111話 クラン経営
ギルド創設から一月、依頼も複数こなして、ようやく慣れてきたといったところ。
徐々にではあるが知名度も上がってきていると思う。
ただ、暗殺依頼は未だにジャンヌからの一件のみだ。
理由は簡単で暗殺依頼なんてそんなに出す依頼ではないということ。
そしてもう一つ、依頼を出そうと思っても影の館にはまだ信頼がないということ。
俺としては別に構わなかった。
暗殺依頼にこだわりがあるわけでもないし、冒険者ギルドと連携していればそれなりに依頼も回ってくる。
地道に活動していれば信頼なんて後からついてくる。
冒険者ギルドにもモンスターの討伐ではあるが、影の館を指名して依頼を出してくれる人もちょこちょこいるらしい。
なぜこちらに直接ではないのかというと、あくまでも影の館は暗殺クランであり、関係のない依頼はできるだけギルドを介すことにしている。
そんなルールがあるわけではないが、ギルドと仲良くやっていきたいのでそうしている。
王都グランシャリアの様相は当初とは大きく異なっていた。
まず、来訪者の数が爆発的に増えた。
拠点にするならば王都があらゆる面で他の都市よりも優れており、多くの来訪者が拠点にして活動している。
そして、人が多いということは商業のチャンスであり、商人が物資を潤わせれば、またそれを求めて人の流れができる。
好循環により人と物が集まる王都を一度知ってしまえばここから拠点を移すのは難しいだろう。
活動拠点にするのなら王都に住居が必要となる。
現実世界と似たようなもので賃貸で家を借りるか、マイホームを購入するか。
まぁ、現実のように住民票の手続きなどの面倒なものはなく、すべてがレガリアで管理されているのでそこらへんの手続きは楽だ。
しかし、人気があるということは不動産は高騰していて拠点にするにもそれなりの額が必要となる。
そしてもう一つ拠点となりえるものがクランである。
多くのクランでは寝泊まりできるスペースを有しているので、そのスペースをクランメンバーに解放すればメンバーは激戦区での家探しをしなくてもよくなる。
現に影の館のメンバーは現在、クランハウスで寝泊まりをしている。
最初は職場に泊まるのはどうかと思ったが、社畜時代とは違い、仕事に追われることがあるわけでもないし、意外とすぐに慣れてしまった。
今では二階スペースはメンバーの住居になっている。
王都にクランを持っているだけでメンバー募集が殺到し、ラブコールの嵐に苛まれる。
クランメンバーの増員はメリットの方がでかい。
多くの依頼に手をつけられ、依頼達成数はクランの格を上げる要因の一つだ。
俺は現在、嬉しい悩みだがラブコールの嵐に苛まれて困っている。
影の館の最大メンバー数は10人なので、あと5人も参加できてしまう。
それを嗅ぎつけた来訪者たちが連日、影の館を訪れてくる。
クランの中には加入するためにお金が必要だったり、加入後に厳しいノルマがあったりとクランマスターが非常に大きな権力を持っている。
なぜ、自分たちでクランを創設しないのか、それもこれも物価上昇のせいだ。
俺からすれば迷惑な話でこんなことになるなんて予想もしていなかった。
クラン創設当時は確かに費用も必要だったし、クランマスターになるための最低レベルの縛りもあって大変だなと思っていたが今を考えれば笑えるほど楽だったといえる。
最低レベルに関してはすでにレベル60以上のプレイヤーなんて多数存在している。
問題は費用の方で今クランを創設しようとすると当時と比べれば10倍以上のお金が必要になる。
まぁ、俺の場合はクランの創設費用を払ってはいないのでなんともいえないのだが……
ありがたいことにジャンヌが張り切りすぎて王都の中で最も立地のいい場所に一際目立つ豪華な建物がこのクランハウスだ。
外部の人間が見ればかなりの高物件クランなのでなんとか参加しようとアピールしてくる来訪者が多い。
現地人はやばい奴しかこないのに……
「クロツキー、またこんなに手紙が届いてるよ」
クランマスター室にリオンがノックもなしで入ってくる。
手には手紙がぎゅうぎゅうに詰められたダンボールが抱えられている。
「あぁ、そこに置いといてくれ」
ダンボールの積まれている一画に目を向けた。
そこにはダンボールの山があり全て手紙が入っている。
手紙の内容はどれも似たようなもので、ほとんどが履歴書のようなものだ。
ステータスと今までに倒したことのあるモンスター、加入すればどんなメリットがあるかなど。
「もうさ、とりあえずメンバーをマックスにすればいいんじゃないの」
「そうもいかないだろ、きっちり精査しないと」
クランメンバーの増加はメリットだけでなく、デメリットもある。
適当にメンバーを増やして崩壊していったクランを知っている。
しかも一つや二つではない。
クランの乗っ取りもあるし、犯罪者がメンバーになって貢献度が地に落ちたなど。
安易に加入はさせられない。
「また暇なときに見ることにするよ。というか、事務作業のできる人を入れて、ある程度精査してほしいくらいだ」
「そんなこと言ってるから、どんどん増えていくんじゃん。暇なんてそんなにないわけだし」
リオンの言う通、暇なんてなく、やることが次から次に降ってくる。
しかも、今日は急遽、暗殺依頼の件で依頼人が訪れることになっていた。
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