133話 秘密の晩餐
「この忙しい時期にわざわざすまないな」
「王の招集命令とあればどこにいても駆けつけるのが務めなれば……」
「ふっ、マリウスは硬いな。これは余が個人的に集まってもらった集会だ。他の者を見習って楽にしてもよい」
そこにはラフな格好で酒を嗜む王国騎士団総隊長に肉を頬張る宰相、他にも王と共に長年苦楽を共にしてきた王国の中枢を担う者たちがリラックスした様子で会食を楽しんでいた。
今日が初参加のクラックは若くして財政部門ナンバー2に位置する秀才だったが、少しまじめすぎた。
そんなクラックからすれば例え個人的だろうが、王の命令であることに代わりはない。
しかし、他の会食に参加し慣れているメンバーは命令などではなくただのお願いだと認識している。
そしてこの会食が開かれるときは決まって王が愚痴を漏らすと相場が決まっていた。
ゆえにこの場には王から真に信頼を得ているものしか呼ばれない。
「アンドロマリウス、人にどうこう言う前にその似合わない喋り方をやめた方がいいんじゃないか」
「なっ、宰相、何を?」
王の名を気軽に、それも呼び捨てするなど、即斬首刑に処されてもおかしくないとクラックは驚きを隠せないでいた。
しかし、焦るクラックをよそに部屋には笑いが起き、その中には王も含まれている。
「こればかりはなぁ、慣れとは恐ろしい」
「クラックこんな感じのただの会食だ。肩の力を抜け」
「は、はい……」
宰相に肩を叩かれ、とりあえずは理解はするが、それで肩の力が抜けるかどうかはまったく別の話である。
クラックはこの場で最も若年で地位も低い。
「で、アンドロマリウスよ、何かあったんだろう」
「まぁ、いろいろ重なってな……」
「ではそのうちの一つは私から皆様にお伝えしましょう」
「頼んだ」
六神教、実質トップの大神官の女性が前に出る。
上位の神官となると貴族と同等かそれ以上の発言権を有する。
六神教は王国の国教に認定されており、国家防衛に多大な貢献をしているからだ。
「すでに聞いている者もいると思いますが、神秘部が王国に迫る危険を察知いたしました。未来視持ちの神子も危険視持ちの神官もおおむね似たような結果を出しているため確度は高く、危険度にして国家壊滅レベルの災害だと思って欲しいです」
「ということだ」
パニックに陥ってもおかしくない重大な話を聞いてもそんな雰囲気は一切流れない。
幾度もの修羅場をくぐり抜けてきた海千山千の猛者がここに集まっている。
「どうせ他国への救援も要請できない事象なんだろうな」
王国騎士団総隊長ラインハルトが落ち着いた様子で口を開いた。
こういった予知があるときは大抵がそうだと数々の文献に載っているし、ラインハルト自身も過去に経験がある。
それに王国にだけ危機が迫っているのならこんな内々の話し合いではなく、すぐさま他国への援助を要請して調整に入っているはずなのだ。
それをしないということは、できない状況ということに他ならない。
「それに関しては私から話そう。各国でそれぞれ似たような予知……国が壊滅する危険が迫っているらしい」
宰相が補足をする。
「そんなにもでかい規模なら国どころか大陸規模じゃないのか?」
「いや、騎士団、学院の研究者に原因を探ってもらったところ、複数の大型モンスターが原因だと分かった」
「王国を囲うように魔力が乱れていた。おそらくは王国には四体だ」
騎士団総隊長も補足をする。
「王議会は何と言っていたんだ? それに魔族側の動きも気になるな」
「王議会は今回の件で動く気はなく、今年の七ヶ国戦争についての通達があったよ。例年通りに行えとね。それと魔族側は動かないようにとのお触れも出ている」
「ほう、この未曽有の危機を前に静観とはな」
「来訪者を使えとのことだ」
「……なるほど、それなら納得だ。来訪者の成長は著しく速い。大きな戦力になってくれるだろう」
「断罪者2名も来訪者が選ばれたところを見ると、先見の明があったということか、さすがだな」
「そういえば神秘部と異端審問部をかけ持ちする来訪者がいると聞いたが……」
「事実ですよ。彼は非常に優秀でね。性質上、表に出すには少々難しいですが、色々と貢献してくれていますよ」
「いずれは王宮で共に働く来訪者が出てくるかもしれないな」
「それは難しいだろう。彼の者らの多くは王国への想い、良い感情にしても悪い感情にしても希薄すぎる。それでは務まらない」
未曽有の危機でも冷静に対策が練られ、はたまた世間話すら展開されていく様にクラックは改めて王国を支える人物たちに畏敬の念を覚えた。
会食形式で世間話でもするように国の命運を左右する決定事項が下されていく。
「では、至急案件として王国所属の来訪者でランク付けを行い、この脅威に立ち向かう者の選別をしていこうと思う」
全員で話し合った結果だ。
一応は冒険者ランクなどもあるが、全員が冒険者登録しているわけではないし、登録していても活動をしなかったり、活動が少なかったりもする。
クランも乱立してきたことでその傾向は顕著でこのタイミングで王国にとってどれだけのメリットをもたらすか、一度精査する必要があった。
「この件はクラックに一任しようと思っている。やってくれるな」
「はっ、はい!! 身命を賭して全力で挑ませていただきます」
王からの直接の使命に顔をこわばらせるクラックは大きく返事を返した。
その日からクラックは寝る間を惜しんで作業に取り掛かった。
各機関への調整は王の意向であるからして難しくはない。
問題なのは来訪者たちの調整である。
適当に決めて来訪者の多くが戦闘に参加しないでは意味がない。
来訪者にとって王国は祖国ではない。
それどころか世界そのものが違うため、使命感を持たせることは難しかった。
なるべく多くの来訪者が参加できるように、また参加しようと思えるような何かを用意しなければいかず、クラック苦悩の日々が始まった。
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