58話 誕生

 トレヴィネ大墳墓を脱出し、王都に戻ってきた俺たちはリンと別れ、カフェで3人、作戦会議を行っていた。

 素材は助けてくれたリンに分配しても十分すぎるほどに集まっている。

 そもそも、リンが自分は何もしてないのにそこまで貰えないと断ったのもある。

 しかし、リンのおかげで助かったのは事実なのだ。

 途中介入がなければ高い確率でルーナとリオンがやられていた。

 三次職のデスペナルティは強制ログアウト6時間、ログイン後6時間獲得経験値量減少とステータスダウン、そして何よりも痛いのが経験値ダウンだ。

 下手をすれば一週間以上の頑張りが無駄になる可能性すらある。

 そう説明しても折れないリンに仕方なくこちらが折れるしかなかった。

 まぁ、本人がよしとするならそうするしかない。


「そういえば、レイスを見逃してましたが良かったんですか?」

 ルーナが問いかけてくる。


「敵意はなかったし、なんとなく手が止まったな。問題になったりしないよね」

「トレヴィネ大墳墓はダンジョン区域なので大丈夫のはずです。それに劣等種だったようですし、被害も出ないでしょう」

 倒せるのにモンスターを故意に見逃して被害が出れば冒険者として責任を問われる可能性がある。

 しかし、それは一般の場所の話でダンジョンでは話が変わってくる。


「劣等種だったの?」

「はい、レイスって本来は浮いてるじゃないですか」

 レイスには足なんてなく、ぷかぷかとローブが浮いていたのを思い出す。


「あの小さなレイスは地面に立ってましたよね」

「そういえば」

「浮くことができないレイスの劣等種でレイスウォーカーというらしいです。能力は通常のレイスの半分以下です。その上、身体も小さかったのでさらに能力は低いでしょう。被害が起こる可能性は皆無に近いです。クロツキさんが手をかけなくてもポップしたモンスターにやられるでしょう」

「そっか……」

 マスコットみたいな見た目で可愛かったし可哀想な気もするが弱肉強食の世界では仕方がない。

 

「なぁ、そんなことよりも早く孵そうぜ!!」

 何度も説明しているのにもう待てないといった様子でリオンがキラキラと目を輝かせて催促してくる。

「まだだよ、夜にならないとダメだって言ってるだろ、それに安全な場所の確保もしないと」

「それなら私たちが借りてる一軒家に行きましょう」

 ルーナが家なら安全だと提案をしてくれる。

 ルキファナス・オンラインのシステム上、ログアウトしても体は残ったままだ。

 よからぬ人間に見つかればどうされるかわかったものではない。

 そのため俺もログアウトするときは宿でするようにしている。

 ある程度、お金に余裕があり活動拠点を決めている人間はルーナたちのように一軒家を長期で借りる。


「一軒家かぁ、王都だと高いんじゃないか」

「中心から少し離れた位置だったのでお手頃でしたよ」

「いいなぁ、俺もゆくゆくは一軒家でのんびりと過ごしてみたいもんだ」

 現実もこちらも世知辛いもので安定した稼ぎがなければ難しい。

 色々と考えると俺にはまだ手を出すのが早い気がする。


「クロツキさんは宿住まいなんですよね、アイテムの管理が大変じゃないですか?」

「アイテムの管理? あんま気にしたことないな」

「クロツキさんはミニマリストなんですか?」

「そういうわけではないけど、今のところはアイテムバックでことたりてるな」

「それは凄いですね」

 戦闘などで必要な小物は影の小窓に閉まっている。

 熟練度が上がったおかげで収納スペースが前よりも増えているので意外と入る。

 モンスターの素材なんかはアイテムバックに入れているのでまぁ大丈夫だ。

 でもたしかに今後も増えていくのなら何らかの手を考えないといけないかもしれない。


「いやいや、姉ちゃんのモノが多いだけだろう」

「えっ、そんなことないよ、リオンだって変なの集めてるじゃん。私のは職業的に必要なものだよ」

「いやいや、あれはいるものなんだって」

 これが姉妹喧嘩ってやつか。

 俺は兄弟がいないからよくわからないやつだ。


「おーい、お2人さん、本当に家に行ってもいいのか?」

「もちろん大丈夫ですよ」

「あぁ、ドラゴンの誕生なんて珍しそうだし、それが見たくて手伝ったんだからな」


 2人のホームは喧騒から離れた静かな庭付きの古民家だった。

 想像していたよりも趣があって立派だ。

 部屋には大きな箱が備え付けられていてアイテムバックやポーチなどの持ち運び可能なものとは比較にならないほど収納できるらしい。

 棚にはよくわからないものが沢山飾られていて、リオンのコレクションらしい。

 ナイフは分かるが……いや、年頃の女性がナイフを飾るのも変だが、他のは呪われてそうな人形に変な模様の入った石など独特のセンスをしたのを集めるのが趣味らしい。

 リオンがルーナもモノが多いと言っていたが、ほとんどが研究用の本だった。

 これらと一緒にされてはルーナも困るだろう。


 日も沈み月明かりが薄らと照らす庭でアイテムバックから卵を取り出す。


「うわぁ、これがドラゴンの卵なんですね」

「すげー、どんな奴が出てくんのかな」

 2人が目を輝かせているが、俺だって楽しみだ。


 まずは火炎蜥蜴の炎心を地面に適当に置いていき、その上にフレイムパピヨンの鱗粉を振りかけ卵をセットする。

 手をかざしてほんの少し魔力を流すと鱗粉が発火しはじめた。


 炎を炎心が吸収して火が弱まっていく。

 これで準備完了、あとは待つのみ。

 3人で10分ほど凝視していると殻にヒビが入った。

 徐々に殻がめくれて中から現れたのは黒いドラゴン。

「キュイ……」

 想像以上のかわいさだった。

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