59話 パートナー

 50センチほどの人形のようなドラゴンは前足を器用に使って顔を擦る。

 身体自体もめちゃくちゃ小さいがそれ以上についている意味があるのか不思議に思うほど小さな翼。

 まぁ、ドラゴンは別に物理法則に則って翼で空を飛ぶわけではない。

 あくまでも翼は補助で超常的な力で空を飛ぶのがドラゴンだ。


 あまりの可愛らしさにルーナとリオンがうっとりとした目でドラゴンを見ている。

「クロツキ、なんだこの化け物級のかわいさは」

「お名前は決めてあるんですか?」

「あぁ、ディーにしようと思ってる」

「ディーちゃんですか、いいですね」

「ディー、こっちにおいで」

 ディーはキョロキョロと俺たちを見て、俺の元へとよちよち歩いてきてさらに、頭を擦り付けてきた。

 親が誰かちゃんと分かってるんだな。


「そうだクロツキさん、ご飯をあげないと」

「だな」

 そうだった、生まれたてはエネルギーが大量に必要になるためご飯を食べて元気になってもらわないと。

 俺はアイテムボックスから残穢の影の核を取り出す。

 手のひらにのせてあげるとディーは核をボリボリと食べる。

「かっ、可愛すぎる」

 リオンが悔しそうにしてるので核を渡してあげる。

 ディーはリオンの元へと歩いて行って核を食べる。

 次はルーナにも核を渡してディーにご飯を食べてもらう。


 全ての核を食べ終えてもディーは満足した顔を見せないでいた。

「ディーちゃん足りなかったんですかね」

「ハッハッハ、ディーは食いしん坊だな」

「でも核はもうなくなったしあとはこれしかないぞ」

 俺は死穢の影の核を出す。

 残穢の影の核よりも禍々しいオーラを放つそれを食べさせても問題ないんだろうかと考えているとディーの目の色が変わり、一口で食べた。

「キュイキュイー」

 どうやらこちらの方が好みだったようだ。


「よかったんですか? クロツキさん」

 死穢の影の核は残穢の影の核と比べて10倍以上は価値が高い。

「この子のためなら不思議と気にならない」

「親バカじゃねえかよ」


 ディーはお腹も膨れ目がうつろうつろとしてきている。

 テイマーなら従魔契約して自由に出し入れできるのだが俺にはそんなスキルがない。

 移動するなら腕に抱えて移動しないといけない。

 まぁ、ぜんぜん気にならないな。


「仕方なしだが、ここのホームを好きに使っていいぜ」

「そうですね、それならディーちゃんも安心して眠れます」


 2人が嬉しそうにしているとディーが目を閉じる。

「……!?」

「キュイキュイキュイ」

 歩いてきて俺の影に手を入れる。


 何かを引っ張り出そうとしているが上手くいかないようでしまいには頭も突っ込んで翼と足をパタパタさせて暴れている。


「これは一体?」

「いや、俺にもさっぱり」

 俺も影に手を入れる。

 やはり入れることができた。

 これは俺のスキルの影の小窓だ。

 なぜディーが俺のスキルに干渉できるかは謎だが、とりあえず手を貸してやる。

 ディーが取り出そうとしていたのは精霊刀だった。

 ディーの魔力が精霊刀に吸われて全体が黒く変色する。


-精霊刀・黒竜の加護-

黒竜によって加護を授かった精霊刀。

精霊以外からの加護を授かったため通行証としての機能は発揮されない。


 よくわからん……

 通行証のことなんて知らないし、精霊以外から加護を授かれるのも知らなかった。

 思ったことはやっぱドラゴンは精霊じゃないよなってことだ。

 満足したのかディーは影の中に潜って眠りだした。

 影の中でもディーが何をしているのか不思議と分かる。

 それにしても重要そうなアイテムの効果が失われたんじゃないだろうか。

 まぁ、いいか。

 ディーがやってしまったことなら怒る気にならない。

 リオンに親バカと言われたが反論の余地はないな。


「なんか使役できちゃったみたい」

「テイマー以外でそんなことができるんですね……」

「潜っちまったな」

 悲しそうな顔を浮かべる2人。


「まっ、まぁ、また遊びにくるから。2人もパートナー探しでもすればいいんじゃないか」

「たしかにな、姉ちゃん私たちも相棒を探しにいくことにするよ」

「えー、まぁ……仕方ないか……」

 今のところテイマー以外がモンスターを使役したという情報はない。

 しかし、ディーのような例もあるということだ。



§



「ディー、攻撃だ」

「キュイキュイッ」

 ディーはコボルトファイターに突進していく。

 なんとか倒せたようだ。

 今日はディーの初陣。

 俺は暖かい目で戦闘を見守っている。


 何度かの戦闘を終えてディーについて色々と分かったことがある。

 まずは使役といってもテイマーと従魔の関係とは違うということ。

 従魔ならばステータスがあってパーティ画面で確認できる。

 だがディーは見ることができないし、パーティになっているわけでもない。


 ドラゴンといえばストルフでディーとの話をしたらめちゃくちゃ興奮していた。

 ちょっと怖い。

 ディーも完全にビビっていた。

 ストルフはディーがもしかしたら新種かもといっていたが実際どうかは分からない。

 ストルフも全てのドラゴンを知ってるわけではない。


 俺としては戦闘に参加してくれるのはありがたいがまだまだ生まれたばかりで飛行も拙い。

 影に戻ってくれっていっても拗ねて戻ってくれないんだよな。

 ドラゴンの本能なのか戦いが好きみたいだけど。


 遠くで魔力が高まっているのを感じた。

 コボルトウィザードがディーに狙いをつけて炎の槍を放ってくる。

 俺はディーを抱えて躱す。

 全く、ディーにこんな攻撃をするなんて許せない。

 ディーを地面に置いてナイフを握る。

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