114話 呪殺騎士

 夜がその場所だけ帳を下ろしたように覆っていた。

「油断しないでね、中に入ったと同時にオーウェンに気づかれるから」

「あぁ、分かってるよ」

 俺は睨眼髑髏げいがんどくろの仮面を被り、ルーナは黒いヴェールを被った。


 朽ちた館を守護するようにオーウェンは鎮座していた。

 こちらをゆっくりと見て立ち上がる。

 それと同時に空気が変わる。

 オーウェンが範囲内、自身を含むすべての生物に呪いをかけるスキルのカースフィールドを展開した。

 装備は統一された重厚な鎧と大剣が二本。

 そのうちの一本を突き刺して咆哮を上げる。


「ガァァァァァァァァァァァァ」

「ディーは後ろの2人の防御を頼む」

 足元から噴き上がる火柱を回避して、接近を試みるが、オーウェンはもう一本の大剣を片手で振り回して風の刃を飛ばしてきた。

 魔剣スレイザー、一定速度以上で振ることで風の刃を発生させる。

 煉獄魔剣カタルシス、攻撃した箇所から一定の範囲内であれば好きな場所に火柱をあげることができる。

 どちらも呪われた大剣だ。

 スレイザーはスレイザーによってダメージを与えた分だけ使用者にも同等のダメージが与えられる。

 カタルシスは使用すればするだけ、使用者に熱傷ダメージを与える。

 デメリットの呪いがあるおかげでその性能は同ランクのそれと比べて極めて高くなっている。

 オーウェンは呪いへの高い耐性を持っているためほぼダメージが入っていないのでデメリットなしなのと同義である。


「じゃあ、まずはこれから試してみるか」

 迅雷を発動させて一気に近づく。


「煉獄斬!!」

 青い炎を纏った刹那無常で胸を切り裂く。

 が、鎧にかすり傷をつけた程度で逆に大剣二本によるカウンターが襲ってきた。


「おっと、危ない危ない。大剣二本を軽々と振り回すなんて、随分な馬鹿力だな」

 大剣は本来、両手武器のはず、それを片手で扱っているのはまだ分かる。

 力があれば不可能ではない。

 しかし、二本を装備しているのがおかしい。

 何かトリックが……


「あっ……言い忘れてたけど、鎧に装備枠を弄る能力がついてるから気をつけてね」

「ふぅ、遅すぎだろ。こっちは一本ずつで想定してたってのに、まぁいいけどさ。それよりも煉獄斬の威力がかなり低いし、ルーナの予想が当たってたみたいだ」

 以前の俺では刹那無常を扱いきれずに煉獄斬などの技を怨恨纏い発動中にしか使用できなかった。

 それが今ではレベルもステータスも上がって通常時でも使用可能になった。

 しかし、オーウェンとの戦闘では問題が発生している。

 この場所は呪いの力で怨念が満ちているはずなのに煉獄斬の威力が低すぎた。

 原因は恐らくこの場所自体がオーウェンに力を貸しているせいだろう。

 こういうことは意外と珍しくない。

 同系統同士だと、力の源が見方をしてる側が有利で、それがなければ支配力や影響力の強い方が有利だ。

 例えば互いが水を扱う者同士で水辺で戦闘をする場合は水の精霊などが味方をしてる側が有利だし、水の支配力や影響力が高い方が多くの水を操ることができる。

 俺も無闇回廊で体験済みだ。


 この場所に渦巻く怨念の源は呪いであり、その呪いは呪ろわれたジューヴァの当主から発生したものだ。

 ここでは怨恨纏いや煉獄斬はほとんど機能しない。

 まぁ、想定通りであり問題はない。

 左手に赤竜氷牙アグスルト、右手には刹那無常を構える。

 オーウェンは遠距離攻撃の手段を二種類も持っているし、今回は精霊刀はあまり使わないだろう。

 アグスルトは防御、刹那無常をメインに攻撃を仕掛けていく。


 間髪を入れない大剣での連撃を虚像の振る舞いシャドームーブを交えて躱しながらちまちまとダメージを与えていく。

 防御貫通に近い能力を持つ刹那無常でも焼石に水程度のものしかない。

 これを手に入れた当初は相手の体力が低いおかげで手数を重ねれば結構なダメージソースになっていた。

 しかし、周りのレベルが上がって体力が高くなってしまうとほとんど意味のない攻撃となる。

 怨念がオーウェンに味方していなければかなりの量の青い炎を纏わせることができて攻撃力も上がったのに残念だ。


「ガァァァァァァァ」

 大きなモーションでの振り下ろしを躱したと思ったが、これは意外とまずいかもしれない。

 空を切って大剣は地面にめり込み、その瞬間そこから大きな火柱が上がった。


「自分ごと燃やすとはな」

 バックジャンプで後方へ距離を取らされた上に体は地面から離れている。

 オーウェンはこの隙を見逃さず火柱の中から三連撃で風の刃を放ってきた。


「向こうは大丈夫そうだな」

 安全を取るなら影踏で回避を選択するのがいいだろう。

 しかし、ここはむしろ影踏を使って風の刃に衝突しに行く。


 パリィンという音と共にアグスルトの氷の半分が削れた。

 それでも止まらずに二撃目を防いで氷は全壊、赤色の刃が姿を表す。

 三撃目が俺の頭上を通り過ぎていく。

 オーウェンは突如消えた俺が影の中にいるとすぐに気づいて煉獄魔剣カタルシスを振り下ろしてくる。

 が、すでにそこにはおらず、影を通してオーウェンの背後に回り、アグスルトで鎧の関節部分である肘を大きく切りつけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る