143話 双頭の影
模擬戦の許可は簡単に降りたらしく、ハザルから連絡があった。
講義終了後の夜、月明かりに照らされる屋外訓練場でハザルと対面する。
周りには幾人かの講師がいるだけで、他生徒は1人もいない。
元々、講義の一環として模擬戦をするように頼んだらしいのだが、こっちの方が都合がいいとのことでこのような形になった。
例の如く、俺は魔法関連以外のスキルもアイテムも使う気はない。
何かがつかめそうなんだ。
ここで他の力に頼ってしまうと感覚が消えそうだ。
ディーにも今日は大人しくしてもらう。
「生徒として先生には先手を譲ってもらおうかなっ!! シャドウフィールド!! ヘルハウンド召喚、シャドウバイト」
ハザルの足元の影が俺の影を飲み込んで、辺り一帯に広がった。
なんとも言えない違和感、ここは俺の領域ではなくハザルの領域となった。
俺の足元付近の影が揺らぎ、顎を広げヘルハウンドが複数体、飛び掛かってくる。
「影気解放」
見た目的には何も変わらない。
ただし、影の領域の支配権は取り返した。
ヘルハウンドたちは俺に食らいつく前に消えていった。
「ちっ、影気解放とはな……だが、必ずしもオリジナルが強いとは限らないんだぜ、ヘルハウンド召喚」
今度はハザルの周りの影からヘルハウンドが現れた。
魔法の多くはスキルを模倣して作られている。
シャドウフィールドは影気解放をもとにして作られている。
だが、ハザルの言う通り、魔法がスキルよりも劣っているということはない。
現に影気解放で取り戻した領域は俺の周りだけ。
範囲、支配力ともにほぼ互角。
ヘルハウンドの数は20頭。
「
数頭にヒットしたが、他には避けられたか。
ならこれならどうだ。
「
新しく覚えた影魔法。
シャドウダイブは影の中に意図的に潜る。
しかし、これは相手を影の中に引きずり込む。
ヘルハウンドがどれほど高速で移動しようが、地を駆けていることに変わりはない。
引きつけて引きつけて、飛び掛かろうとした足の踏み込みに合わせて発動させたおかげで一網打尽にすることができた。
「っ!? そうこないとなぁ、ヘルホーク」
ハザルが次に召喚したのは影で作られた鷹のモンスターだった。
空を飛ぶヘルホークに影沼は無意味。
影槍で迎撃しようにも簡単に避けられてしまう。
ただ、ハザルの顔はあまり芳しくない。
ヘルホークを使いたくない理由があるらしい。
同じく影を使う俺だからこそすぐにわかった。
影とは物体と密接しているもの、ヘルホークは空に飛んでいて単独で姿を保っている。
いくら使い慣れているとはいえ、ヘルハウンドとヘルホークではあまりにも能力に差がありすぎる。
ヘルホークは見せかけに過ぎない。
無理やり影から離して姿を保たせているせいで能力は下がり、魔力消費も激しそうだ。
影槍のような一瞬だけならまだしも召喚は相性が最悪だ。
「はぁ、バレちまったか」
ハザルはヘルホークを解除した。
「基礎も学ばず力任せに魔法を覚えていたときの過ちだよ。少しは焦ってくれると思ったんだが、上手くいかねぇな」
「影はあくまでも影、スキルならいざ知らず、魔法でその認識を上回るのは難しそうだな」
「隠者の割によくご存じで、ちなみに聞いておきたいんだが、本当に隠者か? スムーズに魔法使いすぎだろ」
「優秀な相棒とアイテムのおかげだな」
「こっちだってそこそこ値が張るもんだったんだが……」
俺が精霊刀を見せると、ハザルは苦笑いしながら指輪を撫でた。
指輪型の魔導書で実践に耐えうるものはかなり珍しい。
「このまま、ちまちまやっても意味ないだろう、次の召喚で決着をつける」
「受けて立つ」
「影があらわすは双頭の獣、素早く愚直にすべてを噛み砕く冥界の番犬よ、影より出でて影となれ、シャドウサモン・オルトロス」
影が集まって大きな二つの頭を持つ犬が現れた。
ヘルハウンドが大型犬くらいの大きさなら、このオルトロスは3倍ほどはあるだろうか。
……!?
「影沼、影槍」
尋常じゃない速度だ。
影沼には沈まず、影槍は二つの顎で噛み砕かれる。
オルトロスは早いが、逃げれない速度ではない。
逃げるくらいなら、ハナからかんな勝負受けなきゃよかった。
かといって、どうするか。
影魔法に守りの魔法はほとんど存在しない。
影で壁を作るくらいならできるが、オルトロスの前では意味がない。
魔法はイメージが重要だ。
影魔法に守りの魔法が少ないのはイメージしづらいからだ。
影に硬さは存在しない。
影のイメージである他のモノの影を介してイメージすることで、影槍やオルトロスのように攻撃に使うことができる。
では、なぜ壁などが難しいか。
影は簡単に動くというのが原因だ。
目の前にオルトロスの牙が迫る中、なぜかアルバート・オルターとの邂逅が走馬灯のように流れる。
濃密すぎる魔力の中にいると体は水の中にいるように重くなった。
後でルーナに聞いたのだが、アルバート・オルターの魔法は大気中の水分に干渉して密度を増すことで、水の中にいるような感覚だけでなく、深海のような圧力を与えることもできるらしい。
アルバート・オルターが作り出した水の塊に鋼鉄の剣を入れると一瞬でひしゃげ折れるらしい。
簡単に出入りできそうなただの水もアルバート・オルターにかかれば、最強の矛であり、最強の盾となる。
その根幹を支えているのは密度。
影を圧縮してより濃くすれば威力が上がるかもしれない。
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