65話 雪山に君臨する赤竜
第一陣の三部隊が1人も欠けることなく目的地の鉱山跡地へ辿り着いたはずが、鉱山跡地の人数は想定よりも少なかった。
「何があった?」
あーさーは最も早くにここに辿り着いていたAルートの隊員3人に話しを聞く。
この3人、死なないように最低限の施しだけがされて拘束されていたのだ。
「それが……ヘルハウンドの8人は元々、抜け駆けをする予定だったみたいで、すでに先へ進んで行きました」
「なるほど、やはりか……計画が崩れてしまったが仕方ないな、修羅の皆さんは何かありますか?」
「大人数での戦闘には興味ねぇし、そこら辺はあんたに任せるよ」
あーさーにタツが答える。
「ではこのままぼくが指揮をとらせていただきますね」
特に異論が出ることはなかった。
「とりあえず第二陣の到着までに防衛ラインを築いて警戒をしようか」
第二陣の全部隊が揃ったのは当初の予定よりもかなり遅れてからだった。
元々のBルートが使えず、迂回したためだ。
しかし、時間はかかったものの問題なく搬入は終わり拠点作りは開始された。
ここで活躍するのが職人たちで特に職業が建築関係の来訪者は三次職ながら重宝された。
プレイスタイルが自由と謳われていても、戦闘をメインに考えるものが多いので生産系のニーズは高い。
それぞれが連携をしながら淡々と作業を進める。
炎の魔法によって雪が溶かされ、地面が整地されていく。
作られているのは防衛拠点である大きな建物と城壁だ。
現実世界なら何年もかかるような大規模建築もスキルや魔法を使えば数時間で完成する。
防衛拠点の完成の目処が立ったところで第三陣を呼ぶ。
こちらも問題なく鉱山跡地に辿り着き、採掘の準備にとりかかる。
第一陣は城の中で体を休めてレイド戦に備えていた。
その頃、ヘルハウンドの面々は頂きに君臨するドラゴンと対面していた。
全長20メートル、翼を羽ばたかせるたびに冷気を含んだ突風が捲き起こる。
赤竜アグスルトは赤の名前を持つものの全身に氷の鱗を纏っており赤の要素は一切ない。
アグスルトの口から吐かれた氷柱で2人が瞬殺された。
「ハァァァァァァ」
レスタントがハルバードを振って近づこうとするも冷気を含んだ風が発生しそれを許さない。
それどころか氷風を受けたレスタントの全身に霜が張っていく。
全身を氷漬けにされたレスタントは動くことができずアグスルトの尾で薙ぎ払われ粉々になった。
「ちぃ、全員下がってろ、ディバインシールド!!」
レスタントを氷漬けにした風が襲いかかってくるのを前にレオポルドは大楯を地面に刺して防御スキルを展開する。
光の結界が仲間を包み守ったのは僅かな時間だった。
「くっ、すまん、あとは任せ、た……」
結界が氷に侵食され砕け散るのと同時にレオポルドも散っていった。
「全てよ凍てつけ白銀の風!!」
僅かな時間でカリアナは自身の中で最も強力な凍結魔法『白銀の風』の詠唱を終わらせて目前に迫る突風に対抗する。
白銀の風は高位の魔法でドラゴンにも通用すると考えていたし、現に若干押され気味ながらもアグスルトの起こした突風に対抗できている。
しかし、アグスルトからすればそれはなんのことはない。
ただ存在するだけで辺りは白の世界に包まれ、移動するだけで大地が凍り、息をするだけで命が時を止める。
ほんの一瞬、拮抗したかのように思えたそれは、アグスルトが翼を一つ羽ばたかせると一気に傾き、ヘルハウンドのメンバーが凍りついていく。
氷魔法を得意とするカナリアは冷気や氷結などに高い耐性を持っているがそれでも耐えられるものではなかった。
唯一生き残っていたのはリーダーのハザルだけだ。
片腕は粉々に砕け、全身に霜が張っている状態。
他のメンバーと違い、なんとか耐えていたのはレベルが高く、全体のステータスが高かったからだ。
しかし、それも目の前の強大な存在からすれば微差としか言いようがない。
「これは……想像以上だな。ちっ、ミスったな……普通に倒せるように設定されてねぇんじゃねぇか」
目の前の敵はどう考えても下にいる戦力を総動員しても太刀打ちができるとは思えない。
あまりにも理不尽なクエストだった。
商業ギルドから来訪者たちには討伐や撃退をしてほしいができない場合は時間稼ぎでもいいと、あくまでもドラゴンの討伐を第一目標とする説明がなされていた。
しかし、商業ギルドは最初から討伐なんて不可能だと知っていた。
来訪者なんてどうせ蘇るのだから使い捨てでいいだろうという狙いがあったからだ。
今回のクエストの報酬は前払いで僅かな金銭。
装備やアイテムを揃えればなくなるようなもの。
しかし、ドラゴンを討伐すれば体の一部と鉱山跡地に眠る財宝のほとんどが来訪者に分配される運びになっている。
そもそもがドラゴンを討伐しなければ報酬がないに等しかった。
時間稼ぎして採掘した鉱石などは報酬には入っていない。
「こりゃあ、一杯喰わされたな」
デスペナルティは確実だが、このままやられるのも癪だ。
「俺は喰らう側だってのによ、喰らい尽くせ、ヘルハウンド!!」
無数の影がアグスルトに襲いかかるが、地面から飛び出る氷柱で蹴散らされていく。
§
ユニオール山脈鉱山跡地で大規模クエストが進行していた中、人里離れた山の中で身を隠している者たちがいた。
王国では来訪者を対象にしたクエストがいくつも受理されている。
報酬内容も国からの依頼ということもあって中々にいい。
しかし、それらは王国に在籍している来訪者にであって、決して犯罪者には受けることが叶わない。
「くそがぁぁぁぁぁぁ」
イヴィルターズのイーブルは荒れていた。
それを周りのメンバーもなだめるが簡単にはおさまらない。
理由は多々あるが、最大の原因はクロツキとの戦闘が動画で拡散されてかなりの再生数いっていることだ。
直接喧嘩を売られるようなことはないが、負け犬を見るような目に晒される屈辱を受けていた。
その影響はさらに悪い方向へと働き、イヴィルターズを抜けるメンバーが多数出てきた。
さらに主要メンバーまでもが抜けてしまって、かなりの戦力ダウンを強いられている。
モンスター狩りもろくに出来ず、レベリングもままならない。
周りの目を気にしてこそこそと生きている現状。
他の来訪者が四次職になっていく中でイーブルは未だに三次職でいた。
「こうなりゃ、やっぱあれに頼るしかないな」
「しかし、あれは見つからなかったじゃないですかい」
「次こそは大丈夫だ、俺に考えがある。それにだめだったとしてもあの村人どもを殺してクロツキに首でも送ってやるさ」
イヴィルターズは隠れ家にしていた森を出て、ヒコ村を目指す。
全ての原因を他者のせいにして、ただただ憂さ晴らしをするために人を傷つける。
メンバーでそれを止めるものはおらず、むしろ笑って準備をするような連中たちばかりが残っていた。
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