120話 水鉄砲
三次職が4人、前衛が1人と後衛が3人というバランスの悪そうなパーティ構成だが狂戦士という職業を考えれば悪くないと思う。
後衛火力の重装砲兵、サポートに大司祭と非戦闘職の上級薬師もサポートができる。
そもそも狂戦士は戦闘能力が高い代わりに自ら狂乱状態にならなくてはならないので連携はほぼ取れない。
そのため狂戦士でパーティを組むのは珍しい。
ではパーティ単位で考えたときにどうするかだが、自分たちは攻撃対象に入らない位置にいればいい。
戦闘が終われば大司祭の魔法で狂乱状態を解けばなんの問題もない。
「みんなサポートは任せた。バーサークモード発動!!」
闇の魔力に飲み込まれた狂戦士のTOMOが大剣を振りかざす。
それと同時に大司祭ニナのバフが狂戦士にかかり、ステータスがさらに上がる。
あまりにも禍々しい大剣は呪われた魔剣だろう。
所持していたメイン装備は回収されたはずなので、サブ装備だろうが、意外と悪くなさそうに見える。
狂戦士の解放条件は戦士職で一定以上狂乱状態で戦闘を行うというものがあり、ほとんどが呪われた装備による効果で達成する。
稀に相手からのデバフにかかりまくって解放条件を達成するなんてこともあるらしいが、まあレアケースだろう。
つまりあの魔剣は以前使用していた装備を引っ張り出してきたと予想される。
それはTOMOだけでなく、全員にいえること。
簡単に言えば、戦力ダウン間違いなし。
フェイントや読み合いなど全くないシンプルな攻防が繰り広げられる。
単純な打ち合いなら圧倒的にスピードのある俺が有利だ。
しかし、こちらの攻撃を受けてもものともせずに前に突き進んでくる。
多少の傷は後衛からの回復のせいで、ないに等しい。
面白いのはその回復方法だ。
大司祭が回復魔法をかけるのかと思ったがバフをかけた後は防御に徹していて、自身とヒイロとシャロットを守る結界を展開している。
俺が後衛から狙うのを防いでいるようだ。
壊せないこともないがそれに時間を使ってしまうと狂戦士に隙をさらしてしまう。
傷ついた狂戦士を回復しているのは上級薬師のシャロットだ。
何かの植物を調合してポーション作成をして、できたばかりのポーションを水鉄砲に入れて狂戦士めがけて飛ばしている。
一般的にポーションは飲まないとその効果を発揮しないのだが水鉄砲から放たれたポーションは触れた部位周辺を回復していた。
話には聞いていたが凄いな。
あの水鉄砲を作成したのは紫苑だ。
なんと呪いをつけていないという紫苑作では超激レアなものだ。
まぁ、真相は重装砲兵のヒイロのために作成していた銃の失敗作だったらしい。
重装砲兵は射手系統の職業なのだが、射手系統のほとんどの職業が戦闘に金がかかる。
銃を使うには弾丸が必要でこれは完全な使い捨て。
弓を使うには矢が必要でこちらは拾うこともできるが壊れたりするのでほぼ使い捨てになる。
それを改善しようとしたのが水鉄砲だ。
水を弾にすればお金がかからない。
高圧水弾にすればダメージが出せると考えたが、どうしても高圧にするのが難しくダメージを出すには至らなかった。
できたのが見た目はゴツくて渋い銀銃なのに、おもちゃのような水しか飛ばせない残念な銃。
シャロットのスキルで作ったポーションは作り立てだと通常よりも高い効果を発揮してポーションに触れただけでも効果を発揮する特性があった。
それを活かして水鉄砲にポーションを入れて撃つことにより遠くにいる仲間を回復することができる。
ただし、デメリットもあって敵に当たっても効果を発揮してしまう。
ビーカーに入れて投げるでは速度が遅いし広範囲に広がりすぎるのだが、紫苑作の銃を使えば速度も出るし狙いもつけやすい。
罪が軽すぎて紫苑の作品の中で、あの水鉄砲だけ取り戻せなかったらしい。
上手くいけば、今回の監獄送りで回収できるかもしれない。
狂戦士は大剣を振り下ろして、地面につく前に無理やり軌道を変えて振り上げてくる。
無理な軌道で大剣を振るたびに筋肉がちぎれ、青紫に変わっていき、ダメージとしてカウントされていた。
時間を追うごとに狂戦士のステータスは上がり続けていく反面、自傷ダメージの量も増えていく。
狂戦士の攻撃の合間にヒイロが放ったミサイルが迫ってくる。
「ディー、頼む」
俺の声にディーが反応して、
俺が下に降りてきたときには通行人は足早にこの近くから逃げていた。
野欠馬も多少は残っているが、それなりの実力者しか残っていないので戦闘に巻き込まれることはないはずだ。
そして建物だが、ここはありがたいことに王都の中でも屈指の高級地なので周りの建物も強力な結界が張られていて爆発で破損などしていない。
これは非常にありがたい。
もしも通常区域で戦闘なんてしていたらその被害は甚大だったはずだ。
「くそっ、なんで当たらねぇんだよ」
「もうポーションでの回復が間に合わないよ」
「どうしよう、私も回復に回ったほうがいいかな?」
「いや、そうすればお前たちが狙われる。だいたい四次職とはいえ、隠者系統がどうしてここまで立ち回れるんだよ!!」
3人の焦りはもう時間が少ないことを示唆している。
このままいけば狂戦士は自滅するだろう。
向こうはこの間の不意打ちならいざ知らず、俺が隠者系統なのに正面切っての戦闘で4対1が成立しているのが信じられないようだ。
まぁ、ディーがいるので4対2が正しいし、彼らは四次職のステータス上昇を侮りすぎている。
さらに装備の質もこちらが上だ。
他にも彼らは王都のど真ん中で戦闘を仕掛けてきた。
カルマ値悪性がこの瞬間にも上がり続けているので俺のステータスもそれに応じて上昇をしている。
「ディー、あれをやるぞ」
影から出てきたディーが俺の体を包むように姿を変えた。
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