136話 魔術学院

「クロツキ様、こちらが講師待機室になります」

「いやぁ、何から何まですごいですね」

 厳重な結界が幾重にも張り巡らされ、外から中の様子はうかがえない。

 敷地内に入ると巨大ないくつもの建物が並び、生徒たちが行き来している。

 ここがキャルトベル魔術学院、身分は関係なく、その代わりに徹底的な実力主義を掲げている。

 今回の話がなければ俺とは一生縁がなかっただろう。


 待機室で少し待っていると1人の女性が入ってくる。

 金の短髪でボーイッシュな雰囲気、服装は魔法使い然としている。

 ただ、サイズが合ってないのかダボダボなローブと大きなとんがり帽をかぶっている。


「はっ、初めまして、スーリャ・ニコラエブと申します。アルバート学院長からお話は伺っております。講義は実践的魔法運用を主に教えています。本日より、よろしくお願いします」

「クロツキです。よろしくお願いします」

 俺は彼女が受け持つ講義でのゲスト講師として一週間生徒を指導することになっている。


 指導……

 誰かに何かを教えるだなんて会社で新人に指導してたときくらいか。

 それに今回は学生ということで年齢も10代だ。

 キャルトベル魔術学院の生徒が10代だけというわけでもないが、講義の生徒は全員がそうだと聞いた。


 スーリャの講義は二コマ連続の講義となる、前半と後半で一時間ずつに分けて行われる。

 今日は前半が座学で後半は早速模擬戦闘となっている。

 スーリャの後に続いて教室の中に入ると、50人以上の生徒の視線が俺に集まる。


 座席は階段状になっており、大学を思い出すな。

 しかし、教壇に立ったことなんてないが。


「今日は先日も話したようにゲスト講師が来ています。クロツキさん」

「初めましてクロツキです。人に指導するのは向いてないなんて言われたこともありますが、精一杯やりたいと思うのでよろしくお願いします」

 反応なし……

 敵意すら感じるほどのアウェイだ。

 行き過ぎた実力主義の弊害なのか、実力がない者を認めず、自分たちこそが一番だという考えを持つ者が多いと聞いている。

 特にこの講義を受けている生徒は顕著にその傾向がある。

 とはいえ、想像以上だ。


「えぇっと、クロツキ先生はあちらの席で見学をしていてください」

 冷たい視線を浴びながらスーリャの指差す席に座る。

 座学なんて俺が教えれるわけもなく、前半講義は見学だ。


「魔法がなぜ生まれたか説明できる方はいますか?」

 生徒たちが挙手をしてスーリャが指名する。


「スキルを持たない人間がスキルに近しい力を発揮するために誕生したのが魔法です」

「その通り、魔法が誕生する前まではスキルの有無で大きな格差が生まれていた。それをなくそうと誰でもスキルを使えるように魔法が誕生したため、魔法の基礎はスキルの模倣から始まっていると言える」

 どおりでスキルと魔法で似てるものが多いと思った。

 下手をすれば似た能力で同じ名前のものもあるくらいだ。


「魔法は誰もが使えるということで一気に広がり、日々進化していっている。そんな魔法はこれまで何度か急激に成長する時代というものがありました。それぞれの時代にはある共通点があります」

「はい、戦争です」

 スーリャの可愛らしい見た目とは違って中々に重い話をしている。

 講義を受ける生徒も真剣だ。


「そうです、戦争ともなれば国がバックアップして魔法の開発に莫大な資金を投じて、人材と資材を集めさせ、音頭を取ることができます。それにある者は大事な人、故郷を奪われた復讐心で、ある者は大切な家族を守るためなど、魔法使いの魔法に対する心意気がまるで変わります。魔法の歴史において戦争はとても重要です」

 その後も講義は続けられた。

 意外と話は面白く、あっという間の一時間だった。

 これはスーリャの才能なのかもしれない。

 はたから聞いていれば堅苦しい歴史の講義なのだが、それでも聞きやすいのだ。


 戦争があった時代の魔法は大人数で発動する大魔法が主流だったが、昨今はそういうブームじゃない。

 七ヶ国同盟が大陸で締結されてからは戦争が起こっていないからだ。

 時代と共に魔法はコンパクトに、少人数、最悪魔法使いが1人でも立ち回れるような運用をするのが昨今の主流とのことだ。

 とはいっても準備に時間を要し、発動まで戦闘ができなくなるような大魔法が必要ないかといえばそういうわけでもない。

 大型モンスターを相手にする場合は大魔法が有効だからだ。

 重要なのは魔法とは時代と共に進化して、横にも広がり続けている。

 魔法使いの形というのも十人十色、様々であるとのことだ。

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