104話 盗人猛々しく

 リオンに生命を吸収するようなスキルはない。

 あるとすればスキルを盗むスキルだろうか。

 生命吸収のスキルを盗まれたライフイーターは生命吸収を使えずに逆に生命を奪われる側に回る。

 三次職でありながら、その実力は四次職にも引けを取らない。

 能力だけではなく戦闘におけるセンス、相手のスキルを奪えても使いこなせなければどんなスキルも意味がない。

 しかし、初めて手にしたスキルでも存分に使いこなし、相手の嫌がることを察知して喜んで行動に移せる精神力を持つリオンにとって、逸楽義賊という職業はまさに天性ともいえる職業だった。

 相手が変わるたびに戦闘方法が変わってしまうのは、飽き性のリオンにとってデメリットではなくメリットである。


 リオンの生命吸収で動きの鈍ったライフイーターにジャックは攻撃を仕掛ける。

 ジャックが指を動かすたびに遠く離れたライフイーターが切り刻まれていく。

 闇夜で微かな月光がそれを照らす。

 微かに宙を漂う糸が意思を持ったかのようにライフイーターに絡みついて肉を断つ。

 糸の操作は武器の種類の中で最上級に扱いが難しい。

 セバスから教わった技術を水を与えられた砂のように全て自分のものへと吸収している。

 独学で戦闘技術を覚え、悪魔狩りをしていたジャックに最高峰の指導者の教えは大きかった。

 さらにはシュバルツ家のサポートもある。

 擦り切れたぼろ布のような防具と研がれていない刃の欠けたナイフを使っていた頃とは雲泥の差だ。

 何よりも一番の変化は転職だろう。

 ジャックのような浮浪者は、転職したその力を犯罪に使われては困るとの理由で、ギルドでも転職を断られることがある。


 全てのライフイーターを処理すると1人の男が2人の元へ歩いてくる。

 ただの人間である訳がなく、背中には翼、腰からは尻尾が生えている。

 特に正体を隠す気もないようだ。


「ちぇっ、もう少し待っていてくれればよかったんだけど……」

 ラキは苦虫を潰したような表情を見せる。


「やっと出てきたなぁ悪魔!!」

「気をつけてください、今までの奴とは核が違います」

「そこの坊やはチャリックにいたね、そっちの人間ははじめて見た……どちらにせよラフェグを倒したあの男でないならば、別に問題もない」


「はっ、舐めた口きいてんじゃねぇぇ!!」

 リオンは大きく跳躍してククリ刀を振り下ろす。

 ラキはそれを軽々と腕で防ぎ、もう一つの腕で攻撃しようとするが糸が絡みついて邪魔をする。

 しかし、ライフイーターと違い、簡単には傷つかない。

 ラキは力尽くで糸を引きちぎった。

 細身の体には似合わない胴回り以上はある太い両腕は、どす黒く、棘が生えていて悪魔にふさわしい。


「ふーん、少しはやるみたいだね」

 リオンは適当に攻撃しているように見えてラキの実力を測ろうとしていた。

 まずはどのような能力があるのか? 

 ステータスはどの程度なのか?

 それらによってリオンの戦闘スタイルは変わってくる。

 奪うというのはどうしても相手依存になってしまう。

 そのため高い洞察力が必要だ。

 ジャックから奪ってもいいが、それではジャックが戦力ダウンしてしまって本末転倒。


 それに奪うには条件もある。

 まずレベル差、相手が格上だと一気に難易度が上がり、失敗の確率が高くなる。

 失敗しても一度成功するまでスキルは使用できるが少しの時間を置かないとスキルの再使用ができない。

 成功率にはレベル差以外にもどれだけ奪いたいものの情報を知っているかでも変わる。


 ウェポンスティールは装備品を盗むことができる。

 装備品のランクと盗みたい装備品の詳細を知っていれば成功率は上がる。

 ステータススティールはステータスの一つを盗む。

 相手にとってそのステータスが高いかどうかとステータスの詳細を知っているかどうか。

 スキルスティールはスキルを盗む。

 先程のライフイーターに使ったスキルだ。

 スキルのランクと詳細を知っているかどうか。

 どの盗みを選択するにしても情報というのは非常に重要であり必要だ。

 ジャックもそのことは理解していてラキから情報を出させるように攻撃を仕掛ける。


 糸による無数の斬撃をラキは全て腕で防いだ。

 背後からのリオンの薙ぎ払いは尻尾で防がれた。

 どれも軽々と防ぐラキだがどこか余裕をなさそうにしていることに2人は気づいている。

 そしてラキはそのことを承知している。

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