113話 呪われた一族

 ジューヴァ家、かつて王国一清廉潔白な貴族と評された名門家はその誇り高き魂をもって王国壊滅の危機を救った。


 王国はその長い歴史から壊滅の危機を何度か経験している。

 そのうちの一つ、呪病竜の再来というものが歴史として語り継がれている。

 かつて大陸にある多くの国が覇権を奪いあって、いくつもの国が亡国と化した。

 戦争に生き残るために、勝利するためにと、次々に今では禁呪指定されている魔法が開発されていた。

 そんな中、とある国の狂った魔導士が竜を人工的に誕生させる魔法の開発に成功した。

 本来、竜とは濃密な魔力と途方もない年月をかけて誕生するもので人がどうこうできるものではない。

 実際、魔導士の魔法は失敗も多かったし、誕生させることに成功しても通常の竜種よりも遥かに格が落ちるものとなっていた。

 しかし、魔導士はその天才的な頭脳を活かして、竜の性質を変化させ対人間兵器とすることに成功する。

 成功例の一つこそが呪病竜だ。

 雨雲を作る程度の小さな竜に呪術士100人以上が呪いをかけて性質を呪いと病のものに変化させ、ある程度成長させたのちに王国へと解き放つ。

 竜はただ存在するだけで呪いを撒き散らし、解き放たれてから僅か一日ばかりで万単位の王国民が呪いを発症させた。


 恐ろしい呪いで苦しむ人々を前に貴族の大半は自領にこもって竜がいなくなるのを願っていた。

 無理やりな性質変化から竜の寿命はそれほど長くないことは分かっていた。

 しかし、それを良しとしない人々が集結して竜の早期討伐に名乗りを上げる。

 その先頭に立っていた貴族こそがジューヴァ家の当主だった。

 多くの犠牲を払ったものの見事に竜の討伐に成功したジューヴァは英雄として帰還したはずだった。


 しかし、恐れをなして自領にこもっていた貴族たちはジューヴァが功績を上げて権力を得ては困るとあらゆる方法を使ってその名を地に叩き落とした。

 致命的だったのはジューヴァ自身が呪病竜の死の間際の最も濃密な呪いをその身に受けたことだった。

 神官による浄化があれば話は変わったかもしれないが、教会が貴族たちの工作によって動かなかった。

 呪病竜の放つそれよりは効力が落ちていたものの、ジューヴァは存在するだけで周りに呪いを撒き散らす存在になってしまった。

 最愛の家族にも会うことができず、自領にすらいられなくなった彼はどこかへ消え去り、1人悲しく余生を過ごしたという。

 これが語られているジューヴァ家の悲劇。


 オーウェンがいる場所こそがジューヴァが余生を過ごしたという館らしい。

 移動中の馬車の中で紫苑が説明してくれた。

 どこまでが本当かは分からない。

 ただ、呪いは実際にそこにあって、オーウェンが被害を受けている。


「でも、わざわざ俺に暗殺依頼をかけなくても冒険者ギルドで探した方がよかったんじゃないか?」

 オーウェンの職業は呪殺騎士、呪いの装備を扱うことに特化した四次職。

 オーウェンがまだ三次職の頃に紫苑が呪いの装備を渡して装備させてたら、役職変化ロールチェンジしたらしい。

 例えば聖騎士が悪の道へと走れば『堕ちた聖騎士』になったり、拳闘士が片腕を失えば『隻腕の拳闘士』などになったりする。

 役職変化すればスキルなども最適化される。

 聖騎士のスキルの多くはカルマ値の善性を参照するものが多く、犯罪を重ねてカルマ値の悪性が善性を越えればスキルを使ってもほぼ意味がなくなってしまう。

 そのため善性参照のスキルが悪性参照のスキルに最適化される。

 拳闘士の方も両腕を必要とするスキルが片腕で発動できるスキルになったりする。

 役職変化は滅多に起こることではない。

 一体、どれほどの呪いの装備を与えれば役職変化が起こるのだろうか……

 とにかく、オーウェンの職業と今回問題になっている呪いが相乗効果を生み出し、ほぼモンスターのようになったオーウェン。

 冒険者ギルドで依頼を出した方が確実な気がする。

 暗殺なら影の館でいいと思うが、今回は本人からも自分を倒してほしいと了承が得られている。


「教会のときもそうだったけど、どっかから圧力がかかってるせいで全然動いてくれない」

「でも他にもクランなんてたくさんあるだろ」

「場所が場所のせいで中々難しい。だから、2人に来てもらった」

 依頼に来たのは俺とルーナだ。

 本当は全員で向かおうとしていたのだが紫苑がそれはダメだと依頼条件に付け加えた。


「で、どうして他のメンバーはダメなんだ?」

「オーウェンの呪殺騎士のスキルに相手に自分の受けている呪いを与えるものがあるの。耐性がなければ敵になるだけだからむしろ邪魔」

 紫苑の話ではこうだ。

 オーウェンは今、複数の呪いがかかっている状態で、そのスキルを使えば全ての呪いを範囲内にいる人間に与えれる。

 もしも、レベルが低ければオーウェンが通常時からかかっている呪いの影響で死ぬ。

 レベルが高ければ通常時の呪いでは死なないが、今回問題の呪いで第二のオーウェンになってしまう可能性がある。

 さらに困ったことにジューヴァの呪いの館の影響なのか特殊空間になっていて、オーウェンを倒すために入った空間内全てがスキル範囲内になっているらしい。

 ちなみに裏切ったパーティはそのスキルで苦しみながら死んで、紫苑は呪いの耐性があるが戦闘力は皆無なので普通に殺されたと。

 そこで呪いに耐性がありそうな俺とルーナが選ばれた。


「俺とルーナなら耐えれるのか?」

 これはものすごく重要だ。

 ミイラ取りがミイラになるなんて笑えない。


「2人なら大丈夫。クロツキは動画見たけど化け物だったし、ルーナも系統的に問題ないから。それにそもそも2人ともそっち系の耐性に強いし、これが無事解決したら自信作作ってあげる」

 紫苑は呪いの強さや、呪いの耐性がどれだけあるかが分かるらしい。

 しかし、呪いの装備を作ってもらっても困るな。

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