67話 鉱山跡地防衛戦
アイスゴーレムと防衛拠点に残った来訪者たちの戦闘は激化を辿る一方だった。
防衛部隊を指揮するのは四次職の虎徹、補佐をするようにベルドールとサフラン、この3人がドラゴン討伐部隊には参加せずに防衛に残っている。
「下がりすぎるな!! 漏れた氷像を一体一体確実に減していくんだ。居合・一閃」
虎徹は腰に下げた刀に手をかけ居合で敵を斬り抜く。
一体だけならなんの問題もない。
問題は山頂から下ってくる無数の氷像。
いつ途切れるか分からない状態で士気がかなり落ちているのは確かだ。
ここに残っているのは三次職ばかり。
三次職が1人で数体を相手にするには些かハードルが高い。
防衛線をギリギリのラインで保っていられるのはサフランとベルドールの力が大きかった。
「サフラン、いけるか?」
「……ふぅ、大丈夫よ」
「ベルドール頼む」
「全員下がれ、ディバインウォール」
光の壁がアイスゴーレムと来訪者の間に入り侵攻を止める。
サフランは青色のポーションを飲んで、詠唱を始める。
「急いでくれ、そんなにはもたないぞ」
アイスゴーレムがディヴァインウォールに触れるとそこが凍結していく。
さらに次から次へと押し寄せる物量に壁は悲鳴を上げてひび割れる。
「いくわ、降り注げ爆炎の雨『レッドミーティア』」
上空へと放たれた巨大な火炎球はアイスゴーレムの真上で爆発を起こし、幾つもの爆炎が流星の如く降り注ぐ。
激しい爆風が起きるがベルドールのディバインウォールによって来訪者にはダメージはなくアイスゴーレム数十体が一気に砕け散っていく。
本日2発目の大規模魔法にサフランは息を切らす。
それはベルドールも同じで広範囲に渡る光の壁の展開で疲労はピークに達していた。
サフランに続いて他の来訪者たちも持てる最大火力の魔法を撃ち放ち、アイスゴーレムの数を減らすも敵は未だにかなりの数を残していた。
「うぉぉぉぉぉ」
極度の緊張下、激しい爆発で何かにスイッチが入ったのか1人の男がアイスゴーレムに向かって突進を始める。
「前に出過ぎるな!!」
虎徹の忠告は虚しくも彼の耳には届かない。
アイスゴーレムの体に直撃した剣は砕けて、首を掴まれる。
彼は体の芯まで凍らされ、砕かれ光の粒子へと変わる。
「くそっ、1人でも惜しいというのに……」
ただでさえ戦力が少ないのにヤケクソに特攻する三次職が後を絶たなかった。
全員の疲労はピークに近く、それは虎徹も変わらない。
疲労はもちろんアイテムも武器も防具も限界が近かった。
§
「ディー、大丈夫か?」
「キュイ」
大気を震わす咆哮に同じドラゴンであるディーが過敏に反応していた。
今では冷静さを取り戻しているが、ドラゴンだからなのか、それともモンスターとしての勘が働いたのか、とにかく赤竜アグスルトがやばいやつなのはわかる。
「よし、じゃあいくか!!」
「キュイキュイ」
「ディーもやる気だな」
「キュイ!!」
ここまで作業を眺めるだけで、なんとも居心地の悪い空気を感じていた。
同じ第三陣の護衛組もいるが、明らかに俺を避けている節がある。
これはこの格好と噂が問題なんだろう。
全身漆黒の装備に身を包み、戦闘時はつけるであろう骸骨のお面が今は頭の横に付けられているのも妙に不気味だし、なによりも戦闘になれば人が変わり殺人狂になるという噂。
イヴィルターズとの戦闘の動画という物的証拠もある。
まぁ、端的にいうと近寄り難い存在だ。
しかし、こちらも仕事なのでここから離れるわけにもいかない。
そんな折に喜んでしまうと不謹慎だが、やっと俺にも出来そうな仕事が回ってきた。
モンスター狩りだ。
敵は人型の氷像でアイスゴーレム。
第二陣が防衛に苦戦しているらしく、それの手助けに向かう。
横にずらしていた仮面を顔に嵌めて足に少しだけ力を入れる。
「おっ、おい、あいつが動くみたいだぜ」
「なんか独り言喋ってねぇか」
「それよりあの格好の方がやばいだろ」
「しかし、大丈夫なのかね? ここの護衛を防衛に回すほど厳しいってことだろ」
「無駄口を叩く暇があるんだったらとっとと仕事をしやがれ」
「あいよ!!」
「あれっ、さっきまでいたのにどこに行った?」
「いいから早くこい」
「これなら一瞬でつくな」
「キュイ」
少し足に力を込めただけで恐ろしい速度が出る。
実は少し興奮している。
フル装備をお披露目できる機会がやっときたのだから。
拠点から出てすぐに戦闘中の場所に辿り着いた。
俺の速度もあるが、それだけモンスターに押し込まれているということでもある。
アイスゴーレムの攻撃をなんとか抑えてはいるものの士気はかなり低く投げやりに近い来訪者が多い。
四次職の3人が奮闘しているがいつ崩れてもおかしくなかった。
アイスゴーレムに襲われそうになっている魔法使いの女性が1人目に入る。
アイスゴーレムに触られるとその部位から凍結が侵食していくらしい。
女性の周りにいた来訪者はアイスゴーレムに掴まれて凍結している。
そうなると接近戦メインの職業は厳しいな。
特にタンクはかなり厳しいんじゃないか。
正直、助けるよりも様子見している方がメリットが大きく感じる。
前衛がいなければポーションが飲めないし、詠唱もままならない、魔力が切れては魔法使いは何もできない。
あれこれと考えながら女性に伸びるアイスゴーレムの手を斬り落とした。
さすがに見捨てるのはないな。
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