126話 意外なお客

 ベローチェが帰った後、ルーナとお茶をしながらクラン運営について軽く話しをする。

「紫苑は迷惑かけてない?」

「オーウェンさんの犠牲もあって今のところクランには問題ないですね。仕事もできるのでありがたいですし、私の研究も捗ってます」

 呪術師と呪具師、互いに呪いを専門としている。


「紫苑には約束通りご褒美を上げるか」

「喜ぶと思います。概ねの調整はお任せください」

「雑務を押しつけて申し訳ない」

「いえいえ、好きでやってることですから。クロツキさんはドンと構えておいてください」

「ありがとう。本当に助かってるよ」

「ですが、クランの今後を考えるならまだまだ人手不足です。継続して募集をお願いします」

 現状維持をするだけなら今の体制でも運営はできているが、上を目指すなら人数を増やしてもっと精力的に動いていかなければならない。

 みんながこのクランにいて良かったと思えるようなクランにしたい。


 一番はランクを上げることだ。

 そうすれば特典が増えるので自ずとプラスになる。

 影の館のクランレベルは1、特典はクランメンバーの全ステータスの上昇。

 もう少しでレベル2が見えてきてるから早く上げたい。


 チリィンチリィン。

 クランレガリアを見てると受付のベルが鳴らされた。


「お客さんのようですね。行ってきます」

「よろしく」

 ルーナはソファから立って、扉を閉めて出ていった。

 が、すぐに扉は開かれてルーナが困った顔をしている。

「どうした?」

「なんというか……来てもらってもいいですか」

 俺はルーナと受付へ向かう。


 ……!?


 まさかの人物が受付の前にいた。

 それはベローチェがターゲットにしていた3人組のパーティ。

 なぜここに?


「はじめまして、クランマスターのクロツキです」

「俺はリック、こっちがセレスと天城だ」

 基本的にお客さんと依頼について話をするときは応接室に通すのが今のこのクランのやり方である。

 忙しかったり、混み合ってるとまた違う対応になるのだが、今は一階には他のお客さんはいない。

 しかし、ルーナは応接室に3人を案内するのではなく、俺を受付に呼んだ。

 その理由が三体の大型モンスター。

 なるほどと納得だ。

 これじゃあ応接室に迎えるのは無理だ。


「立派なクランハウスだね。ウチの子たちが入っても余裕だよ」

 テイマーの女性は従魔を撫でて、従魔たちも気持ちよさそうにしている。

 普通は従魔はお留守番とかスキルでどうにかするものだ。

 これじゃあ武器を突きつけながらクランに入ってきてるのと同じ。

 まぁ、端的にいえば随分と失礼だ。

 それを感じ取ったのかリックが頭を下げる。


「申し訳ないこれには深い訳があるんだ」

 受付の前の共有スペースにも机と椅子はあるので、そこで話を聞くことにした。


「まず大前提にあなた方はモンスターに対してそこまで嫌悪感はないのですね」

「どういうことですか?」

「これまで出会った多くの人はこの従魔を見て負の感情を抱くものですから」

 まぁ、普通は怖いだろうな。

 俺は割と動物は好きなので問題はないけど。


「むしろ撫でさせてほしいくらいだ」

「なるほど、さすがは今をときめく暗殺クランの代表だ。あなたを信頼して、とある依頼をお願いしたい」

「どのような依頼ですか?」

「少しの間、このギルドで匿ってほしい来訪者がいます」

 これははじめての依頼内容だな。


「その来訪者は今どこに? それと匿わないといけない理由をお聞きしても?」

「いつものように狩りに行っていたら他の来訪者に追われるモンスターが走ってきたんですよ。普段なら無視をするところですがそのモンスターというのが来訪者でして……」

 キャラクタークリエイトでモンスターを選択したのか。

 別におかしくない。

 魔国側を選んだ来訪者を追いかける人種側の来訪者の構図もなくはないだろう。

 冒険者だったらモンスターを倒すのも仕事のうちだ。


「俺たちはどうしても見過ごせずにその来訪者たちを助けたんだが、追いかけていたやつらの所属するクランが大手で揉め事になってしまった。今絶賛抗争中で、その間だけ匿ってほしい」

 恐らく嘘は言ってない。

 カルマ値の変動も見られない。

 そもそもこの3人は以前に調べたこともあるし、汚いことをするような性格ではないことは分かっている。


 しかし、難しいのはどちらも悪くないという点だよな。

 魔国側と人種側は長い間、戦争を続けていた。

 現地人の意識としてもモンスター、特に魔国に所属するモンスターは被害を出される前に処理するのが普通だと考える者が多い。


 それがモンスターを選択した来訪者の宿命な気もする。

 この厄介ごとに首を突っ込んでいいものなのか。

 悩む……


「その大手クランというのは?」

金喰狼グリードウルフだ。こいつらモンスターを選択した来訪者を狩っても罪に問われないのをいいことに甚振る動画を上げて荒稼ぎしてる」

 金喰狼といえば王国でも有名なクランだ。

 それがそんなふざけたことをしてるというのは俄かに信じられないが、絶対にないとは言い切れない。

「……出来る限りのお手伝いはします」

「本当か!? ありがとう!!」

 依頼書を交わして正式に依頼を受理した。


「天城」

「クーちゃん」

 天城が巨大熊に指示を出すと、熊のお腹の毛に隠れていたモンスターが三体出てくる。

 ゴブリンにスケルトン、スライム。

 三体のモンスターを残してリックたちはすぐに出ていってしまった。


 話してみて分かったことだが、3人ともまだ子どもだ。

 子どもとはどう接していいか分からない。

 俺はひそひそ声でルーナを呼ぶ。

「ルーナ、子どもだよ。どうすればいい?」

「私に聞かれても分かりません」

「どうしよう……」

「どうしましょう……」

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