112話 顔見知りのターゲット

「クロツキさん、依頼人の方が到着したので応接室に通していますね」

「ありがとう」

 今はルーナが事務作業の多くをこなしてくれている。

 なんとかしないとなとは思いつつも中々見つけるのは容易ではなかった。

 そもそも、来訪者ビジターでそんな仕事をしたがるものはほぼいない。

 だって現実世界と何ら変わらないからだ。

 現地人ローカルズはというと暗殺クランという外聞を気にしてそもそも応募が来ない。

 応接室に入るとソファに腰掛けていたのは薄紫の長髪が特徴的な少女だった。

 ソファに座ったタイミングでルーナがお茶を出してくれる。


「今日はお越しいただきありがとうございます。早速ですが依頼についての話をしましょうか」

「できるだけ急ぎなんだけど……」

 少女だからといって高圧的な態度を取るつもりも侮るつもりもない。

 営業モードで接する。

 まずは互いの自己紹介から入る。

 名刺なんてあれば完璧だったかもしれないと思いつつ依頼内容の確認をする。

 少女の名前は紫苑しおん、来訪者で職業は生産系統。


 肝心のターゲットを見て、内心驚きながらも表情には出さずに話を進める。

 そこに映っていたのは顔見知りだった。

 ルキファナス・オンラインを始めたばかりの俺は無能だと晒し者にされ笑われていた。

 もちろん全員が全員というわけではなく、変わりなく接してくれる人や、むしろ優しくしてくれる人などもいるわけで、そのうちの1人が依頼人のターゲットだった。

 写真に写っているオーウェンは面倒見が良く、面倒事に首を突っ込むタイプだったので荒くれ者や裏の人間から恨みを買う可能性は高い。

 しかし、気になったのは目の前の紫苑はそんなアウトローな人間ではない。

 これは何となく外見でどうだとか、雰囲気がどうだとかという話ではなく、スキルで視覚的に分かるのだ。


-断罪者の眼-

対象のカルマ値を見ることができる。


 黒の断罪者の初期スキルで獲得した断罪者の眼は、発動すると対象者のカルマ値が悪性なら怨念が渦巻いているように映り、善性なら光が差したように映る。

 これを見れば対象がどれほどの罪を重ねているかが判断できる。

 ただし、これはあくまでも基準でしかないとジャンヌに釘を刺されている。

 参考程度にする分にはいいが、絶対ではないのだ。

 例えばステータスを隠蔽するスキルやアイテムを使えば誤魔化せるし、カルマ値悪性を浄化すれば判断できない。

 それにそもそも正義も悪も見る側によって大きく変動する。


「理由を聞いても?」

 紫苑がオーウェンを殺したいという理由がわからない。

「このバカはオーウェンって言うんだけど、呪われてるの。それが解けるまで自由に行動できずにとある場所で動けなくなってる。教会にお願いしたけど動いてくれなくて、個人的に神官にお願いしたけど解呪できなくて、このままだと指名手配されちゃうかもしれないから、それでここにきた」

 嘘を言ってそうな気配はなく、敵意も感じられない。

 断罪者の眼を使えばカルマ値の変動具合で敵意を抱いているかなどが分かる。

 まぁ、軽い嘘や多少の敵意では反応しないが、その程度なら気にしなくてもいい。

 呪われたオーウェンを助けるために殺したいというのも理由としては納得できる。

 下手に指名手配されてしまえば監獄送りになる上にその後の活動もしづらくなる。

 しかし、疑問点はいくつもある。


「殺せば呪いは解けるのか?」

「多分……装備由来の呪いだし、使用者が死ねば装備品もその場に残るはず……」

「呪われた装備品は次の使用者を選ぶためその場に残る可能性が高いのも事実ですね。ただ、来訪者にそれが適用されるかは分かりませんが……」

 ルーナが言葉を足してくれる。


「オーウェンが呪われた装備品を装備したってことか……」

「実は……私が作った武器で……」

 詳細を聞くと、紫苑はオーウェンが入っていたパーティと専属契約のようなものを結んでいて時折、オーウェンに呪いの装備品を装備させていたそうだ。

 至高の一振りで暴走していた武器を作ったのも紫苑らしい。

 性能を上げるために呪いをわざと付与して作成するのが紫苑の職業の呪具士なのだとか。

 完全に紫苑のせいじゃねぇかと思ったがそうではないらしく、一人一人の耐性を鑑みてギリギリ暴走しないラインで作成するので問題はないはずだったと。

 紫苑が作成したいくつかの装備を見せてもらったがルーナ曰く、かなり緻密に計算されているらしい。

 さすがは至高の一振りに在籍しているだけあって技術力は凄まじい。

 ではなぜ暴走したのか?


 端的にいうとパーティメンバーに裏切られたようだ。

 ある依頼に紫苑も同席して向かっていたのだが、想像以上の難易度にどうしようもないところで運良くお宝を見つけてしまった。

 欲に目が眩んだパーティリーダーはなんとかしてそれを持ち帰ろうと思ったが、逃げるにも難しく、とった行動がオーウェンと紫苑を切り捨てることだった。

 紫苑が同席したのはそこが呪いの館だったからだ。

 リーダーは呪いの館の封じられた呪いをわざと解放してオーウェンに全てを押し付け強化させてボスと戦わせて時間稼ぎをしてその間に逃げる作戦だったらしいが、想像以上に呪いとオーウェンの相性が良く尋常じゃない強化の施されたオーウェンはボスを瞬殺したあとパーティも皆殺しにしたらしい。

 そして、デスペナルティから帰ってきた紫苑はここにきたというわけだ。

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