127話 子守り

「嘘だ、こんなのありえない……」

 まさか、リオンが子どものお守りが上手いだなんて。

 衝撃の事実を受けた俺はほのぼの?

 まぁ、ほのぼのというかは分からないがリオンとオウカ、そして子どもたちが遊ぶのを眺めている。

 ここは地下の訓練場で多少暴れても被害は出ないし、外に音も漏れない構造になっている。

 遊ぶというのは模擬戦のことなんだが。

 互いに楽しそうだからいいだろう。

 残念ながらまだシュヴァルツ城にある訓練室の復活機能はないので力を抑えながらだが、互いに力の差があるので問題はなさそうだ。

 クランレガリアのレベルが上がればいずれは……


 オウカはリオンに言われるがまま、巨人を顕現させて三体のモンスターに攻撃をしている。  

 ゴブリンのごぶは身体能力が高く、振り下ろされた拳を紙一重で避けている。

 近づいて拳を強く握り、巨人の足をぶん殴った。


「いってぇぇぇぇ」

 ダメージを受けたのはごぶの方だったようだ。

 殴った方の拳を抑えて痛がっている。

 それもそうだろう。

 ただでさえ格が違うのだからステータスに大きな差がある上、オウカの巨人の硬さは四次職の中でもトップクラス。


「何をしているんですか……ごぶは退がっていて下さい」

 スケルトンのトロンが詠唱を始めて魔法を放つ。

「深き闇より穿て『深淵槍アビスランス』」

 闇槍ダークランスよりも強力な魔法だが、巨人は腕を払って簡単に槍を弾いた。

 残念ながらもう少し上位の魔法でないと巨人には傷一つつけれない。


「私なら堅くても溶かせるよ」

 次はスライムのラムが攻撃を仕掛けるようだ。

 というかスライムには口なんてないのにどこから声が出てるんだろう。

 それでいえばスケルトンも発声器官はないから同じようなものか。


「アシッドテンタクル」

 強力な酸性の触手が巨人の足に絡みつく。

 たしかに徐々に溶かしていけばいつかは脆くなるだろうが相性が悪すぎた。

「あぁ……」

 巨人が巻きつかれた箇所から炎を噴射する。

 酸で溶かす前に触手が熱で溶けてしまった。


「ははっ、姉ちゃんたちすげえ強いな」

「やはり僕たちではまだまだですね」

 この短い時間でも分かったことだが、この子どもたちはなんとも気持ちがいい。

 モンスターであっても全てが悪いわけではないし、大体来訪者なんだから仲良くすればいいのに。

 モンスターだからって攻撃してたらテイマーやサモナーを完全否定することになるじゃないか。

 それにディーだってモンスターなわけだ。


 ルキファナス・オンラインでテイマーといえばそれほど人気のある職業ではなかったはずだが、今では結構な数がいる。

 王国にはまだ少ないが、帝国に行けば当たり前のように多くのモンスターが街中を歩いているらしい。

 今回のごぶたちの目的も帝国の帝都にあるようで、なんでもとある有名テイマーの従魔を触ってみたいとラムが発したのが事の発端になっているらしい。


 リックたちが金喰狼との抗争を終えればごぶたちを帝国に送り届けるといっていた。

 帝国にさえたどり着ければ、ごぶたちも羽を伸ばして街を歩けるはずだ。

 問題は抗争がどうなるかだよな。

 手伝った方がいいのかどうか迷うところだ。


「お前らも中々強かったよ。なっ、オウカ」

 なぜか、今回の戦闘では何もせずに巨人の肩に乗っていただけのリオンが威張っている。

「……なかなかだった」

「でもさでもさ、ごぶ君も本気でやったらもっと強いんだよ」

「そうなのか、本気を出してもいいぞ!! 私が許す」

「いやー、それが本気を出すと暴走しちゃうんですよ」

 ごぶはゴブリンバーサークなので狂乱状態にならないと本気が出せない。


「うーん、多分大丈夫だと思うけどなぁ。それに本気を出してないといざという時に体がついてこないよ」

 リオンが意外といいことを言っている。

 だが、普通は暴走するのはいい気分ではないよな。

 俺もチャリックでラフェグと戦闘する際に暴走したがもう一度自発的にやろうとは思わない。


「リオン……もうダメ……」

「あっ、ちょっとまって」

 オウカのMPが切れて巨人が空に溶けるように消えていく。

 肩に乗っていたリオンは態勢を崩しながらも地面に着地した。


「うーん、仕方ないか、じゃあクロツキとやればいいんじゃない」

「えっ……それはさすがに……」

「僕もそれは反対です。オウカさんとリオンさんならごぶの本気でも大丈夫だと思いますけどクロツキさんはちょっと……」

「クロツキさんって弱そうだよ」


 …………


 そうだったのか。

 俺って子どもたちにもそんな風に思われてるのか。

 いや、それはさ、自分で最強とかは思ってないよ。

 でもさ、それなりに色々と経験してきてさ、乗り越えてきたわけよ。

 それを全否定されるとちょっと……いや、結構、心にダメージが。


「いやいや、クロツキはこう見えてかなり強いから大丈夫だって」

「そう、クロツキは強い」

 なんだかそのフォローがクランマスターをメンバーが庇ってるみたいで逆効果だ。


「でも、強そうに見えないんだよな」

「それはクロツキって戦闘になると人が変わるからさ」

「能ある鷹は爪を隠すと言いますが……」

「やるだけやってみるといい。驚くと思う」

「2人がそこまでいうんなら、ごぶ君やってあげたら」

 何故か俺は喋ってないのに俺がすごく戦いたくて、子どもたちが気を遣って仕方なく戦ってあげようかみたいな雰囲気になってるけど、俺は一言も喋ってないからね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る