121話 罪の刃
ディーの存在を不思議に思っていた。
巷ではツクモシステムと呼ばれ、あくまでもモンスターではなく意思を持ったアイテムがモンスターの姿になる。
ただし、聞いた話ではそれらは装備をしなければいけないらしい。
俺はディーを装備どころかアイテム状態の姿すら見たことがなかっし、大体が卵から孵しているのだからアイテムが意思を持ったのとは違う。
ルーナのパートナーは黒ウサギでヴェールに姿を変える。
リオンのパートナーはモモンガで風呂敷に姿を変える。
どちらも自分の職業、スタイルに噛み合った能力をしている。
そんな2人のパートナーを見て、ディーはもの悲しげにしていた。
慰めていたんだが、なかなか機嫌が戻らず苦労したものだ。
ディーが機嫌を損ねて数日、久しぶりに元気なディーの姿を見た。
何事かと思ったらディーは姿を変えたのだ。
結局、不思議は増すばかり……
俺を包み込んだ漆黒のマントは高速で移動すると影が広がったような形になって相手からは俺の正確な位置を見えづらくする。
両手に握ったナイフで狂戦士を攻撃、圧倒的なスピードでダメージを与えていく。
大剣でこれを防ぐには厳しいだろう
それに回復もまったく間に合っていない。
まぁ、そもそも相手が大型モンスターとかならいいが、対人間で高速戦闘中に狙った場所に当てるなんて射手系統のスキルもないんじゃあ不可能だろう。
俺ならいっそ割り切って両方にポーションをかけるけど、その発想に至れないのは対人戦の経験が薄いせいかな。
広げたマントから複数の
しかし、いくら狂化状態でも一度見た技は警戒していたのか大剣で防がれた。
その代わり首を落としたので問題ない。
俺はディーがマントを広げ注意を引いている間にシャドウダイブで背後に移動していた。
ヒイロが威力の高いミサイルから弾幕を張るマシンガンスタイルに変えて、狙ってくるが影踏を使い空中を走って避ける。
完全に俺を捉えることはできず、多少の銃弾程度ならマントで弾くことができる。
そのまま3人の上空へ移動して逆さになり、影を踏んで一気に降下しながら結界目掛けて月蝕を振り下ろす。
黒の一閃が結界にぶつかるが破壊には至らない。
さすがに大司祭の全力の結界だ。
だがひびは入れることができた。
マントを大きくなびかせて3人の視界を封じて、もう一撃を入れる。
二撃目で結界は粉々に砕けてた。
「そんな……聖なる祈りの結界がたった二回の攻撃で破壊されるなんて……」
「退がってろ!!」
2人を庇うようにヒイロが前に出てきた。
重装砲兵は火力だけでなく防御面も優秀だ。
前回はフル装備じゃなかったから、簡単に倒せた。
……そういえば、ヒイロのメイン装備は俺が見ることなく回収されたんだよな。
それは結構かわいそうかも。
加減するつもりなんてサラサラないけど。
「罪の数だけ裁かれろ」
黒の断罪者になって獲得した攻撃スキル。
発動条件が厄介ではあるが強力なスキルだ。
ヒイロを中心にして様々な形の光の刃が現れて、宙に浮かんでいる。
一瞬でヤバいと悟ったのか防御の姿勢に入るヒイロ。
何もできない2人は大人しく何が起きるのかを見ながら祈るしかない。
ニナのバフも結界も詠唱が間に合わないし、シャロットも特にできることはない。
「全門解放、フルバースト!! ウラァァァァァァァ」
防御に徹しているのはブラフだったようだ。
両手に巨大なマシンガンを握り、肩からかけた弾倉がみるみるうちに消費されていく。
逆側の肩にはミサイルを乗せて、背中からも生えたようないくつかの小さな銃砲が見える。
足にまで小さなマシンガンがついている。
それら全ての銃口から弾が一斉射撃された。
狙いは俺だけでなく周りに浮かぶ刃もだった。
街中に銃声と、爆発音が鳴り響く。
土煙が巻き上がり、辺りには硝煙の匂いが広がっている。
カチャ、カチャ。
全てを撃ち尽くしたようで弾切れになって、肩で息をしている。
「はぁ、はぁ、ばっばかな……これだけ撃っても何の影響もないだと」
「逃げてヒイロ!!」
「早く逃げて」
数千発の弾丸の嵐にあっても光の刃に傷はない。
「罪の刃」
カルマ値悪性を参照にして攻撃力と刃の数が増える。
一定以上のカルマ値悪性がないものに対しては何も起きず、使えないのだが代わりに発動することができれば強力なスキル。
ヒイロ目掛けて光の刃が一斉に襲いかかった。
なすすべもなく串刺しのめった刺しになるヒイロを見て後ろの2人は膝をついて放心状態だ。
ヒイロの呻き声が漏れていて、まだ生きていることが分かる。
ただ、あまりにも凄惨な姿になってしまった。
一度監獄に入ってカルマ値悪性が減少していたせいでこれでは俺が意図的に嬲り殺しにしているように見えてしまうではないか。
もちろんそんなつもりもさらさらないのでとっとと命を刈り取る。
残すは怯えた2人だが、こうなってしまうと申し訳ないような気もするが仕方ない。
「ごっ、ごめんなさい、助けてくださ……」
「お願い……」
一瞬のうちに二つの首が地面に落ちた。
これくらいの相手ならもう少し手を抜いても余裕で倒せた。
ここじゃあ人目も多いし、スキルはなるべく温存した方がいい。
でも逆に温存しすぎてやられる方がアホらしい。
それに下手に時間をかけて被害を大きくすると面倒だ。
翌日、王都近衛兵にこってり絞られました。
「ほぼすべてヒイロの攻撃によるものです。それに平和的解決の交渉はしました」
「建物への損害ではなく街中で人を滅多刺しにして、助けを求める女性2人の首を落とすことは平和的解決とは言わない」
「…………」
特に賠償金などを払う必要はなかったが、さすがにあれはやりすぎだと注意された。
始末書を書き終えてイスに深くもたれかかる。
今日は平和な一日になりそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます