106話 オークジェネラル
オークは知性も、理性も低く、本能のままに行動する。
ステータスだけ見れば優秀でもそれを扱うおつむが足りてない。
少し経験を積んだ冒険者なら簡単に討伐できるモンスターだ。
しかし、ルーナたちが討伐しようとしているオークの群れはまるで違った。
オークジェネラルを頭に据えて、その下にオークコマンダー、オークソルジャーなどとしっかりと階級を分けて規律だった動きをしている。
それだけでも脅威度は一気に上がる。
さらに群れの数にしても異常で、普通は多くても20匹弱が基本なのにその倍以上の数を有している。
オークジェネラルは部下の報告で自分たちの縄張りに侵入者が入ったことを聞いた。
聞くまでもなく侵入者の存在は知っていたがその詳細は分からなかったのでありがたい。
ありがたいが、そのために複数の部下の犠牲があった。
群れの長としてときには非常な決断をしなければいけないこともある。
しかし、今はまずかった。
たった2匹の雌に使っていいリソースではない。
オークジェネラルに部下への思いやりなどなく、利己的な性格で群れの長にのし上がり、さらに上の存在を目指し群れを巨大にすることに注力していた。
100匹を超える数の暴力で豊かな山を奪い取ったのはいいが、今は50匹にも満たない。
「ご苦労だった」
敵戦力を知るために部下を犠牲にしたオークコマンダーにねぎらいの言葉をかける。
その眼に一切の情けはなかった。
オークコマンダーの足元から巨大な木の根が地面を割って生え出てコマンダーに絡みつき全身を覆う。
干からびたミイラのようになったオークコマンダーを別のオークに処分させる。
群れの数を減らした最も大きな理由はこれだった。
少しでもオークジェネラルの気に障れば処分される。
オークジェネラル自身もこの行動が愚かなことは理解していても、衝動を抑えることができない。
いつからか優秀だったオークジェネラルは狂ったのだ。
「ふうむ、これと進入してきた雌2匹で当分は大丈夫か。では私自ら手を下すとしよう」
「はっ!! 御心のままに」
誰もオークジェネラルの決定には否を出せない。
明日は我が身なのだ。
今のオークジェネラルが群れの最大の癌だと分かっていてもどうすることもできない。
ただただその命令に従い、多くの侵入者が来ることを祈るばかりである。
§
不気味なほどに濃い緑。
自然は偉大なものでその力強さに比べれば人などちっぽけな存在にすら感じる。
日の光は微かにしか差し込まず、 蠢く無数の命が陰に潜む。
ほとんどは無害な昆虫や小動物、中には毒をもつものもいるがそれは自衛のためであることが多い。
森は多くの生命の宿となっている。
少し前までは正しい食物連鎖の流れがあった。
今はそれが崩れている状態で管理人のいない宿はさびれていくのみ。
いたとしても今の管理人では役不足なのだ。
ルーナとオウカは森々とした中に作られた小さなけもの道を進む。
開けた場所に出ると、前方から堂々とした風格のオークが他のオークを引き従えて悠然と待ち構えていた。
他のオークよりも一回り大きく身体に樹を巻き付けている。
明らかに知能が低いようには思えない。
「私は群れの長であるオークジェネラルのガハル!! 貴様らが侵入者か、愚かにも同胞に手をかけた罪は重い。森の糧になってもらおう」
ガハルが前に出て他のオークは後ろに下がる。
「
オウカが紅蓮餓者の腕を顕現させて殴りかかる。
オークたちは恐れを覚えるが、ガハルだけは強く睨みつけて、巨人の腕に対して右腕を上へと軽く振る。
すると地面から大樹が生えて巨人の腕と同程度の大きさの大樹の腕を作り上げた。
拳と拳がぶつかり合って高熱が周囲に広がる。
炎の腕と樹の腕では樹の腕が燃えそうなものだが、大量の水分が含まれた高密度の腕は燃えることはない。
ルーナは少し離れた位置でオークたちの動きを静観していた。
周りのオークは戦闘を眺めているだけでオークジェネラルに加勢する様子はなく、こちらに攻撃してくる様子も見られない。
オウカがもう一本の巨大な腕を出すとガハルも対応するように大樹で腕を作る。
巨大な腕は組み合って力比べを始めた。
森から小さな命たちが逃げる。
戦闘の余波で樹は薙ぎ倒されて火が燃え広がる。
戦闘をしていたそこだけ、太陽の光が大きく差し込んでいた。
「ウォォォォォォォォ」
ガハルは雄叫びを上げて力を振り絞る。
組み合っている二本の樹の腕以外にも複数の大樹が地面から生えて、先を鋭く尖らせてオウカを襲う。
オウカを包むように半透明の鎧の胴体が現れ、大樹を弾く。
胴体の次に足、兜と顕現して巨人は立ち上がる。
組み合っていた腕を戻すと完全な巨人が完成する。
以前は
それが今では練度も上がり餓者髑髏も鎧の一部のように顕現させて完全に自分の力として使いこなしている。
フルフェイスの兜の中の眼窩が赤く光り、全身を業火が覆う。
背中には後光を表すような燃える輪が現れた。
そしてオウカは鎧の中、胸の部分からオークジェネラルを見下ろす。
顕現のスキルは強力な代わりにその場から動けないという大きなデメリットがあった。
回避の選択肢がないのは戦闘において十分な弱点といえたが、それ以上に射程の問題があった。
巨人を自由に動かせるといってもそれはスキルの範囲内での話で、離れすぎればスキルが解除されるため、遠くから攻撃されればなす術がなくなってしまう。
しかし、自分が鎧巨人の中に入り、一緒に動けば好きなだけ動ける。
そこからは一方的な展開となった。
ガハルはひたすらに守ることしかできず、防戦一方。
「クッ、こんなところで終わってたまるか。力を……私に力をっ!!」
その声を聞いた仲間のはずのオークたちはその場から逃げる。
逃げるオークの足に木の根が絡まると命を吸われるように干からびていく。
50匹はいたオークの群れはガハルのみとなり、ガハルの体から途方もない魔力が溢れ出す。
その目はうつろになり正気を保っていない。
ルーナは準備を始めた。
他の仲間の力を奪い取るなど1対1ではないだろうし、なによりも加勢しなければオウカがやられる可能性が出てきている。
戦闘の邪魔をするとオウカに後で小言を言われるだろうが、依頼を失敗するわけにはいかない。
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