144話 ロゼアス教

「お初にお目にかかります、クラック・ヘンリー・ラドクリフと申します」

「蒼の魔塔、魔塔主アルバート・オルターじゃ」

「本日はお越しいただきありがとうございます」

「うむ、ここに作ればよいのかね?」

 王国の僻地、何もない更地に王宮魔術師団と魔塔の魔術師が一同に会していた。


「その通りでございます。全10階層のダンジョンを作っていただきたいと思っております。素材などはあちらにございます。もし足りなければ追加できますのでお気軽に仰ってください」

「難易度は?」

「Aランク混成竜騎軍の進軍をお願いします」

「素材からある程度は予想しとったが、随分と本気のようじゃな。魔塔主の名において承った。して、あちらの魔法使いどもは好き勝手に使ってもいいのかね」

「もちろんです。彼らも本望でしょう」

 アルバートの笑顔と目が合う王宮魔術師団の目は死んでいた。

 王国で魔法使いになるということは魔術学院に通うということ。

 そして、王宮に仕えることができるほど優秀ということは目をつけられるということ。

 ここにいる全員がアルバートにお世話になったことがあり、アルバートのことをよく知っている。

 これまで一体、どれほどこき使われたか。

 王宮で今回の人口ダンジョン作成の手伝いが募られたわけだが、自主性に任せると言いながら、半ば強制の参加。

 ダンジョンなどという神の創作物を人工的に再現するのがどれほど困難か。


「アルバート様、王宮の大規模プロジェクトに手を貸してもよかったのですか?」

「ウェイカー、今回の大型モンスター襲撃は塔主の誰かが手を貸しているはずじゃ。いざ、当日になれば牽制のし合いでまともに動けんじゃろうからな。動けるときに動いとかんと」

「まさか塔主様の誰かが……」

「まぁ、なくはないじゃろう。主導はしておらんでも、見返りに手伝う可能性は大いにある」

 副塔主のウェイカーは信じられないといった顔を見せる。

 魔塔主は一国の王以上の権力を持つ。

 そんな魔塔主にどんな見返りを用意すれば動かすことができるのか想像もできなかった。


「探りをいれましょうか?」

「いや、余計なことをするとややこしくなる。それよりも学院の方を任せたい。教会が秘密裏に動いとる」

「承知しました。では、信頼できるメンバーで警戒に当たります」



§



 ハザルとの戦闘の翌日、俺の目覚めは爽快とはいかなかった。

 昨日のことが思い起こされる。

 オルトロスを目の前に迎えた俺は結局なにもできなかった。

 頭はすっきりしていたのに、考えれば考えるほど、思考に要する時間は必要となり、気づいたときには何をしても手遅れな状態、戦闘中に余計なことを考えすぎた。

 講師が間に入らなければ大怪我は必至だったはずだ。

 そんな俺を見てハザルは呆れていた。


「何やってんだよ、不調か?」

「いや、影魔法で防ごうとしたのが失敗だったな」

「ったく、魔法縛りなんてしやがって」

「それは申し訳ない」

「次は全力でやりたいもんだぜ」

「機会があれば……」

 さすがに魔法のみで本家に挑むのは無謀過ぎた。

 でも、もう少しで何かが掴めそうなんだよ。

 魔法使いたちがどうして引きこもるのか分かった気がする。

 しかし、今日も講義がある。

 気持ちを切り替えて部屋を出た。


「あれ、スーリャはまだなのか?」

「珍しくまだ来てないようです」

 セレンが答えてくれる。

 教室にはセレン、スーリャ、俺の順番なことが多い。

 その後に続々と生徒たちが来るわけだが、今日はスーリャが講義に来ることはなく、別の講師が代わりにやってきた。


「スーリャ講師は本日、お休みとのことで私が代理で講義を務めます」

 50手前の男性講師が講義を進めようとするが、生徒たちは誰だこいつはと言った反応だ。


「失礼ですが、どの学部の方ですか? お顔を見たことがないのですが。それに代理講師は別のお方だと認識しています」

 セレンの問いかけに男性講師は笑顔を見せる。


「生意気なガキどもが誰に口を聞いている」 

 男性講師がセレンに杖を向けた瞬間、殺気が強まる。

 俺に躊躇なく精霊刀を振らせるほどの殺気だ。


「何をしている?」

「ちっ、逸れたか……別の代理講師がいることも、貴様のような男がいることも聞いてないのだが、雑な仕事をしてくれる」

 俺が攻撃していなければ壁に風穴を開けた魔法がセレンに直撃していたところだ。


 ……!?


 部屋の外でいくつもの爆発音、そして戦闘音が聞こえてくる。


「目に焼き付けて死んでいけ、我らロゼアス教による革命が始まるのだ」

「全員、すぐに避難しろっ!!」

 完全に逝ってる目をした男は無造作に魔法を乱射する。

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