109話 世紀の大怪盗

「はぁはぁ……くそっ、まさかこの俺がここまでやられるとは」

 傷だらけでボロボロの体がゆっくりと回復していく。


「ラキ、また失敗したらしいね」

「嫌味でも言いにきたのか?」

「まぁ、そんなに警戒するなよ」

「お前らは悪魔よりも油断ならない」

「ははっ、そんなこと言うなよ。目的を同じとする仲間じゃないか。それにしてもこっぴどくやられたようだね。その様子だとあの方法はあまりってところか」

「邪魔さえ入らなければ成功していたはずだ」

「ふーん、失敗といえばバルドブルグの小枝とラフェグの欠片はやはり共有できないみたいだったよ。似た力を重ねればより近づけるかとも思ったけどダメだったみたいだ」

「そっちは所詮、使い捨てのオークだろ」

「おいおい、そんなに厳しいこと言うなよ。それにその言い方だと、まるで自分が使い捨てじゃないみたいじゃないか」

「ちっ!! 舐めるなよぉ」

 ラキは悪魔の腕を振りかざす。

 しかし、フードを被った男に軽々と受け止められる。


「ラキ、お前に戦う力なんて残ってないだろ。無駄な見栄を張るのは止せよ。まぁ、全快だったところで結果は変わらないけど」

「くそっ!!」

 フードの男の手のひらの口が涎を垂らして開いた。


「ふぅ、殺すなと言われているからな。まったく……中途半端に喰うと余計に腹が減るよ」

「回収はできたの?」

 空間に亀裂が入り、その中からローブを被った女性が出てくる。


「遅かったね、今終わったところだよ」

「食べ過ぎてないわよね。使い物にならなくなると面倒なんだけど」

「それはさすがに大丈夫さ、かのお方からの指示だし」

「それもそうね、じゃぁ早く行きましょ。かのお方を待たせるのは嫌でしょ」

「あぁ、もちろんさ」

 女性が先に亀裂に入り、男も胴体だけになったラキを抱えて後に続いた。

 2人のローブにはゆりかごの上で揺れる赤ん坊の刺繍が入っていた。



§



 王都の高級住宅が並ぶ区画に一際異彩を放つ建物が一棟。

 暗殺クラン影の館シャドーハウスでは全員が依頼を終えたことを祝して打ち上げが行われていた。

 リオンとジャックは見事に悪魔ラキの討伐を終えて高額な依頼料をチャリック市長から貰い受けた。

 ルーナとオウカもオークの群れの殲滅を終え、こちらは依頼料が少なかったとはいえ、珍しそうなアイテムを獲得した。


 完璧すぎる結果で終えた2組に対して俺は少し立つ瀬がない。

 ほとんどの時間をクラン経営の資料やらなんやらをみてお勉強していた。

 そんな中で一件だけ舞い込んだ依頼に気合を入れた。

 それに今回の依頼はシュバルツ家からの依頼だった。


 依頼内容はというと、王都を中心に多くの盗みを働いて多大な被害を起こしている来訪者の暗殺だった。

 前情報では四次職の来訪者でかなりの苦戦を覚悟していたのだが……

 俺の気持ちを返してほしい。


 世紀の大怪盗ルブラン、ターゲットの職業であり、リストには他にも詳細な情報が載っている。

 名前も割れているが、シュバルツ家が相手では仕方がない。

 見るからに盗みに特化しているというのは分かる。

 しかし、リオンの逸楽義賊も盗みに特化していながらかなりの戦闘力を有している。

 四次職ともなれば油断はできないはずだ。


 俺は盗みを終えたルブランの後をつけて、油断したところを斬りかかった。

 不意打ちが避けられても驚きはしない。

 むしろそこからの戦闘に気合を入れて警戒をしていた。


 対面した俺を相手にルブランがいの一番にとった行動は背を向けての逃走だった。

 煙玉を投げつけてこちらの視界を奪ってくる算段だったのだろうが、俺には効かない。

 かなりの速度で屋根の上を駆けていくルブランを俺は余力を残しながら警戒して追跡した。

 追ってる最中に罠などが張られていてそこに誘い込まれる可能性があったからだ。


 追えども追えども罠らしきものは出てこないし、かといって反撃をしてくる様子も見られない。

 ただひたすらに逃げているだけだった。

 なぜここまで警戒するかというとルブランが罠関係のスキルを持っているとリストに載っていたから。

 ルブランは屋根から降りて二股の道で行き止まりの方を選択した。

 だが俺には分かっている。

 これは幻影で本物のルブランは逆の道を選択した事を。


 さらに追っているとルブランは鉄格子で行き止まりになっている路地に入って行った。

 ここは警備のために夜間は閉じられる。

 鉄格子の前でルブランは跳躍して再び横の屋根に飛び乗った。

 王都の端ということもあって警備はザルで鉄格子は簡単に越えることができるし、破壊も割と簡単にできる。

 他にも侵入方法は多数あって四次職からすればそれは行き止まりではない。

 あえてルブランが鉄格子を飛び越えて横の屋根に乗ったかというと、これが幻影だからだ。

 そして本物のルブランは幻影を出すと同時にその場で突如消えた。

 といってもシャドウダイブで鉄格子の下の影を潜って先へ向かっているのが丸分かりだ。


 俺もシャドウダイブを発動する。

 ルブランは少し潜って、シャドウダイブでないと入れないような隙間からとある倉庫に入って影から出た。


「はぁ、はぁ、くそっ、なんなんだよあいつは……」

「これで鬼ごっこは終わりか」

「っ!? バカなっ、いったいどこから?」

 ルブランは声のする方を探してキョロキョロするが俺の姿は認識できてないようだ。

 影から姿を表すとルブランは腰を抜かして驚く。


「そんなっ、おっお前も首飾りを持ってるのか?」

「なんのことか分からないけど……」

「俺は四次職なんだ、お前も来訪者なら分かるだろ。見逃してくれたら盗んだブツを渡すから見逃してくれ」

「悪いけど依頼でね」

「ちっ、あんま本気を出すつもりもなかったけど、そっちがその気なら仕方ねぇ。四次職の力思い知れ」

 ルブランの幻影が二十体以上も現れ、全員が同時に殴りかかってきた。

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