149話 勝利の宴と未解の矛盾
「えー、今回のダンジョン、影の館は上位入賞とのことで賞金に珍しい素材、さらにはクランの権限向上と至れり尽くせりの結果となりました。これも皆さまの尽力のお陰です。本当にありがとう」
俺の挨拶でダンジョン上位入賞お疲れ会が開催される。
結果としては上々だったと言えるだろう。
しかし、俺が万全であればより上を狙うこともできたはずだ。
この状態にも多少は慣れたものの、未だに抜け出すことができない。
「大丈夫ですか?」
ルーナが心配そうな顔をして声をかけてくれた
「クランマスターなのにみんなに迷惑をかけてごめん」
「迷惑だなんて、そんなことないですよ。みんなクロツキさんには感謝してますから。それにその現象はすごいことだと思います。魔法を扱う職業じゃないのに魔法のレベルが四次職なみになるってことじゃないですか!!」
「この状態を早く抜け出せれたらいいんだけど」
「クロツキさんならきっと大丈夫ですよ。最近忙しすぎたので休みを取るのがいいと思います。よければ今度どこかに行きませんか?」
「たしかに最近はいろいろありすぎて少し疲れた。気分転換にどっか行こう」
「はい」
控えめな笑みではあるが、ルーナが普段からあまり表情を崩さないことを考えれば満面の笑みと同等の価値がある。
宴会の雰囲気だとかなんとかで照明は薄暗く、俺とルーナの会話が途切れ、クランメンバーの会話が盛り上がるほどに、空間が切り取られてルーナと2人でいるような感覚を覚える。
「「あっ……」」
取り箸に手を伸ばすとルーナも同じことを考えていたようで手と手が触れる。
ルーナの顔を見ると赤面していた。
こっちもいい大人だ。
恋愛経験だってないわけじゃないし、これがいい雰囲気なことくらい分かっている。
「ルーナ……」
言葉を駆けようとした瞬間に俺とルーナの間を刃物が通りすぎて、壁に刺さった。
「やべっ!? こっこれは違うんだ」
リオンが慌てて弁明を入れ、オーウェンとシオンがその場から離れようとしている。
ジャックは息を殺して柱の裏に隠れているな。
オウカはまぁ、堂々としたものだ。
しかし、一体どんなふざけ方をすれば刃物が飛びかうのやら。
隣を見ればルーナがどす黒いオーラを放っている。
「みなさん、地下に行きましょうか」
貼り付けた笑顔のルーナを前にしては誰も文句を言えない。
ダンジョンであれだけ活躍していたみんなが床にひれ伏している。
もちろん本気ではないが、それでも防御はしっかりとしていた。
しかし、それを上回るルーナの魔法が火を噴いていただけだ。
これで三次職なのが不思議なくらいだ。
ルーナはすでにレベルが三次職でカンストしている。
いつでも四次職に転職できるのだが、そうしていない。
ルーナの師匠にあたるセン婆が禁止しているからだ。
どうやら、転職させたい職業の解放条件をまだ達成できてないらしい。
今だけの効率を見れば選りすぐりをせず、とにかく四次職に上がれば戦闘力は大きく伸びるだろう。
しかし一度体験してしまえば、それをなかったことにはできない。
俺が魔法を忘れることができないように……
別の職業での経験が邪魔をすることだってある。
オウカとオーウェンとジャックが四次職、ルーナも四次職と言っても過言じゃない。
リオンだってすぐに四次職に上がるだろう。
シオンだってそうだ。
みんながみんな、クランマスターである今の俺よりも有用だ。
実際に今回のダンジョンで外からの評価はそうなっている。
異論はない。
もちろん悔しくないわけじゃない。
焦りだってあった。
「あははは、ルーナその辺にしといあげなよ」
「うぅ、はい……」
怒り疲れたのかルーナはぐったりしてる。
アルコールも入っていたし、酔いが回ったのだろう。
「姉ちゃん、そんなに怒ってると……」
「リオン……」
「はい……」
またリオンが怒られてる。
「ったく、酷い目に会ったぜ。今後お前は酒を飲むなよ」
「なんだよぉ〜」
オーウェンの背中にシオンがくっついていた。
刃物の感じからしてシオンが作ったものだと推測できる。
大方、酔っ払って新作のお披露目をしてたら刃物が舞ったんだな。
どんなだよ。
「ジャックは大丈夫だったか?」
「はい、距離を取ってたので」
「オウカはモロに喰らってたよな」
「いいトレーニングになる」
「さよですか」
うちのクランは変わり者ばっかだ。
「まったく、焦ってたのがバカみたいに思えてくるじゃないか……」
互いに弾ける姿は無邪気そのもので、冗談や愉快な話を交わし合う様子からは信頼が見て取れる。
「キュイ」
「大丈夫だよ、あれは遊んでるだけだから」
「キュイキュイ」
「悪いけどみんなディーも混ざりたいらしいから、もう1ラウンドよろしくね」
ディーが飛んでいく。
影の館では夜が更けてなお笑い声がこだましていた。
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