147話 異端審問

「ゼオール君さぁ、なんかやる気なくない。全然、殺してないじゃん」

「たしかにお前たちに協力するとは言ったが、無駄に魔法使いを殺そうとは思わない。今回の目的は学院にあるレガリアなんだろ」

「なんだか生意気だねぇ」

「ここまでやればもう十分だろ。俺たちは退かせてもらおう。殺したければ好きにすればいいさ。それとも文句でもあるのか」

「ふぅん、まぁいいや、ゼオール君の言う通り今回の目的は虐殺じゃないからね」

 ゼオールとスーリャ含む襲撃者である魔法使いたちが空間魔法で消えていく。


「カルロス君、後は任せてもいいよね」

「どのように処理いたしましょうか」

「皆殺しで」

「承知しました」

 少女は空間にできた噛み跡の中に消えていった。


「私はロゼアス教司祭、ヘンリー・ポドマックと申します。若きヴィトルよ、ロゼアス様の礎となれることを感謝して死ぬがいい」

 空間の揺らぎで大きく開いた顎がセレンを噛み殺そうとしているのが見える。

 セレンに抵抗する力は残されていない。


「ロゼアス様への祈りを邪魔するのは誰だっ!?」

「ヴィトル家と知っての狼藉、舐められたものだな」

「セレン、お前はもう眠っていろ」

「ウェイカーお兄様……」

 銀の短髪、紺碧の瞳、青のラインが入った黒のローブを纏いし蒼の魔塔副塔主ウェイカー・ヴィトル。

 そしてセレンの実兄でもある。

 実力はアルバートの折り紙つきだ。

 空間が凍てつき、セレンを襲おうとしていた大きな口がパラパラと氷粉になって風に吹かれる。

 ウェイカーはアルバートの命を受け、魔塔の中で信頼できる魔法使いと教会の神官たちを引き連れてやってきた。

 安心感から意識を失ったセレンの元に白の法衣を纏った神官が聖魔法をかけると傷口が癒されて、顔色も良くなった。


 ウェイカーたちが到着してから勢力差は逆転し、襲撃者たちが狩られる側に回った。

 ロゼアス教司祭のヘンリーとウェイカーの戦いの決着はそれほど長い時間かからなかった。


「さすがは史上最年少で魔塔の副塔主になった経歴を持つお方だ。これでヴィトル家のあの魔力さえあれば当主は……」

 顔を残して全身凍りついて横たわっていたヘンリーの顔が徐々に凍っていく。

 ウェイカーはその様子を見ていたが、ヘンリーが最後まで言葉を発する前に顔を踏みつけ粉々に砕いた。


 その頃、クロツキはスーリャの代理講師を名乗っていた男との決着をつけ、逃げ遅れた生徒がいないか校舎内を探索していた。

 そこで見覚えのある男と遭遇する。


「どうしてお前がここにっ!?」

 顔を見た瞬間、戦闘態勢に入る。

 首から下げる血の十字架がより濃くなっている。

 それだけ血を吸わせたということだ。


「これはクロツキさん、お久しぶりですねぇ。私が殺されて以来ですか……」

 こいつの言う通り、俺が一度殺したことのある神官のフェイだ。


「おっと、そんなに警戒しないでくださいよ。ある程度の話は聞いてるんでしょ。今回だってこうして助けに来たわけですから」

 フェイは元々、イヴィルターズのメンバーとして犯罪行為に加担していたが、実はそれは潜入だったことをジャンヌから伝えられた。

 教会が警戒している組織や個人を調査して悪だと見做した場合、攻撃する許可をフェイは持っている。

 暗殺クランである影の館とほぼ同じ殺人許可証を持っている。

 それもそのはずで教会にも断罪者がいることから、なんらおかしくはない。

 教会の表の剣がヴァイス家の白の断罪者なら、よりディープな血生臭い仕事をこなす裏の剣がフェイの所属する異端審問部。

 その話を聞いても警戒してしまうものしてしまう。


 異端審問部が表の場に出ることはなく、今回のような人助けをするなんてこともない。

 他に目的があるわけだ。

 フェイ曰く、今回の敵は教会とは因縁深い宗教団体、七ヶ国同盟で邪教認定されているロゼアス教。

 だからこそ、異端審問部が動いているらしい。


 ロゼアス教は邪神ロゼアスを信仰する宗教で、いくつかの派閥に分かれているのだが、それぞれが別々の特殊な加護を得ている。

 戦力は小国以上とも言われ、王国としてもロゼアス教案件は最重要案件の一つになる。

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