ルキファナス・オンライン-素早さ極振り暗殺者は正義の味方！？

105話 リッパー

「チッ、仕方ないか……チャリックでの失敗が痛かったな……」

　ラキは懐から取り出した禍々しい魔力を秘めた欠けらを口にする。

　その瞬間、一気にどす黒い魔力がラキを中心に放たれた。

　そして落ち着きを取り戻すように収束していく。

「素晴らしい……これが完全なる生命に近づくということなのか」

　ラキが2人を見る鋭い眼光からは先ほどまでとは比べ物にならないほどの圧力が込められていた。

　ただでさえ硬かったラキの表皮がより硬くなる。

　2人は戦闘能力が格段に上昇したラキに対して苦戦を強いられていた。

　特にSTRとVITの上昇が桁違いで2人の攻撃は通じないのに向こうの攻撃は一撃でも擦ればほぼ積んでしまうような状況に陥っていた。

　速度は優っているため、簡単には攻撃が当たることはないがジリ貧でしかない。

「これが、クロツキが普段見ている景色かよ、半端ねぇな」

　ここでリオンは賭けに出ることにする。

　リオンの職業は逸楽義賊、気ままに楽しく義賊をするということなのだが、義賊であって盗賊ではない。

　その違いは盗んだものを分け与えるかどうかにあった。

　ラキを相手に何度かの失敗はあったもののSTRを奪うことに成功したリオンはジャックに盗んだ全てを与えた。

　相手の攻撃力を下げれば生存率は高くなる。

　しかし、生存のためにSTRを奪ったわけではない。

　勝つために、相手の硬い防御を突破するためにそれが必要だった。

　ラキとの戦闘が始まってからリオンは薄々と気づいていたことがある。

(悔しいけど、勝つためには仕方ない。それにしてもまさか私がお荷物になるとはね……)

　認めたくはないが、認めるしかなかった。

　影の館（シャドーハウス）のメンバーで最も自分が下にいるのだと。

　クロツキとオウカはそもそも四次職、そうでなくても2人は他の四次職と比べても優れており、三次職の姉も魔法の天才だと、絶対に口には出さないがリオンは思っていた。

　そして今回の戦闘でジャックもその実力を遺憾なく発揮している。

　このときのリオンはジャックが四次職に転職したことを知らなかった。

　リオンに向けられる攻撃をジャックが糸を操って逸らしてくれている。

　完全に足を引っ張っていると内心では落ち込んでいた。

　表に出すことはないが意外と気にしいなのだ。

　ルーナも普段から周りに迷惑をかけていないかを気にするところがあるが、それが表に出るか、出ないかの違いで、双子なだけあって根っこの部分は似ていた。

　しかし、これらはリオンの完全な勘違いである。

　誰一人、リオンが足手まといだなんて思っていない。

　たしかに直接的な戦闘で考えるならリオンが劣っているのも事実であろう。

　だが、そもそもの話、リオンの職業である逸楽義賊は純粋な戦闘職とは違う。

　なので比較するのが間違っている。

　むしろサポート寄りの職業でソロで戦闘できる時点でリオンも十分に天才の部類に入るだろう。

　なまじ戦えてしまっているので本人は自身の職業の特性に気づいていないのだ。

　とにかく、リオンは最善の手をとった。

　ジャックにSTRが付与されれば、強化されたラキとも対等に戦える。

　その判断は正しく、先ほどまで傷一つつけることのできなかったジャックの糸がラキに触れると薄く傷をつける。

　軽々と切られていた糸はラキの動きを抑止する。

　ラキはリオンに構う余裕がなくなってほぼジャックと一対一のような戦闘に入った。

　まるで取るに足らない存在のように無視されるリオンは悔しさから唇を噛む思いで、まだやれることがあると次なる行動に移った。

　2人の戦闘に割って入ってラキに攻撃を仕掛ける。

　しかし、ラキは避けることすらせずに片手間で尻尾を使って牽制する程度。

　それでもリオンは捌ききれずにいくらか被弾する。

　下がったSTRとジャックに集中しているおかげでまだ生きているだけのか弱き存在。

「ハァァァァァ」

「まるで意味のないことで邪魔しないで欲しいな」

　リオンはククリ刀でラキの眼を狙う。

　ラキは羽虫を払うように腕でククリ刀を薙ぎ払う。

　リオンはなんとかその場でこらえるも衝撃がすさまじかった。

　しかし、その一瞬の隙を突いて、ジャックの放つ無数の糸がラキを襲う。

　先程までなら大した脅威にもならなかった攻撃が厄介だと思えるほどにはSTRが上昇している。

　ジャックが細やかに指を動かす度に糸は生き物のようにラキに襲いかかる。

　チャリックでも糸は使用していたがそのときは罠として張り巡らせて、相手に動いてもらって傷を負わせるか、自分の移動手段として使っていた。

　直接糸を操るということはなかったのだがシュバルツ家での特訓で身につけた繰糸術。

　そして、四次職『ヘルリッパー』、斬撃に特化した職業であり、スキルを使用していなくとも切れ味抜群の糸はスキルを使えば凶悪さをさらに増す。

　とはいえ、転職したてのジャックが使えるスキルは多くない。

　そんな中でまず発動したのが、斬視（ざんし）だった。

　斬りたいと思うモノの最も斬りやすい箇所と角度が線として見える。

　ただし、見えるだけで完璧に線を辿らなければ意味がない。

　戦闘中ともなればその難度は上がる。

　が、ジャックはそれを難なくとこなしラキの両腕を斬り落とした。