64話 喧嘩最強
Cルートは割と穏やかなものだった。
道のりも厳しいものではないし、時折出てくるブリザードエイプは瞬殺している。
何事も問題ないのだがCルート第一部隊隊長のタツは少しつまらなさそうにしていた。
「団長、そないつまんなさそうにせんといてぇな。ドラゴンとの戦闘が待ってるんやで」
「コトは分かっていない。団長は1人でドラゴン退治がしたかった」
オウカがタツの心を代弁する。
「そうなんだよなぁ、そもそも俺はこんな大人数で戦うのは性に合わねぇ」
「レイド戦なのだから仕方ないですよ」
アートマが呟く。
白の特攻服にオールバックの団長タツ、重厚な赤と黒の鎧で肌の一つも見せることのない副団長オウカ、着物姿に鞭を持つ
4人は足取り軽く進むがそれ以外のメンバーの足取りは重かった。
理由はこの4人がかつてはPK集団『修羅』として知られていたからだ。
しかし、今ではギルドからも認められてクランとして活動している。
同じPK集団でもイヴィルターズは国から手配されて今では壊滅したとされている。
何が違ったのか、それはイヴィルターズは王国の民に平気で手を出し、さらに来訪者に対しても理不尽な暴力、恐喝とやりたい放題だった。
それに対して修羅は基本的に実力者しか相手にしない。
もっといえば相手がやる気がなければ追わないので被害に遭っていたのはバトルジャンキーか修羅が気に入らないという来訪者がほとんどだった。
王国としても制度の確立していない現状では来訪者同士のいざこざには基本ノータッチの姿勢でいたため修羅はその実力からクランとして認められた。
虎徹、ベルドール、サフランの3人は以前にオウカにボコボコにされていることもあり苦手意識を持っている。
怪訝な目をオウカに向けると湖都が親の仇のように威圧するものだから空気は最悪だった。
目的地も後少しのところでこれまでとは毛色の違うブリザードエイプが出てきた。
ブリザードエイプといえば白い毛が特徴だが、その一匹だけは全身真っ黒の毛で目が真紅に光っている。
「あいつには手出すなよ。俺がやる。さぁ、タイマンはろうか」
タツがボスに指でかかってきなと挑発をかます。
荒れ狂うようなドラミングの後、一瞬で距離を詰め拳を振り下ろす黒エイプ。
攻撃を受けたタツの足元が陥没するほどの衝撃だが、腕一本で完全に防御していた。
「こんなもんかよ!!」
そう言ってタツは防戦一方に連打を受け続ける。
「おいおい流石にまずいだろ」
虎徹はベルドールとサフランにアイコンタクトをしてタツを助けに行こうと動こうとするが足元に鞭が叩かれる。
「あかんあかん、邪魔したらあかんやろ。それよりもウチらは団長の邪魔させへんのが仕事や」
湖都が腕につけていたブレスレットから光の粒子が放たれて馬の形を作っていき、二本の角を生やした黒馬が姿を現す。
黒馬に目を取られていると横からとてつもない熱気が駆け抜ける。
横を見ると炎を纏ったような巨人が顕現。
さらにその横ではアートマが座禅を組んで宙にぷかぷか浮いていた。
タツと黒エイプの戦闘に魅入ってる間に周りをブリザードエイプに囲まれていたことに気づいた虎徹が刀の柄に手をかけ、ベルドールが大楯を背から下ろし、サフランは杖を構えて魔力を練る。
他の隊員も戦闘の火蓋を落とし決着がつくまでほんの数分しかかからなかった。
そしてまだ戦っている黒エイプとタツの戦闘に目を移す。
黒エイプは他のブリザードエイプとは比較にならないほど強かった。
「たっ、助けないの?」
サフランが声を出すと湖都とアートマが笑う。
「あれのどこに助けが必要に見えんねん」
「湖都に同意。助けなど必要なし」
「えっ、でも……」
どこからどう見ても防戦一方で手が出てないように見える。
「まっそんなに遊んでる時間もないしな。団長、そろそろ終わらせてや」
「おいおいこれがお前にとっての限界だってのか。残念だぜ」
タツの目の色が変わり、辺りの空気が変わったのをメンバーたちは感じた。
最も変化を感じ取ったのは先ほどまで気持ちよく殴りつづけていた黒エイプだろう。
タツが放った唯一の攻撃はただ雑に拳を振るだけの何の変哲もない一撃だった。
しかし、黒エイプは死を感じ取っていた。
野生の勘は正しく、拳を受けた直後に多大なダメージを感じる。
腹部を見ると巨大な風穴ができていた。
痛みはなく静かに崩れ落ちて絶命する。
「これじゃあ、ドラゴンにも期待できねぇかもな」
修羅以外のメンバーには理解できない漢の生き様。
武器も何も装備せずただの拳の一撃で強力だと思っていたモンスターが沈む。
普通、拳をメインにする職業でもナックルなどの武器は装備するだろう。
タツの実力に格の違いを感じてしまっていた。
よく見れば殴られ続けていたのに怪我らしい怪我は見当たらない。
クラン『修羅』団長、喧嘩最強のタツ、レベル85。
そこらの三下が自称している喧嘩最強ではなく、職業としての四次職、喧嘩最強だ。
この男こそが癖の強い修羅のメンバーを率いているのだ。
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