喝する。

 玉座に深く腰掛け言い争いを静観していた王の言葉を待ち一同は静寂を作る。


「いいのだ、こんな状況下で場が混乱するのは仕方ないこと。大陸全土を襲うモンスターたちの襲来を控えている中でのキャルトベル魔術学院襲撃……宰相よ、概要を説明してくれ」

「魔術学院を襲撃した主犯はロゼアス教と判明しています。奴らの狙いは魔術学院に隠されたアンセリウスの錠前でした。奪取した錠前で監獄を無効化し今に至ります」

「ふむ、このような窮地だからこそ力を合わせて乗り切らなければいけない」

「ハッ!!」

 全員の声が重なる。


「そういうわけで協力者を呼んでおる。今回の会議が初めて……というよりも恐らく全員が初対面と思うがな。宰相、呼んでくれ」

「ハッ、王の許可が降りた。入れ」

 宰相が部下に合図を出すと部屋の扉が開かれる。


§


「マジで緊張するんだけど……」

 ゲームでは王様に会うなんてよくあることだけど、この世界はリアルすぎてそんな余裕はないんだよな。

 しかも、異常なほどの厳戒態勢だし。

 殺気が漏れすぎててヤバい。

 特に俺たち2人を見て露骨に嫌な顔をするのはやめて欲しい。


「そんなに緊張しなくてもいいと思うけどな」

「いやいや、トーヤはいいよ。カレルさんがついてるじゃん。俺なんて1人なんだぞ」

 隣にいるのはトーヤで俺たち2人の前を歩くのがヴァイス家当主であり、神殿長でもあるカレルさんだ。


 緊急事態の内容はまだ教えてもらってないが相当なことが起きているのだと分かる。

 そんな時に王国の剣と王国の盾である二家が呼ばれるのも分かる。

 理解できないのはこんな状況でここに来ていないジャンヌだよ。

 なーにが、「遅刻しちゃった。謝っといて、テヘッ」だよ。

 さすがにふざけすぎだろ。

 そんなことを考えると胃がキリキリと痛くなってくる。

 なんとかジャンヌが間に合うように願うことしかできない。

 しかし、願いが届くこともなくジャンヌは間に合わずにその時はやってきた。

 派手な装飾がなされた大きな扉が開かれ中へ入るよう促される。

 中に入ると玉座に座る王を中心に鎧を着た騎士たちと文官が待ち構えていた。

 少しのざわめきが起きる。


「おいおい、来訪者ビジターじゃねぇか。冗談だろ」

「噂は本当だったのか」

「まさか王国を代表する二家が本当に来訪者などを断罪者にするとは……」

「大体、この問題に来訪者を呼ぶなど……」

 文官サイドから不満の声が聞こえる。

 俺たちが気に入らないのは来訪者だからだ。

 来訪者をよく思わない勢力があってデモ活動なんかをしているというのも噂で聞いている。


「別に強けりゃ問題ないんじゃねぇの」

「信頼に値できるならば誰であろうといい」

 騎士側の反応はそんなに悪くないようだ。


「神殿長カレル、紹介を」

 宰相がカレルを呼ぶ。


「では僭越ながら私から紹介させていただきます。こちらが白の断罪者トーヤ、そして黒の断罪者クロツキです。ジャンヌ殿は遅れているようですな」

「全く困ったものだな……仕方ないか、2人には現在王国で起きている事態に対応をしてもらいたいと思っている。宰相、詳細を」

 ジャンヌよ王様が困っているぞ。

 でも、思ったよりもあっさりと済んでよかった。


 ただ、伝えられた内容な衝撃的なものでジャンヌの遅刻なんて些細なことに思えてしまった。

 監獄が襲撃され、中にいた多くの犯罪者が脱獄を成功させ、現在王国は血眼になって脱獄囚の追跡に力を入れている。

 半数以上は確保に成功したが、巧妙に潜伏をしている犯罪者はまだ捕まえれていない。

 その中にはイヴィルターズの名前もあった。

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