110話 監獄

「うぉぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 どれもこれもがあまりにも遅い拳だった。

 簡単に避けれるだろうが避ける必要すらない。

 ルブランの使う分身のスキルは実態がない。

 どれだけ数があってもなんの意味もない。

 分身とは違って1人だけ背を向けて倉庫の外へ行こうとするルブランの首にナイフを振るう。

 気づかぬうちに首を落とされたルブランは黒い粒子に変わった。


「ジャンヌから説明された通りだったな」

 これまでルキファナス・オンラインでは迷惑行為をしても特に運営からのペナルティや対応はなかった。

 しかし、各国が協力して作り上げた監獄によって状況は一変する。

 国に保管されている最高ランクのレガリアを使用することで来訪者の情報を管理し、指名手配されている来訪者が死亡した場合、監獄にリスポーンするようになった。

 監獄では全てのステータスが低下し、スキルや魔法も使用不可となる。

 そこでは裁判が行われて罪の重さによって刑期が決まるのだ。

 通常は光の粒子となって霧散していくところが、監獄行きは黒の粒子になる。


 こうして暗殺依頼は特に苦労することもなく終わってしまったのだ。

 肩透かしだった。

 別に依頼を失敗したわけでもなく、完璧にこなしはしたのだが、二組の死闘を聞いていると自分の依頼があまりにも軽く見えた。

 もちろん、依頼はどれも重要であり、全力で取り組むのがあるべき姿だ。


「クロツキ、祝いの席で何を暗い顔してんだよ飲もうぜ!!」

 リオンが顔を赤くして千鳥足で俺の手を引っ張る。

 まぁ、今は全員が無事に依頼をこなしたことを喜ぼう。



§



 ルブランは、デスペナルティ後のリスポーン地点に驚きを隠せなかった。

「まさか、ここが監獄か……誰も殺してないし、盗みしかしていないのに監獄に送られるなんて」

「おいっ、新人!! とっととこっちにこいや」

 見るからに凶悪顔の男に呼ばれる。

 呼ばれた先に行くと看守が待っていて、監獄のルールを説明される。

 使いっ走りのように扱われていたのはルキファナス・オンラインでも悪名高きイーブルだった。

 あのイーブルが使いっ走りにされる監獄に後退りをしてしまうが、ルブランは追跡されている時のあの骸骨の方が恐ろしいことを思い出した。


 今までも数多の来訪者を出し抜き、王国近衛兵から逃走を繰り返していたルブランには自信があった。

 盗みと逃走に全振りしたようなスキル構成に装備、アイテムさえあれば盗めないものはないし捕まることもないはずだった。


 殺されたあの日を思い出す。

 あの日も完璧に盗みを終えてあとは逃げるだけだった。

 空間収納系のスキルではランクに応じて収納できたりできなかったりする。

 そこらのスキルでは収納できないような高ランクのアイテムでも世紀の大怪盗ならばその制限は大きく緩くなる。

 ただし死んでしまえば収納していたアイテムがその場に放出されるデメリットがあった。

 そのためホームまで死ぬことなく帰る必要があるのだがあの骸骨に目をつけられた。


 煙玉を使って全力で逃げた。

 あの骸骨は気にせずにこちらを追いかけてきていた。

 まぁ、そこまで効くとは思っていなかったが、まさか一切の迷いもないとは少しだけ驚いたな。

 そして次に幻影を出して別方向へ行くように見せたはずだったがこれにも骸骨は騙されなかった。

 これが効かない相手は初めてだったな。

 なぜ見破られたのかはいまだに謎だ。


 そして極めつけは奴も影に潜れたことだ。

 潜影の首飾りは一度使えば砕けて二度と使用できなくなる消費アイテムなのだが一定時間影に潜ることができる。

 値段が馬鹿みたいに高いため滅多に使わないのだが失敗だった。

 やられるなら別のところでやられるべきだった。

 隠れ家が近く、シャドウダイブで隠れ家に帰ってしまい、隠れ家が骸骨にバレてしまった。

 溜め込んだお宝が回収されるのも時間のうちだろう。


「ある作戦に乗る気はないか?」

 ガックシと肩を落としたルブランにイーブルが寄ってきて話を持ちかけた。

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