115話 呪われた血液

 いくら馬鹿力とはいえ、大剣を無理に三連続も降ったせいで骨は折れ曲がり、筋肉は千切れボロボロだったおかげで左腕を切り落とすことができた。

 しかし、オーウェンの左腕から流れる血液が鋭く尖り襲ってくる。

 俺が射程外まで距離をとると血液はオーウェンの元へと戻り、腕の形に戻る。


 呪われた血液ジューヴァブラッドこそがオーウェンの体を操っている諸悪の根源だ。

 それは装飾品扱いなのにオーウェンの血液と混ざり合っている。

 全てのステータスを大幅に上昇させて恐るべき回復力を誇っていて、腕を切り落としても即座に元通りになってしまった。

 つまりは首を落とすか、一撃で体力を削るか、回復力を上回るダメージを出し続けるかになる。


 オーウェンが右腕を天に掲げると指輪が赤と黒の光を出した。

「死の遊戯が発動するわ」

「グガァァァァァァ」

 俺はさらに距離をとって紫苑と入れ替わった。


「本当に大丈夫か?」

 足元に広がる呪いの靄を前にした紫苑は対策があると言っていたが、これは並大抵の呪いじゃないし、紫苑は戦闘職でもない。

「舐めないでよ、優秀な生産者は創作物の性能を引き出すことができる。ネクロフィール反転、遍く呪詛を呑み込み返せ」

 オーウェンのつけているカースリング『死の遊戯』は簡単に言えば対象の呪いに対する耐性を大幅に下げて狙いを定める能力を持っている。

 あくまでも広すぎる範囲の呪いに指向性を持たせるサポートの役割。


「じゅ゛がぐだい゛よ゛」

 掠れた声で本命の呪いが解き放たれる。

 オーウェンが自身に受けている呪いの全てを相手にも押し付けるスキル。

 指向性を持たせたソレの対象は俺と紫苑、ディーの2人と1匹だったが、急に方向を変えて全てが紫苑に向かっていく。

 黒と紫のゴスロリ風の服には帯状の大きなヒラヒラがついていて、宙を漂いながら大きな口を開いて呪いを飲み込んでいった。

 オーウェンがスキルを使い終わると同時に紫苑の服が飲み込んだ呪いを吐き出す。


「これでオーウェンは許容以上の呪いで動きが鈍るはず、それともう同じことはできないから、今のうちに終わらせて!!」

 帯の先端がボロボロと崩れている。


「乱刀・斬」

 オーウェンからすれば雨粒が当たる程度のダメージでしかないが、視界すら覆う斬撃の数は鬱陶しいはずだ。


「怠惰の魔眼、乱刀・突」

 まだまだ手を緩めるつもりはない。

「グガァァァ!!」

 大振りの大剣を振ってもそこにはもういない。


鴉刀ノ雨うとうのあめ

 無数の黒の小刀が一斉にオーウェンに降り注ぐ。

 これはスキルではなくアグスルトから持ち替えた精霊刀の能力で放った魔法だ。

 ディーが得意としていた黒槍ダークランスが最適化された俺オリジナルの魔法と言え、名前もつけた。

 残念ながら攻撃力はさほどなく、中距離で牽制ができる程度のものだが、それでも十分な時間は稼げると思っていた。

 若干、時間が足りなかったらしい。

 ここまで来るとオーウェンも異変に気づく。

 この空間に入った瞬間からルーナが隠れて大魔法の準備をしていたのだが、魔法完成前の魔力の奔流によってさすがにバレた。


「あと少しで完成します!!」

 ここからの時間稼ぎとなると肉壁しか思い浮かばない。

 ただ、俺の体力では焼石に水でしかない。

 そんなところ追い討ちをかけるようにオーウェンが新たな動きを始めた。


「あれはっ……」

「なんなんだあれは」

「来るときに話した物語覚えてる?」

「あぁ、少しな」

「呪病竜の核よ、呪病竜の召喚をするつもりだわ」

「竜に呪われたジューヴァがその竜を召喚しようってことか?」

「本物ほどではないと思うけど、それに似た竜が召喚されてしまう。クロツキ、早くあの核を壊して!!」

「無茶言うなよ、これじゃ近づけないぞ」

 召喚のモーションに入ったオーウェンを中心に凄まじい突風が起き、魔力の奔流も混ざり合って訳が分からない状態になっている。


「ディー、全力でやれ!!」

「キュイキュイ!!」

 護衛として紫苑の近くにいたディーが空を飛ぶ。

 ディーの黒槍もまた進化して深淵槍アビスランスとなっている。

 降り注ぐ深淵槍の前にオーウェンは特に動く様子を見せず、頭部への攻撃だけを腕で受けて、そのほかはただただ体に受ける。

 体に突き刺さった何本もの槍から血が滴り落ちる。


「キュイキュイ!!」

 ディーは手を緩めずに槍を降らせ続けた。

 そして、とうとうオーウェンが物量に耐え切れず、膝を落とす。

 だが、まだ足りなかったようだ。

 地面から突如白い何かが現れてオーウェン包み込むように守った。


「あれが、呪病竜の核で召喚された竜か」

 腐り果てた肉体、ただれ落ちる肉の隙間から骨が垣間見える。

 深淵槍は呪病竜の亡骸のようなそれの手のひらで受け止められた。


「キュイキュイっ!!」

 怒ったディーが間髪入れずに黒炎の息を吹きかけるが亡骸の放つ瘴気の息で相殺された。

 翼が腐り落ちてるので空は飛べそうにないが、その身から放つ地面を溶かす強烈な瘴気のせいで亡骸に近づくのも難しい。

 亡骸は巨体でルーナの魔法からオーウェンを守ろうとしているし、あわよくば発動させずに潰そうとしている。


「ルーナ、まだ無理そうか?」

「も少しです。それと呪病竜が邪魔で魔法を放っても威力が抑えられてしまいます」

 だよな。

 いくら大魔法でも同時に滅せれるほど甘い敵ではない。

 オーウェンだけでも厄介なのに呪病竜の亡骸なんてボス級のモンスターまで追加されてはなかなかに厳しい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る