148話 迷走

 魔術学院襲撃事件から数日、ようやく落ち着いてきたと言ったところ。

 俺は最後の講義を終えて生徒たちからお礼を言われ教室を後にした。

 講義にはスーリャとシードの姿がなかった。

 他の生徒は多少の怪我はあるものの概ね全員が無事であった。

 今回の襲撃者は二つの団体によるものだったことが判明している。

 ゼオール・キリギス率いる魔法使いのみで構成された団体とロゼアス教と呼ばれる宗教団体だ。

 この二つは協力関係にあり、魔術学院に保管されているレガリアを狙っていたとのことだが、蒼の魔塔から救援に駆けつけた精鋭によってその企みは防がれた。


「ロゼアス教……」

 チャリックでのラフェグ復活にも関わっているとされていて、あれですら小さな実験でより大きな何かを企んでいるらしい。

 もしも、ロゼアス教が主導で動いていたのならチャリックのように死者が膨大な数のものになったことだろう。

 今回はゼオールとやらのおかげでこれだけ大規模な襲撃の割に奇跡的なほど被害が少なくすんでいる。


「いやぁ、まさかこんなことになるとは思わんで申し訳なかった。キャルトベル魔術学院の責任者として謝罪をさせていただく、そして生徒を守っていただき本当にありがとう」

「大丈夫ですよ、特に何もできなかったからですか」

 学院長室でアルバートが頭を下げる。

 他の目がないとはいえ、このレベル、権力の者が頭を下げる意味は非常に重い。

 巻き込まれるには巻き込まれたのだが、俺はロゼアス教の信徒1人を倒すことしかしていない。

 それほど強い相手でもなかったのに想像以上に時間がかかってしまい、終わったときにはほぼ事態が収束していた。


「調子が悪そうじゃな」

「分かりません、敵は強い相手ではなかったと思いますが、想像以上に時間がかかってしまいました」

「魔法とはどの職業の人間でも覚えさえすれば使うことができる。しかし、意外とそういう者は少ない。なぜか分かるかな?」

「実践で通用するレベルに至らないからですか」

「まぁ、それもある。魔法を主とする職業であれば補正がかかるため、他職業とは威力も精度も頭ひとつ以上離れる。ただ、それにしても使う人間が少ない。来訪者はそうでもないようじゃが、現地人でそういう者はかなり少ない。なぜなら、現地人は魔法を主とする職業でないなら魔法を覚えることすら避けるのが一般常識だからじゃ」

「…………?」

 確かに現地人でサブで魔法を使う人間はほとんど見たことがない。

 それが一般常識というのなら何か理由があるはず。


「なぜですか?」

「迷走してしまうからじゃ。こうなってしまうと本職の方も魔法の方もどちらも著しく能力が低下してしまう」

「今の私はそういう状態だということですか?」

「そうじゃな、来訪者のことは詳しく知らないがその可能性が高い」

「解決策はないんですか?」

「今のところは見つかっていない」

「そんなっ!?」

「そもそも、解決策なぞ人それぞれなのじゃ。本人が悟りを得ない限りは抜け出すことができない。すぐに抜け出るものもいれば、一生をかけても抜け出せないものもおる」

 そんな重要なことなら誰か教えてくれればよかったのに。

 っていっても、来訪者のことなんて詳しく知らないんじゃ仕方ないよな。

 しかも、来訪者で魔法も併用してる人間はちょくちょくいる。


「他の人もこの苦しみを味わっているんですね」

「いや、そんなこともないじゃろうな。その状態になるには魔法の熟練度がある一定以上に到達しなければならんから、むしろ誇るべきことでもある」

「そうですか、今の時期でないならよかったんですが」

「王宮からの招待状じゃな」

「そうです、噂によるとアルバート様が関わっておられるとか」

 王宮から来訪者全員に周知があった。

 来訪者の実力を図るためのイベントが開催されるとのことだ。

 優秀な結果を収めればそれなりの報酬も用意されているし、今後王国での活動にも役立つ。

 参加者はソロでも、パーティでも、クラン単位でも参加することができる。

 せっかく影の館で参加して頑張ろうと意気込んでいたというのに。


「人口ダンジョンの制作に携わったの」

「話しても大丈夫なんですか?」

「問題ない。ランダムでダンジョンの内容が変わるし、入場したメンバーの総合値でダンジョンの難易度が変わるものじゃから、あらかじめの対策も不可能じゃ」

「なるほど……」

 とりあえずはみんなに相談するしかない。

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