132話 王国の盾
「にいちゃんっ!? 戻ってこれるのまだ先じゃなかったの?」
「ナツナさんからお前がこそこそしてるって聞いて、急いで用事を済ませてきたんだよ!!」
「トーヤさん……」
突如現れた男に聖騎士たちがおどおどと戸惑っている。
「何のためにお前らをつけたと思ってるんだよ、全く……」
真っ白なローブを纏った男はクロツキの元へ移動して頭を下げた。
「ほんっとうに申し訳ない。俺は
立ち振る舞いからも強者だと分かるほどにトーヤという男は存在感が強い。
「いや、こちらとしては誤解が解けたのならそれで十分だ」
「いやいや、本当に申し訳ない。ただ何もしないのではこちらとしてもよろしくないし、もしも何か困りごとが有れば最優先で手伝わせてもらいたい」
「はぁ、ありがとう」
そして、かなり熱い男だ。
「おい、お前らも頭を下げろよ!!」
トーヤの一言で聖騎士全員が頭を下げる。
聖騎士たちはかなりの実力があった。
そんな人たちが従っているのだから、実力もさることながらカリスマ性もあるのだろう。
実際に少ししか話していないが引き込まれるような感覚を覚える。
1人だけ不服そうにしているのはヒジリだった。
「待ってよ、にいちゃん。こっちだって適当にやってるわけじゃないんだよ。そいつは暗殺クランのマスターでさっき来訪者の奴らを殺してるのもちゃんと確かめたもん。罪人を裁くのが私たちの仕事だって神殿長が言ってたじゃん」
王国には六神教という国教があり、王都には大神殿が建てられている。
そこの偉いさんから裁きを任せられているのが白の断罪者なんだろうなと推測できる。
「暗殺クランって言っても国に認められてるから活動できてるんだろ。裏のギルドやクランとは別物だっていったろ」
トーヤが睨みつけて、ヒジリは少し後退りをしたが、まだ引き下がらない。
裏とは国に認められていないギルドやクランで主に犯罪者御用達の依頼を請負ったりしている。
「でもさ、でもさ、おかしいじゃん。普通にプレイしててあんな高級地区にクランハウスなんて建てれるはずないじゃん。しかも、
「それは調査をして特に怪しい点はなかったで落ち着いた話だろ」
影の館は
まぁ、特段隠す気もなかったので何も問題ない。
「でも実際に見たんだもん。ねぇ、みんなも見たよねぇ」
ヒジリの声に反応して項垂れている聖騎士は小さく頷いた。
「金喰狼のことだろ。大体、あのクランこそ犯罪ギリギリのグレーゾーン……別に殺し合いをしててもおかしくはない」
「それでもさぁ、裁くのは私たちの仕事なんだよ。奪われてもいいわけ?」
「はぁ、まず俺たちはそこまで偉くない。それに裁くのは俺たちだけじゃない。王国には騎士団があるし、警備隊だってそうだ。他にも治安部隊もある。それに……」
だだをこねるようにヒジリはトーヤの言葉を遮って訴える。
「それは
「だから最後まで話を聞けって。この人も同業者なんだよ」
「どういうこと?」
もはや涙目のヒジリ。
「断罪者なんだよ」
「っ!? 嘘だ!! そんなわけないよ」
「いいや真実だね。
「そんな……」
「もういいだろう。お前も頭を下げろ」
ヒジリはしょぼんとして俺の前まで歩いてきて頭を下げた。
「すみませんでした」
「本当に申し訳ない。妹には強く言い聞かせておく」
再度、トーヤが頭を深く下げる。
「もういいよ。顔をあげてくれ。それよりも一つ聞いてもいいか?」
「何だろう?」
「そっちの妹さんが白の断罪者といっていたけど、カルマ値を見る眼を持ってないのかが気になった?」
これが1番の疑問だった。
この眼があるからこそ、絶対ではないにしろ真に断罪に値するかの基準として測ることができる。
断罪者ならば持っていてもおかしくはないはずのスキルだ。
「あぁ、そういうことか。実はこいつは断罪者を名乗っているけど違うんだよ。本当の役職は聖女だから眼を持ってるわけじゃないんだ。持ってるのは俺のほうなんだ」
「やっぱそうだよな」
つまりトーヤこそが本物の白の断罪者ということ。
金喰狼を退けて
これで安心してごぶ、トロン、ラムの3人を見送ることができる。
護衛には当初の予定どおりのリック、天城、セレスがつくのだが、そこにさらに祝福の光からも迷惑をかけたとしてヒジリとあの場にいた聖騎士5人も護衛につくことになった。
ヒジリや聖騎士は護衛にこそ真の力を発揮できるらしく、これ以上にないほど安全な旅が保証されている。
王国の剣が黒のシュバルツ家ならば、王国の盾は白のヴァイス家らしい。
ヴァイス家こそがトーヤたちの後ろ盾になっている。
とにもかくにも難所は乗り切ったと安心したのも束の間で数日後に緊急通信で王宮から、ある発令が出された。
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