66話 氷纏う赤竜
俺は一応護衛として参加していたがモンスターなど一匹も出ず、やることといったら周辺を警戒するだけだった。
前の部隊がモンスターを狩り尽くしたんだろう。
目的地である採掘場跡地についてもやることがない。
城ができていくのをただ呆然と見ていることしかできない。
ボーッと作業を見ていると肩をツンツンと触られる。
「オウカか久しぶりだな」
「久しぶり、どうしてクロツキはサポートなの?」
「いや、レベルが足りてないからお誘いは来なかったんだよ」
「レベルなんて関係ない……強い人が戦うべき」
オウカは装備を見て首を傾げている。
どう見ても四次職にも引けを取らない、というか四次職の身につける装備と比べてもあまりにも強力なものの数々。
物珍しいのだろう。
「そんなこと言われてもな」
「そういえば紹介しておくね、団長だよ」
オウカが修羅の団長を呼ぶ。
「おう、お前がクロツキかよろしくな」
「よろしくお願いします」
「なかなか面白そうな奴だな、今度タイマンでもどうだ?」
「丁重にお断りさせていただきます」
そんな会話をしていると場が騒がしくなる。
一匹の小さな黒い鳥が飛んできて地面に降りた。
モンスターの襲撃かと警戒して攻撃をしようとするのをあーさーが抑える。
「待って!! これは……ハザルの影か」
鳥が喋り出した。
それはドラゴンについての情報だった。
全てを喋り終えると影は光の粒子に変わる。
ほぼそれと同時に見張りが叫ぶ。
「てっ敵が来たぞー!!」
襲撃してきたのは人型の氷像。
様々な武器を手にした氷像が防衛拠点に攻めてきていた。
「分かった、第一陣は氷像を無視してドラゴンにアタックを仕掛ける。ここの防衛はサポート陣を中心に頼む」
あーさーが指示を出して氷像の横を駆け抜けていくと、他の四次職も後に続いていく。
向かってくる氷像の数は100を優に超えていた。
それをサポート陣だけで防ぐのはあまりにも難しい指令だった。
そんなことはあーさーも重々承知である。
しかし、アイスゴーレムに分類されるであろう召喚魔法は魔法を使っている存在を倒さなければ魔力が尽きない限り召喚され続けてしまう。
戦力のほとんどを動員してでも、一気に決着をつけるのが最適解なのだ。
あーさーたちは拠点を出て少しのところで頂上より降りてきて拠点を見つめていたドラゴンと接敵する。
ドラゴンという種族は非常に縄張り意識が高く、侵入者を決して許さない。
アグスルトの縄張りはユニオール山脈の中腹から頂上付近まで、鉱山跡地は境界を優に超えていた。
ハザルたちの一件があり、アグスルトは怒りを露わにする。
竜の咆哮は大気を震わせユニオール山脈全体に響いていた。
「これが赤竜アグスルト、とてつもない迫力だ。だが、踵を返すわけにはいかない。攻撃開始!!」
合図とともに遠距離からの攻撃がアグスルトに向かって同時に放たれる。
アグスルトはその攻撃に対してヘルハウンドのメンバーを壊滅させた冷気の突風で迎え撃つ。
全てを凍結させる風は迫りくる攻撃を防ぐだけにとどまらず、そのまま部隊を襲う。
「防御を展開しろ!!」
あーさーの声で炎を操る来訪者が壁を作って凍てつく風から身を守る。
「あまりやりすぎるなよ、最低限抑えるだけにするんだ。攻撃よーい……」
防いでは攻撃をして防いでは攻撃をしてを繰り返す。
はなからドラゴンとの戦闘を想定して準備をしてきている。
運んできた物資の中には大量のポーションや対ドラゴン用の爆破アイテムなどもあったが、それらを使い切りそうになっているというのに未だアグスルトは余裕を保ち、近づくことすら困難な状況が続いていた。
残ってるメンバーは満身創痍、あーさー自身も必殺の一撃の余力を残してはいるものの限界が近かった。
一貫していたのは必ず炎以外で遠距離から攻撃すること。
防御するときはそれらで守るが最低限で抑えること。
「あーさーさん、これじゃあジリ貧だ。やっぱ炎系の魔法で一気に攻撃した方が良かったんじゃないか? というか今ならまだ間に合……う」
炎系の魔法はダメージを出しやすいし、得意とする者が多い。
それを制限されてはまともに戦えないと、1人の男があーさーに詰め寄ろうとするが、その集中した姿に後退りする。
あーさーには作戦が上手くいっていると確信があった。
最初に比べて明らかにアグスルトの冷気が弱まっている。
「ここが勝負どきか」
あーさーは覚悟を決める。こちらの消耗、そしてアグスルトの消耗を推し量りここが最善だと。
「友よ……すまない。聖剣よ俺に力を……」
あーさーの持つ大剣が光で包まれていく。
圧縮された魔力により刃が粉々に砕ける。
それでも神々しいほどの輝きを放って光の刃は形を作っていた。
「ハァァァァァァ」
アグスルト目掛けて走る。序盤なら近づいただけで凍らされてどうしようもなかっただろう。
だが今ならいける!!
アグスルトはこれまで矮小な存在に対して手を抜いていた。
この山に来てから頂点として君臨するうちに芽生えた傲慢な心。
自らの体で直接攻撃すればすぐに終わるということは分かっていてもそうはしなかった。
そんなことせずとも相手が勝手に氷漬けになるだけなのだ。
しかし、その神々しい光は身の危険を感じさせる。
遥か彼方の遠い記憶が蘇る。
アグスルトは分厚い氷に包まれていて動きは俊敏ではない。
翼はあっても空を飛ぶのは得意じゃない。
しかし、腐ってもドラゴンなのだ。
傲慢さゆえにダラダラと動いていたが動こうと思えば動ける。
翼を大きく広げ、飛翔の構えを見せる。
確かに脅威は感じるが今にも儚く消えそうな光。
一旦空に避難すれば問題ないとアグスルトは考えた。
「くっ、届くか?」
あーさーの口から諦め半分の弱音が漏れ出た。
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